しっぽきり

 俺、この記事が投稿し終わったらSS書くんだ……。
「じゃあね、不二子さん」

 そう言い残して、少年めいた老人は、やはり少年めいた颯爽さで、去っていきました。
 置きみやげに軌道から外れた人工衛星を残して。

「きょ、京介!?」
「え……何!? どーゆう事!?」

 突然の兵部少佐の行動、そして墜ちていく人工衛星に戸惑う薫さん、葵さん。
 
「あんのヤロー!! 裏切ったのよ!!」

 兵部少佐が描いた絵はこうでした。
 不二子さんたちは人工衛星を見逃せない。いくら葵さんが超度七のテレポーターとはいえ、これだけの大質量となれば処理には時間がかかる。酸素を確保するために薫さんもその能力を思うままに振るえない。そして、落下していく衛星を処理しようとすれば、現場からは遠く離れてしまう。そうして生まれた時間で、自分たちは現場を押さえ、後は自由に処理すればいい。
 兵部少佐の真意を知り、理性だけでなく、目前での行動によって感情にも彼がやはり敵であることを突きつけられ、呆然とする薫さん。ですが、時間も重力も衛生も薫さんを待ってはくれません。
 兵部少佐の裏切りに舌打ちしながらも、不二子さんは冷静でした。

「いったん離れましょう!」

 大気圏で燃え落ちて質量を軽くさせた上で呼吸可能な高度で再捕獲、そして、その後は、

「大丈夫、不二子に考えがあるわ!」





「……予知なんか知ったことじゃないわ」

 紫穂さんは、自分たちが「女王」「女神」「女帝」と言われる未来をそう吐き捨てました。
 どんな予知でも覆せる超度七のエスパーである自分たちの未来が、そんな未来に定まっていくはずはない、と怒りを露わにする紫穂さんに、中身はともかくとして表面上の結果は同じことを望んでいる葉さんが同意しました。
 
「焼けたぜ、食うか?」

 賢木先生が不機嫌な紫穂さんに突き出したのは、イモリかトカゲかとにかくどこまで行っても女の子受けしなさそうな丸焼き。当然、紫穂さんは女の子としてスルー。新たなカップリングの可能性を模索し、葉さん・賢木先生の表情がよく見える位置に座っていたパティさんもこれまたスルー。こうしてイモリだかヤモリだかトカゲラスだか分からない丸焼きは、賢木先生と葉さんだけが食べることになりました。

「しかし--」

 トカゲロンっぽい丸焼きを咀嚼しながら賢木先生がぼやきました。

「予知や未来ってのはあやふやで不確かなもんだろう。本人がそれをきかされて、それでも変わらない未来なんてあるのか?」

 少なくとも少佐はそう思っている、と葉さんは言います。そして、リーダーである少佐がそう言えば、パンドラ全体もそれを前提として動かざるを得ない。それが、葉さんには不満でした。

「観察者効果ってのを知らねーのか」
 
 訝しげな表情の紫穂さんに、対象の観察それ自体が結果に影響を与えることだと要約して伝えました。
 
「だから一〇〇%の予知は理論的にはない。たしかに変更が難しい予知もあるがーーそれはエネルギーの不足や変更ポイントが見つからないことが原因だ」

 一〇〇%の予知。
 その言葉を聞いた瞬間、紫穂さんの脳裏によぎったのは、今よりまだずっと小さかったころ、出会ったイルカの予知能力者、伊号でした。
 彼の予知は防げないのだ。
 すべての予知が実現してしまっている。
 
 運命ニ対シテ万全ナドアリエンヨ

 そう諦観の言葉を口にする彼が最後に姿を見せた夜。
 予知を覆そうと皆本さんが無茶をしたことに泣きじゃくる三人に、皆本さんはいつもより優しくこう言ってくれました。

『もう泣くな。これからも僕がついてる』

 そして、紫穂さんは知りました。
 あれから、ずっと、皆本さんは一人で、予知を抱えていたのだと。自分たちに何も言わず、ずっと。

 バカ……!

 立ち上がり、触った皆本さんの腕はまだ金属と化していて冷たいままでしたが、紫穂さんにはそれが何よりも温かいものに感じられました。
 少しの間、そうしていると、皆本さんの、そしてマッスルさんの体が、小さく鳴動しはじめました。

「金属化が解けてく……!! マッスルが復活するわ」

 時間切れか!
 マッスルさんの元に戻っていく様子に、自分たちの能力も回復したことを悟った葉さんが叫べば、

「今だ!! やっちまえパティ!!」
「いわゆるひとつの攻めですね!?」

 パティさんが飛び出します。
 紫穂さんを強襲するパティさんを制圧しようと拳銃を閃かせる賢木先生ですが、それを見逃す葉さんではありませんでした。

「させっかよ!!」

 洞窟内に木霊する阻止の言葉と共に放たれた震動波が、賢木先生の拳銃を破壊し、葉さんの援護を受けたパティさんが、粒子に変えた己の体で紫穂さんを絡めとりました。
 賢木先生の拳銃は破壊され、自分も効果的な反撃に出られる状態ではない。そして敵は容赦などしないだろう。
 この状態から待っているのは死以外の何者でもない、そう判断した紫穂さんは、この状況をリセットすることにしました。
 辛うじて取り出せたスタンガンをパティさんに浴びせる。
 この状況を作り出した行為をもう一度。
 実体化できるのか、実体化できたとして生存可能なところに出られるのか。
 --分の悪い賭だけど、確定した死を選ぶぐらいならば。
 しかし、二度同じ手は通じませんでした。 
「そうはいくかよ!! いったん下がれパティ!!」
 
 パティさんは一瞬にして紫穂さんの拘束を解きました。しかし、手に入れた自由に与えられた時間はごく一瞬。
 襲いかかる震動波。
 紫穂さんが、そして賢木先生が覚悟したその時でした。
 鈍い、肉と血が飛び散る音ではなく、何かが衝突したような甲高い音が響いたのは。
 紫穂さんを救い、賢木先生の目を見開かせたのは、少年めいた老人でした。
 助かったのか、あるいは新たな危機なのか。判断に迷いつつも、紫穂さんを救おうと飛び出そうとする賢木先生。
 しかし、体は動いてれませんでした。
 突然現れたサングラスをかけた長髪の女性がささやきます。

「空間固定よ。ムダな抵抗はやめなさい」

 そして、動きを封じられたのは賢木先生だけではありませんでした。

「葉、どういうことだこれは?」

 その長髪で葉さんの四肢を押さえた背広の男が言います。

「少佐の許可なく、ヤツらを傷つけていいと思ってるのか」

 口答えしようとする葉さんでしたが、いつもの飄々とした態度を欠片も見せずに自分を睨む兵部少佐の眼光に、大人しくならざるを得ませんでした。
 銀髪の男に、あくまで忠誠を見せる男と、そして銀髪の男を慕うが故にその意に反した行動をとる男。

 --なにこの神設定!

 溢れ出る感情に、思わず吹き出さざるを得ないパティさんでしたが、こちらも兵部少佐が睨んで黙らせました。
 とりあえずマッスル先輩を見て感情を沈め大人しくしようとするパティさんを置いて、兵部少佐は紫穂さんに謝ります。

「すまなかった。ケガはないかい、エンプレス」
「兵部京介……!!」

 しかし、紫穂さんは差し出された手を振り払いました。
 紫穂さんの剣幕に苦笑しつつ、少佐は探索の発端となったスタンガンを破壊しました。

「う……きさ……ま」

 意識を取り戻した皆本さんのうめき声に、不愉快さを隠そうともせず、そして何もできない彼を嘲笑するかのように兵部少佐は言いました。

「さっさと退散しよう。ここにもうるさい奴が……今日はもうバベルの連中はたくさんだ」

 その言葉が、紫穂さんの怒りに火をつけました。

「なんのつもり!? なんなのよ、あなたは!?
 いつもそうやって、私たちの周りをウロついてニヤニヤしてる!」

 直接行動には出ようとせず、かき回しては何でも知っているような顔で笑う、そんな老人に少女は怒りを、ひたすら怒りを叩きつけました。

「バカにするのもいいかげんにしてよ!! ここでケリをつけたらどう?
 私も葵ちゃんも、薫ちゃんも、バベルや皆本さんを裏切ったりしないわ!!
 誰もクイーンになんかならない!!」

 少女は、定められた未来を否定しました。
 老人は、定められた未来を肯定しました。 
「その時がくれば君にもわかるさ。
 変わりたくないと思っていても、変わってしまうこともあるんだ……僕のようにね」

 そう語る老人の頭の傷跡、そして流れ出した血で曇ったままの瞳が、少女を、そして周囲を沈黙させました。



『何デ僕ダケ』

 そう思念を飛ばしてみても、返事はおろか受け取ってくれる人はいませんでした。
 地球に降下し、さて現場に踏み込もうと気力十分の桃太郎に命じられたのは、外の見張りでした。

「見張りだって大事な仕事だ。それとも、“二号”でも読んでみたらどうだい?」

 そんな風に、むずがる桃太郎のおデコのネジを弾きました。
 アンナ小サイコト覚エテルナンテ。
 イヤな人間だ。つくづく桃太郎は思いました。
 いつか思い知らせてやろう。そんなことを考えながら、夜空を見上げると、光る何かが降ってきます。
 流れ星かと思い、早口に兵部少佐に仕返しできますようにと三度続けようとしたそのときでした。
 流れ星か曲がったのです。
 流れ星はまっすぐに落ちるものと思いこんでいた桃太郎は驚きました。
 そんな桃太郎をもっと驚かせる現象が起こりました。
 流れ星が上昇したのです。
 重力に逆らう流れ星なんて、桃太郎は聞いたことがありません。
 ですが、その流れ星は、更にあり得ない動きを見せました。だんだんとその光を大きくしてくるのです。
 チガウ!
 大きくなっているのではない、近づいてきているのだ。
 そう理解した桃太郎は、同時に流れ星の正体にも気づきました。
 そして恐怖しました。
 次第に大きくなっていくように見える光が、怒りのように思えたのです。
 急いで、洞窟内に飛び込み、桃太郎は力一杯叫びました。

『京介ーっ! 大変だー!!』

 洞窟内の人間たちは深刻な表情をしていましたが、流れ星が、いや、不二子さんたちが操る人工衛星が間近に迫った今となっては、そんなこと気にしていられません。
 肩にしがみつき訴える桃太郎に、兵部少佐をはじめとして全員が、命の危険に気づきました。

「みんな伏せて!」

 手をかざし紅葉さんが叫びました。
 そして、自分の能力を精一杯、衛星にぶつけました。
 鈍く、大きな音をたてて、衛星が弾け飛び、また反動で紅葉さんも吹っ飛びました。

「みんな無事か--!!」

 炭素の髪を広げて盾にし、破片から皆をかばう真木さん。しかし、小さな破片に気を取られるばかりに、もっと大きな危険に気づくことができませんでした。

「……ちょっとアイサツしておくか」

 鬼のような姫は、指を鋭く動かしました。その動きに併せて真木さんが壁に叩きつけられました。

「戦闘力……やなくて、レベルたったの六。ゴミやな」

 女神が笑っていない笑顔でそう吐き捨てました。

「あたしたちおだやかな心ですっげー怒ってるよ?」

 不穏な言葉と殺意を女王が放ちました。

「なんだかワクワクしてきちゃったー」

 女帝以外のその場にいる全員がハラハラするような口調で姫が締めました。

「やべ……すごい気だ」

 兵部少佐の顔からサッと血の気が引けば、桃太郎は気が消えた真木さんに、自分のごくごく近い未来を重ねて、震えるのでした。












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://bbkiriblog.blog70.fc2.com/tb.php/876-5e3b099f