しっぽきり

一本目 「葉は毒舌。攻め候補だけど、逆に受けも」何気ない表情で掛算の情報を収集するパティさんでした。
二本目 てめ、バレット、コーラはコカじゃなくペプシっていっつも言ってんだろ! 十秒で買いなおしてこい。


 
 それは皆本さんの転校が決まってすぐのことでした。
 必死に抵抗したものの、特別教育プログラム行きは免れなかった。たぶん外国に留学にすることになる。
 犬を飼っている同士、よく遊んでるような、いじめられてるような関係だった菜々子さんにそう報告する皆本さん。
 お別れの言葉への菜々子さんの反応は、

「ま、元気にやんなよ!」

 意外と軽いものでした。
 小学校時代の同級生なんか、その後会わないとみんな忘れちゃうとか、中学生のときの友達と混同しちゃうとか、街でバッタリ再会、いい健康食品があるんだけど、有機エコロジー栽培で作られた野菜を原料にしてるから、体にとてもいい。体にいいだけじゃなく、心にもいいんだ、俺なんかこれを食べはじめてから人間関係が上手くいくようになったし、エグゼクティブマーケッターになるって目標も出来たから毎日が楽しくて楽しくて、そうだお前もマーケッターになってみないか? 大丈夫、物はいいから、間違いなく売れるよ、俺が保証する、だからこの紙に判子押してこの口座に百万支払ってもらえれば――ぐらいの存在にしかならないと、その時の皆本さんには頭が上がらないというか、どうにも大人びて見えた菜々子さんは言いました。
 そして、こうも言いました。 
 特別教育プログラムに行ったやたらと頭のいいのヤツだから皆忘れない。そして、何より自分は犬を通じてよく遊んでいたから絶対に忘れないと。
 菜々子さんの眼差しに、一人自分が離れてしまう寂しさが消えていく皆本さん。
 自分がここにいたことを覚えていてくれる人がいる。
 そして、きっと自分が向こうで淋しくなったときには励ましてくれる。
 皆本さんは、期待を込めて聞きました。

「じゃあ、時々連絡ぐらいは――」
「しないと思うな」

 返事は、つきあってるわけじゃないし、スポーツマン系が好み。いい子だけどワイルドさが足りない。
 菜々子さんはドライでした。
 あっさりと期待を裏切られたことに腹を立て、宿題わかんないとことか聞いていいという現実的な、菜々子さんが得しそうな妥協を切り捨てる皆本さん。
 
「そーだね。それがいいよ」

 どこかからかうようだった菜々子さんの口調が真剣な、そしてどこか淋しげなものに変わりました。
 
「皆本クンはさ、私たちなんかよりずっとスゴい世界に住む人なんだよ」

 振り向く皆本さんの反論を許さず彼女は続けます。

「すっごく頭いい人たちと一緒に働いて、世の中を変えちゃうような……世界にとって大事っていうかさ。
 でも――」

 近づいてくる小さなトルテの頭を撫でる菜々子さん。
 そして、

「どうしても頼りたくなった時、もう一度相談して甘えたくなった時には、連絡するかも。
 そん時はグチくらいきいてね?」

 小さな二人は最後の約束を交わしました。



 

「そんなカンジかな。彼女とは……」

 幼馴染とのお見合い。
 もっと直接的に何かエピソードがあると思い込んでいた葵さんと薫さんは、意外と淡々としたお話だったことに意外そうでした。
 だからこそ、皆本さんはその彼女との見合いは、結婚を考える機会ではなく、あのとき交わした約束を果たすときなのだろうと気付いていました。それが何かを紫穂さんに探るよう頼んできた皆本さん。
 それは、バベルで働く現在とは関係のない個人的な約束でした。
 だから、皆本さんは、謝りました。
 
「僕も君たちに甘えてたみたいだ。
 すまん」

 怪訝な顔で見る二人。ですが、皆本さんはこれ以上続ける気はありませんでした。
 ヤキモチを期待してたとか、薫にシカトされたのがショックでそれに気付いたとか、僕は大人でこいつらは子供で年齢差が十歳だとか、成人男性と中学生女子ぐらいの年齢差だとネタとしてのロリコン加工するにも不十分で本気臭が若干漂うとか、そんなことは言えません。

 知ってる? 皆本……あたしさ、大好きだったよ。
 十歳のときよりも十倍も――!!

 未来予知の中の儚げな女性。
 それに近づいてきてはいますが、薫さんたちはまだ中学生。まさか、そんなことを考えているなどと認めるわけにはいきません。谷崎ですら一人だったのに自分は三人同時だなんて考えたくありません。
 なので、早く現場に行くよう促す皆本さん。
 二人はそんな皆本さんに違和感を感じながらも、それに従うことにしました。
 そして、三人が辿り着いたとき、ホテルでは――




 銃撃戦が始まっていました。
 爆風が吹き抜けるホテル周囲の森。飛び込んでくる紫穂さんからの無線。
 
「ホテルにパンドラの、連中が大量に潜んでたの!!」

 目を凝らしてみればたしかに見覚えのあるパンドラのエスパー達と、そして画一的な表情の少女兵達はおそらく九具津の人形部隊。

「どりゃ――!! させるかああ――ッ!!」

 応戦しているのは、なぜか居合わせた不二子さん達でした。
 紫穂さんに撃たれる大鎌さんの悲鳴や、槍手さんやお母さんまで巻き込まれていることに頭を痛める皆本さん。
 何故かAチームの指揮をとり、機関銃をぶっ放す賢木先生は焦っていました。
 ECMが作動しているのに、効果がない。
 ECCMではない何かの干渉。その報告を受けた瞬間、賢木先生の脳裏をかすめたのは、兵部京介の存在。
 手榴弾を投げる局長、跳ね返す紅葉さん。
 朧さんを巻き込んで自爆?
 しかし、そんな二人を葵さんがエスケープさせます。

「何をやってんですか、あんたらは!?」

 あまりの混戦に、誰に怒鳴っていいやらわからない皆本さんでしたが、局長にも非はありそうなので、とりあえず一喝。
 大声を出して安心したのか、葵さんに一般人の退避を支持。
 しかし、落ち着いた皆本さんを再び混乱させる因子が一つ。

「よう、元気かい?」

 兵部京介でした。



「兵部京介!!」

 僕の姿を見た瞬間、感情そのものを乗せた君の拳が飛んでくる。
 そこに乗せられた感情は怒りそのもの。
 その拳を掴んで、僕はヤツにこう言ってやる。

「そうカッカすんなよ。あいさつに来ただけさ」
「貴様……!!」

 近く。本当に近くで、君の憎悪の声。
 そんな声ですら、僕は――。

「僕たちは日本に帰ってきた。また仲良くしよう――」

 本心を、そのまま、しかし小馬鹿にしたように言ってやる。
 当然、というべきか、君はその言葉を額面どおりに受け取るつもりはないらしい。
 エスパーとノーマルは共存できる。そう信じる意地っ張りな理想家。
 でも、それなら――

 どうして僕等は仲良くできないんだろうね? 皆本君。



 そんな感じでKANARI☆KITERUせいか鼻血をもらすパティさん。心配する澪さんカズラさんに心配ないからと微笑んで見せます。微笑みの内訳は九割方歓喜。
 見知った澪さんを発見し、文句の一つでも言ってやろうと、三人をにらむ薫さんですが、なにか違和感。
 初対面のはずのカズラさん、パティさんを見たことがあるようなないような、戦ったことがあるような気がしないでもなし、するでもなし。
 珍しく頭が回った澪さんが即時否定したので、記憶がどうのこうのについてはことなきを得ましたが、しかし、純戦力的に危機が訪れたのは次の瞬間でした。
 薫さんの姿が消えたのです。
 そして、瞬きすらさせず、別の場所に現れたとき、薫さんに寄り添うように二つの影。
 葵さんと紫穂さん。
 三人が揃った。
 兵部少佐の本能と理性が同時に撤退指示を出させていました。

「サイキックぅぅ――一網打尽――!!」

 間一髪、難を逃れたパンドラエスパー達。
 しかし、一度放出されてしまった力はもう戻りません。
 ですので、力に見合った被害が出ました。
 バベル側と、あとホテルに。

 そんなわけで、皆本さんは迷彩服の不二子さんを筆頭としたどいつやらこいつまで怒り、薫さんはドサクサまぎれにお姫さま抱っこを堪能し、Aチームは転職を真剣に考え始め、賢木先生は「ヤブ医者じゃない」とうめき、槍手さんは旺盛な世話焼きマインドから見合い続行を提案、菜々子さんはそれにドン引き、皆本さんのお母さんは同意、不二子さんは色々出てしまった被害を「桐壺君も大変だな、お孫さんにお小遣いあげなきゃいけないのに」と思い、局長はそんな不二子さんの考えがわかってしまうので愕然、朧さんはお見合い監視なんかした結果がこれだよと好感度ダウンの現実に打ちのめされこれまた愕然とし、むなしく混乱は終わるのでした。












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