しっぽきり

一本目 自分がイヤなだけなら半殺しで済むけど、他人がイヤな思いをするなら殺害せざるを得ないという、優しいナオミさんでした。
二本目 そんなナオミさんの善意と殺意が裏切られるというお話。

 一人でも赤点をとったら局長がクビ。
 それが中間試験を前にしたチルドレンと、皆本さんに突きつけられた現実でした。
 が、チルドレンは、お菓子を食う、しなだれかかってくる、勉強より大切なことがあるはず、主に生物の本能的な意味合いで。自分のネタを盗まれるのはたまらん等々、どうにもだらけ気味。
 地道にコツコツやってるので大丈夫、サイコメトリー使えば一発、夜の校舎倒壊して回ればテストは延期、だから大丈夫。
 やっぱり勉強そっちのけで甘えてくるチルドレンですが、皆本さんはそれを認めるわけにはいきませんでした。
 テーブルを強く叩いて、底から搾り出すように一言。

「勉強……しようよ?」


 
 試験当日は軍用ECMも出して超能力による不正を防止。当然、その他の技術を使ってのカンニングもご法度という厳しい条件。
 その話を局長から聞いたとき、予算を使ってまですることかと呆れた皆本さんでしたが、朧さんの言うことには、政府は桐壺局長が目障りなんだとか。
 エスパーへの教育や配慮という理想をタテに方針に逆らうことも多く、それゆえに肝心のエスパーからの信頼も厚い。加えて、直々に指名し、今もバックにつく管理官は、世界中の政財界人とのパイプを持ち自身も有数の超能力者というインチキスペック。普段の行動も、フリーダムだけど口を出せない管理官の分の皺寄せも含めて、意地悪がくるのだとか。
 エスパーとノーマルの協調、超能力による社会貢献。
 若い頃は、兵部少佐とやりあうぐらいに、愚直なまでに理念を追求する局長ですが、政治家にとっては高度の超能力者を管理するバベル局長は、無視するには大きすぎる利権。
 そんなわけで、追い込まれている局長。
 しかし、起死回生の手段がなにかあるようです。

「ただちに全部署に秘密連絡を!」

 そして、指示したのは今の政権を倒す意思があるかどうかの確認。つまりは、クーデター。朧さんも乗り気味。とりあえず合衆国にしちまおうかなどと、革命後のビジョンを話し、「局長は、どのポストに着かれるんですか?」「ワシか? ワシは出んヨ」「ならどうするんです?」「そうだな。世界のエスパー保育園でもやろうかネ」等と言い出す始末。
 が、深く歴史を学び、少数の少年によるものや、催眠術によるものなど、幾つかクーデターを行ったことによる失敗例を知る皆本さんはそれを断固反対。
 途端に笑い出す二人。どうやら、それは二人の冗談のようでしたが、立場的に冗談にならないと抗議する皆本さんでしたが、赤点をとればクーデターはともかく、状況に余計な刺激を与えることは確実。未来予知どころか、バベルの足並みが乱れれば、パンドラやブラックファントムに隙を与え、現在の治安維持すらままならない。
 そんなわけで、日本の平和のために、中学生の家庭教師を引き受けることになった皆本さん。
 バベルの追い込まれた現状を知った、チルドレンたちは真面目に頭を動かし始めていました。

「国会議事堂と首相官邸に各一個小隊をテレポート」

 陸自と警察の牽制、橋を落として交通を遮断、通信の妨害、マスコミ対応等々のクーデター計画方面で。
 叱る皆本さん。試験前は余計なことに集中してしまうと言い訳するチルドレン。
 それにしたって物騒だと叱りつけつつも、皆本さんは、チルドレン達の気持ちがイマイチ理解できませんでした。
 皆本さんにとっては、本来勉強とは楽しいもの。知らないことを知っていくことの楽しさこそ、勉強の醍醐味。そう、やってきたからできる子視点で考える皆本さんは、それを教えることこそが、真の教育だと考えてきました。
 が、今は状況が状況。
 ヘタすれば、桐壺局長のクーデターが世の中を荒廃させてしまうかもしれないとあっては、そんな教育理念は後回しにせざるをえません。
 なので、手っ取り早く、即物的な条件を出しました。

「ごほーびを出そうじゃないか」

 チルドレンの目の色が変わりました。
 もう一押しだ、懐を探ると、皆本さんが特殊勤務手当てで貰ったバベル限定の図書カード。
 が、皆本さんは喜んだ図書カードも、チルドレン達には不評。彼女達にとっては、枝毛や、急に胸が大きくなった女優のほうが興味の対象。
 あきらめ、皆本さんは更に譲歩をすることにしました。

「わかった、何が望みだ?」

 チルドレン達の目の色が再び変わりました。


 
 そして、日は暮れて夜。
 ペンの固い音だけが響く室内に、呼び鈴が響きました。
 皆本さんが出ると、そこにいたのは賢木先生。局長に様子を見るように頼まれたというのです。朧さんからの差し入れを手にした賢木先生が、肝心のチルドレンン達を見ると、そこには真剣な表情でノートと参考書に目を釘付けにする三人。
 私語は無く、聞こえてくるのは勉強に関連する言葉ばかり。
 チルドレン達のやる気に驚く賢木先生。皆本さんが挨拶をするよう促しても、「ども」と軽く頭を下げただけで、再びペンを走らせはじめます。
 その態度に渋い顔の皆本さんでしたが、賢木先生としてはそんなことよりもチルドレン達のモチベーションの高さのほうが気になっているようでした。

「……動機が不純だけどな」

 呟く皆本さんは、どの道、試験後は大変なことになりそうだと肩をすくめるのでした。



 一番成績の良かった子の言うことを、まる一日なんでもきく!
 言質はとれました。
 後は勉強をするだけ。
 生真面目でコツコツと勉強していた葵さんは勿論、サイコメトリーによってテキストの意味を把握できる紫穂さん。
 敵の手ごわさを薫さんは知っていましたが、こうも思っていました。
 やるときはやる。集中さえできれば大丈夫。小さい頃から、やればできる子って言われ続けてきたし。
 が、障害は意外なところにありました。
 
「まー座れよ」
 
 邪魔しちゃ悪いと帰ろうとする賢木先生を、お茶の準備をしながら、皆本さんは、試験範囲内の要点をまとめたプリントをやらせてるし、監視と質問待ちだけだから、賢木先生がいても大丈夫と笑います。
 自分達に向ける表情とはまた違う友人への砕けた笑顔に、また新たな彼の顔を見つけたと、思わずニヤけてしまう薫さん。
 すぐに自分の気持ちが切れてしまったことと、二人が静かに笑ったことに気付き、再び集中しようと英語のテキストを開きますが、そこに登場してきたキャラクターの名前がKenとMary。
 知り合いのコメリカエスパー二人の顔が思い浮かべ、更にそこで繰り広げられる会話の珍妙なことに、笑い出してしまう薫さん。
 
「はっ、いけない、また!!」

 再び集中が切れてしまった薫さんは、一人で考えているから変な方向にいくのだから、他の人に話してもらえれば、それを聞くのに集中できるだろうと考え、質問のために皆本さんを呼びだしました。
 
「どうした? どこがわからない?」

 近づき、テキストを覗き込む皆本さん。
 太い指が文字を辿り、腕が薫さんの肩に触れて、そして少し体を屈めた皆本さんの顔は薫さんのすぐ近く。
 息を吸い込むと、どこか甘い香り。
 コロン……じゃないな。シェービングローション……?
 彼の存在を感じていると座っているのにまるでフワフワと浮いているようで、テキストを持つ手に汗が浮かび、薫さんの思考が少しの間止まりました。
 そして、襲ってきたのは後悔を少しだけ含んだ、得たいの知れない感情。
 耐え切れず叫ぶと、薫さんは皆本さんの教え方が下手だと八つ当たりし、実家で勉強すると言い、ベランダから飛び出しました。
 このままでは葵さんにはもちろん紫穂さんにも勝てない。
 自分のこの気持ちは焦りなのだろうか?
 しかし、薫さんはすぐにそれを否定しました。
 これはもっと違う、別の感情だ。
 戸惑っていると、携帯電話が鳴りました。
 ちゃんと勉強はする、心配した皆本さんからの電話だろうとそう答えようとした薫さんでしたが、聞こえてきたのは違う声でした。

「上をみてごらん」

 言われるままに上を見れば、そこにいたのは兵部少佐。
 
「やあ、女王。いい夜だね。散歩かい?」

 あのジャングル以来の再会だというのに、飄々と現れた彼に、薫さんは戸惑いを更に深めるのでした。












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