しっぽきり

 アニメ二話が「とらのあな編」なので、あわせてみたり。さすがに放送まで全話は無理っぽいですが、まあ、四月中には?(´・ω・`)
 
「ま、なんだかんだありますが……結局クビということで……」

 前は、助けてくれたクラウスさんでしたが、あのときのつれない態度は本当だったようで、至極あっさりとハヤテ君にクビを言い渡しました。
 
 あのとき、勝てたはずの勝負。大本命だったヒナギクさんを釣り橋に釘付けにした時点でハヤテ君は自分達の勝利を疑いもしませんでした。
 だから、見ていなかったのです。
 ヒナギクさんと美希さんの百合イベントも、崖を這い上がってくる、金専用不死鳥雪路さんも。
 そして、大逆転は起きて、ハヤテ君は借金執事から、借金無職。
 それでも、涙ながらに謝罪するナギお嬢さまの健気さに、平行世界の自分は勝ってるはずなどと口にしますが、数ある平行世界のどれでも自分は借金持ちなのだろうし、お嬢さまに拾われず凍死してた世界もあるのだろうなと想像してしまえば、気持ちは晴れるものではありませんでした。

「どーしてハヤテがクビなのだ!!」

 そんなところに、解雇発言とあっては、さすがのハヤテ君も気持ちがポッキリ折れてしまうというもの。
 しかし自分が二位になったせいでクビでは申し訳が立たないし、今となってはハヤテ君以外の執事は考えられないナギお嬢さまは、猛抗議。
 ハヤテに育てられた私が、負けたとはいえ二位。
 ハヤテは、家事万能。
 ハヤテは、女装だって似合う。
 しかし、クラウスさんは眼鏡を指で直すと、ナギお嬢さまの成長を認めつつ冷静に反論しました。
 一位になれなきゃクビという約束。
 家事ならマリアで十分。
 似合うとはいえ所詮、女装。気味が悪くて見ていられない。そんなのを見せられるぐらいなら魂を抜かれたほうがマシ。
 取り合ってくれないクラウスさんに、押し黙るナギお嬢さま。
 それを潮にクラウスさんが立ち上がり、この件を終わらせるために、一部分を認めつつ最終的にダメだしという手法で貶しつつ、この一ヶ月でNSK(日本執事協会)に募集をかけていた執事達の履歴書を取り出しました。
 ハヤテの在職中から、探していた、だと?
 その履歴書の束がお嬢さまの決定的な何かを切りました。

「だったら……」

 履歴書を手繰る指を止め、クラウスさんがお嬢さまの反撃を迎え撃とうと顔を上げました。

「だったらクラウスもクビにする」

 絶句の後、代わりに出てきたのは反撃ではなく「なぜ!!」という抗議の色合いを込めた質問。
 拗ねたお嬢さまは、痛いところを突いてきました。
 クルーザーにテロリストの侵入を許した。

「いやいや!! しかしそれとこれとは……」
「役目を果たせないと言うならどっちも同じだ!!」

 その点については綾崎ハヤテも同罪では、と言おうとしてクラウスさんはやめました。
 ハヤテ君は既にクビが決定済み。それに余罪をどう足そうと代わりはありません。
 苦しげに唸るクラウスさんに、威嚇せんとばかりに唸るクラウスさん。
 自分がクビになれば、三千院家の長・帝さんは良くも悪くも放任状態。邪魔者がいなくなる。となれば、後でハヤテ君を雇い直すことも容易であるに違いありません。
 ここでクラウスさんは、お嬢さまに意見できる、三千院家において発言力を持つ存在を思い出しました。それはお嬢さまも同様で、二人は同時に意見を求めました、マリアさんに。
 急に質問が来たので戸惑うマリアさんでしたが、真っ先に思いついたのは、クラウスさんのキュアキュアプレイ。
 かつての自分の庭であんなことを演じさせられた屈辱がマリアさんの口を開かせました。
 
「まぁクビもいいかもしれませんね」
 
 喜ぶナギお嬢さま、愕然とするクラウスさん。事態が収まりかけたところで、扉が開きました。

「いえ……やはりこれは僕の責任です」

 三人が視線を向けると、そこに立っていたのは、話題の中心ハヤテ君。
 ハヤテ君は言いました。
 元々お嬢さまが自分の能力を省みずに仕掛けたギャンブルを、流されて受けたとはいえ、自分は勝負に負けた。お嬢さまは一位をとれなかった。それは自分の責任。クルーザーの一件はクラウスさんに責任があるが、マラソンの責任は自分の責任。責任を果たせない執事は、執事失格、無能、クビになって当然。そうである以上、自分は--と、そんな意味のことを口走り辞意を表明したハヤテ君を、どうした言葉のマジックか、クラウスさんが止めました。
 
「そこまで言うなら、一度だけチャンスをあげましょう……」

 最大限の譲歩でしたが、ナギお嬢さまとマリアさんの軽蔑の混じった視線がクラウスさんに突き刺さりました。
 とはいえ、声に出しての非難はありません。なので、ハヤテ君に最後のチャンスを告げました。


 


 執事とらのあな。
 そこでの試練を乗り越えることがハヤテ君に与えられたチャンスでした。
 とらのあなでの試練。ハヤテ君が思い浮かべたのは、あんな同人誌やこんな同人誌の販売。魔法少女やら、人形やら、二次元フリーなあれだとかの同人誌を売って売って売りさばく。それが執事業にどうつながるのか、ハヤテ君にはいまいち理解できませんでした。
 しかし、その試練を乗り越えたらお嬢さまの元に戻ってこられるのです。そう思えば、ハヤテ君に怖いものなどありません。
 そして、帰還を誓い、ハヤテ君は旅立ちました。


 遠く、小さくなっていくハヤテ君の背中を見ようとしているのか、ナギお嬢さまは窓際のソファーから動こうとしませんでした。

「ハヤテ君の事ですから、またすぐに戻ってきますよ」

 そう励ますマリアさんへの返事は、

「当然だ」

 強く、

「私のハヤテが……戻ってこないはずはない!!」

 そして、涙声の弱々しいものでした。
 寂しさに負けまいと信じようとするナギお嬢さまの健気さをマリアさんは、何よりも愛しいものとして抱きしめるのでした。



 それはそれとして、試練用の資金をもらい損ねたハヤテ君。
 交通費は間に合ったものの、手元の四〇円ですら何より重たいものに思えてきました。
 そういった感情はここ一ヶ月を抱いていないことを思い出して、ハヤテ君は今回の敗北要因を悟りました。
 お金への執着心。
 ハヤテ君は、今回の勝負が自分の執事の座やお嬢さまのプライドと同時に、優勝賞金が懸かっていたことを、もちろん知ってはいましたが、それに特別な意識を持とうとしませんでした。むしろ、賞金に大騒ぎする雪路さんを浅ましいとすら思っていたかもしれません。
 その結果が痛恨の敗北。考えてみれば、執事としての座も、立場だけではなく、それさえキープしていれば借金を背負いつつも、生きる心配はせずとも済んだのです。そして、今回の資金の貰い損ねも輪をかけて、ハヤテ君に自分の執着心が薄れていることを実感させました。
 お金……お金……お金……。
 そこまで考えて、ハヤテ君はため息を一つ。
 どうにも自分は、人にもましてお金から自由になれないようだ。
 稼ぎ、やりくりし、返し。増えたと知ればまた稼ぐ。
 両親との負の連鎖を抜けたのに、まだ自由になれない。
 せめて物理的にでもお金から自由になろうかと、掌の四〇円から視線をあげると、そこにいたのは、手にした文庫本を読む修道服の女性。
 太陽を浴びて静かにページをめくるその姿に、俗世から切り離された空気を感じていると、手から十円硬貨四枚が滑り落ちました。
 拾おうとハヤテ君が、屈もうとしたその瞬間、女性の表情が一変しました。
 物音がしたから振り向いたのだろう、と思うには、こちらを向く首振りがは獣のような速さで、その視線はあまりにも鋭いものでした。その瞳の色は、落下音だけで硬貨が十円硬貨だと見抜いていたであろう事を、ハヤテ君に確信させました。
 視線に射抜かれてハヤテ君が硬直していると、女性が口を開きました。

「ひとつお聞きしますがそこの落ちたお金、私が拾ったら私のものに――」
「なりません」

 答えると、女性はハヤテ君に興味を失ったのか、文庫本に視線を戻し、つぶやきました。

「なんだ……ケチ……」

 閉口しつつもハヤテ君は、安堵するのでした。












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