しっぽきり

一本目 クサッ☆
二本目 キラッ☆




『ここは危険です!!
 直ちに避難してください!!』

 避難を勧告する放送も、最早手遅れでした。
 防護服を着ていた男が、男に抱えられていた女が、苦しみだしました。
 目をえぐらんばかりに、体を激しく上下させ。
 つまりは目がものすごくかゆくなって、くしゃみがとまらなくなったのです。
 有り体に言えば花粉症でした。それも、ものすごい。


 そんな惨状の現場に向かうヘリの中で、皆本さんとその付き人三人は、局長たちから報告を受けていました。
 結論としては、合成能力によるESPテロでした。
 超能力でアレルゲンが強化されている。花粉がテレポートで侵入してくるから、どんな防護をしていても、三〇分ほどで花粉症を発症してしまうという仕様。
 続けて映し出されたのは、ティッシュと粘液まみれの「ザ・ハウンド」と「ワイルド・キャット」。
 しかし、ちっとも色っぽくありません。初音さんにいたっては人っぽくすらありません。
 都心への影響を心配し、風向きを確認する皆本さんでしたが、朧さんは風向きには影響されていないといいます。代わりに、皆本さんに確認させたのは、

『ザコをよこすのはやめてくれない

 私はね……ザ・チルドレンと遊びたいの!!
 待ってるから急いでね。
 もう一度あんな連中が来たら、首都全域を襲うわよ!?』

 というメッセージ。
 メッセージの内容、声の強さ、古フェイスの仮面に透ける視線が皆本さんたちを戦慄させました。  

「何者だ……!?」
「まったく不明よ」

 思わず出た皆本さんの疑問に反応したのは不二子さんでした。
 痕跡は全て消され正体は不明。超度7のサイコメトラーである紫穂さんにも見てもらう予定ですが、それも期待薄とのことです。

「今は現場の制圧を優先して」

 正体不明の敵を正体を突き止めるより、大規模災害になりかねない現場の制圧を指示する不二子さんに、皆本さんも同意。
 思案を巡らせる皆本さん。
 現場での活動が三〇分という時間制限つきなら、遠距離からの敵の発見・制圧がベスト。
 別のヘリで情報を収集していた、「がんばってくださいね、現場で」と後輩に送り出されたダブルフェイスによれば、花粉自体がESP波を出していて正確な状況の把握は不可能。目標ポイントは複数見えるものの、それすそれすら敵のトラップかもしれない。

「ひとつずつ洗ってみるしかないな……!」

 情報が限られている以上、一挙解決という方策はありません。相手の策に乗ることになりますが、それもやむを得ません。

「どーせ、あたしたちをご指名なんだろ!?」

 バベルのナンバーワンとしてご使命ならば断るわけにはいかないと薫さんは強気です。しかし、周囲を異物で包まれては能力に影響が出てしまうテレポーターの葵さんは、やや不安げ。

「でも……あの中では多分テレポートに影響が……!」
「脱出時にサポートしてくれればいいわ。残りのメンバーで突入しましょう!」

 紫穂さんの強攻策に皆本さんが頷きました。選べる道は他にはありません。
 しかし、まったく準備ができないわけでもありませんでした。

「ティム、バレット!」

 皆本さんの切り札は、ザ・チルドレンをそのコードネームのごとくフォローする影チルの二人。
 制限時間が迫ったら敵も目的であるチルドレンに迫ってくる。敵の策に乗っかる形での離脱はピンチですが、超度七のエスパー三人となれば易々と敵の手には落ちない。そうすれば、ピンチはチャンスに変わります。ティムさんの人形ならアレルギーとは無縁。バレットさんの狙撃なら、敵の位置さえ割り出せれば命中する。
 なぜか挙動不審なティムさんはともかく、瞬き一つせずに凛々しい視線を向けてくるバレットさんの姿に、彼等ならやってくれるだろうという確信していました。
 
「ま……まあ。はい」

 作戦の前で緊張しているだけ、影チルとしての任務もこなしているだろうし大丈夫だろう。
 言葉はともかく、バレットさんの表情は動いていません。やや歯切れの悪い返事は、皆本さんのバレットさんへの信頼を揺るがすほどのものではありませんでした。

「よし! 突入用意!」

 皆本さんの合図に、彼の策で安心したのか葵さんが威勢よく叫びました。

「念動コスチュームチェンジ!!」

 葵さんの能力で、三人の衣装が一瞬に、一斉に変わり、

「ザ・チルドレン――」

 三人のエスパーが解き放たれました。

「解禁!!」

 しかし、気合の雄叫びを上げる薫さんが、いえ三人全員の表情が変わりました。
 その原因は、一瞬で変わった衣装。
 アニメ風のウソくさいピチピチ防護服。徐々に女らしさを見せ始めた二人のボディラインが綺麗に出るコスチューム。
 皆本さんのやらしー趣味。嬌声やら、含みありげな視線やら、葵さんが抱いていた信頼やらが投げつけられる中、皆本さんは、嘘つきなら誰もがそうするように必死に否定しました。
 自分の趣味じゃない。
 ちゃんと開発中の宇宙服がある。
 皆本さんの真意は別として、何か一味足りないと感じたのか、葵さんにスカートを要求する薫さん。「もー」と渋々ながらも、制服のミニスカートをヒュパッと紫穂さんにはかせてみました。
 ですが、感想は

「ジャージの上からスカートはいてるよーな……」
「ないほうがフェティッシュでイイかもね。ライダースーツみたいな」

 頼んでもいないのはかされ、自分が責められてるわけではないとはいえ、イラッと来るのは仕方ないところですが、「深夜のファミレスみたいな無駄話すんな!!」と叱ってくれたことで解決。

「制限時間は三〇分!
 それを過ぎたら涙と鼻水と頭がボーッとする症状で、ヘタしたら毎年苦しむことになる!!」

 ゾッとしない未来を示唆する皆本さんの言葉に、気を引き締める薫さんと紫穂さん、そして彼をテレポートさせた葵さんは、バレットさんとティムさんにも準備をするように促しました。
 しかし、二人は動きません。
 
「どないしたん?」

 葵さんの質問に顔を青くするティム。しかしバレットさんは眉一つ動かしません。
 そして、対照的な二人の様子に疑念を募らせている葵さんの目の前で、バレットさんの表情、というよりは全身が変わりました。
 
「デッ、デコイ!?」

 驚愕する葵さんの目に映ったのは、ただの人形に。
 思わず、人形の襟首を掴み問い詰めると、ティムさんは渋々喋り始めました。

「俺たちこないだ、パンドラの連中に軽くあしらわれちゃったじゃん?
 んで、すっかり自信なくしてどっかに……」
「ア……アホかあああ――っ!!」

 うな垂れるティムさんですが、葵さんは叫ばずにはいられませんでした。
 
「すぐに連れてこな!! いそうな場所は!?」
「アキバのネカフェ?」
「難民になっとる場合とちゃうやろ!!」

 更に聞いても、メイトだの、穴だの、訳のわからないことばかり。
 
「みんなあんたらのことアテにしとるやで!? どないする気ィや!!」
「俺、とめたんだけど……あいつ、マジメだから……」

 本当にマジメなら失踪なんかせんでくれ、そう叫びたくなるものの、ティムさんにそれを言ったところで始まりません。堪えて開いたのは、後方に控える不二子さんと賢木先生への通信。
 幸い、賢木先生も不二子さんも話を聞いていてくれていたようで、事情の説明で任務前に、更に慌てることは避けられました。
 花粉で皆本さんたちとの通信が不可能である以上、テレポーターでもある不二子さんが自分が迎えに行くと言い出してくれました。

「アキバって行ってみたかったのよ~!! 昔は空襲で焼け野原だったんだけどさー。
 たしか今はコスプレしないと入れない経済特区なのよね? 時代の変化ってすごーい!」

 と、ボディラインがはっきりと出る拘束具を着て大喜び。

「訂正する。俺も行くわ。あの人、何か勘違いしてるから」
「勘違い? ん~、魔法少女っぽいコスのほうがよかった? ティム君が手縫いしてくれたのが――」
「前歯折んぞ? ていうかこの間のピザ代返せ。昼飯だったのに」
「ピザなんて食べてないもん」

 と二人があれやこれや言いつつも、バレットさん回収に向かった頃、皆本さんたちは最初のポイントに辿り着いていました。

「来てくれたのね、薫ちゃん紫穂ちゃん。葵ちゃんは待機?」

 迎えたのくぐもった声。
 急いで用意できたのがこんな能力だけと詫びる仮面を被った少女が自分たちを知っていることに戦慄する薫さんたち。

「何者だ!? なぜこんな――」
「あら。まだ名乗ってなかったわね、ごめんなさい。私は――」

 そして少女は嗤いました。

「ファントム・ドーター。
 黒い幽霊の娘……って言えばわかる?
 私の作ったお人形たちは元気?」

 皆本さんが瞠目し、
 紫穂さんが驚愕し、
 そして、薫さんが激怒しました。
 
「おまえが――!!」

 弾かれたように飛び出し、ドーターに拳を放つ薫さん。脳裏に浮かんだのは、自分たちをいつも守ってくれる少年たちの、虚無な過去。

「おまえがティムやバレットを――!!」

 捉えた!
 確信した薫さんでしたが、手応えは残りませんでした。

「ぶー。本物じゃないわ、ハズレよ。
 制限時間までに本物を見つけてね!」

 残ったのは霧散していく少女の影と、遊んでいるように楽しそうな声。

「ドキドキするでしょう? ゲームって大好き……!!」




 少年が吐き出した赤い液体を少女はふき取りました。

「だから、止めたほうがいいと――」
「うるさいっ!」

 やつれた顔で、掠れた声で少年が少女が差し出した優しさを振り払いました。
 そして、求めたのは、

「オムライスおかわり!」
「ご主人さま、これ以上は体に毒よ?」
「うるさい、おかわりだッ!!」

 少年は怒っていました。
 せっかくの水着回の作画がアレだったこと。
 せっかくオークションで発見した幻のチルチル一期テレカを、一瞬目を離したばかりに落札されたこと。
 せっかく来たメイド喫茶なのに、人気メイドさんのイチゴもザクロも指名できなかったこと。
 そして、せっかく与えられた使命を遂行できなかった自分の無力を。












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