しっぽきり

 自分の主の母親との再会から数時間後。
 それから観光する気にもなれず、ホテルに戻ったサキさんはシャワーを浴びながら迷っていました。
 ――若は私が勝つことを望んでいるのだろうか?
 ワタル君と美琴さんとのギャンブル勝負を、未成年であるワタル君側で代打ちすることになったサキさん。
 負ければ、ワタル君は美琴さんと共にアメリカ住まいで自分は退職となるとあっては、いくら代わりにお店をもらえるとしても負けたくはありません。
 ですが、それはあくまでもサキさんにとってはの話。
 問題はワタル君です。
 口ではなんだかんだ言いながら、ワタル君は美琴さんのことが嫌いじゃないんじゃないか?
 ワタル君は自分が勝つことを望んでいないんじゃないか?
 まとわりつくような不安は、シャワーでも洗い流せませんでした。
 お風呂上り、ワタル君は美琴さんに悪態をついていました。
 それでも、常識的に考えればメイドであるサキさんと暮らすよりも、母親である美琴さんと暮らすほうが自然。
 それを問い詰めることは、今のサキさんにはとても怖くてできませんでした。


「私とお母さん、どっちと若は暮らしたいんですか?」

 問い詰めることができました。
 お酒の力を借りたら。正確にはビールの力を借りたら。
 唐突に聞かれたくないことを聞いてきたサキさんに、ワタル君は「え?」などとすっ呆けようとします。ですが、ビールの加護を受けたサキさんに恐れるものなど何もありません。
 ハッキリしなさい!! ハッキリ!!
 さらに問い詰めるサキさんに、ワタル君の答えはアメリカでなんて暮らさない。
 つまりは、自分と暮らしたいのか?
 重ねてそう聞くと、ワタル君は顔を真っ赤にして、否定しました。
 しかし、その答えではサキさんは安心できません。
 そう、ずっとワタル君の側で過ごしてきたサキさんは知っていたのです。
 彼が、時折寝言で、甘い、好意の篭った声で「お母さん」と言っているのを。
 そして、

「あと本棚の後ろにこっそりHな本を隠しているのも私、知っています」

 こんなことも。
 サキさんが掃除中、ちょっとした手違いで本棚を豪快に倒したことで発掘された本のタイトルは「和服美人」。絞りに絞った厳選の一冊にサキさんが見たのは、ワタル君の幼馴染の影。
 伊澄さんと暮らしたいから、日本に住みたいと言ってるんじゃないか?
 それがハッキリとしないのなら、自分も今度の勝負、どうしたらいいのか分からない。
 不安そうなサキさん。
 それを見て、ワタル君は言い切りました。

「んなもん勝っていいに決まってんだろ!!
 オレは店……お前と暮らしたいんだよ!! お前と!!」

 その言葉がサキさんの胸を打ちました。
 そして、打たれ震える胸を抑えるように、ワタル君を抱きしめました。

「若……私、がんばります。
 そして二人で……東京に……」
「……ああ」

 こうして二人は約束を交わし、そしてついでにワタル君のPC内の秘密フォルダを全部消す約束を上乗せしました。



「レディースアーンドジェントルメン!!
 さぁさぁ今夜もスペシャルなナイトがやってきたぜー!!」

 そして勝負のときは来ました。
 男性達の野太い歓声がこだまするライトアップされた空間。
 そこに立つのは、ラスベガスの魔女・橘美琴さん。そして、ワタル君の代理、メイドのサキさん。
 子供との生活か、はたまた自由か。
 煽りあげる一条さん。
 それに応えるかのように盛り上がる場内。
 そして、そんな場内の熱気を一層盛り上げるマスコットが今夜のラスベガスにはいました。
 そのマスコットが歩くと、頭でウサミミがピコピコと揺れました。不安定なハイヒールに揺れる網目のタイツに飾られたのは肌理細やかな肌、首元には真っ赤なリボン、黒いビスチェからのぞくのは、白い肌と白い肌が生み出す谷間。その価値はまるで宝石のようです。
 そう、本日のラスベガスのマスコットは、バニー咲夜嬢でした。
 首謀者は美琴さん。咲夜嬢が普段お姉ちゃんぶっているのも社交的なのも、本当は淋しがり屋だから、淋しいと死んじゃうウサギさんの格好をさせた――のではなく、お金のないワタル君の外ウマになった咲夜嬢に、ラスベガスの別の醍醐味、ストリップを味わってもらうためのバニー姿強要でした。
 そんなわけで、場内の「さすがベガスの魔女は、空気が読める魔女だ、GJ!」ゲージがマックスに高まり、黒いビスチェの下に埋蔵された宝石のような肌を当然見せたくない咲夜嬢は、ビスビスとウサミミでワタル君にプレッシャーをかけました。

 勝負は手持ち資金五〇万円を〇にするか、先に百万円に到達したほうが勝利というサドンデス方式。肩慣らしにまずはポーカーから。
 発表されたレギュレーションに、場内はまた一盛り上がり。
 ですが盛り上がるわけにはいかない咲夜嬢は、サキさんにポーカー経験の有無を聞きます。
 サキさんの答えは自信満々でした。
 さっき、なんとなく拾ったルールブックで役を覚えた。マリアさんにポーカーがあるファミコン版のドラクエⅣが面白かったという話を聞いたので、DS版のドラクエⅣを買ったという点から見ても、まるで経験がないわけじゃない、ライアンの章で断念したけど。
 そんなわけで咲夜嬢は大ピンチのなか、注目の一回目。

「はい。私の勝ちね」

 至極あっさり美琴さんの勝利でした。ロイヤルストレートフラッシュ。
 手加減気配がまったくないラスベガスの魔女に、「二回ほどチェンジすればあれぐらいの役になるはず」とどこからどうしていいのか分からないぐらいにギャンブル慣れしていないサキさんに、咲夜嬢思わず大激怒。
 自然と体も動いての叫びとなりましたが、それが致命傷。

「負けたのにあんまり派手に動かない方がいいわよ」

 言葉に咲夜嬢が不思議がっていると、ビリとなにか裂けるような音がしました。
 ビリ……。
 咲夜嬢、音がしたほうを見てみると、そこはなんと自分の背中。
 にゃああと悲鳴をあげ、

「なに破れてんの!? この服!?」

 と思わず自分の肩を抱く咲夜嬢。
 一条さんの得意げな説明によれば、咲夜嬢の着ているバニースーツはNASAの新技術でできていて、負けると自動的に服のあちこちが破れていくとかなんとか。
 NASAの新素材。
 天下無敵の説得力に感心しきりのワタル君、サキさん。
 いらないハイテク素材を開発したNASAにも、そもそもの問題の発端であるワタル君にも怒り一杯の咲夜嬢、再びワタル君をビスビスとウサミミ攻め。
 そんな咲夜嬢を見て、美琴さんは一言。

「ギャンブルってホント理不尽よね~」

 と、しれっと一言。 
 唯一の頼みの綱、常識人だったはずの一条さんは、

「一五歳以上の女性は私に言わせればもう熟女」

 立派なロリコン。
 咲夜嬢は、会場内どころか、全米にすら味方がいないのではないかという絶望感を叩き込まれるのでした。
 そんな、咲夜嬢を尻目に、勝負は第二ラウンドに突入するのでした。



 一方、その頃日本では、小腹をすかせたナギお嬢さまが、ハヤテ君特性の辛くないマスタードをかけたホットドッグをもきゅもきゅいわせて、食べていました。
 二人の話題は、美琴さんについて。
 会ったことのないハヤテ君がどんな人と尋ねると、ナギお嬢さまはギャンブラーと答えます。
 美琴さんの生活は、カードやルーレットで勝つことで成り立っている。その言葉に、自分の親とは勝負の結果という点では大違いだなと、ぼんやりと思うハヤテ君。美琴さんのギャンブルの腕が、ナギお嬢さまのお爺さんである帝さんに仕込まれたもの。そう聞いて、あのお爺さんならと納得のハヤテ君。
 今度は、美琴さんとナギお嬢さまの仲について聞いてみました。
 実の息子であるワタル君とすら三年あったことのない美琴さん。考えてみれば当然のことで、HIKIKOMORIがちのナギお嬢さまとは会う機会はもっと少なく、あまり近しい存在ではない、そうハヤテ君がまた納得したそのときでした。

「ただ」

 お嬢さまは語ります。
 紫子さんをひたすら慕っていたと。
 そして、メチャクチャな性格になってしまったのは、紫子さんが亡くなった後からだと。
 賭け事に鬼神のような強さを発揮する女性、橘美琴さんのことをナギお嬢さまは、そうハヤテ君に語りました。
 












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