しっぽきり

 タイトル的には、ここで一区切り。あんまり縛る意味が無かったですが。

(以下ネタバレが含まれます)
 魘され見るのはいつもの夢。
 白い肌を濡らすのは流れる汗。

「うう……はっ……」

 体を起こす。
 金の髪が月光に流れる。
 開いた五本の指が微かに震える。

「またあの夢……。
 あの城の……。
 早く道を……城への道を開かなくては」

 吐息を乱すのは、鮮明で虚ろなかつての居城。 
 差し込む月光に、淡く照らされた過去の色を黒く塗りつぶし、少女の心が求める物は――

「やはり……そのためには、石を……」



 


「ふー今日は一日で色々あったな~」

 ハヤテ君は、そうミコノス一日目を振り返っていました。
 中でも印象的な出来事を指折り数えてみると四つ。
 まずミコノスについたと思えば、いきなり時間旅行。
 続いて、そこから戻ってきたかと思えば、地下迷宮大冒険。
 そして、三つ目が、

「まさかあんな場面に遭遇しちゃうなんて……なんて間が悪いんだ僕は……」

 歩さんの生まれたままの姿を目撃。
 しかも暗い迷宮の中で懐中電灯で濡れた肌を照らしてみるという、なかなかアレなシチュエーション。男として喜ぶべきか、紳士として恥ずべきかというシチュエーションなので、とりあえず執事のハヤテ君としては、恥じてみることにしてみました。

 陸に上がった後で、その目撃された歩さんは、外に出るためだった、同行者にそうしたほうがいいと進められた、潜るときに邪魔だった、着衣での水泳の訓練は友人も教えてくれなかった、下着までいったのは勢いだった、上がったときに男の人がいると思わなかった、まな板に普通の威力を見せ付けてやりたかった、などと七つの理由を挙げて、自分は特殊な性癖じゃなく、普通の性癖だと主張されたものの、それはそれで気まずいもの。

 「おーいハヤ太くーん!」

 秘密を約束したところに、間が悪く飛び込んできたのは、花火を取りに行く間にも六回ほどいじくられて上機嫌な泉さんでした。
 
「ハヤ太君たち今、お取り込み中?」

 裸を見た、見られたを秘密にするための口裏あわせをするところだったなんて、まさか言えない二人は、もちろん否定し、歩さんは、気が利くのか、逃げ方に気がついたと言うべきか、コーヒーでもとってくると、そそくさとその場を去っていきました。
 あわただしく去っていく歩さんに不思議そうな表情をしつつも、泉さんはハヤテ君を花火にとってくるから手伝ってと、誘いました。
 特別断る理由もないハヤテ君は、快諾し二人は夜の道を歩き始めました。

「そういえば、皆さんは迷わなかったんですか?」
「皆さんは?」
「あ、いや。ほ、ほら、夜の道って迷いやすいじゃないですか、一般的に」
「ああ、だからナギちゃんのメイドさん付いてきてくたんだ」
「取り越し苦労でしたか」
「うん、大丈夫だったよ。私達のホテルからだと、そんなに道順ややこしくないし」

 そんな感じにハヤテ君が歩さんとの会話から意識を逸らすのに成功し歩き出すと、遠くからナギお嬢さまたちの声が風に乗って聞こえました。
 
「それにしても、みんなで花火するのも楽しいですね」
「そうだね~、まさにバカンスって感じだね~」

 頷く泉さんは、本当に楽しそうで、

「けどこの旅行はホント楽しいよ。
 みんなといっぱいお話ができて」

 と、弾む声。

「瀬川さんはみなさんとどんな話をしたんですか?」

 流れでハヤテ君が尋ねると、今度は泉さんがうろたえだしました。
 普段は、元気に快活に喋る泉さんが口ごもっているということは、つまりは困っているということなのですが、情報の少ないハヤテ君からは、ケバブを食べていてヨーグルトソースで盛大に顔を汚したのかとか、そんなことぐらいしか浮かびません。

「あ……あのさハヤ太君!!」

 今度は、どこまで突っ込んで聞いていいのかハヤテ君が迷いはじめると、泉さんが逆に問い返してきました。

「ハヤ太君は……キスした事ある?」

 俯き、どこか切なそうにそんなことを言い出す泉さんの質問の脈絡無さにハヤテ君は、またうろたえました。なので、近隣住民に舌打ちされるぐらいに大声で否定。

「そんなの……!! あ!! あるわけないじゃないですか!!!」
「あ、そうなんだ……ハヤ太君、モテそうだからあるのかと思ってたよ~」

 否定はしてみたものの、ハヤテ君にはキスの記憶がありました。
 それでも、あれは幼稚園に通うぐらいに小さい頃だし、遊びみたいなもの。そう自分に言い聞かせるハヤテ君。
 
「私ね、すごくちっちゃい頃に一度だけあるんだ」

 ハヤテ君の言葉を信じ込んだのか、泉さんが今度は地bんのことを喋りだしました。

「私ね、すごくちっちゃい頃に一度だけあるんだ」

 高校二年生の泉さんが、すごくちっちゃい頃というのなら、自分と同じ頃の話かもしれないとハヤテ君は思いましたが、自分とはそのキスへの認識が違うことを感じていました。
 泉さんは、そのキスを真っ直ぐに受け止めていて、ハヤテ君はそのキスをキスとして取り合えない。
 
「名前も知らない子なんだけど……
 かっこよくて……
 やさしくて……
 一生懸命で……
 きっとその子の事、私は応援したかったんだと思う……」
「その人の事、手がかりになるようなもの全然、覚えてないんですか?」

 大切そうにその思い出のことを語る泉さんに、ハヤテ君が聞いてみると、泉さんの記憶はどうも曖昧なようでした。

「う~ん、そうね~。
 顔はなんとなく覚えてて……」

 そこまで言って泉さんは、ハヤテ君の顔をジッと見つめてきました。
 ハヤテ君が怪訝そうな顔をしていると、泉さんが苦笑しました。

「いやいや……まさか……ねぇ」

 そう、一人で頷き、花火を取りに駆け出す泉さんに、ハヤテ君は、特殊な性癖な持ち主は、思考も特殊なのかなと、自分を納得させ泉さんを追うことにしました。




「トランザム・ライザー!!!」
「それでも守りたい世界があるんだー!!」

 と、続けて、「ファンネルッ!」と叫びながらネズミ花火を放つというナギお嬢さまの花火芸三連発は、戻ってきたハヤテ君の「それはいったい……」という言葉にさえぎられました。
 息を切らせハイテンションに、ハヤテ君には意味が分かるけど、他の人には意味が分からない花火芸の解説をするナギお嬢さま。
 
「いやーナギちゃんの花火芸は最高だぞハヤ太君」
「ハヤ太君もなにかやってくれたまえよ」
 
 意味は分からなくても、二一人ほどの男が自分に片思いしているに違いないと、信じてやまない理沙さんと、生涯に一八度程立派なオデコを張られた経験のある美希さんは好評のようで、もう一人の参加者、十カ国を経由してギリシャ上陸を果たした伊澄さんもお嬢さまの相棒だけあって、かっこいいと褒め称えていました。
 そんなわけで、引きこもりのお嬢さまと基本無口な和服さんといじるの大好きな二人で構成されていたはずの、場の空気は意外と盛り上がっていました。
 
「まったく……お嬢さまもあんまり危険な遊び方はダメですよ」
「わかっているさ」

 いくら花火とはいえ、火を使うのですから、火傷などされてはハヤテ君もたまりません。なので、注意。お嬢さまも、自分でも少しはしゃぎすぎたと思っているのか、頷きました。
 
 
「けどこうやって……みんなと遊ぶのも楽しいな」
 
 遠く、追加の花火で遊び始めた美希さんたちの花火の光を見ながら、ナギお嬢さまが呟きました。

「こんなに楽しいなら……あいつらもつれてきてやればよかったな」

 その口調にハヤテ君は、咲夜嬢や、ワタル君、サキさん、クラウスさん、タマ、シラヌイ、そしてなんとなく千桜さんの顔を思い浮かべていました。






 一方、東京では、今日も今日とてクレーンゲームでフィギュアを九つゲットしてきた千桜さんが、ふと海外旅行中のクラスメイト達のことを考えていました。

「みんなで仲良く……海外旅行か……」

 ――あのチビっ子ほどではないけど……。
 その趣味のせいか、あるいはクールな振る舞いが災いしてか、千桜さんも、それほど人付き合いが上手い人ではありません。 
 なので、憧れこそすれ、みんなで旅行に行ったり遊んだりというのは、自分には縁遠い話かと諦めていました。
 千桜さんは、机の上に置きっぱなしだったケバブの包み紙をクシャクシャに丸めると、ゴミ箱に向かって放り投げました。包み紙は、ゴミ箱の縁に当たり、外れてしまい、千桜さんはため息をつくと、それを今度こそ放り込み、コーヒーとは名ばかりの甘い液体を飲み干し、電気を消してベッドに飛び込みました。
 予知能力の持ち主ではない千桜さんには、数ヵ月後の自分と小さな少女の姿なんて、夢にも見ようがありませんでした。




 そして、ラスベガス。
 メイド姿の女性は、母親から呼び出された自分の主を遠くから見るともなしに見ていました。
 そして、見ました。母親が子供に何かを手渡している所を。
 別れを済まし戻ってきた少年に、メイドさんが笑いかけました。

「けど、なんだかんだでラスベガス楽しかったですね」
「まぁそうだな。わざわざ金かけて来たかいがあったよ」

 明日に、日本への帰国を控えた、旅行の留守中に一四本のアニメをHDに溜め込んだワタル君と、美琴さんに勝利の勢いをかってスロットに挑み一五連敗したものの最後に一回当ててなんとかトントンに持ち込んだサキさんは、楽しかったラスベガス旅行を満喫したようでした。
 
「そういえばさっき、お母さまから何かいただいていたみたいですが、なんだったんですか?」
「ああ、これか?」

 そういうワタル君がポケットから取り出したのは、何か文字の模様が入った小さな石。

「さぁ? よくわかんね」

 会話の内容を聞いているうちに、自分の母親の真意を測りかねるワタル君の気持ちがサキさんにもわかりました。
 商才のない息子にあげる。
 道標。
 自分には無理だった。
 ワタル君なら、そこから続く道の先にあるものを手に入れられる。
 なくしたり奪われないよう、大切に。
 三人だけの秘密の石、絆の石。
 盛っていることは秘密。特に、三千院の人たちには。
 そして、いつか自分が日本に帰ったら、返して欲しい。
 どの言葉も抽象的で、その石が何なのか、ワタル君もサキさんも分かりませんでした。
 パワーストーン的な何かなのか、そう思いつつも、サキさんは、秘密と口止めされていたことを、ワタル君が自分に話してくれたことに驚いていました。

「いいんだよ。お前の事信じているから、秘密なんかなくて」

 照れ隠しに怒った声で、自分への信頼を語るワタル君に、微笑むサキさん。
 ですが、

「じゃあパソコンの隠しフォルダも……」

 見せてもらうほどの信用はないようでした。


 
 そして、戻ってミコノス島。
 執事として、今日最も印象的だった四つ目の出来事。
 友人と楽しく遊ぶまでを思い出し、満足感に浸っていたものの、しかし忙しい一日だったことには変わりなく、さすがのハヤテ君もお疲れ気味でした。なので、さすがのハヤテ君も、静かな足音が自分の二メートル後ろで止まったことには気付きませんでした。

「あらハヤテ君お一人ですか?」

 言葉に吊られて振り向くとそこにいたのは――。

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2009.04.19 15:28  | # [ 編集 ]

 たまに見えてないものまで見えてる気もしますが、これからもこんな感じでやっていきたいと思います。

 コメントありがとうございました。

2009.04.19 22:55 URL | 美尾 #9ayR5QDw [ 編集 ]













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