しっぽきり

一本目 死屍累々の中、生き残るバレットさんの強かさ。
二本目 路線にのって出したCDはそこそこにしか売れませんでした。



 
 とある日、有給休暇を局長室に申請しに行った、皆本さん。理由は、個人的な用事があるからだとかなんだとか。
 幸いなことに、当面、訓練や任務のスケジュールはなく、チルドレン達もそれなりに成長したことで、数日なら放っておいても心配なし。
 そんなわけで申請は受理されました。ですが、退室した皆本さんには気がかりなことが一つ。
 局長が知っていたのです、自分が実家に帰るために有給休暇を申請したことを。
 



 疑念を持った皆本さんが去った局長室。
 局長からの合図を受けて、現れたのはチルドレンの三人。
 
「男でノーマルでお人よしの皆本はんに、」
「私たちに隠し事ができると思って?」

 局長達の情報源は、案の定と言うべきかチルドレン達。その主犯格であろう紫穂さんは、大きな丸めた紙を薫さんに渡しました。

「薫ちゃん! これ、お願い」

 やたらと高い二人のテンションとは対照的に、心ここにあらずな表情をしていた薫さんが、サイコキノで壁に貼り付けた紙には、「お見合い監視対策本部」と描かれていました。
 皆本さんのお見合い。
 それこそが、
 チルドレン達から局長にもたらされた情報でした。
 そして、幕が張られた瞬間、局長室はお見合い監視対策本部に変ったのです。
 高らかに状況の開始を宣言する桐壺局長、各方面に指示を出す朧さん。内緒のお見合いをブッつぶすのに気合十分な葵さん、紫穂さん。ですが、なぜか薫さんのテンションだけは低いのでした。



 そしてお見合い当日。チルドレン三人は、友達の家に行くとかで、朝早くからさっさと出かけてしまいました。行き先も言わずに出かけてしまったチルドレン達にも、やはり皆本さんは嫌な予感を覚えていました。
 そもそも、お母さんから電話があった、見合いの話が来た夜からして三人の様子は変でした。

 あの夜、電話をかけてきたお母さんは、どこかそわそわしていました。
 妙な胸騒ぎを覚える皆本さん。皆本さんの予感、ことに悪い予感というものは大体当たるもので、お母さんは近況報告もそこそこにこんなことを切り出してきました。
 ――お見合いをしないか?
 皆本さんは、今回の胸騒ぎが多くの例通り的中したことへの疲労感よりも、自分に見合い話が持ちかけられたことにまず驚きました。
 見合い。
 結婚なんて、皆本さんはチルドレンの世話で手一杯、さらにまだ二二歳なこともあって、お見合いでの結婚ということは欠片も考えたことがありません。
 なので、当然断るつもりでした。しかし、皆本さんが断っても、お母さんはあきらめようとしません。
 
「だから、僕はまだそんな年じゃないですし。いや、でも……」
「皆本―――――?」

 徹底抗戦の構えを見せようとした皆本さんに飛びついてきたのが薫さん。
 知られては面倒くさいことになる。電話を切り、何事もなかったように振舞おうとする皆本さん。ですが、薫さんに気を取られる隙に、もっとも注意すべき存在の接近を許していました。

「大丈夫、お母さんからよ。内容はプライバシーだから透視まないでおくけど」

 着信もプライバシーの権利に含まれるはずと主張する皆本さん。ですが、自分達には知る権利があると紫穂さんは聞く耳を持ちません。
 
「そーうや皆本はんの家族って、ウチらおうたことないな」

 そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけた葵さんが、こんなことを言い始めました。
 皆本さんは、葵さんの言葉に従う必要を認めませんでした。
 そもそも、チルドレン達と自分は、特務エスパーとその担当。言ってみるなら部下と上司。教育上、皆本さんが三人の家族に会う必要があっても、三人が皆本さんの家族に会う必要はありません。
 ですが、薫さんはそれがご不満の様子。自分達三人のお義母さんになる人だと、怒りもあらわに会わせるよう強要してきます。
 皆本さんは真人間。勿論、三人と結婚するなんて法を破る外道な真似をするつもりもありませんし、結婚できる年齢の女性に興味を示すかどうかも定かではありません。
 しかし、言葉のマジックとでも言うべきか、皆本さんの三人全員とは結婚しないという言葉を、「誰か一人とはする気がある」と脳内変換、三人は皆本さんを景品にジャンケンを開始。
 皆本さんは、とりあえず、放っておいて、入浴することにするのでした。
 そして、騒ぎも収まった午後十時。
 皆本さんは、自室に戻り、お母さんに電話をかけなおしました。

「あのさあ、なんでそんなに見合いを勧めるんですか?」

 皆本さんは二二歳、フラグ立てに困ったことはありませんし、まだまだ慌てるような年齢じゃありません。
 それなのに、ここまで勧めてくるということは何か理由があるに違いない。
 皆本さんの予想は当たっていました。
 見合いを望んでいたのは、見合いのセッティングと押しの強さに定評のある槍手さん。適当なネーミングが光るナイスばーさんの頼みとあっては、お母さんも断りきれない。だから、お母さんも、見合いの話を皆本さんに話したのです。
 そして、お母さんはこうも言いました。お見合い相手は、皆本さんの小学生時代の同級生だと。
 聞き覚えのある名前に、皆本さんは確認しようと小学生時代のアルバムを開きました。
 ら―り―る―れ―ろ――わ
 若山奈々子。
 黒子と長い黒髪な、転校したときのクラスメート。
 それが、若山奈々子ちゃんでした。
 お母さんに、お見合いを受けると報告したあと、皆本さんは三人に、出かけることを伝えるために三人の部屋に向かいました。
 ノックし、部屋に入る皆本さん。
 ベッドには三人が寝ています。ですが、なにか様子が変です。
 妙に息を切らしているというか、その割りに無理に睡魔に負けそうアピールをしてくるところとか。そういえば、部屋に入った瞬間、急にベッドの上が膨らんだようにも見えました。
 訝しがる皆本さんですが、それはともかくとして、来週でかけることを話し、三人に留守を頼みました。
 帰ってきたのは、

「うん、いいよ」
「ごゆっくり――」
「むにゃむにゃ」

 言葉とは裏腹に殺気の篭った返事でした。



 
 あの夜のこと、そして、局長が知っていたことを考えればチルドレンが、お見合いのことを知っているのはまず間違いありません。
 ついて来ると言い出さないのは不気味ですが、局長が噛んでいる、つまりバベルの力が絡んでくることでしょう。
 面白半分に監視して、最後の最後で邪魔にしにくる、そんなところか。
 皆本さんは、ため息を漏らしながらも、一方で、結婚する気もありませんでしたし、それはそれで構わないかと、現状を受け入れる気分で、故郷へと車を走らせ始めました。



 
 そんな皆本さんが冷めているとは露知らず、お見合い監視対策本部の議論は白熱していました。
 モニターに映し出されたターゲットは、若山奈々子さん二二歳。日の宮大学卒の家事手伝い。
 皆本さんのが五年生時に、転校したときのクラスメート。特に連絡は取っていなかった。どこかで自主規制が働いたような軍服に身を包んだ紫穂さんが語ります。
 相手が彼女と分かった途端に見合いOK、初恋の人では? まずい部分をヒヨコのマークに変えた帽子を被った葵さんが疑います。
 結婚まで、という心配はなさそうだけど、いい雰囲気はとにかく潰そう、レギュラー化なんてもっての他と意気上がる二人とは対照的に、薫さんはまだ、自分の心に戸惑っていました。
 薫さんの胸の中に広がっていたのは、怒りの炎ではなく、もやもやとして晴れない霧。
 自分の知らない皆本を知っている人がいる。
 そう思うだけで、薫さんの胸は、締め付けられるように痛むのでした。












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