しっぽきり

 土曜発売、というか休日発売ってやっぱり慣れないというか。


 以下、少年サンデー23号のネタバレが含まれます。
 三千院家の遺産とお嬢さまの名誉を守るために負けるわけにはいかないハヤテ君。そんなハヤテ君にギルバートさんがふっかけてきた勝負はビーチバレー勝負でした。
 なぜかギルバートさんは、ハヤテ君の相方にヒナギクさんを指名してくれました。なので、勝負自体は楽観視しつつ、バッグをゴソゴソとやっている美希さんをチラチラと見たり、2000GTがポールを砂浜にガンガン突き刺す様子や、ギルバートさんがこんがらがったネットをほぐしてポールに結びつけるのを眺めていたハヤテ君ですが、ふとこんな疑問が浮かびました。
 ビーチバレーってどうやるんだろう?
 バレーというぐらいですから、基本はボールを打ったり返したりなのでしょうが、それでも細かなローカルルールがありそうな気もします。なので、お嬢さまに聞いてみると心配ないとなだめてきます。
 ルールとかリアリティなんて飾りですよ。エラい人にはそれが分からんのです。
 大体、そんな感じでした。
 それでも、やっぱりバレーはバレー。スポーツとなれば、自分とヒナギクさんのコンビが負けるわけがない。
 そう、ハヤテ君は信じていたのでした。


 一方、そんな勝利を確信しのんびりとしたハヤテ君とは対照的に、美希さんは目を血走らせてカメラをいじっていました。
 今からやるのはビーチバレー。場所は砂浜。ヒナギクさんは、ちょっと待って、と言い残して姿を消しました。
 つまりは、着替え。
 つまりは、水着。
 となれば、動画研究部であり、なによりガチユリ症候群の美希さんとしては、カメラにおさめざるを得ません。
 なんだかおもしろそうな展開にみなぎる朝風さん共々、ヒナギクさんを待っていると、ほどなく彼女は現れました。

「着替えてきたんだけどどうかな?」

 美希さんがまず写したのはスラリと伸びた白い足。ニーソックスに隠されていた足は、今は太陽の光を受けて輝いています。
 そこから徐々にカメラをあげていくと、黒いショートパンツ。
 あれ、変だ?
 水着だというのになにを恥ずかしがっているんだろうか? それとも、ここから脱ぐのだろうか?
 せめてもの期待にすがり、さらに上げると白いシャツ。
 つまりは、ヒナギクさんの着替えとはニーソックスとスカートから、ショートパンツに変えて、あとはシャツを交換して、髪を動きやすいようにポニーテールに変えてきただけなのです。
 かわいい、似合ってると、新たな露出に向けたのタメとしてパーカーを羽織った泉さんはヒナギクさんを褒めそやしますが、美希さんの心にあるのは怒り。
 髪をまとめたポニギクさんもいいですが、美希さんが見たかったのはなによりもミズギクさん。
 ビーチバレー=水着。水着=ビーチバレー。
 猛抗議の美希さんに戸惑いつつも、ヒナギクさんは着替える様子はなく、執事服のタイすら緩める様子もないハヤテ君は、それを、もちろんですよ、と肯定し、がんばりましょう、と微笑すら浮かべるのでした。
 こうして、動画研究部の水着動画フォルダに新たなファイルが追加されることはないのでした。


 ネットの張り具合を確認するとハヤテ君はラインを跨ぎ、コートの中に入りました。
 
「さぁさぁそれではそろそろ始めましょーカ!! 一回限りのビーチバレー真剣勝負を!!」

 鋭い眼光と敵意を向けてくるギルバートさんに、ハヤテ君は怯む様子もなく答えます。

「ええ。いつでもいいですよ!!」

 ハヤテ君に不安要素はありません。
 何せヒナギクさんは、自分たち執事の世界にも見劣りしないぐらいの運動能力を持った少女。それを何度も目の当たりにし、実際勝負したことさえあるハヤテ君には、それが身に染みて分かっています。
 あのロボも、大きさから考えてかなりの馬力はありそうですが、その巨体ゆえに機敏さはないに決まっています。そしてあのアフロも、さっきボコボコに返り討ちにしてやったことを考えれば、なんら驚異ではありません。
 ハヤテ君はヒナギクさんを振り返りました。すると、ヒナギクさんも笑い返してくれました。
 同じように勝利を確信している。
 やっぱり、ハヤテ君には不安要素はありませんでした。
 そう、自分達が本気で戦えば。



 叫び声と共に、しなやかに放たれたボール。ギルバートさん、2000GTが飛びつくものの、ボールはかすりもせずに、コートの隅に突き刺さりました。
 コート脇の友人達があげる歓声に応え、振り向くと、パートナーが、

「すごかったですけど……やはりヒナギクさんは野獣みたいですね」

 引いていました、真顔で。

 本気で戦えば引かれる。
 ヒナギクさんは、生まれついての負けず嫌いでがんばった自分を、シミュレートして固まりました。
 せっかく手にしたか弱い評価を、全力で戦えば失ってしまう。それでは水の泡。もっと女の子らしく、か弱いの評価を裏切らないようなプレーをしないと。
 考えていると、ハヤテ君が叫びました。
 顔を上げれば、自分に向かってくるボール。
 ボールが視界に入った瞬間、反射的に両手が伸び、腰が落ち、目はハヤテ君の位置を確認し、頭の中ではどこにボールを上げるべきかのビジョンすら浮かんでいました。
 しかし、それをすれば、か弱い女の子の称号を失い、野獣に逆戻り。
 思えばいままで頑張ってきたがために、女の子にも関わらずバレンタインデーにチョコをもらいまくってホワイトデーにそれを返しまくるという、ある種間抜けなことになってしまいました。
 か弱い女の子で居続けるためには、がんばってはいけない。
 そして、ヒナギクさんは必死になってがんばることを放棄しました。

「ヒナギクさん!?」

 返ってくるはずのボールが返ってこなかったことに

「いた~い~」

 言ったことのない台詞だけに、どう言えばいいのか分かりませんが、とにかく言ってみました。

「いた~い。あんなのとれな~い……」

 反応がないので、続けてみました。

「あの……えーと……大丈夫ですヒナギクさん」
「いたたたた……どうかしら……?
 私……か弱い女の子だから……」

 反応があったので、念押ししてみました。
 すると、ギルバートさんが、自分の読み通りと高笑い。
 一目見た瞬間から、ヒナギクさんがひ弱なことを見抜いていたというのです。
 見る目がある人もいたものだと顔を上げると、

「なんせその女、驚くべきナイチチだからな!! そのまったく栄養のいってないチチを見れば……貧弱なのは必然!!」

 アフロはこんなことを言い出しました。
 誰の何が貧弱か。
 抗議するヒナギクさんですが、アフロは聞く耳持たずとばかりに肩をすくめます。
 それなら、プレーで思い知らせてやる!
 しかし、ボールを掴んでヒナギクさんは思い出しました。
 今の自分は、か弱い認定を受けた女の子なのだと。
 ここで、本気を出せば、ギルバートさんをひねることなど、造作もありません。しかし、全力を出してしまえば、もちろんか弱いの形容詞とはサヨナラ。
 
「ひ……貧弱ですが何か……?」

 ヒナギクさんには、そう絞り出すしか道はありませんでした。
 勝ち誇ったように笑うギルバートさんと、腕のパーツがなにやら開いて本気を出しそうなロボット。
 本気さえ出せたら、あんな奴に……。
 歯を噛みしめるヒナギクさんですが、本気を出すわけにはいきません。
 葛藤するヒナギクさんに、思いがけない声がかけられました。

「すみませんヒナギクさん」

 顔を上げると、ハヤテ君が謝っていました。

「ヒナギクさんが調子悪いなんて思わず……ヒナギクさんなら大丈夫と勝手に思いこんで……こんな危ない事……」

 振り向かず、しかし、すまなそうに肩を落とすハヤテ君。
 そういえば。
 ヒナギクさんは考えました。
 なんのために、ハヤテ君はこの二人とビーチバレー勝負をしているのだろう。
 いくらなんでも、好き好んであんな連中とビーチバレーをするとは思えませんし、事実、彼らが口にするのは挑発的な言葉ばかり。
 何か事情があったんだ!
 だからこそ、ハヤテ君は勝負を受けた。
 そう気付いてしまえば、ハヤテ君に好かれたいという自分のためだけの思いで、心を埋めているわけにはいきません。
 ハヤテ君に好かれたいか。
 ハヤテ君を助けたいか。
 相反する二つの思いに、心中で天秤が揺れました。
 その揺れが、止まりかけた時、

「さーて、その貧弱ナイチチ娘と共に……ミコノスの砂となるがいい!!」

 更に、もう一つ足されました。助けたい側に、ぶっとばしたいという思いが。

「それでは死になサーイ!!」

 2000GTの腕から、剛球が放たれました。か弱い女の子では打ち返せないような。
 迎え打ったのは、固く握りしめた拳。
 跳ね返されたのは、威力を増したボール。
 突き刺さり、倒されたのは2000GT。
 
「さて……」

 2000GTの倒壊で舞い上がる砂埃に目を細めつつ、少女は不敵に笑いました。

「ビーチバレーって……どういうルールだっけ?」












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2009.05.04 23:04 | 360度の方針転換