しっぽきり

一本目 もう二〇歳ぐらい若くて独身なら、年齢的にちょうどだったのにと詮無いことを考える朧さんでした。
二本目 人形から脱したパティさんの自立を望む兵部少佐と、人形好きの自由を守る九具津さんでした。


 バレットさんの銃口から放たれた銃弾が、ドーターさんが従えていた男を捉えました。
 遠距離からの狙撃。
 予想もしていなかった、いえ、予想した上で潰していたはずの事態に怒り心頭のドーターさん。 

「よ……よくも私の花粉男を!!」

 が、その叫びに今度は皆本さんが怒りました。
 怪人に男が許されるのは昭和までだよね、というネーミング的な意味合いで。
 その怒りが届いたのか、アレルゲンナーと、若干適当気味なものの、言い直すドーターさん。
 彼女の意外な素直さに、驚く皆本さん。
 ですが、その驚きも彼女への認識を変えるには不十分でした
 人間に命や心があることを理解していない。
 それが、意図的な物なのかどうなのか、迷いながらも、皆本さんは彼女に訴えかけました。
 
「花粉の飛散は抑えた!! 君を保護する!!」




 保護。
 目の前の人間が、自分を弱いものと見なしたことに、目を剥き、真っ赤に塗られた爪をたてて、皆本さんに襲いかかろうとするドーターさん。
 しかし、それを阻んだのは、宙に浮いた一発の弾丸。
 その弾丸は、明確な意志を持っていました。
 その人に近づくな。
 また、バレットか。

「位置を特定したぞ!! このゲーム、俺たちが制した!!」

 視線を上げれば、少年が勝ち誇り、

「バレットの言う通りだ!! ムダな抵抗すんな!!」

 戻せば、揚々とした勢いで別の少年の意志を受けた人形が飛びかかってくる。
 狂おしいほどの怒りの熱が引いていき、代わりに満ちたのは冷えた嘲笑。
 制した。ムダ。
 ドーターさんは、二人の錯覚を鼻で笑わずにはいられませんでした。
 たしかに花粉は、放水によって封じられてしまいました。
 しかし、同時に放水は水しぶきと代わり、テレポーターの障害に。チルドレン達の機動力をも封じ込んでしまったのです。急いでも数十秒かかる、とドーターさんは踏みました。
 そして、それだけの時間があれば、今度のゲームは、少年達が守ろうとしている青年を殺すというゲームの達成は、ドーターさんにはさして困難な遊びではありませんでした。
 ドーターさんが手を掲げると、人形達の動きが止まりました。
 そして、肌は堅く、爪は尖り、歯は牙へと変わり、目はつり上がり光出し、人形達はドーターさんの支配下におかれました。

「お前たちは私の作ったお人形だったのよ!! 人形が作った人形なんかに、私が止められるとお思い!?」

 相手は糸はとっくの昔に切れてしまったのに、自分で歩けると勘違いしたお人形。
 ドーターさんは、思いました。
 これはゲームではなく、ただのお人形ごっこなのだと。




 降伏なさい。楽になりなさい。

 肉眼でも、そして鉛玉からもバレットさんは、自分達の目算が甘かったことを悟りました。
 バレットさんを通じたサイコメトリーで現状を察した賢木先生は、「もう二、三発ブチ込め」と指示を出しますが、バレットさんは拒否しました。
 敵である少女は、自分達の念波に自在に干渉してくる。そこに弾丸を放てば、危険性が増すだけと判断したのです。
 そして、ドーターさんの念波は、弾丸や人形だけにとどまりませんでした。
 
 またお人形になりなさい? 気に入れば、また遊びに使ってあげてもいいわよ?

 バレットさんにも、ティムさんにも、悲鳴をあげたくなるぐらいの、強大で黒く、そして一欠片の懐かしさもない意思が流れ込んできていたのです。
 心臓がなる度起こる頭痛、押し潰されそうな息苦しさ。
 必死に抵抗しながらも、バレットさんは従って楽になりたいという欲求を消すことができませんでした。

「なめるなっ!!」

 鉛越しに念波の乱れを感じ、視線を下ろすと、皆本さんが戦っていました。
 三体の人形相手に一人で、

『チルドレンがなんであいつを信頼してると思う?』

 機械の敵に生身で、

『どんなときもやるべきことを精一杯やって、未来を守りたいと思ってるからじゃないのか!!』

 エスパーの力にノーマルの彼が戦っていました。

「何やってんだ、薫ちゃんたちは!?
 待ってられねえ!! 降下急げ!!」

 賢木先生が叫び、パイロットが不可能と答え、賢木先生が落ちろと再び叫ぶ中、バレットさんは必死に考え、探しました。自分にできること、自分がやるべきことを。
 そして、見定めました。

「いや……大丈夫!!」

 制止していた弾丸が震え出し、腹立たしげに見上げてくる仮面の少女に、バレットさんは笑いました。
 彼女が弾丸を通じて自分を威圧してくるのなら、逆に弾丸を通じて抵抗することができるはず。
 そうすれば念波は乱れ、

「スキができれば、あとはティムがやってくれる!!」
「おう!! こっちに気をとられたら奴にブチ込んでやれ、バレット!!」
 
 二人は一人ずつではありませんでした。
 力を合わせれば、二人ならば、最大限の心でぶつかれば。
 戦える。
 信頼に報いることができる。
 弾丸の、人形の、動きが止まりました。して、その拮抗を見逃さない青年が一人。




 人形の動きが止まり、ドーターさんの注意が自分から離れた瞬間、皆本さんは動き出しました。
 駆けるような勢いで這い、手を伸ばしたのは、奪われたブラスター。
 銃を手に取ると、皆本さんは人形に向け、躊躇なく引鉄を引きました。
 低く唸るよう音とともに放たれた熱線は正確に人形を撃ち抜きました。

「もうやめろ!! 続けるなら……」

 一瞬の躊躇いの後、皆本さんは言いました。

「……撃つ!!」

 しかし、突きつけられた銃口に少女は笑いました。

「どうぞ」

 ブラスターから、皆本さんの顔に視線を写し、

「でも……あなたには無理ね」

 薫さんの顔をした少女が小首を傾げました。

「それエスパーを倒すための銃でしょう?」

 皆本さんは躊躇いませんでした。

「こんな顔のエスパーが撃たれるところ、誰にも見せられないもの」

 躊躇うことなどできませんでした。

「ほうら。やっぱり」

 ゆったりとした動作で少女は、ブーツに隠していたナイフを引き抜き、薫さんの声で、言いました。

「死になさい、ノーマル」

 そして、少女が降ってきました。






「あたしが……んな変な服を着るかバカあああああーッ!!!」

 踏みつけに行ったのを間一髪避けられたことと、彼女のやったこと、やろうとしていたこと、全ての怒りをドーターさんへの視線にぶつける薫さん。しかし、ショックこそ受けていたものの、ドーターさんの反応はどこか的外れなものでいた。

「へ……変な服!? ひどいわ薫ちゃん!!
 これが罰ゲーム!? わかったわ、次までになんとかする!」

 薫さんの怒りすら、彼女の中では罰ゲームと解釈されていることに、怒りを更に募らせるとともに、話の通じない歯がゆさと間抜けさを感じていると、自分を単独で先行させてくれた不二子さん達三人が到着しました。

「逃がさないわよッ!!」
「残念だけどそれはダメ。
 紫穂ちゃんでも私は追跡できないわよ」

 そして、邪魔物が多かったと、罰ゲームを残しておきました。
 それは、水滴で押さえ込み切れなかった花粉。
 何もしなければ、その花粉は風に乗り、そして都心にたどり着くはずでした。
 そして、今からでは、花粉を止めるために薫さん達ができることは何もありませんでした。
 しかし、不二子さんが警報を要請しようとしたところで、ヘリコプターでモニタリングしていた奈津子さんが叫びました。

「花粉の流れが何か変なんです! 消えていきます!!」

 何かが、起こっていました。
 とにもかくにも事態は解決。
 捕まえられなかった歯がゆさや、逃げられたことへの「くっそ!」という激怒や、それをたしなめようとした途端のくしゃみ、パリパリな鼻の下にクリームを塗るという行為が案外いいシチュエーションプレイだったこと、そして自分の無茶を叱る彼。
 そんな彼に反発しながら少女は、
 自分の気持ちが前よりも、もっと確かなものになっていたことに、気付くのでした。
 















 どの作品から先に読むか。
 どの組み合わせから先に読むか。
 そこまでは決まりました。
 前後はどうすべきか。順番が確立しているものなら、迷いは少ないけど、目の前にした組み合わせは五分と五分。さて、どうしたものか。
 両手に持った冊子にパティさんの悩みは尽きませんでした。
 いっそ、手に持った順番で読み始めたほうがよかったのかもしれない。そう、パティさんが思い始めたときでした。

「やあ、がんばってきたみたいじゃないか?」
「ひょ、兵部少佐!?」

 慌てて本を隠すパティさん。そして、同時に少佐がかけてきた声には、もっと焦らせる情報が含まれていました。
 
「あ、あれは、その……」

 口ごもり、目をそらすパティさんの頭に、手を乗せて兵部少佐は笑いました。

「いいさ。君がやりたかったことなんだろ? それに、都内にも大分エスパーはいるからね。
 ご苦労様」

 乗せていた手を離し、兵部少佐は去っていきました。
 彼の背中を見送りながらパティさんは思いました。
 昼間の少女に感じた息苦しさは、兵部少佐からは感じたことがないと。
 そして、少佐と声の感じも似てるし、ウラモモから先に行こう、と。












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