しっぽきり

 すごいなあ、これ入るんだ。
 一巻は読んでないのに、三巻は読んでいる不思議。
 それを見た瞬間、アテネさんは目を見張り、眉を潜めました。
 マキナさんは、自分の主がそんな顔をすることを初めて知りました。
 彼女の表情を変えたのは、一葉の写真。写っているのは、何の変哲もない、強いて言えば貧相で中性的な顔をした少年。
 三千院家に関わる情報を入手したら、必ず自分に知らせるように。
 そう仰せつかって集めた情報の一つ。 

「その執事を倒せば、三千院家の遺産が手に入る……か」

 写真を凝視してから五秒、アテネさんがようやく口を開きました。
 その荒唐無稽さがアテネさんを驚かせるかもしれないと、うっすらと期待してはいましたが、そのことを告げたときは動揺もせずに、「あの男らしい」鼻を鳴らし、遺産を手に入れる方法が見つかったことに頷くだけでした。それが、写真に表情を変えたのです。
 あまりの貧相さに驚いたのかもしれないな。あるいは写真を見ているうちに条件の荒唐無稽さに驚いていたのかも。
 そんな答えを出し、それよりも以前から抱いていた、疑問をアテネさんにぶつけました

「アテネも十分お金持ちだろ? たしかに三千院家の資産は莫大だけど、それでもまだ三千院の資産が欲しいだなんて、そんなに金がいるのかよ……」
 
 ため息を長くついた後、アテネさんは呟やきました。

「そういえば遺産というのは……そういうのも含まれるんでしたね」



 夜の二時。
 ハヤテ君とマリアさんは、二人、ベランダ
で夜風を浴びていました。
 口を付いて出るのは、ハヤテ君にとって初めての海外旅行だったことを忘れさせるぐらいに多くのことがあった、一日のこと。
 
「まぁたしかに、今日は色々ありましたけど……お嬢さまをお守りするのが、僕の使命ですから」

 海に、そして星空に誓うようにハヤテ君が言いました。

「だから負けませんよ。三千院の胃sんをねらう人たちにだって……」

 そう宣言し振り向いたハヤテ君は、マリアさんの表情が、いつもとどこか違うことに気づきました。
 問いつめると、ハヤテ君を倒せば遺産が転がり込んでくるという話を忘れていたというのです。
 驚くハヤテ君ですが、たしかにハヤテ君の体感的には数時間前にお嬢さまをマフィアから救ったとか言っても、信じてもらえませんし、そもそもここ最近は平穏無事に日々が流れていたことを考えれば、それも無理はないのかもしれません。

「そうは言っても殺しちゃったりしたらダメなんでしょ?」
「まぁ、僕も殺されたくはないですけど……」

 殺してしまえば、殺人事件。三千院家の力ならもみ消すのも可能なのでしょうが、それはないと信じたいところ。
 そうなると倒すの基準を知りたいところですが、ハヤテ君も、そしてマリアさんにすらあの老人は分かりかねるところがあるので、想像もつきません。あれだ、これだと会話しているうちに、ハヤテ君にとって、一時の落ち着いた時間が過ぎていくのでした。
 



「うわーこれがヌーディストビーチですかー!!」

 感嘆の声を挙げるハヤテ君ですが、しかし疑問が一つ。
 いないのです、ヌードさんが。
 名前負けのヌーディストビーチにちょっと拍子抜けしつつ、お嬢さまに、わざわざ水着に着替えてと付け加えて、泳がないのかと問うハヤテ君ですが、お嬢さまはあっさり、「人は水に浮かない」と拒絶。
 寝過ごした泉さんの額に「中」と書くか「米」と書くかで揉めて、結局「まま」と書いてきた理沙さんと美希さんは泳ぐ気満々でした。しかし、二人に話を振られた歩さんは口ごもり、ハヤテ君の方を見て、顔を真っ赤にすると、「ちょっとその辺見てまわってくる」と走り去ってしまいました。
 その様子を、美希さん理沙さんは、逃げたなと看破。逃亡の原因であろう、ハヤテ君を問いつめます。
 ハヤテ君としては、「裸体を見た」と素直に答えるわけにはいきませんので、ノラリクラリ交わしていると、二人はヒナギクさんmで様子がおかしかったというのです。
 歩さんはともかく、ヒナギクさんに関してはハヤテ君に覚えはありません。脱いだ制服で体を隠した、制服はおろか下着まで脱いでいるのにニーソックスは履いたままという珍妙な手順での着替えシーンを夢に見たことがありますが、それはただの夢。
 それなのにヒナギクさんは、昨晩、ハヤテ君のことを「か弱い女の子にしか興味ないんだから……私の水着なんて興味ないわよ」と表し、さらに「どうでもいいわそんなの」と最後に一言吐き捨てたというのです。
 トゲのある言葉のヒナギクさんに右往左往するハヤテ君。
 ですが、本当に身に覚えはありません。
 ゲレンデで、スキーウェアの下が直に下着という、奇怪なファッションを夢に見たこともありますが、それももちろんただの夢。
 混乱、硬直し、煮立ったハヤテ君の思考に水を差してくれたのは、

「知らず知らずのうちに……女は傷つくものよ」

 いつの間にかパラソルの下に座っていた愛歌さんでした。
 楽しそうだから、来たという愛歌さんに驚きつつも、自分の無実を主張しようとするハヤテ君ですが、冷静な第三者が作った間が、ハヤテ君の思考に見落としていたものを見つけさせてくれました。
 家族についてのデリカシーのない一言。
 一度疑念をもってしまえば、それは重たさを増していくというもの。
 それでも、気にしてないって言ってたしと思いこみたいところですが、

「気にしてないと言って気にしている……
 それが女心……」

 愛歌さんの言葉に、その線は潰されてしまいました。
 そして、更にそれからのことを思い出してみれば、直後からヒナギクさんは、ハヤテ君に何か言いたげな様子でした。

 そうか!!

 ハヤテ君は悟りました。

 ヒナギクさんは僕に……何か告白したい事があったのかも!!
 
 そうと決まれば、人間関係の痼りは早めに取り去っておく方が無難。マリアさんの、ヒナギクさんは林にいるから話を聞いてみては、というアドバイスを受けて、ハヤテ君はダッシュ。
 そして、ハヤテ君が走り去った砂浜では、ラブ師匠の生講座に感激したナギお嬢さまが、改めて師匠に一生付いていこうと決意しているのでした。

「か弱くない……か」

 木にもたれ掛かり、ヒナギクさんが思い出したのは、昨日のこと。
 歩さんを守り、ナギお嬢さまを守ったハヤテ君は、ヒナギクさんを守ろうとはしてくれませんでした。
 今までのヒナギクさんの実績からすれば不思議ではありませんでした。
 それでもああまで完璧に頼りになる仲間扱いをされては、改めて自分の感情が一方通行にすぎないことを実感させられるわけで、自分から告白せずにハヤテ君から告白させると宣言したヒナギクさんにとっては、その前途の多難さに頭を抱えたくなるのでした。
 
「あ~あ……いっそ告白しちゃっおっかな~」

 素直にそうできれば、苦労はしません。が、負けず嫌いをこじらせたヒナギクさんの性格では、好きだけど告白せずに告白させるという矛盾を、一人でそれを決意するのは難しいことでした。
 あんなことを言った手前泳げないけど、一人で居ても思考が内向きになるだけだし皆のところにいこうか、そんなことを考えていると、自分の名前を呼ぶ声がしました。
 体を起こし振り向くと、そこに居たのは一人の少年。

「ハヤテ君……」

 息を切らせているところを見ると、走ってきたようですし、その表情は真剣そのもの。
 何かあったのか。
 困惑するヒナギクさんに、ハヤテ君は、謝りました。

「スミマセン、ヒナギクさん……ずっと気づかなくて」
 
 ハヤテ君の謝罪の意味が分からず、困惑の度合いを深めるヒナギクさん。
 謝っている対象について聞いてみると、ハヤテ君自身も迷っているのか、必死に言葉を捜しています。

「ヒナギクさんは……
 ヒナギクさんは……」

 二度、名前を口にした後、ハヤテ君は意を決したのか、すらりとヒナギクさんに訪ねました。

「僕に……告白したい事があるんじゃないですか?」
「は?」
 
 静かな林の中に海鳴りが響いて、矛盾に乱反射したヒナギクさんの心に、一つのベクトルが示されました。












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2009.04.08 22:01 | 360度の方針転換