しっぽきり

 GW、成田を発したワタル君とサキさんは機上の人となっていました。
 機中、ワタル君がつぶやきます。

「二人あわせて五十万……か」

 旅行の、それも行きに代金のことを心配するのも無粋ですが、同世代の人間の中では誰よりも(一般の中学生には五十万なんて「とってても大金」としか思えませんでしたし、ワタル君の幼馴染の間では「うーん? はした金?」ぐらいの数字にしかなりません)ワタル君としては、その旅費の大きさに
つぶやきたくもなるのが実情でした。
 そんなワタル君を心配するサキさん。ですが、ワタル君は男の子。サキさんに心配をかけまいとこう言い放ちます。

「要はカジノで勝てばいんだよ勝てば!!」

 ですが現実は厳しいものです。
 そんなワタル君の宣言も、サキさんに、

「勝てなかったら……どうなるんですか?」

 こんな可能性を提示されればすっかり涙目。
 掻き入れ時の長期休暇であるGWに、店を空けて、しかもギャンブルでスったとしたら、それはお店の死亡フラグ。傾く経営、銀行も渋い顔、回らない首、起死回生サキさんの手芸製品フリーマーケットもガラがあんなかんじだから芳しくない、最終的にはSASHIOSAE。
 そんな未来も想像できて、不安を隠しきれないワタル君でしたが、一方サキさんは、初めてのワタル君と二人の海外旅行に期待を隠し切れないのでした。
 
 そんなわけで飛びに飛んでロサンゼルス。
 ○と×で泥とか、スタッフをライジングインパクトするMCの七番アイアンとかを経ずに、無事にロサンゼルスに到着できたことを喜ぶ、アメリカ初上陸のサキさんがまず驚いたのは、空港に外国人が一杯いること。それも、比率としてはメリケンスメルを漂わせる国籍の人が一番多いことに世の中の不思議を感じるサキさん。そんなサキさんも海外自体ははじめてじゃありません。
 幼い頃の思い出、伝説のメイドである祖母との海外旅行。
 ですが、その記憶は朧なものです。熱砂とか、渇きとか、砂漠の砂っぽさとか、熱にやられて祖母が倒れた恐怖とか、そこから起き上がって「まだまだ死ねないよ」とサキさんの頬を撫でたサキさんの手のカサつきとか、久しぶりのシャワーで髪を洗おうとしたら吹き付けられた砂が付着した頭がガリついていたこととか、なんだか積極的に忘れたいことばかり。
 それでもともかく、アメリカははじめて。しかもラスベガス。
 幸運の女神を微笑ませようと、人は必勝を誓うのでした。



「ラスベガスのカジノって……勝てるんですか?」
「ん? ああ、勝てるよ。
 カジノの経営者がな」

 そんなわけで、国内居残りを決め込み、見事にハヤテ君の数多いフラグを決めて気分がいいのか、饒舌に、ギャンブルの勝者は常に、テラ銭かっさらっていく胴元と、一見貧相な小学生と、小豆相場に大金を突っ込んだ者と、レース前複数人数に「次のレース、来るのはこの馬だよ」と違う買い目を教えてレース後当たりの買い目を教えた人に近づいていって「な? 言ったとおりだろ。じゃあ、教授料」と言ってくるオッちゃんと相場が決まっていると語るナギお嬢さま。
 現実がそうである以上、旅費をカジノで稼ごうとするワタル君の発想はアレな発想だと指摘するナギお嬢さまですが、条件付ではありますが、こんな可能性も示唆しました。

「運がよければもしかしたら」

 そう、ワタル君が望むのは数千万ではなく、五十万。
 運次第では望めない額ではありません。
 その言葉に感じるものがあったハヤテ君ですが、ナギお嬢さまとマリアさんの視線は「都合のいいこと考えるなよ、身の程知らずが」的なものが混じってるようなそうでないような、冷たい視線を向けられます。
 「そんなことはない! 僕は宝くじで三千円あてたんだぞ!」と主張したいハヤテ君ですが、自分の借金額を考えれば、そんなものは焼け石に水、無限力に砂漠の虎。反論はできません。というか、もらえてないので、宝くじが当たってももうからないと、余計に不運と主張するようなもの。
 そんなわけで、ラスベガスに行ったワタル君を肴にコーヒーと漫画を楽しんでいたナギお嬢さまでしたが、ふとこんなことを言いました。
 ワタル君はラスベガスにいる知人のことを忘れていると。


 その頃、ロサンゼルス空港と成田空港って変わんなくね? と感想を言い合うワタル君とサキさん。
 ゲートが片仮名で表記してあるとか、ワタル君が現地の人とうっかりぶつかったのに怒るどころか、「ヘイ! カミカゼボーイ! ドゲザ!! ハラキリ!!」と、顔を赤くして日本語で歓待してくれ、奥さんが止めなければ熱烈なスキンシップを主に拳でしてくれそうなぐらいに、日本人への歓迎ムードにあふれた空港に思わず気が緩む二人。
 それでも、ここはアメリカと主張するように、お菓子はカラフルです。ジャンクっぽいムードを漂わせています。
 そんなロサンゼルス空港から、また飛行機に乗った二人は、ようやくラスベガスに。
 飛行機から降り、サキさんからラスベガスについて尋ねられたワタル君。

「賭け事の好きな奴が集まる街なんじゃない?」
 
 いささか安直だなと自分でも思うぐらいにストレートなイメージを語るワタル君。
 しかし、現実はもっと安直でした。
 空港なのに、スロットマシン。スロットマシンがあるのに空港。
 一瞬、呆気に取られたワタル君ですが、いかにギャンブルの街とはいえ、ストレートすぎるし、空港にあるスロットマシンなんて、とてもじゃないけど、コインなんて出ないだろう。
 そう考え、いわばマスコット的なものだろうと、高をくくっていたワタル君ですが、それを否定する声がします。振り向くと、胸にマスコット的なものをたっぷりと身にまとった幼馴染・咲夜嬢。
 話を聞いてみれば、ナギお嬢さまのお母様であるところの紫子さんは、三千万円のコインを空港のスロットマシーンで積み上げ、機械から大量に吐き出されるコインという恐怖を、ナギお嬢さまの数多いトラウマリストに付け加えたとか。
 それを聞いて俄然やる気を出すワタル君、そしてサキさん。
 旅費なんてちゃちなことは言わない! ここはラスベガス、夢の街! ガツンと一発、店の立替資金を稼いでやる!
 そう熱くなるワタル君とサキさんに、咲夜嬢は諦観に似た何かを見出すのでした。
 景気のいい話を聞いたところで、一勝負と行きたいところですが、咲夜嬢に、ホテルまで車で送っていってやると促されたワタル君は、「まあラスベガスは逃げていかないしな」と思い、咲夜嬢に従うことにしました。
 そして走り出す車。
 オープンカーからサキさんが感じるのは、降り注ぐ陽光、乾いた空気、立ち並ぶ看板、お祭りでもしているかのような熱気。
 
「これがラスベガスですか――!!」

 立ち上がりはしゃぐサキさんを、車から落ちるんじゃないかとしかめっ面で心配するワタル君。
 ですが、サキさんの顔を見ているうちに、思わず頬が緩んできました。
 ――来てよかった。
 咲夜嬢に冷やかされ、否定しようと、心の中のその感情は消えませんでした。

 
 そんなわけで、ホテルに到着した三人。ですが、咲夜嬢は友達との約束があるとかで、いなくなってしまいました。
 二人っきりになったワタル君とサキさん。
 ホテルの豪華さに、一層はしゃぐサキさんの姿を見ながら、ワタル君は、サキさんとの二人での旅行が久しぶりであることに気付きました。
 去年の下田旅行は二人で行きましたがあの時は日帰り、そう考えると、ちゃんと旅行したといえるのは二年ぶりぐらいかもしれない、そんなことを思っていると、サキさんが微笑みながら言いました。

「二年ぶり……ですね」

 覚えていてくれて、そしてワタル君と同じことを考えていたサキさんが続けます。

「楽しい旅行になるといいですね」

 今度は、ワタル君がサキさんと同じことを考えました。
 
  

「さて……」

 同じ街、違う時間。
 麗人が薄く笑って言いました。

「では行きましょうか。一条君」












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