しっぽきり

 むかしむかし。
 女の子にはとても好きな人がいました。
 お日さまみたいにポカポカと笑うその人のことが女の子は大好きでした。
 とある日、どこまでも深く青い海と、どこまでも遠く蒼い空が見える街で、その人は言いました。
 今日はかくれんぼをしましょう。
 女の子は、ちょっと残念でした。青と蒼の間、白い砂浜にたたずむその人があんまりに素敵だったからです。



 それでも、女の子はこう思うことにしました。
 あの人と一緒なら、どんなことだった楽しいにちがいない。それに、

 そうして、しばらくして。
 その人のお屋敷での時間は、女の子にとってすばらしいものでした。
 見つけてくれるかもしれない、見つけられるかもしれない。
 くらい中を探す、探される。
 どちらもとてもドキドキすることでした。
 そんな風に時間は過ぎていって、そろそろ隠れるところもなくなるんじゃないかと思えた頃。
 その人が、大きな声をあげました。
 つられて出ていくと、その人は何かを持っていました。
 笑って、さしだした手に乗っていたのは、とてもとても綺麗な、欲望の石でした。









「うわ~すご~い」

 感情を隠そうともしないストレートな台詞で大喜びの歩さんの横で、ナギお嬢さまは不機嫌とは言わないまでも、つまらなさそうでした。
 歩さんにとっては博物館なのかもしれませんが、お嬢さまにとっては古臭い調度品が押し込まれた物置同然。どうにも興味が持てませんし、興味がないので何があるのか知識もありません。
 それも、今に始まったことではなく、昔からこの宝物庫にお嬢さまの食指は伸びませんでした。

「ここ電気がつかないからさ、あんまり私は近寄らないのだ」

 そんな風に、宝物庫への来訪の少なさを説明するナギお嬢さまに、歩さんがこんなことを言いだしました。

「あー、暗いの怖いんだー」
「だ!! 誰が怖いなどと言った!! 誰が!!」

 そう、歩さんの一般人の考えなんてお嬢さまにとっては悪意に満ちた邪推でしかありません。ちょっと電気のつかない暗いところにいると、心臓が早まったり、足が震えたりするだけで、怖いわけではありません。
 歩さんも年上風を吹かせたいのか「一つくらい怖いものがあったほうが、女の子は可愛く見えるものだって」と笑って取り合いません。
 反論を考えるナギお嬢さまをよそに、前に使っていった人が置いていったであろう懐中電灯を発見した歩さんは、それを暗い部屋中にめぐらせていました。
 宝物庫のお宝を次々と照らし出していた光点がピタリと止まりました。
 そこに映し出されたのは、一際大きな箱。

「ところでこの中、ちょっと見てもいいかな?」

 暗いのが怖いならそこの扉を開けておけば明るい、と懐中電灯を消す歩さん。ここで引き下がっては三千院家の名折れ。そんな感じに呆れた態で脱出するという選択肢を潰されてしまったナギお嬢さまは、頷いて懐中電灯を受け取りました。
 ハ、ハムスターがバランスを崩したら困るからな。
 大体そこら辺の理由で、歴史への興味モードで古そうな箱を覗こうとする歩さんの服を掴むナギお嬢さま。
 そして、蓋を開けるとそこにはボタンと、ナギお嬢さまには見慣れた、脱力するような緩い感じの顔と押しちゃダメだぞというメッセージが書かれた紙。
 歩さんの「これはなにかな?」という質問に、もちろん入ったことのないお嬢さまは答えようがありません。
 なので、推理することにしました。
 押しちゃダメと書いてある、ということは、押しちゃダメだということです。
 そのことを、歩さんと何度も確認しあいました。
 そう簡単なことなのです。押したらダメなことが起こる。つまり「押さない」という選択肢を選んでいれば何も起こらない。小学生だってわかることです。コーラを飲めばゲップが出るように、幼馴染キャラがいれば片思いされるぐらいに、チャット中に寝転がれば眠くなると同じぐらいに当たり前の事。
 それでも、何度も何度も、押さないという選択肢を選び続けている内に、ミスチョイスが起こりました。
 そして、ミスチョイスの代償は、

 ガッコン

 箱の底が開く落とし穴という斬新なものでした。 

「だから押すなって言ったのに――!!」
  
 悲鳴を残して、二人の体は下へ、下へと落ちていきます。
 ナギお嬢さまを支配していたのは、「冷たい」「暗い」「速い」の三つの言葉。
 流され、転がり、そして二人は闇の底に辿り着きました。
 ナギお嬢さまが暗闇の中で知覚できたのは、自分達がウォータースライダーの要領で流されてきたこと、そして足元には水がたまっていること、水が落ちる音が反響するぐらいに今いる場所は広いこと、そして、

「わっぷ!! わっぷ!! おぼえる――!! おぼれる――!!」

 一緒に落ちてきた歩さんが混乱していることでした。
 一人ならナギお嬢さまも慌てたかもしれませんが、目の前にこれだけ大慌ての人間がいるとなれば、不思議と冷静になれるもので、ずぶ濡れの歩さんに、水的な意味と年上の威厳的な意味で底の浅さを指摘することができました。
 
「ま!! て事で何が起こったとしてもこのようにあわてちゃダメだよ、ナギちゃん。あわてたら何が起こるかわからないからね」

 年上の威厳を取り戻したいのか、懐中電灯を取り上げ、そんな風にのたまう歩さん。
 薄々とは知っていましたが、改めて思うしぶといと思うナギお嬢さま。
 落ちはしたけど、落とし穴がウォータースライダー状になっていたことで、濡れはしたものの怪我はせずにすんでいた幸運を喜ぶ歩さん。
 どうせ落ちるなら、一緒に落ちたのが歩さんじゃなくハヤテ君で、着地に失敗して足をくじいた自分を彼が背負ってくれるというシチュエーションを逃した不運を嘆くナギお嬢さま。
 ですが、水の勢いから上ることは不可能という判断は一致していました。
 ここにいてもしょうがないので、歩き出す二人。

「でもここなんなの? 洞窟っていうより遺跡みたいなんだけど……」
「だから私は知らないんだって」

 恐怖よりも興味が上回るのか、現在地のことを聞いてくる歩さんに、ナギお嬢さまは先ほどの説明を繰り返しました。

「あぁそうか。暗いの苦手って言ってたもんね!!」
「だから暗いのなんか全然、怖くないのだ!!」

 反応も反論も同じ。
 そのとき、どうした加減か、懐中電灯の明かりが消えました。
 突然の暗闇、それでも何かを見ようとしてなのか、瞳を見開くナギお嬢さま。そして、何も見えないと悟ると、歩さんの存在を、自分が一人ではないことを確かめようと、抱きついていました。
 そして、明かりが戻るとナギお嬢さまは抗議しました。
 
「なんだよ~急に暗くしたら私がビックリしちゃうだろー……」
「ごめんごめん。けどわざとじゃなくて間違ったんだよ」

 そして、歩さんはナギお嬢さまの頭を軽く撫でると手を引いて、廊下を辿って再び出口を探そうと促し、ナギお嬢さまは、引かれるままに、付いていくのでした。
 しかし、迷路のように入り組んだ構造となっていて、容易に出口は見つかりません。
 伝説が数多存在するギリシャ。島そのものが遺跡のようになっていて、ここもその一つかもしれないと語るナギお嬢さまに、歩さんは昼間聞いた知識を披露しました。

「そういえば、ミノタウロスを閉じ込めたクノッソスの迷宮があったというクレタ島もこの辺だったね」

 閉じ込められていたとなれば、怨念でも残っていそうなもので、そんなものが残っているとなると、

「え? て事は、ここ……」

 出るのと、口の中で呟いたナギお嬢さまとまったく同じ表情で歩さんが、「やめてくれないかな」とぼやきました。
 
「お前があんなことを言い出したのが悪い」
「ナギちゃんが変な風に想像を膨らませるのが悪い」

 そんな風に責任を押し付けあいながらも仲良く進んでいくと、少しだけ前を歩いていた歩さんの足が止まりました。
 不思議に思い、ナギお嬢さまが懐中電灯の光が映すものを見ると、そこは壁でした。
 壁の下には、今までとは比べ物にならないぐらいの深さの水。呼吸をすれば潮の匂いがします。

「海か?」

 懐中電灯を逸らし、目を鳴らすと水面にうっすらと明かりが見えました。
 懐中電灯以外の明かりに勇気付けられたのか、歩さんが明るい声で言いました。
 
「潜れば外に出られるんじゃないかな?」

 お嬢さまは即座に危険だからと否定しました。
 そして、少し恥ずかしそうにこう付け加えました。

「それに私はその……泳ぎがほんのちょっとだけ苦手というか……」

 本当のところを言うと苦手というよりは金槌レベルの泳げなさでしたが、この場では潜水は無理だという意味では同じこと。
 もじつくお嬢さまを眺めていた歩さんが笑って、自分が先に潜り助けを呼んでくることを提案しました。

「そんな……お前一人だけ危ない事……」

 止めようとするナギお嬢さまですが、歩さんは止める気はないようで、水泳馬鹿の友人に泳ぎの基本を教えてもらっていると主張して引きません。
 
「まぁ暗い所に一人残していくけど、そのライト残しておくから、それで……」

 言い残して潜ろうとした歩さんに、お嬢さまは懐中電灯を差し出しました。

「暗い水の中は危ない。それ、耐水仕様のライトみたいだから……持っていけ」
「え? でも暗い所……」
「いいって」

 返そうとする歩さんから目を逸らして、お嬢さまは言いました。

「ギリシャ、案内するって約束したろ?
 案内するまえに何かあったら……その方が困る……」
 
 そして、その「何か」はお嬢さまにとって暗闇なんかよりもずっと怖いことでした。
 俯くお嬢さまに歩さんは笑いかけ、そして懐中電灯とお嬢さまの勇気を受け取りました。

「じゃあありがたく借りていくね。大丈夫、すぐ戻るから」

 そして、

「服着たまま水に入るのは危ないから、脱いでいった方がいいぞ」

 服は水中では水を吸って大きな抵抗になるというお嬢さまの的確なアドバイスも受け取りました。





 悲鳴聞こえなかった? いや、マジで。
 ↓
 トイレにはいない。
 ↓
 建物左右対称だし、方向間違えたんじゃね?
 ↓
 重たそうな扉開けっ放しになってるし、ここ入ったんだって絶対。
 ↓
 電気ないし、暗いの苦手だから開けっ放しにしてたんだな
 ↓
 何か箱にボタンあんスけど?
 ↓
 これ押すと底抜けたりすんじゃね? 水の流れる音するし、下空洞になってそこに繋がってんぞ、たぶん。
 ↓
 防水マグライトとトランシーバー用意!
 ↓
 さすが白皇生徒会長クオリティ ←今ココ
 



 そんなわけで、野郎が一人と、脱いだアルチチ一人と、ナイチチ二人が地下迷宮に降り立ち、そして四人が何かに近づいていくのでした。












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