しっぽきり

 爽やかなビーチに鈍い打撃音が響きました。
 その打撃音の元、ハイキックを巻き込むようにアフロの頭部を持っていったハヤテ君。一仕事を終えた気分でナギお嬢さまに、ゾンビ退治は済んだのか聞いていると、背後でゾンビが動き出しました。正確には、一撃で熨したはずのギルバートさん。

「ま……待ちなサーイ!!」

 どうやら見事なアフロが緩衝材となっていたようで、起き上がりハヤテ君を呼び止めてきます。
 仕方なく、ギルバートさんが誰であるか聞くハヤテ君。
 とりあえず相手をしてもらえたことがうれしかったのか、長々と名乗り始めるギルバートさん。すかさず間合いを詰めてストレートアッパーのハヤテ君。
 空を飛ぶアフロを見送りつつ、昨今の洋ゲー事情について話すハヤテ君たち。
 しかし、ギルバートさんはそれでもあきらめません。
 釘バットを手にして、ハヤテ君に襲いかかりました。
 が、ハヤテ君は釘バットを体をわずかに動かし避けると、ローキックというにはあまりにもゆっくりとした足の動きを見せました。その意図は足かけ。
 勢いあまって砂を巻き上げながら転倒していくギルバートさん。転んだときに釘バットにひっかけたのか、頭から流血しています。
 白い砂浜を汚す自らの血にふるえるギルバートさんのわき腹に一蹴り叩き込むと、ハヤテ君はおもむろに釘バットを持ち上げ、そこから緩んでいた釘を一本引き抜きました。
 心得たようにナギお嬢さまに両手で目隠しするマリアさん。
 ハヤテ君はマリアさんににっこり笑いかけると、ギルバートさんの眼前にかがみました。
 ハヤテ君への反撃のつもりか、手をあげるギルバートさん。しかし、ハヤテ君は慌てる様子もなくその手を掴み砂浜にたたきつけました。
 そして、足で軽く踏み、釘を薬指の手にそっと当てました。

「僕は優しいので、あまり使わない薬指の爪にしてあげます」

 そして、釘にバットのグリップ部分を当ててほほえみ、持ち上げ、勢いをつけて――釘の寸前で止めました。
 他にも、砂で目潰しした上で十秒おきに攻撃、傷口に海水をすり付ける、太股の内側を抓る等々の容赦ない攻撃を終え、残りのライフを確認するハヤテ君。
 指を鳴らすハヤテ君に、「暴力はよくナイ……」と一転して非暴力を訴えるギルバートさん。
 つらかった両親の暮らしの中で考えた、「僕の考えた四八のドメスティックバイオレンス」の中からハヤテ君がフィニッシュを選んでいると、マリアさんがそれを察して遠回りに止めようたのか、こんなことを言い出しました。

「襲う方はいいかもしれませんが、こう何度も襲われてたらキリがないですわ」

 お嬢さまも、ハヤテ君の活躍シーンは見たいけど実力差があるが故のワンサイドゲームは見たくないらしく、それに同意。
 キリという単語に、両足×指五本で計一〇本のキリを使うので、当時は経済的に実現が不可能だった「キリキリ舞い」を思い出しつつも、話題に乗る形で手を休めたハヤテ君。
 別段、このアフロ程度の刺客ならいくらでも大丈夫、ただ死人は避けたいので、いちいち治療に呼び出されるお客さんが可哀想と、見下ろすハヤテ君。
 そんなハヤテ君に激怒したのか、ギルバートさんが鬼気迫る表情でいいました。

「ハンデを……ハンデをください!!」

 腕力勝負では自分は勝てないのは常識。そんな不平等な勝負はやってられない。執事ならサービスをしてほしい。
 まくし立てるギルバートさんを、ハヤテ君とナギお嬢さまは心底見下げ果てた視線を浴びせていましたが、マリアさんは、悪漢にも心優しいのかあるいは単にめんどくさかったのか、ハンデを聞いてみました。
 ギルバートさんは、マリアさんの対応に喜び、しゃべり出しました。
 ここは、ヌーディストビーチだと。そして、

「ビーチバレーで勝負というのはどうでしょう!!」

 土地的には会っているものの、いままでの殺伐とした空気からはかけ離れたその提案に、あきれるハヤテ君。
 一回限りの真剣勝負、負ければもう二度と目の前には現れない。
 やっぱり、早口にまくし立てるギルバートさんですが、ハヤテ君は無感動。マリアさんに、やっちゃっていいスか? 的な視線で許可を求めていると、お嬢さまも同じ気持ちだったのか、ギルバートさんの提案を「なんでいちいちお前の出した条件で戦わねばならんのだ?」とバッサリ。
 しかし、この一言がギルバートさんに付け入る隙を与えました。
 追いつめられ、譲歩を求める側なのに、お嬢さまを鼻で笑うようにこう言いました。

「あいかわらず、意気地のないガキですね~」

 その言葉にお嬢さまの表情が変わりました。
 
「この程度の譲歩も受け入れられないとは、なんだかんだで三千院家の執事は所詮、低能な三流執事という事で――」

 そして、とどめ。
 並外れた負けず嫌いで、煽りに弱いお嬢さまが、こんなことを言われて黙っていられるわけはなく、なんとギルバートさんの挑戦を受けたのです。それも、どんな条件でもOKとオマケをつけて。
 狡猾な笑みを浮かべて「オーケー」と連呼するギルバートさん。ここで退いたら、ハヤテ君が無能であると認めてしまうことになると退く様子は欠片もないナギお嬢さま。
 両者の様子に戸惑うハヤテ君に、さらなる追い打ちをかける条件がギルバートさんから出されました。

「その石をかけて……ニ対二のビーチバレー対決です!!」

 一対一の勝負ではないことに驚くハヤテ君を後目に、ギルバートさんが呼んだのはデザインからお里が知れるチームメイト、バレープロ2000GT。ハヤテ君のパートナーは、ハンデとしてそこら辺から選べというのです。
 相手が呼び出したのが明らかに人間じゃないことに怒り、そもそものギルバートさんの狙いはビーチバレー勝負だったことを悟り、一撃で仕留め切れなかった自分を悔やみました。
 そして、騒ぎを聞きつけ駆け寄ってきた三人に、自分の置かれている状況を知りました。
 理沙さん、泉さん、美希さん。
 体力的には一般女子高生の域を出ない三人の誰をパートナーにしても、勝利の女神が自分に微笑むとはとても思えませんでした。






「はーっ。思わず逃げ出しちゃった……」

 ハヤテ君を振り切ったことを悟り、林の中を混乱を鎮めるように歩いてきたヒナギクさん。
 (告白したい事があるんじゃないですか?)
 ですが、すぐにハヤテ君の言葉を思い出してしまい、なかなか混乱は収まりません。
 自分は一体どうすればいいのかわからず、重たい足を引きずるようにして歩いていると、聞きなれた声がしました。

「いいんじゃないかな? 言っても……」

 振り向くと、そこにいたのは歩さんでした。
 普段は見ない暗い表情で俯く歩さんでしたが、偶然さっきのヒナギクさんとハヤテ君のやりとりを目撃していたらしく、ハヤテ君のデリカシーの無い様子に共感したようでした。
 
「けど……思いを伝えるくらいは……いいんじゃないかな……」
 
 最後に一言、そういい残し、自分はもうちょっと落ち着きたいからと、歩さんはヒナギクさんの背を押しました。
 言う、言わない、言う、言わない。
 潮風に吹かれながら、ヒナギクさんは、もしも言ってみた場合のことを想像してみました。
 
『あなたの事が……スキです!!』
『あ。僕、か弱くない女の子に興味ないんで』

 バッサリでした。いともあっさり、バッサリでした。
 あの命の危機ともいえるような遺跡崩落のシーンですら、ハヤテ君は自分のことを守ろうとしてくれませんでした。その態度は、恋人ではなく相棒へのもの。とてもじゃありませんが、恋愛関係に発展するとは思えません。
 自分のモヤモヤをエアーハヤテ君に八つ当たりし、何だか面倒になったヒナギクさんは、お腹もすいたところなので、みんなのところに戻ることにしました。
 そこで、日常では見られないものを見ました。
 つまりは、巨大ロボットを。




「ねえ、何やってるの?」

 誰を指名されても基本的に負け戦な現状にハヤテ君が恐々としていると、ヒナギクさんがやってきました。
 ああ、運動神経が抜群で見事な太刀筋の持ち主で、頼りになるヒナギクさんが指名されれば勝てるのに、とハヤテ君は頭を抱えますが、現実は非常なもの。ギルバートさんは、か弱そうな女とを選ぶと言っているのです。期待はできません。できませんでしたが、ハヤテ君には、
 金髪のチビっ子→一見、一番か弱く見えるものの、主人と組むと合っては執事が余計な力を発揮するかもしれない、遠ざけておくに越したことは無いので×
 ぺラッとしたワカメさん→論外。
 長身の黒髪さん→一番身長が大きい。バレーは身長。あと、何をやってくるか読めない。避けたほうが良さそう。
 おデコさん→キラッと光って反射しそうだし、避けとこう。
 細目のゴム髪留めさん→なんだか、追い込まれれば追い込まれる程喜びそう。逆境にもめげない的な? パス。
 赤毛のぺったん子さん→遅れてやってきたのは、体調が悪くて皆には寝ているように言われたんだけど、せっかくの旅行なのだからと無理して出てきたに違いない。だから、表情もなんとなく虚ろな感じなのだ。というか、きっと元々体がそんなに強くない子だと思う。平だし。それでも無理して旅行について来て体調を崩したんだ。そんな純情可憐な子に違いない。そんなか弱い子を勝つためとはいえ指名する非常な自分、マキャベリカッコイイ。これでいこう。
 そんなことをギルバートさんが考えているなんて、想像もできません。
 なので、ギルバートさんが、ヒナギクさんを選んだときハヤテ君は驚愕しました。
 それは、美希さんたちも同じだったようで、勝負を捨てたのか、墓穴を掘りたいのか、自殺願望があるのか、勝利は既にもらった。
 そんな空気が一同に流れました。それを感じ取ったのか、ヒナギクさんを指差し「か弱くないのですか?」と確認するギルバートさんに、ハヤテ君が答えました。

「ヒナギクさんは……とってもか弱い女の子に決まっているじゃないですか!!」

 この機会を逃すハヤテ君ではありませんでした。
 いくらお嬢さまが許可したとはいえ、予想外の方向に好き勝手な条件を付けられたのですから、どんな手段を用いてでも自分に有利な方向に持っていくことに躊躇いはありません。
 更に、周囲に同意を求めました。
 マリアさんが控えめに頷き、ナギお嬢さまも当然だというように笑い、三人も、とりあえず乗っておくのが面白そうだと察したのか、ヒナギク=か弱いは世界の常識、世界に冠たるか弱さの持ち主がヒナギクさんだといわんばかりの勢いで、か弱いを連呼。幸いなことに、ヒナギクさんもビーチバレーを受けてくれ、ギルバートさんは首を傾げながらも、ヒナギクさんを選択することを認めました。
 そして、勝利を確信したハヤテ君には、ヒナギクさんが陽射しから考えても異様なほどに頬を赤くしていることも、自分が墓穴を掘ったらしいことも、気付くことができないのでした。

 












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ハヤテのごとく!221話【ビーチに来たからにはやる事がある】畑健二郎
 ビーチに来てやること……イカ娘が存在しないか探すことでゲソか?  とりあえずあやしい外国人と真面目に戦うことではないらしく――いや、凄くマジになっている気もするけれど――男にはマヒャドのごとく冷たいハヤテが憐れな咲夜の兄を何回も何回ものしまくる。  ...

2009.04.25 12:29 | 360度の方針転換