しっぽきり

一本目 おーばーざふゅーちゃーわー。
二本目 一五、六歳の時に夜明けのベッドで食べさせてもらったブラウニーはもっとこー。

 
 賢木先生・皆本さん・紫穂さんはパンドラの拠点の一つを発見したものの、悪口とか言い合っているうちになんだかんだあって、日本じゃないっぽいところにテレポートしちゃって、とりあえず目を覚ましていた賢木先生と葉さんは、束の間の休戦協定を結んでいました。
 そんなわけでトランプにも飽きた賢木先生は、自分の能力がどれだけ戻っているのか、洞窟内に描かれていた絵を調べることで試していました。
 しかし、時間が経過すれば能力が戻るのは葉さんも同じこと。
 攻撃可能になるのはあと少し。口を出すかもしれないマッスル先輩・パティさんも見ていない。
 つまりは誰にも知られず、皆本さん・紫穂さんを消して、未来を自分たちだけの物にするチャンスです。
 が、そんな葉さんの考えなんて賢木先生は読まずとも察していました。

「俺の仲間に手ェ出したらてめえは殺す。殺してくれと頼むような目に遭わせてからな」

 サイコメトラーであり、そしてなにより医者である賢木先生は、人体について知識のうえでも経験のうえでも知り尽くしていました。
 ゾッとするような視線で自分の体を診察する賢木先生に身を震わせる葉さんでしたが、

「それがすんだら、てめえのボスの変態野郎も同じ目に遭わせてやる」

 この一言が、それを忘れさせました。
 立ち上がり一気に距離を詰め、心臓を突く。そして、殺気を込めて言いました。

「今でも密着すればてめえの心臓くらいは止められるぞ。あのバカをからかっていいのは俺らだけだ」

 兵部京介が何者であるのかを本当に理解している者だけが、その権利がある。
 そうじゃない人間が、ロリコンとか変質者とかお調子者とかオカッパエロジジイとか万年学ラン男とかウラタロスとか徘徊老人とか、言うことは葉さんには許しがたいことなのです。
 ですが、そんな殺意にも賢木先生は揺らぎません。
 そう賢木先生はサイコメトリーの他にも、生体コントロールという隠し能力を持っていたのです。限定された葉さんの能力では、心臓を止めるどころか、影響を与えるまでもいきません。
 
「い、今のは手加減してやったんだよ!!
 二度と言うなよ!? 言ったら殺す!!」
 
 そう虚勢を張る葉さんを、

「ぷぷっ」

 笑う人がいました。

「し……しまったつい声が!?」

 口の悪さでは隠しきれない、にじみ出るような兵部少佐への信頼を、掛け算に代入してしまったのか、はたまた高まる殺気も変換すれば絶大なる好意と落とし神理論を持ち出したのか、辛抱たまらんという風に顔を歪めていたのはパティさんでした。
 そんなパティさんを窘める紫穂さん。
 今がいいとこなんだからそっちこそ黙れとと抗議するパティさんに、これまたこっちの台詞と反論する紫穂さん。
 このままうまくすれば殺し合いになる。敵であるモジャ公はもちろん、いろいろ目障りな賢木先生が死んでもラッキーと期待に胸躍らせる紫穂さん。
 すっかり二人のそんな会話を漏れ聞いていた賢木先生と葉さんに言わせれば、

「お前ら性根が腐ってる!!」

 ということなのでした。


 そんなわけでちょっと前に目を覚ましたものの、力も入らないし、暴走の中心にいたから頭も痛いし、聞いてみれば洞窟で敵味方の男子二人っきりと面白そうな展開だったので眠った振りをしていた二人でしたが、今も頭痛は治まらず、まともに超能力は使えそうもありません。
 ですが、ろくに立てもしない状態なのに紫穂さんは超能力を使おうとしました。
 相手はもちろん、石と化した皆本さん。
 が、いつものように情報は流れ込んできません。それどころか頭痛が増すばかり。よめいた紫穂さん賢木先生が支えました。

「皆本なら大丈夫だ」

 マッスル先輩から引き離せば元に戻るから、自分に任せておけと、紫穂さんに小声で言い聞かせる賢木先生ですが、紫穂さんは納得しません。
 自分たちの能力が回復すれば向こうの能力も回復する。そうなれば、高所の洞窟という状況ではどうしても不利。うまく立ち回って命は守れたとしても、パンドラ側だけが抜け出して自分たちは取り残されるという、どうにもゾッとしない未来しか思い浮かびません。

「あの鳥の巣頭だけでも殺っといてくれれば……」

 薫さんの悪口を言い自分を怒らせたモジャ公に対する感情を隠そうともしない紫穂さん。

「お前な……女の子がそういうこと言うな!」

 案外に常識的な口振りで紫穂さんを窘める賢木先生も、葉さんをこの世から排除することを考えなかったわけではありません。
 ですが、思いとどまらせる視線がありました。
 親指で皆本さんを指し、そして言下にもう一人の、紫穂さんのボスのことを含ませつつ、

「俺たちのボスは……そんなことは許さない」

 賢木先生はそう言いました。
 しばらく考えた後、紫穂さんは賢木先生の言葉に頷きました。
 そして、こう妥協案を出しました。
 二度と逆らえないような精神的屈辱を与える。
 今度は賢木先生も賛成してくれました。


 そんな何かとんでもないことを企んでいる二人を見る、葉さんとパティさんは肝を冷やしていました。
 ――とんでもなく腹黒いの二人。
 ――反撃できる五秒前くらいに殺られそう。KANARI☆KITERUの内容を暴露されそう。本当は、兵部少佐と掛け合わせる予定だったのに、関係がつかみきれずz印刷期限まで時間が無いから真木さんと絡み合わせたのがバレたら怒るかも。

 それぞれがそれぞれの理由で思惑を抱いていましたが、結局のところ全員の思いは一致していました。

 自分たちのボスがきっとすぐ来てくれる。







「……なるほど。さすが不二子さん。
 低軌道衛星に乗って上空から探知するのか
 ここに来るまでに僕たちの体力も使わせて一石二鳥」

 黙れと言っていたのに、隣に浮かぶ男はペラペラと恨みがましい賞賛の言葉を口にする。
 そういえば、昔から余計な一言を言って、自分を怒らせる子供だった。
 第一、自分たち一人でここまで来たわけででもないし、アイディアを出したのも私だ。

「念力で空気の泡を作ってるけど、時間はあまりないわよ。
 放射線のシールドも限界がある」

 肌に影響が出なければいいけど。
 そんな心配もすぐに打ち消す。空気の泡もそうだし、自分たちの体の安定、スペースデブリにも気をつけなければいけない。
 なにより、薫ちゃんを守らなければいけない。
 兵部京介がクイーンと呼ぶ少女は、他の一切を無視して、その意識の全てをただ一点に、紫穂ちゃんたちがいるかもしれない場所を探すために傾けている。

「ばーちゃん……」

 本当に、薫ちゃんにはクイーンと呼ばれるだけの力があるのか?
 思い当たることがあるのだろう。半信半疑といった表情で葵ちゃんが尋ねてくる。

「……兵部の言うことを真に受けないで」

 変わる、いや、これから変える未来のことなんて、信じる必要はない。 
 そんなクイーンの力なんかじゃなく、チルドレンは日本最強のエスパーで、世界で一番強い絆で結ばれている。
 だから、紫穂ちゃんたちは見つかる。
 それで十分だ。
 だから、
 
「独断と偏見に基づいた先入観を、この子達に植え付けないでくれる?」

 そう抗議する。
 受け流すように京介が笑う。
 
「ま、今は休戦中だ。言い争いはよそう。
 姉さん」

「こうして他の人間がこれない場所で、君と話してると昔を思い出すよ」

「子供の頃の僕は、」

 私は、

「自分の力が伸びていくのが楽しくて仕方がなかった。
 どこまでも行ける事が……ね」

 何にでもなれると信じていた。

「そしてどこへ行っても、そばには不二子さんがいた」
 
 屋敷でも、大地でも、海でも、空でも、外国でも。
 どんな時でも、一緒だった。
 ずっと、一緒だった。
 だから、お互いがお互いを誰であるか、誰よりも知っていた。
 
「わがままで口うるさい姉だったけど……いい思い出だよ。
 こうなった今でもね」
 
 世話のやける弟だった。
 
「何か……感じる……!! あの辺!!」
「マジで!? どこ!?」

 目を見開き地球を指差す薫ちゃん。動き出そうと、兵部の方を振り向こうとしたそのときだった。

「いや、行くのは僕らだけだ」

 弟の笑みは消えていた。
 そこにあるのは、バベルの管理官を昔を出し抜いたパンドラ首領の会心の嘲笑。
 そして、見えない手が私たちと衛星を押しのける。

「昔話をしたぐらいで油断しすぎだよ不二子さん。
 休戦はここまでだ!!」

 油断。そうなのだろう。
 私は知っていたはずだ。
 私と、あの男は、あの時から違う者になってしまったのだと。












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