しっぽきり

一本目 千円が野口、五千円が樋口……この符号から見れば、一万円札は藻口という澪理論。
二本目 逆チョコに乗っからなかった結果がこれだよ! 乗っかったら三月一四日まで生きてなかったかもしれないけど。

 
 昨日はちょっとイヤなこともあったけど、それでも学校に行けば友達が待っている。
 そんなわけで、登校する悠理さんの足取りはけして重いものではありませんでした。
 ――あっ、花井さん。

「おはよう、花井さ――」
「おはよー、悠理ちゃん」
「よう」

 挨拶をした悠理さんの顔が怪訝なものに変わりました。
 ちさとさんの隣にいた「よう」と返してきた少年が誰か分からなかったのです。
 しょぼくれた目、白い大きなマスク。
 見覚えがあるけど思い出せません。思い出せないけど見覚えがある。

「東野くん……?」 

 とりあえず、ちさとさんの隣にいる男の子だし、東野くんだろ、そんな山勘はあたり。
 花粉症がひどいからマスクをしていたらしいのです。
 外にいると花粉症がつらいのか、先に校舎へと向かう東野くん。
 彼を見送るちさとさんに、悠理さんはいつも気になっていたことを聞きました。
 ちさとさんの隣にいる男の子だから、東野くん。
 それぐらいに二人は一緒にいます。特に朝の登校風景。
 
「もしかして……つきあってる?」
 
 質問への回答は否定でした。
 ただし、慌てて、顔を真っ赤にした。
 
「……そう。よかった」

 笑ってそう言いながら、悠理さんは、自分の心に澱が溜まっていくことを感じていました。
 
「おはよー」
 
 そこに、元気のいい声が三つ。
 薫さん、葵さん、紫穂さんの声でした。
 
「おは……」

 挨拶を返そうとする悠理さん。ですが、三人は見慣れた、しかし違和感を感じさせる空気を漂わせていました。
 三人の体の一点を凝視する悠理さん。自然、口を押さえる形で手を上げていました。そして、その親指には包帯がまかれていました。

「あれ? 悠理ちゃん、その指どうしたの?」

 目ざとくそれを見つけ発せられた問いに、悠理さんは少し逡巡して、

「お料理しててケガしちゃって」

 ぶきっちょだから、と、そう答えました。
 そんなドジっ子エピソードに三人全員大喜び。ドジっ子属性に喜ぶのは薫ちゃんだけと不思議がるちさとさんに、三人である一人は慌てて「失礼ね!」と失礼なことを言ったりするのでした。




 そう遠くではなく、すぐ近くでもない未来。
 立ち上がる煙。渦巻く炎。崩れるビル。
 男、女を呼び止めるため叫ぶ。

皆本「動くな破壊の女王!! いや、薫ッ!!」

 女、女王ではなく自分を名前で呼ぶ数少ない人間の声に、せつなそうに振り向く。

薫 「ダメだよ、皆本。他の大勢のエスパーたちは戦いをやめないよ」
皆本「なら、みんなをとめてくれ!! エスパーだノーマルだってこんな戦いが何を生むんだ!!」

(BGM:Break+Your+Destiny  スローテンポに悲壮感を漂わせて)

 一小節流したところで、効果音・通信。

葵 「薫、どこや!? 敵が核兵器を使う気や! この街はもうあかん!! 早く……あっ……!」

 効果音・爆発。


 幕





 不二子さんから伴奏役を仰せつかった賢木先生に渡された台本は、とまあこんな感じでした。使用する人形は信頼のティム印。苦心したのはタイトなスカートの破けた部分だとか。不二子さんの念動力で人形劇とは思えない精密な演技でそれは演じられていました。
 それを見守るのはチルドレン。
 ちょっとした仕事があるとかで、遅れてくる皆本さんを待つ間に三人に渡されたのは、お菓子やらジュースやら。
 薫さんの手には、皆本さんが来る前までは咥えたり離したりでキュポンキュポン言わせながら楽しんでいたラムネの瓶。
 葵さんの手には、皆本さんが来る前まではバリバリほおばっていたおせんべい。
 紫穂さんの手には、皆本さんが来てから舌を絡ませ、口に入れたり抜いたりしているキャンディー。
 しかし、劇が始まると三人の意識はお菓子から、不二子さんの操る人形に集中していきました。
 エスパーとノーマルの戦争。
 自分が女王と呼ばれる理由。
 自分の死。
 自分の不在。
 演じられた未来はチルドレン達に大きな衝撃を与えました。
 
「……とまあこんなカンジ。予知はここまでよ」

 イメージはここでとぎれている、あとは誰にもわからない。
 そう言って、不二子さんは幕を閉じました。
 本当はもう少し、続きがあるのでしたが、それは最低の結末。
 だから、人形によって演じられるのはここまででした。

「大丈夫! もしこれが全部本当だとしても……きっとこのあとは――!」

 仲良くする。
 驚いたけど、核兵器は無事回収してきた。
 よーし、平和にしちゃうぞっ!

「って感じになると思うんだ!」

 と、薫さん。二人もそれに同意。
 紫穂さんが、自分なら予知の詳細を知ることができるかもと提案しますが、不二子さん曰く、解読キーは「イルカ言語」で人間には解除不可能。更に、皆本さんの見たイメージは皆本さんだけのもの。
 そして、不二子さんも伊号によってプロテクトをかけられていました。
 兵部少佐によって、いくつかの未来が閉じられた後に。
 血の海に沈む人間。
 割れた窓ガラス同様、用を果たさなくなった人間。
 鉄塔に突き刺さった人間。
 三人が見せられたのは、兵部少佐が殺害した、元・陸軍特務超能部隊関係者の死体でした。
 その凄惨さは、紫穂さんも息を飲むもので、終戦直前、裏切りにあった彼の復讐心が、そのまま凄惨さに直結していました。
 
「兵部も、彼の犠牲者も未来のことをもっと知っていたのかもしれない。でも今の私たちには知りようがないわ。
 その時が来るまではね」
「『その時』は来ません!! 僕とチルドレンがこれを知った以上は――どんな未来も変えられるはずです!!」

 叫び否定する皆本さんに、不二子さんが頷きました。そして、三人に振り返ります。

「中学生ならもう自分の未来に責任が持てるわね」
 
 秘密にされるよりいい。自分達の未来だから。
 絶対こんなことにはならない。「超度7」に不可能なんかないから。
 そう言い切る三人は、もう昔の泣いていた子供ではなく、自分の未来と向き合えるほどに成長したのだと皆本さんは悟りました。

「君たちなら必ずやってくれると……信じてるよ」

 皆本さんの信頼の言葉に笑うチルドレン。
 しかし、次の瞬間、表情が再び硬くなりました。

「で、他に隠してることは?」
「ないわ」

 口ごもる皆本さんの代わりに、不二子さんが助け舟を出してくれました。

「ほな、まあ許したるけど」
「もう秘密は作らないって約束してよ!!」
「……うん。や、約束する」

 子供たちはそれで納得したようでしたが、賢木先生は、たとえあったとしても、それを言うわけにはいかない皆本さんの苦労をしのぶのでした。
 が、子供たちも納得すると同時に、言質をとったと解釈していまいした。
 なので、

「ほな、まずはケータイチェック!」

 皆本さんが、どんな親しくてもそれはダメと止めようとしても、

「この世にはケータイを見る女と見てないフリをする女しかいないのよ!!」

 と、止める様子はありません。不二子さんも、プライベートにまでは助け舟を出してくれません。
 なんとか、携帯電話を取り戻した皆本さんでしたが、ケータイチェックに薫さんが混ざっていなかったことに気付きました。
 そして、次の瞬間、見えない力で、優しく抱かれていました。
 いままで一人で背負ってきた皆本さんを包み込んだのは、薫さんの念動力でした。
 
「あたしも許してあげる。未来のことは心配しないで」

 皆本さんとのこれまでとこれからを、薫さんは肯定しました。
 ですが、過去、そしてそれを映す現在の瞳のさびしさに、薫さんは兵部少佐が自分にとってどういう存在なのか、自分がどう思いたがっているのか、どうにも不安定で見極めることができませんでした。
 
「この話――局長にも隠しとくんすか?」
「時期がくるまではね。桐壺クンが知ったら卒倒しかねないもん」

 不二子さんの判断に、場にいる全員が納得しました。
 チルドレンを猫かわいがりする局長のこと。三人がノーマルと戦争を起こすなどと知ったら、その取り乱しようは尋常なものではないはずですし、そうなればバベルの運営にも支障が出てしまいます。

「あと、衛星落下の件もね」

 不二子さんの判断に、チルドレン三人が納得しました。
 あんな高そうなものの落下に自分たちが関わっていたとあっては、どう責任取らされるか分かったものじゃありませんし、そもそも事故だし、よくよく考えると別に何の関係もないんじゃないカナ?
 そんな感じで、あの一件を処理する女性陣を、皆本さんはひどいなあと思いつつ、戦闘機の弁償の請求はいまだにこないけど、チャラになったって話も聞かないしどうなってるんだろう? と疑問に思いましたが、口にしたら薮蛇な気もするので、とりあえず黙っておくのでした。
 突然、皆本さんの携帯電話が鳴りました。
 ディスプレイに映る文字は緊急着信。
 かけてきたのは局長。
 衛星の件がバレタのか、あるいは戦闘機の一件でも思い出しやがったのか。
 慌てて電話に出る皆本さんに、告げられたのは、緊急出動の要請でした。
 
「首都郊外で謎の霧が発生している! 未知のエスパーによる攻撃と思われる!!」

 そして、首都郊外。
 そこには、「ナイスマスクか? グレート仮面か? マーヴェラスフルフェイスか? 好きなのを選んでよ!」とぬかした開発者にヘッドバッドかますことで、顎までカバーする新型ヘルメットの耐久性を確信したミラージュさんが、謎の霧の中心に佇み、自分をほったらかしにしてパンドラにかまけていた罰として、チルドレンを遊びに誘うのでした。












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