しっぽきり

 GWのある日、とあるCMがナギお嬢さまの心を打ちました。

「機動戦艦ナデカタ、ブルーレイBOX発売決定」

 機動戦艦ナデカタ。それは九〇年代の中頃作られたお嬢
さまも大好きな名作アニメです。
 「クズばっか」の名ゼリフ、劇中アニメのガキガンガー。以前、VHSで見たとはいえ、久しぶりに、しかも綺麗な画質で見たい。
 これは買いだ!
 そんなわけでさっそくパソコンを起ちあげるために、立とうとしたその時でした。

「この前でっかいDVDーBOXを出したので売れるかどうかわかんないから数に結構、限りがあるぞ!!」

 お嬢さまは思いました。
 なに、そのトンチキな商売。
 基本、各メディアで一回しか商品化されないんだから、時期はもうちょっと考えてくれないと。メディア末期まで引っ張られるのもあれだけど。
 そんなことをグチりながらも、なおさら急がなくてはならない、とナギお嬢さまは思いました。
 あんなショートカットや、こんなショートカットをデスクトップに貼りつけてるんじゃなかった。起動が遅くなるじゃないか。脳内で、「部屋の掃除どころかパソコンの掃除までできないんですね、ナギお嬢さま」というマリアさんのエアーお小言を再生しつつ、またも立ち上がろうとした、その時でした。

「今日からアニメイトで先行販売開始!! お買い上げの方全員に複製セル画プレゼント!!」

 店頭での発売。
 生まれついてのHIKIKOMORI体質であるところのナギお嬢さまは、通販にベッタリの生活を送ってきました。
 ――このままではいけない。
 とある映画でアニメ監督も言ってました。
 どんなに通販が便利になっても店頭販売から離れてしまっては生きていけない。
 ほかにも、ポンポコは俺じゃない。主題歌がのぞみなのは俺の趣味、オリキャラがまめぐなのはきっと原作者の趣味、とか言ってたような気がします。
 そんなわけで、店頭買うためにもメイトに行こうとハヤテ君を呼び出すナギお嬢さま。
 ハヤテ君は戸惑いはしたものの、HIKIKOMORI体質のお嬢さまが、外出するというのですから、反対する理由はありません。
 なので、お嬢さまに行きつけの店舗を訪ねました。
 しかし、ナギお嬢さまはそれに答えることができません。
 行ったことがないのです。
 マリアさん曰く、やっぱり引きこもりのお嬢さまはそんなところに行ったことはないというのです。
 さらには、涙目でコミケにも行ったことがないと告白するナギお嬢さま。
 驚くハヤテ君ですが、そこには電車男でコミケがどういうものかちょっと知ったマリアさんの鉄壁がブロックがあったようです。
 とはいえ、ハヤテ君同伴なら大丈夫かもしれないと、マリアさんは、ナギお嬢さまのメイトデビューを許可してくれました。


 
 そんなわけでやってきたのは、秋葉原のメイト。
 整然と陳列された数々の漫画、CD、トレーディングカード、ポスター、カレー等アニメグッズ。振り返れば、エンドレスで流されるアニメ。
 ここはまるで宝島だ。
 HIKIKOMORIであると同時に、OTAKUであるナギお嬢さまがそう思ったり、アニメ店長の実在すら信じてしまうのも無理はありません。
 そんなわけで、胸躍らせて店内を歩き回るナギお嬢さま。大興奮のナギお嬢さまのギアをあげる文字が飛びこんできました。
 アダルトコーナー、一八禁。
 ナギお嬢さまは一三歳。それなのに、すぐそこに一八禁の空間がある。
 それを認識した瞬間、ナギお嬢さまは居てもたってもいられなくなりました。
 
「ハヤテ……お前……ちょっとトイレとか行きたくないか?」
「へ? 別に行きたくないですけど……」

 即答でした。
 自分の執事が、自分の思い通りに動いてくれないことに苛立ちつつも、打開策を探すナギお嬢さま。
 お嬢さまを救ったのは一枚のポスターでした。
 MAEDAXトークライブチケット先行販売。
 「アニメに出たいならアシスタントをやれ」とかそういった類のことをトークするライブらしいですが、お嬢さまにとっては、内容なんて二の次。ハヤテ君さえ引きはがせればそれでいいのです。
 なので、ハヤテ君に先行発売中の八階へ走るよう命ずる
ナギお嬢さま。
 今度は、うまく行きました。

 一息ついてナギお嬢さまは、意を決しました。
 ハヤテ君を引きはがしたものの、堂々と入って行けるほど一八禁に対するお嬢さまの勇気は強くありません。だからといって、この機会を逃してしまうほど、一八禁への渇望は薄いものではありません。
 迷っているうちにも、ハヤテ君は戻ってきてしまうかもしれない。
 ポケットのなかのねんどろいどルイズ。それが今日の勝利の鍵でした。
 ルイズを取り出して、地面に近いところでうっかり落としてしまう。
 階段を一段一段そうやって下っていくナギお嬢さま。
 大事なものを拾いにいくドジっ子な自分という後押しを自作自演したその後に、地下一階に待っていたのは、一八禁の世界と、

「…………」

 クラスメイトでした。



 

 千桜さんは、人生がイヤになりました。
 ご主人さまは海外へ。クラスメイトも大体は海外に。国内旅行のクラスメイトがいるかと思えば、いけしゃあしゃあと「外国飽きちゃって」と言い出す始末。ひるがえってみると自分は、パソコンの前でチリソースにするのかヨーグルトソースにするのか迷いに迷ったケバブを食べて海外旅行気分を味わおうとしているという無様さ。
 だから人生がイヤになりました。
 しかし、労働の大切さをキャローンと知っている千桜さんは、自己嫌悪でGWをつぶすことはありませんでした。
 ド短期バイトをしてやろう。
 そんなわけで、自分の趣味とあうバイトを探してみれば、都合よくGWの秋葉詣で対策かメイトで短期バイトを募集してみます。そこなら、クラスメイトとも会うまいと考え応募、見事に採用され、そしてーー

「うわぁああ!! お前――!!
 なんでこんな所にいるのだ――!!」

 クラスメイトとバッタリ会ってしまいました。よりにもよって一八禁スペースで。
 とはいえ、今の自分は店員。一三歳のロリっ子が三文芝居で踏み込んできたことを咎めなければなりません。
 結婚という観点から見て、女の一六歳は男の一八歳と同等と主張しつつ、ナギお嬢さまを注意する千桜さん。
 そう、一八禁スペースには一八禁にされるだけの理由があるのです。

「ここはチビっ子には刺激が強すぎるって」

 その言葉に促されたかのように、周囲を見回すナギお嬢さま。その視線に飛び込んでくるのは、中身はそんなもんではすまないことを確信させるバスタオル一枚のジャケットやら、ストレートに裸なのや、ところどころ白いのが飛び散ってるのやら、そんなのばっかり。
 ゆであがるナギお嬢さまに、だから言ったのにと頭を抱えたくなる千桜さん。
 真っ赤な顔で動揺しながらお前は平気なのか、と聞いてくるナギお嬢さまに、仕事だし、見慣れると案外平気と答える千桜さん。
 ですが、慣れるという言葉が、ナギお嬢さまをさらに刺激したようで、こんなことを言い出しました。

「見慣れるってことはお前もこんなことした事あるのか!?」

 千桜さんは、即座にそれを否定しました。無論、平行世界では病弱和服さんにあんなことやこんなことをされているのかもしれませんが、少なくともこの世界ではされていませんし、していません。
 ですが、否定するための大声がナギお嬢さま以外のお客さんを刺激してしまいました。
 元々、一八禁スペースに店員、それも女性がいるという時点で窮屈な思いをしていたお客さんが、さらに三文芝居で忍び込んできた金髪ツインテールロリっ子の登場、やったやらないの会話をされたとあっては、いたたまれなくなって、思わずにらんでしまうのも、仕方ありません。
 そんなわけで、千桜さんはお客さんに謝ると、ナギお嬢さまの手を取って一八禁コーナーを後にしました。
 
「ていうか、お前、今日何しに来たんだよ」

 聞いてみるとナデカタのブルーレイ限定版を買いに来たと言います。
 相変わらず大人気であることを伝えると、ナギお嬢さまは、当然だと言わんばかりにうなずきました。

「名作だからな!!」
「そうだな。名作だな」

 思わぬところで、意見の一致を見た二人。
 生意気なチビっ子だけど、趣味は案外近いのかもしれない、そんな親近感から、千桜さんは、ナギお嬢さまに注意を促しました。

「けどあれ、今朝から相当な勢いで憂えてたから、もう残ってないかもしれんぞ?」

 その情報にあわて出すナギお嬢さま。ナデカタの在処を尋ねます。その剣幕に押されるように七階と教える千桜さん。
 それを聞いたナギお嬢さまは、折りよくMAEDAXのチケット入手に失敗したハヤテ君が戻ってきました。
 そんなわけで、ナデカタゲットに向かうナギお嬢さま・ハヤテ君に勢い付いていくことになった千桜さん。
 ですが、思うように進めません。
 そう、GWのなので人が多いのです。
 焦るナギお嬢さまは、自分のことは放っておいていいから、ハヤテ君に確保へ向かうように指示。千桜さんは、そんなナギお嬢さまのすぐ後ろで、ハヤテ君に向かって一つ頷いてみせました。

「わかりました!!」

 そんなわけで、本気を出したハヤテ君はそれはすごいものでした。
 人混みを縫うというよりは、水が流れるような動きで進んでいくハヤテ君。
 思わず感嘆する二人を後にしたハヤテ君は、わずか五秒でブルーレイコーナーにたどり着きました。
 そして、そこで見たのは、
 ――遅い。
 売り切れのポップでした。




 人気商品は並ぶぐらいの覚悟じゃないと変えないんだ、僕の力が及ばなかったばっかりに。
 そんな慰めの言葉に、一八禁への欲に負けた自分の責任と理性では語ってみせるナギお嬢さまですが、今日一日の期待が徒労に変わってしまったことに感情では納得できません。
 なので、残念と口にしつつ、肩を落とし、家路につこうとしたそのときでした。

「おい、ちょっと待て」

 千桜さんに呼び止められ、振り返るとに、少し滲んだ視界に移ったのは、木星を背景に宇宙を行く戦艦ナデカタ。
 ナデカタのブルーレイBOXでした。
 
「これ……譲ってやってもいいぞ」

 千桜さんの突然の申し出に戸惑うお嬢さま。クラスメイトは、笑ってこう続けました。

「せっかく来ていただいたお客さまを……がっかりさせたまま帰すわけにはいかないからな」

 だから、お嬢さまもクラスメイトにこう言いました。

「じゃ……じゃあ今からウチに来て一緒に見よう!!」

 


「だからこの独特のSF観が!!」
「ルリルリの可愛さの方が大事だろ!?」

 そんな感じで一三時間ほど、ナギお嬢さまは意見のあわない友達と仲良く喧嘩しながら過ごしました。












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2009.01.28 22:09 | 360度の方針転換