しっぽきり

一本目 このドッグフードは出来損ないだ! おかわり。
二本目 数十年溜めて溜めてようやく使ったら乱入でご破算というオチ。


 自分の攻撃を受けて膝をつく兵部少佐の背中に、薫さんは問いました。ただし、純粋な質問ではなく、認めたくない事実の確認として。

「本気で……ばーちゃんを殺す気だったんでしょう?」

 自分の大切な人が大切な人を殺そうとした。
 ほんの少し前、自分が割って入るまで繰り広げられていた光景は、薫さんにとって重たいものでした。
 怒りと悲しみ、そのどちらの感情も等量に込められた視線から逃げるように、兵部少佐の姿が消えました。

「に……逃がしちゃダメ、薫ちゃん!!」

 精神的なショックからまだ立ち直れないのか息を乱しながらも、不二子さんが叫びます。

「今、拘束しないとあいつはまた――お願い……!!」

 悲痛ともいえる不二子さんのお願いに、弾かれるように飛び出す薫さん。
 不二子さんの希望を叶えるため、そして自分自身の感情に突き動かされ、全速で標的を追う薫さん。
 そして、すぐに射程圏内に捕らえました。自分の攻撃のダメージか、それとも疲労か、兵部少佐の動きに、いつものような機敏さがありません。
 しかし、そんなことは薫さんにはどうでもいいこと。

「やれやれ……逃がしてくれないのなら、ちょっと痛い目にあってもらうしかないね」

 足を止め、応戦の構えを見せる兵部少佐。ですが、それも薫さんには関係ありません。

「京介の……バカ!! 戻ってきてくれて嬉しかったのに……!!」

 ただ薫さんに必要なのは、滲んだ視界の中に映る自分を裏切った男に、力を叩きつけること。
 そして奮われる力に、

「……ずるいよ、女王」

 兵部少佐はなんの抵抗もしませんでした。
 してくれませんでした。





 腰を軽快に振りまくるマッスルさんに、賢木先生は硬いのをブチ込みました。
 こわれた衛生の宇宙合金製鉄パイプを脳天に。
 そんなわけでマッスルさんが戦線離脱。追い込まれた葉さん。震動波を賢木先生に放ちますが、命中する遙か前に賢木先生の姿が消え、震動波はむなしく地面を抉るだけ。
 
「いてまえ、センセ!!」

 それを可能にしたのがテレポーターの葵さん。賢木先生を遠ざけたかと思えば、今度は「いてまえ」という台詞通りに、至近距離に賢木先生を飛ばしてきます。

「呼吸を乱してやりゃあ、てめえなんざただのチャラいガキだ!!」

 賢木先生の一撃を回避するのに精一杯な葉さんとしては、その一言に怒っている余裕などありません。
 自由自在に、自分の間合いに出入りされる上に、能力の特性まで知られている。
 ――こんなことなら、少佐の言うとおりネタリアで修行をしておけばよかった。
 そんな後悔しても状況は、もちろん好転しません。


 
 一方、パティさんも苦戦を強いられていました。というか引いていました。

「くすくすくすくす……この火を飛び越えて来い」

 紫穂さんは復讐に燃えていました。なので、燃やしていました、熱帯雨鈴を。
 使用したのは、いつのまにチョロまかしたのか、賢木先生が誕生日に女性からプレゼントされたらしいライター。そんな入手経路も怒りを煽ったのか、二刀流で貴重な熱帯雨林を炎の盾かつ圧力にして、炎と煙の中に見え隠れする紫穂さんは、小悪魔ではなく悪魔、女帝というより魔王。それでも足りなかったら、冥王でもいいよ。
 そんなわけでパティさんが燻されたり、葉さんが白刃取りを披露したりしているところに、薫さんが降りてきました。

「京介!? しっかりして!? 京介!?」

 グッタリと力を無くした兵部少佐を抱えて。

「どうしよう、あたしーー京介を殺しちゃった……!!」

 薫さんの言葉に、そしてなにより兵部少佐の様子に、掴んでいたパイプを押し返し、駆けていく葉さん。その突然の行動に、賢木先生には追いかける余裕も、考えすらもありません。

「ジジイ!! おい、ジジイ!?」

 肩を掴み揺らす葉さんですが、超度七のエスパーの攻撃を交わそうとしなかった。
 怒りや恐れがない交ぜになった心で頼るのは、

「先生!!! 先生ーーっ!!」

 カニ頭のヤブ医者だったはずのニイさん。
 扱いの上下にあきれつつも、目の前の患者は割と見捨てないタイプの賢木先生は診察を開始しました。
 診察結果は、大丈夫の一言。
 天性の才覚なのか、無意識でもサイコキネシスを働かせて生命機能を維持してるんだとか。
 そんなわけで安堵の一同ですが、賢木先生が次にはなった「放っておいても平気だよ」の一言には、葉さん黙っていられません。

「手当てぐらいしろよ!?」

 抗議する葉さんですが、いくらお医者の賢木先生とはいえ、機材も何もないところではロクな治療もできません。
 そんなわけで、今現在この密林でできることは、人工呼吸ぐらい。
 人工呼吸ということは、とどのつまり、キス。
 怒ったり軽く引いたりとネガティブな反応の一同ですが、一人だけはテンションが違います。
 鍛え上げられた妄想を包むのは、深い黒のドレス。
 あまりの定番のシチュエーションに、引くか萌えるか自分達に与えられた選択肢が二つしかないなら、当然後者を選ぶパティさんの鼻息は荒くなる一方。
 もちろん、望むのは自分がやることではなく、

「ざっけんなー!! 少佐の体は……」
「このまま連行した方が楽だし、コイツとキスなんかまっぴらだ!」
「てめえそれでも医者かあぁ?」
「医者として大丈夫だつってんだよ!
 どーしてもつーなら自分でやれ!」

 二人のどちらかがやること。
 賢木先生の線はなさそうですが、元々少佐とは縁の薄い人。ヤブ医者という言葉責めこそありますが、そこはそれ。幼い頃から育られて来たらしい葉さんほどの絡みの深さはありません。
 ならば、ここでのベストチョイスは葉さん。なので、賢木先生の辞退は願ったり叶ったり。
 そんなわけで、みなぎってきたパティさん。
 スケッチブックに、生私を叩きつけようとしていると、なんと葉さんがせっかくの人工呼吸を押し付けようとしてきます。
 
「どうぞおかまいなく。私は見ていたいので」

 こんな貴重な機会、滅多にありませんし、第一人工呼吸の方法なんて知ったことではありません。そんなわけで、当然お断りのパティさん。
 誰か助けてくださいっ――!!
 そんなわけで密林ど真ん中に響く葉さんの叫び。
 それはそれで美しいシーンかもわかりませんが、別にしなくとも大丈夫とあっては何か違います。
 ですが、少佐の命の危機はともかく、叫びに込められた葉さんの思いは本物でした。
 葉さんにとっての兵部少佐。

「ダチで……家族で――そんで……」

 そこで口ごもる葉さんに、薫さんが言いました。

「わかった。あたしがやる」

 意を決した薫さんの宣言に、ほんの少し前まで散々に言っていたのはどこへやら、「女王!?」と喜ぶ葉さん。ですが、葵さんと紫穂さんは怒りました。
 ファーストキスが不二子さん、次が兵部少佐。親友の二回のキスが平均八〇オーバーとあっては、見過ごすわけにはいきません。
 ですが、薫さんとしては、兵部少佐を慕う葉さんを見過ごすわけにはいきません。
 そんな薫さんをまたまた見過ごせない男性が一人。

「だめだ、薫」

 そう言って薫さんの肩を掴んだのは、皆本さん。
 
「その男に触るんじゃない」

 騒ぎを追って、一部始終を聞いた皆本さんは、薫さんがエスパーを守ろうとする本能があること、そしてそれは敵も味方も関係ないことを知っていました。
 だからこそ、自分は必要なときにそばにいてやらなければならない、どんなに汚れても未来を守らなければならない。
 そして、今がその時でした。

「君に代わって僕が汚れてやるから!!」

 そんなわけで血の涙を流しながら皆本さんは兵部少佐への人工呼吸を敢行しようとしますが、勿論、これも葵さんと紫穂さん的にはNG。
 お見合いの時以来のメインカップリングでのお約束シチュエーションに、パティさんの野生が疼きます。
 ですが、決定的な瞬間は訪れませんでした。
 唇と唇が触れ合う前、皆本さんが顔を持ち上げた瞬間、兵部少佐の目が開きました。

「え?」

 人工呼吸しようとしていた相手が目を覚ましたことに驚く皆本さん。
 しかし、衝撃はそれだけでは、そして皆本さんだけに与えられるものではありませんでした。
 バベル一同を吹き飛ばす、兵部少佐の電撃。
 薫さん達の体の自由を奪ったことを確認すると、兵部少佐は自分の仲間達に逃走を指示。
 そして、手を出せない皆本さんを最後に小バカにしながら、兵部少佐達は去っていきました。


 皆本さんが、チルドレン達を兵部少佐だけには渡さないと誓っていた頃。
 賢木先生と紫穂さんが、そんな親友達に呆れていた頃。
 葉さんが、兵部少佐の気絶は作戦ではなく本気だったと聞かされ肝を冷やしていた頃。
 そして、兵部少佐が自分に触れた皆本さんの手に、子供の頃の温かさを思い出していた頃。
 
「ムカつくわ。パンドラのやつら……!!」

 朧な月光に照らされた岩に、赤く黒い水が一滴こぼれました。

「ザ・チルドレンは私のものなのよ。
 二度と遊べないようにしてやる……!!」

 幽鬼のような表情で少女が一人、血が伝う指の痛みですら忘れるに足りない嫉妬の炎を滾らせていました。












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