しっぽきり

二本目 抜群のメル友ポゼッション率を誇示する紫穂さんと決定力に欠ける火下さんという日本サッカー界の縮図的なお話。


 昔のクラスメイトと見合いなんだけど、真っ先に止めに来るだろうと予想していた薫さんが来ないことに動揺する皆本さん。とにかく事態を把握しようと、薫さん本人に電話。ですが、薫さんは出ません。何度かけても出ません。
 こんなことがあれば、いの一番に邪魔しにくるはずの薫さんが来ない。皆本さんは、その事実に自らの死臭をかぎました。
 皆本さんだけに皆殺ししてやろうかとか、斧もいいけど鉈も捨て難いとか、鉈もいいけど包丁で八つ裂いて伝説のヤンデレに並ぶのもいいな。
 などと、怒りのあまりにそんなことを言い出してしまうぐらいに混乱しているに違いありません。
 そんなわけで小便を済ませて、ガタガタと震えながら命乞いの算段をしていますと、ブラリと現れた賢木先生がサイコメトリー。リミッターの緊急回線をつかってみたらどうだ、それとも本部に問い合わせてやろうかと、提案してくれます。
 ですが、そんな友人の心配を、皆本さんの常識がスルーします。
 別に非常事態じゃない、そもそも非番。
 口先ではそんなことをいいますが、体はイヤな汗に濡れた非常事態モード。動揺は隠し切れません。
 そんな皆本さんを呼ぶ声が二つ。
 葵さんと紫穂さんでした。
 トイレから出ると、二人はもう先方が来て挨拶している、待たせたら失礼と皆本さんを急かします。どうやら、賢木先生を使って皆本さんを探していたみたいです。
 ですが皆本さんはそんな二人の心遣いよりも、二人の正装が気になります。
 自分たちは、ただ、たまたま皆本さんが見合いをする場所で賢木先生にご飯をおごってもらうだけと主張。
 皆本さんは、そんな偶然の理不尽さを噛み締めつつも、見合い会場へと向かうのでした。




 そして、見合い会場。

「皆本クン……!? 久しぶり……!! なつかしい――!!」

 二人が言ったとおり、既に奈々子さん・お母さん・槍手さんが座っていました。
 爽やかに再会の挨拶しつつ、自分も席に着こうとしたそのときでした。
 急ぎ足の足がもつれて、ドベシャと情けない音を立てて転倒。
 何が起きたかと足元を見れば、出かけるときには何ともなかったはずの靴紐が、ブツリと切れているのです。
 下駄の鼻緒が切れるなら出会いフラグですが、靴紐が切れるのはテリーマンの時代から死亡フラグと相場が決まっています。
 皆本さんの脳裏に浮かんだ、不吉なビジョンは、絶望のあまり、薫さんが皆殺しではなく自分殺しに走ること。大正時代ファッションなあたりが、死ぬ死ぬ詐欺にも思えますが、それでも不吉なことには変りありません。
 そんなわけで、皆本さんは、合間を見て電話をかけることに決めるのでした。
 





 そんな薫さんは、浴槽の中。お湯がに赤くなってたり、窓という窓に目貼りなんかしていません。
 アイスにポテトチップス、そしてお風呂。
 いつもなら、楽しくなるのに、ちっとも心は浮いてきません。
 代わりにプカプカ宙に浮かした携帯電話の液晶には、皆本さんからの着信が表示されています。
 皆本さんからの電話に出たくない。
 かといって、怒っているわけでもない。
 そんな自分に戸惑っていると、呼び鈴が鳴りました。
 モヤモヤを突然の来客への文句に変えつつ、応対しようとドアを開ける薫さん。
 そこにいたのは、なんとお見合いに行ったはずの皆本さん。そして、その監視と邪魔に行ったはずの葵さんと紫穂さん。
 突然帰宅した三人に、慌てふためく薫さん。 

「結婚する気もないのに、見合いなんてバカのすることだ」

 そんな薫さんに、

「元気をお出し。
 女の子はね、自分を一番大事にしない男のことなんか気にしちゃダメだ」

 顔を近づけ、唇を抑えて、

「そうは思わない? クイーン」

 皆本さんの顔をした男が言いました。
 驚きが確信を伴った疑惑に変わった瞬間、薫さんはサイコキノの見えない手で三人を薙ぎ払おうとしました。
 同時に皆本さんの姿をした男が手をかざし、見えない力の甲高い衝突音が部屋に響きました。

「あ……危ないな――っ!!
 ニセモノって気づいても手加減ってもんがあんでしょ!?」
「そんな悪意のあるニセモノに、なんで手加減する必要が!?」

 双方噛み付かんばかりの口喧嘩を止めたのは、皆本さんの姿をした、催眠を解いた兵部少佐でした。
 久しぶりの再会だから盛り上げたいと思った、と笑いながら詫びる兵部少佐。そして、彼の肩に止まったモモンガの桃太郎。お付きの二人は、澪さんと、案外に気弱な一面があるのか澪さんの袖を掴むカズラさん。
 桃太郎から薫さんがへこんでいることを聞いたから、会いに来たという澪さん。しかし、薫さんの意識は、澪さんの言葉ではなく、胸に釘付けでした。
 ある! 釘声のくせにある!
 じっくりと観賞した後は、ダイブ。
 触ったり、揉んだり、頬を埋めたり。
 じっくりと感触を楽しみつつ、何食ったと問い詰めますが、澪さんの記憶力の無さの悲しさか、メロンパンではないぐらいしか情報は得られません。
 色めいた声を漏らしながらも、必死に手だけテレポートで薫さんの攻撃を止めようとする澪さんですが、悲しいかな薫さんは攻めるプロ。主に紫穂さんを相手に鍛えられたオフェンススキルを澪さんは止められません。
 そんな薫さんの攻撃を、引きつつも「これがパティの言ってたことなの? なんだろう、イヤだけど、それなのになんでこんなにドキドキしてるんだろう」と混乱しているカズラさんへの教育的配慮から、兵部少佐がストップ。
 
「さて、ちょっと出ないか、クイーン?」

 澪さんを解放しつつ、どこに行くと尋ねる薫さん。
 兵部少佐の顔が、苦笑いからどこか悲しさを含んだものに変わりました。
 
「僕らの新しい家に……さ」

 海外での地固めはもう終わり、パンドラは拠点を日本に戻して、そしてバベルとも戦う。
 淡々とそう告げる兵部少佐に、息を飲む薫さん。
 数拍の沈黙を破ったのは、桃太郎の明るい声でした。
 自分の部屋もあることに驚く薫さんに、兵部少佐は、今すぐでなくともかまわない。それでも、薫さんすらその気になれば、いつでも歓迎すると笑います。
 だって、薫さんはエスパーのクイーンとして在るんだから。
 兵部少佐の言葉に、再び息を飲む薫さん。
 
「とにかくちょっとくればいーのよ! 敵が偵察させてあげるって言ってんのよ!
 ま、無理にとは言わないけど!?」

 と、最後の一言が余計だとカズラさんに指摘されながらも、薫さんを誘う澪さん。
 今はバベルの人間である薫さんに、場所を特定させるわけにはいかないけど、選択肢を提示したい、なにより自分たちはチルドレンの敵でないことをわかって欲しい。
 そう理由を挙げる兵部少佐。そして、最後の一押し。

「それともここであのバカを待ってる?」

 ピクリと身じろぎし、少しの間考えた後、薫さんは振り返り、自室に向かいつつ、言いました。

「ちょっと待ってて! 着替えてくる!」

 敵のアジトを探りに行くだけ。
 兵部少佐の誘いに乗る理由を、自分に言い聞かせる薫さん。ですが、皆で録った写真を見て漏れた一言は、

「み、皆本が悪いんだからね!?」

 やっぱり皆本さんのことでした。







「う……うん。コメリから戻って、今はバベルに――」
「うわーエリートじゃない!! さすが皆本くんねえ……!!」

 別れてから、今に至るまでのことを話す。
 話を聞く奈々子さんは、お見合い、というよりは同窓会に出ているような表情でしたが、昔のクラスメイトとの再会である以上は、仕方ないのかもしれません。それに経歴を話題にするということ自体は、普通のお見合いと言えます。
 ですが、話している皆本さんが味わっているのは、お見合いの空気でも、同窓会の空気でもありませんでした。

「話、はずんでるみたいやん?」

 皆本さんが感じていたのは、二つの視線、そしてどこかから聞こえるカナカナというヒグラシゼミの鳴き声。
 チラッと視線を走らせると、カレーで昼食を済ませ、デザートにおはぎを食べている葵さんと紫穂さんが、二人で何かひそひそと囁きあっていました。

「目覚めてたらさ」
「何?」
「体がちっちゃいサイボーグになってたら怖いと思わない?」
「恐いわ~。それで、元の体は?」 
「無事だと思う?」
「頭か何か撃ち抜かれてるん?」
「そう。それでね、そのまま終わっちゃうの」
 
 はっきりとは聞こえませんでしたが、皆本さんの耳にはそう聞こえました。
 
「それで?」
「あ、ああ、今はね――」

 話し始めた皆本さんは、喉を、カリッ、と一回掻きました。
 












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