しっぽきり

「誕生日おめでとうクラウス」

 クラウスさんが二匹の猫的な生き物にエサをやっているところに、突然お屋敷に現れた帝さんの第一声がそれでした。
 だいぶ前に誕生日は過ぎたのですが、相手は雇い主。それに祝ってくれているわけですし、一応礼を言っておきました。
 なんともタイミングが悪いななどと思いつつも、年齢を問う帝さんに、五の部分を強調して五九歳と答えると、帝さんが驚きました。
 まだ五〇代とは気に食わない。執事服より赤いチャンチャンコが似合っている、早期退職すれば、ちゃんと退職金出すよ、となぜか帝さんはご立腹。
 それでも雇い主なわけですから、逆らうわけにもいきません。
 はぁ、はぁ、と相づちを打つクラウスさん。

「は~。しかしお前が五九か~」

 すると帝さんの怒りもやりすごせたようで、遠い目で過ぎていく時間の早さに思いを馳せ出しました。

「まぁお互い年はとりましたね~」

 柔らかな陽光を受け、猫っぽい生き物を身ながら、感慨深そうにそういうと、それがまた帝さんに火を点けました。

「なめるなクラウス!! ワシはお前ほど老けこんどらんわ!!」

 そう言い放つ帝さんに、たしかに老人を見たらお若いですねとは言うけど、大体の取材目的が元気なお年寄り特集なんだから、そら若いだろうさ的なことや、この爺さん何歳だっけ? 的なことを思いつつも、その勢いの良さにたしかに、年齢離れした若さを感じ、驚くクラウスさん。
 帝さんは、自分の若さの秘訣をつまびらかにしました。
 武道館もコマ劇場も行ったし西武ドームにも行く予定。代表キャラが二五歳になるけど、それとちょうど八歳な人のメロ~ンな効能は特に素晴らしい。上か下かと聞くやつと般若って行ったヤツは表に出ろ。あと、銀河の果てまでごじゃっぺなドリーム小説を描かせたら日本で自分の右にでるヤツはいない。
 なんだかわからないがすごい効能だと、メモをとろうとしたクラウスさん。
 と、そこに拳が一発。胸が一揺れ。

「年齢を考えろぉおおお!!」

 現れたのは、帝さんのお孫さん。咲夜嬢でした。
 名実ともに若い咲夜嬢には、すごい効能ではなく、年甲斐のない奇行と映ったようでした。
 若さを維持していたおかげか、すぐに立ち上がった帝さんは、咲夜嬢の来訪の目的を尋ねます。

「何って、じいちゃんを捜しとったんやないかい」

 怪訝な顔をする帝さん。
 クラウスさんも帝さん同様に、不思議でした。咲夜嬢は、ナギお嬢さまと違って、帝さんとの仲は基本的に良好です。ですが、わざわざ捜して会いに来るほどの仲でもなかったはず。
 すると、やはり会うこと自体が目的ではなかったようで、

「伊澄さんがまた迷子になっとるみたいやから、すぐにミコノスまで捜しにいかなあかんねん。
 せやから、自家用の速いジェット機持ってたやんか?」

 と、おねだり。

「まぁ、かわいいお前のためなら別に貸してやってもかまわんが……」

 咲夜嬢との関係は基本良好ですし、世界有数の大富豪である帝さんとなるとジェット機のを貸すぐらいは何でもないことのようで、あっさりとおねだりを受け入れました。
 しかし、ポツリとこんな一言。

「じゃが気をつけろよ」
「ん? なにがよ、おじいちゃん」
「外国は……色々危険じゃぞ」

 外国に行きなれた咲夜嬢は「何を今更」と小首を傾げ、それならば自分が護衛についていくと言い出しかけたもののパスポートが灰になっていたことを思い出したクラウスさんは愕然とするのでした。




 そんなわけで危険な外国では、ヒナギクさんの心臓がどうにかなってしまいそうな展開を迎えていました。

「こ……告白したい事?」
「そうです。何か僕に……言いたい事があるんじゃないでしょうか?」

 ハヤテ君の事が好きだけど、告白せずに告白させてみせる。そう宣言したヒナギクさんにとっては予想外の展開でした。
 告白したい事。
 そう聞いてくるということは、自分の、ハヤテ君が好きだという気持ちに気づいているのではないか。
 でも、それならもっとストレートな聞き方をしてくれれば……。
 自分の心への救いを求めるヒナギクさんですが、ハヤテ君は容赦してくれません。

「ヒナギクさん!!」

 さっきまでの言いづらそうにしていた様子はどこへやら、ハヤテ君の勢いは、そしてその瞳の真剣さは弱まる様子はありません。
 少しずつ近づいてくるハヤテ君。その距離は、近く、息がかかりそうなぐらいに。

「言ってください!!」
「ああ、でも……」
「言ってくれないとわからない事も」
「そんな……」

 せっかくのチャンスをフイにしないの。

「あるじゃないですか!!
 ヒナギクさん!!」
「そんな事言われたって……」

 少しくらいワガママ言わないと……幸せつかみそこねるわよ。

「言えるわけないでしょ!!? バカァ!!」

 そして、ヒナギクさんは駆け出しました。
 後ろから自分を呼ぶハヤテ君の声から、遠ざかるために。




 言えるわけないでしょ。
 数分前、耳にしたヒナギクさんの言葉が耳から離れませんでした。
 言えるわけない、ということは、何かあるに違いないんだ。それも、言えないぐらいにひどいことが。少し、短気なところはあっても、いつも助けてくれる良い人なヒナギクさんが、言えないぐらいのことが。
 それは自分のことではないのか?
 思ってしまえば、思考は内向きに内向きに、自分の行動への後悔、欠点への嫌悪に向かって行くもの。足取りは重く、踏みしめる度に沈み崩れていく砂の感触が、自分の存在を一層不確かにしていくようで。

「やぁやぁハヤ太君。どうしたんだい? そんな暗い顔をして」

 自分を呼ぶ声に顔を上げると、そこには、理沙さん、美希さん、泉さんが三人。いずれも水着姿です。

「その顔か察するに、うまく話せなかったのかい?」
「なーに、ヒナの強情さは今に始まった事じゃない」
「げ……元気だしてよハヤ太君」

 自分を励ましてくれているらしい。
 そうとわかっても、ハヤテ君の心は沈んだまま。

「はい……ありがとうございます」

 なんとかお礼の言葉を絞りだしましたが、しかし、美希さん理沙さんは、ハヤテ君のお礼の空虚さが不満だったようで、拳を一撃、ローキック一振り、タックル一発、後はボコスカボコスカ。
 
「まったく失礼だなハヤ太君は」

 理沙さんを先頭に去っていく頃には、ハヤテ君もすっかり打ちのめされて砂浜にダウンしていました。
 それでも、肉体的に打たれている刺激に、精神的には立ち直れたようで、ちょっと前よりも大分上向いた気分でいると、愛歌さんが近づいてきました。

「大丈夫? 綾崎君」
「あ、愛歌さん」
「私も加わりたかったんだけど、体を動かすのは苦手なの。今度、ちゃんと調べてから別の形で埋め合わせするから、勘弁してね」

 そんな風に心配してくれる愛歌さんですが、別の人にも渡し物があるように、ハヤテ君にも渡し物があるというのです。

「手紙。三千院帝おじいさまから」

 愛歌さんの手にあったのは、たしかに手紙でした。帝という意匠で封をされた封筒。

「じゃあちゃんと渡したから……きちんと読んでね」

 そう言って愛歌さんは去っていきました。
 帝って随分ストレートだし、自分一代でしか使えないじゃなんとか、そもそも愛歌さんって帝おじいさまと知り合いだったのかと、感心していると、ナギお嬢さまが側に近づいてきました。
 帝さんからの手紙を受け取った旨を報告すると、バカンス先にまで来て帝さんの名前を聞きたくなかったのか、ナギお嬢さまは、「いったい誰なのだそれは」と、もしかして新キャラ? と言わんばかりに知らない振りを決め込もうとします。
 なだめすかして、手紙を取り出す、読み始めるハヤテ君。
 そこに書かれていたのは、こんな感じの文章でした。

「捨ててしまえー!!!」

 ハヤテ君とのドリーム小説を書きかけてやめたナギお嬢さまとしては、堂々と書ききっている帝さんへのやっかみや、なにより年甲斐もなくこんなものを書いていることへの怒りもあって、手紙を放りなげました。
 お嬢さまとしては、海へ捨てるはずだった手紙は、風の抵抗を受けて、砂浜にポトリ。
 その手紙を拾い上げたのは、マリアさんでした。
 既読のドリーム小説部分に眉をひそめつつも、残りの部分に目を通すマリアさん。目を少しだけ大きく見開くと、朗読を始めました。

「遺産相続の条件がイマイチわかりにくいとの苦情が寄せられました」

 帝さんに怒っていたナギお嬢さま、そして何よりの当事者であるハヤテ君の顔色が変わりました。
 手紙の本当の用件は、権利を持つ物に遺産相続の条件を明確にすること。
 
「遺産相続の条件は、三千院ナギの執事綾崎ハヤテを倒し、」

 意識せずとも体が引き締まるのをハヤテ君は感じました。
 来るなら来ればいい。お嬢さまの為にも、負けるものか。
 しかし、次に示されたのは、戸惑うような条件でした。

「彼の持つ、『王玉』という石を奪うか破壊する事」

 「え?」つぶやきとともに緊張に強ばっていた体の力が抜けていきました。
 あの石が、クリアの条件?

「その石は三千院家ん遺産を継ぐために必要なものなので、無くせばゲームオーバーです。どうぞよろしく……ですって」

 読み切って、マリアさんが便箋を畳みました。
 遺産を継ぐのに必要という条件には疑問も残りましたし、驚きもしましたが、しかし、考えれば納得できる話でもありました。
 三千院家に伝わる九つしかない秘宝となれば、ターゲットになるのはふさわしいですし、その方式であるならば殺されるところまではいかなくとも勝負はつきます。
 
「王玉ってこれですよね」

 そう言って、首にかけた紐を手繰り、胸元から王玉を出しマリアさんに確認するハヤテ君。ですが、王玉を見た瞬間に、ナギお嬢さまの表情が変わりました。

「え? なんで?
 なんでハヤテがその石を……?」

 本当に、意外そうに尋ねてくるナギお嬢さまに、石を手に入れた経緯を説明しようとした瞬間、高笑いが砂浜に響きました。

「その石を破壊すれば……遺産は私のものとなるー!!」

 聞き覚えがあるような、そうでもないような。そんな声でした。

「この私ー!!
 ギルバートのものにー!!」

 見覚えがあるような、そうでもないような。そんな顔でした。
 なので、

「え? 誰?」
「誰でしたっけ?」

 やっぱりない方向だなと思う二人は、今度こそ新キャラ登場かと身構えるのでした。












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