しっぽきり

「はいストレート。私の勝ちね」

 舞台はラスベガス。賭けられるのはワタル君の人生。
 そんなわけで続く勝負ですが、サキさんの相手はラスベガスの魔女・美琴さん。ガザC並みのスペックのメイドさんには、いささかというよりはうんと荷の重い相手です。
 しかし、運が大きく左右するはずのギャンブルにおいてのワンサイドゲームに、サキさんは不思議がることしきり。美琴さんは、笑いもせず言いました。
 ――目が違う。
 自分を射抜くような鋭い美琴さんの視線に、うろたえ萎縮するサキさん。
 負けてしまえば、ワタル君はアメリカに、そして自分は退職。つまり、敗北はそのまま別れに繋がります。
 オレは……お前と暮らしたいんだよ! お前と!
 美琴さんが好きなのにも関わらず、ワタル君はそう言ってくれました。そして、サキさんも思いは同じ。
 そんな気持ちが運命の女神に通じたのでしょうか。蔵ばれた五枚のトランプは、ジョーカーを含めて見事に一つながり。
 ストレート。
 ポーカーには疎いサキさんにも、これがそれなりに強い役であることは知っています。
 ――これなら勝てるかも。
 自分の手の内に並ぶ数字を祈るように見るサキさん。そんなサキさんを凝視しつつ、背後に立つ一条さんに促された美琴さんは三枚のチェンジを要求。自分の手を確認すると、すかさずコールを宣言しました。
 つられて、サキさんがチェンジなしのコールを宣言しようとした瞬間でした。



「だー!! そんなんやから勝てへんねーん!!」

 今回の勝負のもう一つの景品、「東洋人は総じて童顔に見える。加えて、あの豊かな胸元。彼女が一四歳だなんてことはないだろう。だから、いくらそういうことには厳しいこの国とはいえ、彼女はそうじゃないのだから倫理的には許されるはず」と鼻息荒い観客達にとってはメインの景品であるところの咲夜嬢が、突如としてサキさんの腕を掴み、返す刀で二枚のチェンジを要求し、コールを宣言しました。
 ――あまりに不甲斐なくて、業を煮やしたということかしら?
 美琴さんの手は、フラッシュ。“目”で確認していたサキさんの手は、ストレートでした。チェンジされたことで、確実だった勝利は崩れさってしまいました。しかし、そうそう都合よく、強い役が完成するのか?
 人生経験が半分にも及ばないような少女の暴発で、とりあえずこの瞬間だけは、“目”のアドバンテージが失われたとはいえ、流れは完全に自分のもの。美琴さんは己の勝利を疑いもしませんでした。
 そして開かれるカード。

「ではフラッシュで私の……」
「フルハウス!! こっちの勝ちや!!」

 勝ち誇っていた美琴さんの表情が変わりました。
 その瞳が捉えたのは、自分がチェンジして捨てたはずの二枚のカード。

「目が違ういうても……見えてへん事もあるやろ?」
 
 いつの間に奪ったのやら、サキさんの眼鏡を手に不敵に笑う咲夜嬢。
 
「せいぜいその目が見えるんは……光の反射でメガネに映るカードぐらいやろ?
 そういう信じがたい事ができるから……ギャンブルは勝ってるんやろ?」」

 目の前に起こっている事態にうろたえるサキさんとは対照的に、美琴さんは表情を動かしませんでした。
 ――映っていたのか。 
 美琴さんが、フラッシュを成立させたとき、背後には一条さんが立っていました。その時に、一条さんの目にカードが反射していたことを
 ――そういえば、昔からあの中じゃ一番賢い子だったわね。
 見れば、賢しくて悪いかという表情でこちらを睨み返す咲夜嬢。相変わらず鉄面皮のまま、カードを戻す美琴さん。
 思い出せば、ワタル君・伊澄さん・咲夜嬢・ナギお嬢さま。昔からの幼馴染の四人の中で、気が付けば場をまとめていたのは、咲夜嬢でした。
 ――姉、というものは……いろんなところを見てるものなのかしら?
 一瞬、美琴さんは、表情を保つことに困難を覚えました。しかし、それはあくまでも一瞬。
 内心の動きを気取られないまま、誰にも気取らせないまま、美琴さんは、サキさんに策を授け、自らの執事に種目の変更を要求する咲夜嬢をジッと見ていました。
 ルーレット。それが、咲夜嬢が要求した種目でした。

「構わないわよ。運の量で私が負けるとは思えないし……」 

 “目”によるアドバンテージも、所詮は確実に勝てる勝負を選べるといった程度。それを抜きにしたところで、場の流れは圧倒的に自分のもの。そう確信する美琴さんは、種目変更を認めました。
 ラスベガスで、ギャンブルで、自分に恥を掻かせた少女。
 提案に乗った上で、絶対的な力で捻じ伏せて、

「咲夜ちゃんのもっと可愛らしい姿を見れるかと思うと……ゾクゾクしちゃうわ」

 破れたバニースーツからのぞく少女の白い肌は、ひどく美琴さんの嗜虐心をそそるものでした。

「へっ!! 勝負はこれから!! 目にもの見せてやるぜ!!」

 雄たけびに目を向ければ、そこには策をたてるわけでも、自ら勝負するでもなく、ただ天、というよりは年上の女性に運を任せる景品が一人。
 それもワタル君らしいのかもしれない。
 幼い頃の少年が、パーティでよく年上の女性に可愛がられていたことを思い出し、失笑に近い微笑を持って、ワタル君を一瞥するのでした。






 運のない執事さんにゃあ、ルーレットは勝てないってさ。皆勤賞はもらえるけど。
 





 ところかわって、トルコ・アンカラ・エセンボーア国際空港。
 長い空港名よりも、もっともっと長い一三時間のフライトを経てトルコに降り立ったのは、泉さんと美希さんと、絵本作家から小説家にジョブチェンジする荒鷲の魂を持つ理沙さん。そして、歩さん。最後に一人、

「大地ってすばらしい……」

 と、大地讃頌するヒナギクさん。
 にわかに生気を取り戻した親友の姿に、まず一安心の一同。到着した安堵も手伝ったのか、泉さんが思い出したように取り出したのは、携帯電話。
 写メの一枚でも送ってやろうかと、ボタンを押す泉さんに、海外旅行とは縁遠かった普通っ娘・歩さんは、トルコなのに携帯がつながるのかと、びっくり。「国際通信可能なケータイだからね」そう言い、エヘンと胸を張る泉さん。元々は、「変なヤツがいたらすぐに連絡なさい。世界中の支社のエージェントをすぐに向かわせるから」とパパが持たせてくれたものでしたが、とりあえずは虎鉄さんを撮ることに使われるのが専らでした。
 それはそれとして、海外旅行が日常であるところの美希さん、理沙さんも当然そのことを知っていて、携帯電話は国際通信可能仕様。
 お金持ちなのに、飛行機が怖いから海外旅行なんて考えられないなんて許されるのは小学生までだよね、という気持ちを込めて送られる冷たい視線を受けるヒナギクさんの携帯電話は、国内仕様。違う理由で、やはり海外旅行が非日常のものである歩さんも、同じく国内仕様。なので、二人は通じない携帯を持っていても仕方ないと、日本においてきてしまいました。
 そんな手元にない携帯電話のことを話していると、泉さんが突然、二人には聞き捨てならないことを言い出しました。

「え~とじゃあ……ハヤ太君に送ろう」

 泉さん言うところのハヤ太君は、つまりは、二人の共通の片思い相手ハヤテ君のこと。
 
「え……? 泉はハヤテ君とメール交換とかしてるの?」

 意外な展開に、ヒナギクさんが問うと、泉さんはしていると言います。さらに、メールアドレスを知ったのは、自分の家にハヤテ君が来たときとも言いました。
 ハヤテ君が泉さんの家に行った。それは、ヒナギクさんを動揺させるのに十分な事実でした。泉さんが、学校に来なかった時期、生徒会の仕事で多忙であったため、ヒナギクさんは生徒会の決定事項のプリントなどを美希さんと理沙さんに届けるように頼んでいました。結局それは「なくした」「さすが白皇のプリント用紙、紙飛行機にするとよく飛ぶ」等の理由から、ヒナギクさんが届けることになったのですが、そんなわけですから、ハヤテ君に瀬川家に行く理由はありません。なのに、ハヤテ君が、瀬川家に行ったというのです。
 何しに?
 当然、そう聞くヒナギクさん。どう答えようか泉さんが逡巡していると、美希さん・理沙さんが脇から答えました。
 メイド服やら、ウェディングドレスを着せてもてあそび、部屋で下着姿の泉さんを抱きしめて泣かせ、泉さんの兄と愛憎入り混じった決闘を行い、泉さんの父親と和やかに談笑して別れたというのです。
 しかも、泉さんはそのことについて、いささかの誇張を認めた上でとはいえ、事実であることも認めたのです。
 ハヤテ君の基本スペック欄には天然ジゴロという項目が書き込まれたことを思い出し、ヒナギクさんと歩さんは、苦い笑いを浮かべるしかないのでした。
 そんなハヤテ君に惚れられた信じてやまない理沙さんは、泉さんにハヤテ君のメールとはどんなもんかと尋ねます。
 ハヤテ君の打つメール。
 恋する二人も興味津々なそのメール。泉さんの携帯電話をのぞきこむと、飛び込んできたのは、絵文字が一杯でやたらと長くて、話題のチョイスも可愛らしい乙女チックなメール。一行は、感心するやら呆れるやら。
 美希さんと理沙さんがこんなことを言い出しました。
 
「ためしにちょっと「好きです」って送ってみよう」

 下駄箱なり机なりの現代版みたいなイタズラをけしかようとする二人を止めたのは、当事者ではなく、歩さん。
 だめー!! と大声をあげる、歩さんに、軽い冗談なのにと眉をひそめる理沙さん・美希さん。そこに自分を救う意味もある、助け舟を出したのはヒナギクさん。

「純真な男心をもてあそんじゃいけないっていう……だからその……」

 それは人として踏み越えちゃいけない境界線だと避難すれば、

「そ……そうですよ!!
 ハヤテ君まじめだから、そんなの送ったら悩んで寝こんじゃうんじゃないかな?」

 と歩さんもこれ幸いと二人をたしなめます。もとより軽いイタズラ程度だった二人は、ハヤテ君へのメールを諦めました。

「あやうく……大変なことになるとこでしたねぇ……」

 歩さんが安堵のため息混じりにそうつぶやいていた頃――



 
 ――歓声の中、咲夜嬢は大変なことになっていました。
 負けると破けるNASAの凄い技術で作られたバニースーツから、おヘソやら、どこやら、が剥き出しになっていたのです。
 美琴さん八七万、サキさん二一万。
 対戦成績と比例するように、急速に露出度を増し、危険領域に近づきつつある咲夜嬢のバニースーツ。
 その原因の一つであるサキさんは、ルーレットの難しさを体感しつつ、自分がつまらないドジをするのは運が悪いのが原因で、自分は無能じゃないんじゃないかと、いささか虫のいい、それでも何の解決にもならないような現実逃避をしてみたりするのでした。












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