しっぽきり

一本目 職場結婚なパパというお話
二本目 本音を始終聞かされるので、苦労しているのは、結局パパ。
扉絵  女神さまは和服が似合うと思うな。ボリューム的に。


 ――ポチャリ。

 頬を打つ滴の冷たさに葉さんが目を開くと、そこには固まったマッスル先輩と皆本さん。ちょっと視線を下げると、気絶したパティさん

と紫穂さんがいました。
 洞穴のひんやりとした空気の中、しばし目覚めたばかり朦朧とした意識を持て余していた葉さんでしたが、次第に気を失う直前の記憶が

蘇ってきました。
 
「そうか……!!
 パティの力が暴走して――」

 この状況の元凶が、テレポーターであるパティさんにスタンガン食らわせた紫穂さんであることを思い出した葉さん。
 その張本人はパティさんの隣で気を失ったまま。
 元々気に食わない少女が、気絶している。
 お誂え向きのシチュエーションに、葉さんは、紫穂さんを排除することにしました。
 両手を構え、狙いを定めます。
 ――破滅の未来だかなんだか知らないが。
 兵部小佐が拘泥する未来なんて、自分の手でぶち壊す。ですが、葉さんは一つ大切なことを忘れていました。

「紫穂ちゃんから離れな、小僧!」

 あそこにはもう一人、エスパーがいたのです。それも、敵の。
 振り向くと、そこには射るような視線と銃口。

「てめえの脳ミソブチまけるのに遠慮なんかしねーからな」

 むき出しの殺気を発していたのは、バベルの特務エスパー『ザ・イクスプロレイター』賢木修二でした。

「へええ。そいつは気が合いそーだな。
 俺も……」

 言葉通り、引き金をほんの少し動かすことを、ただの作業としてこなしそうな、自分と近しいものを感じる葉さん。

「小佐や真木さんほど甘くないんだよ!!」

 ですが、それは友愛の感情には繋がりません。

「てめえこそ脳ミソブチまけちまいなっ!!
 カニ頭のヤブ医者!!」

 罵倒の言葉とともに、生まれるのは、骨と血と、そして脳漿の雨――のはずでした。
 しかし、実際に起こったのは、洞窟内へのむなしい反響だけ。 
 
「バーカ。おまえにゃブチまける脳ミソもなさそーだな。暴走の影響で超能力は使えねーよ」

 葉さんに告げられる真実。
 そして、二度引かれる引き金。
 銃弾は葉さんのすぐ近くの石を削りました。
 マッスル先輩は固まったまま、パティさんは気絶中、ブレーキになるかどうかわかりませんが、紫穂さんも気絶中。
 つまり、賢木先生を止める要素はこの場にはありません。

「俺がなんだって?」

 煙りを吐き出したままの銃口を僅かに動かし、そう聞く賢木先生に、

「カニ頭のヤブ医者」
 
 葉さんは、

「……って小佐が言ってたっスよ。
 男前のニイさん!」

 とりあえず媚びてみました。
 その一言が賢木先生の気勢をそいだのが、葉さんを襲ったのは銃弾ではなく、襟首を掴むというごくごく軽いものでした。
 放たれていた殺意に比べれば、案外あっさり危機を逃れたことに違和感を感じながらも、現状の確認のために表に出てみる葉さん。
 そこに広がっていたのは、シダっぽい植物やら、鬱蒼とした密林だとか河だとか、なにより崖だとかで、日本じゃないうえに能力無しで

は、脱出できなさそうな風景でした。

「合成能力者のパワーは不安定だからな。暴走でタガが外れて限界をこえた力が出ちまったらしい」

 だから、実体化しただけでもラッキー、と幸運を感謝する賢木先生はこう続けました。
 電子機器はイカれてるし、こんな崖っぷちだから到底自力脱出も無理。
 そう語る賢木先生に、葉さんの違和感が氷解しました。
 殺さなかったのではなく、殺せなかったのです。
 彼の、そして今は眠る紫穂さんの能力はサイコメトリー。この岸壁を降ることもできなければ、仲間に意志を発信することもできません


 つまり、脱出にパンドラ側の能力を必要としている以上、賢木先生は自分に手出しは出来ません。
 そう思いつけば、こちら側が優位に立てないのはともかく、わざわざ媚びてやるのもバカらしいことです。

「それまで仲良くやろーぜ!! カニ頭のヤブ医者」
「別にお前ら全員生かしておく必要はねえぞ!?」
「あ、そっか」

 なので、やっぱり、

「すんません男前のニイさん」

 媚びておいたほうがいいようなのでした。



 
「……薫!! 局長かばーちゃんに知らせたほうが……」

 葵さんの耳打ちに頷きつつも、薫さんは決断しきれませんでした。

「それはあんまりいい考えじゃないぜ、ゴッデス。
 バベルがからむなら僕たちは別行動だ」

 いつもは飄々としている兵部少佐が、あまりに真剣なことに押されていたのです。
 エスパーの数と戦力なら、こちらが上。
 政府機関であるバべルなら衛星や情報網を使える。
 互いの利点を主張してみたところで、事態は好転しません。
 一刻も早く発見するためには、協力するのが一番。そう語る紅葉さん。

「遠隔透視や精神感応系の仲間が、今あちこちで捜してる」

 ですが、捜す対象範囲は地球、そしてそれ以上。いかに人材を投入しようと、六人と一匹を捜すには広すぎる。
 だからこそ、兵部少佐は薫さんたちの目の前に現れたのです。
説明しました。

「クイーンの力に期待してるんだ」
「クイーン……!?」

 兵部少佐の言葉に、葵さんは疑問を、薫さんは息苦しさを覚えました。

「薫ちゃんのことだよ」

 そして、兵部少佐は少女たちに未来を告げました。

「僕たちの知る未来では、君たち三人はパンドラのリーダーになるのさ」

 今の居場所は、仮の場所に過ぎない。
 破壊の女王。
 禁断の女帝。
 光速の女神。
 そう自分たちの未来を語る少佐に葵さんは、怒りを隠そうとしませんでした。
 自分たちが、バベルを、皆本を裏切るはずはない。
 兵部少佐は、それを否定せず、「かもね」とだけ受け流すと、薫さんへの期待を口にしました。
 クイーンであるなら、何かがキャッチできるかもしれない。
 そう、薫さんはただのサイコキノ。精神感応系ですら掴めない皆本さんたちの居所を、知覚できるわけがありません。
 しかし、一方で葵さんは兵部少佐の言葉を否定できませんでした。
 ――他のエスパーにできひんことでも、薫やったら……。
 見れば、薫さんは瞳を閉じていました。
 どんな小さな声も聞き逃さないように。
 夜風が吹く中、朧な月光の中、祈るように、懸命に神経を集中する薫さん。
 兵部少佐が、真木さんが、紅葉さんが、そして葵さんが見守る中、薫さんが瞳を開きました。
 
「感じる……!!」




「三人の居場所か!? わかったんやな、薫!!」

 驚きと納得と安堵が入り混じった声を上げる葵さん。そんな彼女に応えたのは、

「ブブー!! ハズレでーす」

 不二子さんでした。
 薫さんが感じ取ったのは、巨乳の気配。そして、こわーいお姉さんの気配でした。
 そんなこわーいお姉さん八〇オーバーは、自分の可愛いチルドレン達に手をつけようとしていた同じく八〇オーバーの兵部少佐に詰め寄

っていました。
 突然の不二子さん登場に慌てるチルドレンの二人、少佐を守ろうと割って入るパンドラの二人。
 しかし、不二子さんが次にやったのは、兵部少佐を攻撃することではなく、チルドレンの二人を少佐からかばうように遠ざけることでし

た。
 
「あんたたちを生かしとくのは、うちの仲間を助けるまでよ。いいわね!?」

 対立ではなく、一応の協力を口にする不二子さんに兵部少佐は相好を崩しました。
 
「年とって丸くなったね? 君も一緒なら心強いよ」
「なれなれしくすんな!! 調子に乗ってると今すぐ殺すわよ!?」
「昔に戻ったみたいで嬉しいんだよ」

 肩を並べて戦場を飛び回った昔。
 日が暮れるまで、遊び笑いあった思い出。
 そんな記憶を共有してきた二人の現在は、

「……だからあんたはダメなのよ! 未来を見なさい!!」
 
 一方は政府組織のリーダーであり、一方は犯罪組織のリーダーなのでした。 




 
 
「能力、使えないんだよな?」
「お前も使えないんだろ? じゃあ、そういうことだ」
「ならいいさ。サイコメトラーとトランプなんてやりたかない」
「脳ミソ無しのお前さんとなら、いらないけどな」
「けっ」
「……ウチの管理官な」
「んー、不二子だっけ?」
「そう。蕾見不二子管理官。どう思う?」
「でかいな」
「まず、そこか」
「まあ、男だからな」
「美人だと思うか?」
「そうじゃねーの?」
「八〇超えてるんだぜ?」
「そらあ……辛いな。でも、ウチのボスもな」
「学ランか。八〇超えてるのに。お互い、辛いな」
「……そういえば、ボスと言えばな」
「あん?」
「あそこの性悪も、エスパーのボスになるんだとよ。なんだっけな。そう、女帝様だ」
「……女帝!? 紫穂ちゃんがか?」
「そ。だからチルドレンには手出しすんなってさ。なんせ未来のボスなんだからな」

 女帝は、瞳を細く開き、そして耳を済ませました。自分たちの未来を一言も聞き漏らすまいと。












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