しっぽきり

一本目 天才とは一%のひらめきと、四九%の努力と五〇%の環境説。
二本目 腕はいいけど、癖のあるKUGUTSUと、再現度に定評のあるTIMと。


 
 紫穂さんが触ったマンションの壁からは、特筆するようなイメージは何も伝わってきませんでした。

「エスパーの気配、痕跡、共に無し。
 本当にこの部屋なの?」

 一回り下のサイコメトラーの疑いに、賢木先生は情報がたしかであると答えました。
 ソース元は最近知り合った、このお友達から。
 最近、越してきた住人で面白い人がいるの。
 疲れていたせいもあって、聞き流そうとしていた友人のその話。
 しかし、ちょっといい男なんだけど、オネエ言葉で喋る。
 その特徴を聞いた途端、賢木先生のエスパーとしての勘が閃きました。
 更に特徴を聞いていけば、身長一九〇cmで筋肉質。短髪のメガネ。
 
「マッスル大鎌か……!?」

 そこまで聞いて親友は、賢木先生と同じ結論に辿り着きました。
 そんなインパクトのある存在が、マンションの壁になんのイメージも刻み込んでいないはずはありません。
 つまりは、パンドラのESP工作。
 パンドラの技術をもってすれば、指名手配されてても堂々とどこにでも住める。その事実に、薄ら寒くなりながらも、そんな捕まえることが困難な犯罪集団の尻尾をつかんだ賢木先生を誉める皆本さん。
 ですが、現実はちょっとばかり、いやらしいものでした。
 紫穂さん曰く、ソース元の友人とは、だらしのない下半身がどうのこうのという関係。
 賢木先生は、来るもの拒まずの博愛精神の賜物と主張しますが、その博愛精神の表し方がまたどうだこうだで、紫穂さんの顰蹙を買ってしまいます。
 男はみんなこうだ。皆本だってそれぐらいのことはやっている。
 ウソよ! 皆本さんはそんなことしない。
 アイドルだってトイレに行くか行かないか的な言い争いをする二人。最先端のアイドルは「アイ・ドン・ノウ・ユア・ハァッ!!」の一言で解決するからトイレには行かないらしいですが、特にアイドルに興味のない二人には、そんなこと知ったこっちゃありません。 
 口論の勝者は、皆本さんを透視してみろと言い出した賢木先生でした。さすがの紫穂さんも、盆と暮れ、大量の紙媒体にその勇姿を刻んでいる皆本さんの本当を知りたくなんてありません。
 勝ち誇る賢木先生でしたが、しかし、それは油断に繋がりました。
 更に追い討ちをかけようと開いた口は、言葉を発することができません。口を封じたのは、紫穂さんでも皆本さんでもなく、突如現れた霧。その発生源はパティさんでした。
 その半身で口をふさいだパティさんは、呆れたように言います。

「容疑者宅の前で痴話喧嘩って……バカじゃないのあ?
 もうお前たちは掛算の対象から外すわ」

 後日、それをすてるなんてとんでもないと、思い直し、外すのを辞めるパティさんですが、この場では、皆本さんたちに容赦する気なんて欠片もありません。
 
「パティ・クルー、
 粒子を操る合成能力者――」

 なんとか、情報を読み取りそう語る賢木先生。

「気をつけろ、皆本!!
 中にあと二人――」

 と一匹、と続けようとしましたが、そこまででした。
 口を封じるため、賢木先生を押し倒すパティさん。
 親友を助けるために、拳銃を構えようとする皆本さんでしたが、意に反してパティさんへ銃口を向ける前に、手は、腕は、そして足も動かなくなってしまいました。
 事前に情報を得ていたのに――!
 そう悔やむ皆本さんでしたが、その思考すら動きを止めてしまいました。

「そう。ア・タ・シ!!」
 
 姿を表したのは、ビッグマグナムを石化した皆本さんに押し付けるマッスル大鎌、おまけに桃太郎。ついに、皆本さんの肉体をゲットしたことに大興奮。
 それを見て、「あれは別物。現実なんてクソゲー」と自分の美学に言い聞かせるパティさん。
 特製の拳銃を突きつけるのが紫穂さん。

「おっかねえもん出すんじゃねーよ。しまいにゃ本気出すぞ、コラ!」

 その特製の拳銃を、粉々にするのが葉さん。
 葉さんの声には、普段真木さんをからかうときの陽気さも、兵部少佐に口答えするときの甘えも一切ありませんでした。

「よく覚えとけ、ガキ。
 少佐がなんて言おうが、俺はムカついたらいつでもてめーら殺すぞ?
 お前だろがー赤毛のバカチビだろーが、俺には関係ねえ」

 赤毛のバカチビ。
 その言葉が、紫穂さんの感情を逆撫でました。しかし、同時に、紫穂さんの頭の芯は氷のように冷静でした。
 破壊音波に吸着。葉さんの能力を、振動波を操る合成能力者と見当をつけていたのです。
 
「四対一……。
 しかもそっちは精神感応系。勝ち目はないわよ」
「みんなそう言うのよね。サイコメトラーは戦闘向きじゃないって思ってる」

 澪さんから、「バベル側の高超度サイコメトラーを見たことがあるんだけど、体力がなくてすぐにバテちゃった。やっぱりサイコメトラーはだめね」とそんな先輩ぶったアドバイスを受けていたこともあって、
冷淡にそう告げる、パティさんの言葉を、紫穂さんは受けれいませんでした。
 一瞬、微笑んだ後、スカートをまくると、そこに仕込んでいたのは手榴弾。
 躊躇無く、ピンを抜き床に投げる紫穂さん。
 近所迷惑と、場とは不釣合いなことを言いながら、それを押さえ込もうとするマッスルさんでしたが、手にした瞬間それがフェイクであることを悟りました。
 この手榴弾はニセモノ?
 何回かの遭遇から、紫穂さんの冷徹さと怒ったときの大胆さを知る桃太郎が、注意を促しました。

「薫ちゃんを悪く言うやつらには、必ず後悔させてあげる!!」

 葉さんの振動波を交わした、紫穂さんが距離を詰めたのは、薫さんを罵った葉さんでもなく、両手がふさがったマッスルさんでもなく、パティさん。
 そして、下半身を霧状の粒子と化したパティさんに突きつけたのは、スタンガン。

「よ……よせ!!
 私の能力はテレポートベース――空間コントロールの最中に電撃なんかくらったら暴走して……」
「心配しないで。それが目当てよ」

 紫穂さんは、自らを肯定してくれた少女の名誉を守るために、顔に笑顔を貼り付けて、そう冷淡に吐き捨てると、自分一人で三人全員を吹き飛ばす最善手を、躊躇無く打ちました。
 そして、電撃が暴走を引き起こしました。




「っただいま――」

 学校から帰宅した薫さんと葵さんを迎えてくれるはずの二人はいませんでした。
 
「あの子たちの任務長引いてるの、ティム?」

 一日、学校で紫穂さんの代役を務めた影紫穂さんを通してティムさんに、二人がまだ仕事中か確認しようとする薫さん。
 しかし、答えは返ってこず、影紫穂さんは崩れ落ちてしまいました。
 ティムに何かが起こった。そう悟った葵さんは、薫さんとともに、表のティムさんとバレットさんの乗る影チル専用トラックにテレポート。
 そこで見たのは、真木さんの髪で動きを封じられたティムさんと、兵部少佐に叩きのめされ気絶したバレットさんでした。
 
「ちょっと困ったことが起きた。手を貸してくれないか?」

 助けを乞う兵部少佐の表情はいつものように飄々とした空気はなく、切羽詰ったものでした。一緒にいた桃太郎が焦っていれば、真木さんも俯いたまま。
 二人と一匹の様子に、二人の少女は事態の深刻さを悟りました。
 バレットさんの有能さと忠実さを讃えたあと、兵部少佐はこう切り出しました。

「戦闘中に仲間のテレポートが暴走したらしい。
 女帝……いや、紫穂くんたちが僕の仲間と一緒に行方不明になった」

 自らの経験から、テレポートが繊細なバランスから成り立っていることを知る葵さんの表情が変わり、

「全力で探してはいるが、生死はおろか――地球上にいるのかどうかすら判らない。
 一刻を争う非常事態だ。頼む協力してくれ」

 薫さんの顔から血の気がスッ、と引きました。
  












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