しっぽきり

 GWも始まった四月二八日。
 次々と海外旅行を決め込む友人知人達はさておいて、ナギお嬢さまはナギお嬢さまで連休を堪能していました。
 青葉を抜ける木漏れ日、さっと吹き抜けていく風。
 そして、

「いやー、しかし休みはいい。やはり休息こそ現代人に必要な最高のサプリメント」

 液晶モニターに映る、ゲーム画面。
 ゲームによって疲れた目。しかし、見上げれば眩しいぐらいの新緑の若葉が癒してくれる。完璧な体制を整えて、次々フラグを打ち立てていくナギお嬢さま。
 主の心は従者にも伝わるのでしょう。そんなナギお嬢さまの執事であるところのハヤテ君も、フラグを立てていました。ただしリアルで。
 ナギお嬢さまがふと顔を上げると、ハヤテ君が知ってるような知らないような顔の少女と話しています。
 
「あははは、もぉハヤテさんったら」

 しかも親しげに。 
 ナギお嬢さまが固まっているうちに、ミスター園芸道とロゴの入ったエプロンをしたその少女は、去っていきました。
 これは問いたださなければならない。
 使命感に突き動かされるナギお嬢さまは、ハヤテ君の背後に音も無く迫り、あれは誰かと問います。
 突如、背後に現れたナギお嬢さまに驚きつつも、ハヤテ君は少女の説明を始めました。
 ミスター園芸道の名前は京橋ヨミ。三千院家も、庭の肥料とかを買ってる園芸店の娘さん。一五歳。休みの日は、一生懸命手伝う働き者。
 スラスラとそう答え、ハヤテ君はヨミさんから受け取った袋を抱え、忙しそうにその場を去っていきました。
 


 ハヤテ君が去り、ゲームを再開する気分でもなくなったナギお嬢さまは部屋に戻りました。
 ハヤテ君は、ロリコンです。自分にあんな熱い告白かましてくれたのだから、問答無用に、疑いようのない真のロリコンです。
 そのロリコンのハヤテ君にとっては、一五歳も十分守備範囲内。年下で働き者の園芸少女、一五歳。由々しき問題です。
 そういえば、最近ハヤテ君はかまってくれません。いえ、色々かまってくれてはいますが、料理とか掃除とか選択とか、それはあくまでも、執事として、というか、お母さん目線な感じ。
 思い悩むナギお嬢さまの耳に、おもむろにつけたテレビから、こんな言葉が飛び込んできました。
 倦怠期。恋人というより、兄妹のような関係。
 ――倦怠期!! なるほどそういものもあるか!!
 告白されてから、もう五ヵ月。付き合い始めたように熱くはなかなか行かなくても仕方ない。
 そんな風にも思うナギお嬢さまでしたが、勿論、そのままで良いわけはありません。
 ハヤテ君は、どこにでも立っているし、どこにも立っていない式のシュレディンガーのジゴロ。長い時間が確保できる、GW中に何とか二人の関係を熱いものに戻さなくてはならない。
 決意したナギお嬢さま。誰か恋愛に詳しいアドバイザーが欲しいところですが、ナギお嬢さまの頼みの綱、落とし神様のサイトは、忙しいのか中々更新されません。
 人を頼れないのなら、自分の力でやるのみ。
 そう、ナギお嬢さまは、誇り高い三千院家の跡取り。他者を頼ることなんてありません。リアルの他人なんて、誰が信じられるというのでしょう?
 とりあえず、お嬢さまはハヤテ君と二人きりの状況を作り出すことにしました。
 猫のタマを使って。 



 
 猫のタマはなぜか、突然そこら辺の雑草を貪り喰らいはじめ、腹痛を起こしてしまいました。
 ナギお嬢さまからそのことを報告された瞬間、教養を高めるために三味線を習い始めようかどうか一瞬だけ思案した優しいマリアさんは、自分の花壇と農園が無事なことを確認してから、「トラの治療するんだったら、獣医を呼んだほうが早いですよね、まあタマは猫だからいいんですけど」ということを考えながらも、タマを病院に連れていってあげることにしました。
 そんなわけでお屋敷にはナギお嬢さまとハヤテ君が二人きり。
 せっかくタマが胃痛を起こして、二人きりのシチュエーションを作ってくれたのですから、主としてそれを活かさないわけにはいきません。
 さて、どうすべえか、とハヤテ君攻略法を思案するナギお嬢さま。そんなナギお嬢さまに、ハヤテ君は、水まきをするからゲーム機を片付けていいかと聞いてきます。流れでなんとなく頷くナギお嬢さまでしたが「水まき」という単語に、ナギお嬢さまのインスピレーションが働きました。
 水まき、暴走したホースという態でハヤテにビシャッ、透ける白いシャツ、張り付いてあらわになる引き締まりつつも華奢なライン。
 ――これだっ!
 水まきというシチュエーションに自らはまり込んでくれたハヤテ君にお礼を言いたくなるのをなんとか押し殺して、ナギお嬢さまは水まきのお手伝いを立候補するのでした。
 


「愛歌さんはGW、海外とか行かれないんですか?」

 生徒会の仕事を終えて、帰宅中の愛歌さんに、同じく生徒会メンバーの千桜さんが尋ねました。
 すこし先の話になるけど、届け物的な用事でギリシャまで行く予定だと答える愛歌さん。

「まぁ私は海外に行く予定もないので、みなさんからのおみやげを期待してますよ。では」

 そんなこんな雑談をしているうちに、千桜さんとも別れることに。
 ギリシャへのおつかいに思いを馳せているうちにいつもと違う道を通ってしまったのか、気付けば三千院邸前。
 
「ああ!! 愛歌さん危なーい」

 知った声に顔を向ければ、向かってくるのは水流。交わせるか交わせないか微妙な勢いでしたか、そこは愛歌さん。運動神経が皆無といっていいほどないので、直撃を受けてしまいました。
 思わず倒れこむ愛歌さん。髪の毛はたっぷりと水を含み、当然制服も濡れて体に吸い付いています。
 駆け寄ってきたハヤテ君にぶつけるのは怨みの言葉。

「あ・や・さ・き・く~ん」

 それを聞いたハヤテ君は、ホースを握っていたとはいえ主人のナギお嬢さまに罪をかぶせるわけにもいかず、思わず「何でもします」と平謝り。
 それに対する愛歌さんの返事は――

 くちっ

 くしゃみでした。


 
 

 風邪をひいてはなんですからと、入浴することを愛歌さんにすすめたハヤテ君。愛歌さんもそれを受けて、入浴。
 さすがに三千院家のお風呂だけあって広く、湯加減も上々。とりあえずお風呂に不満はありません。

「ではタオルとかここに置いておきますので……上がったら言ってください」

 ですが、このハヤテ君の対応には不満がありました。
 タオルだけでは困るのです。
 そう、先程の水害で、下着までビショ濡れ。このままでは帰ることができません。

「綾崎君、替えの下着を用意してくださる?」

 ハヤテ君の反応は、状況を理解していないのか、したくないのか「ええ!?」という狼狽した一言。
 ですが、そんなハヤテ君の反応が楽しかったのか、愛歌さんの口が滑らかに動き始めました。
 ナギちゃんたちの下着を使うわけにはいかない、洗ってもらうのも恥ずかしい。
 含んで言い聞かせる愛歌さんの望むところは一つでした。

「今すぐ買ってきてくださる?」

 さらに慌てるハヤテ君ですが、愛歌さんは聞き耳を持ちません。

「なんでもするって約束しましとぁ。そんなにムチャな事言っているわけではにのですから、これくらいのワガママ聞いてください~」

 浴槽の中の岩にもたれかかるようにして、もう一声。

「あ~いたたた……水に濡れて、元々弱くて病弱な私の体が悲鳴をあげていますわ」

 反論はありませんでした。
 かわいくてキュートなのを、と頼む愛歌さんの声にハヤテ君はすごすごと着替え場から出て行くのでした。



 そんな一部始終を聞いて、ハヤテ君が出て行くのを見届けたナギお嬢さまは、愛歌さんのワンサイドゲームに感銘を受けていました。
 ハヤテ君を言葉だけで手玉にとる手練手管。
 マスター・オブ・ラブ!!
 ハト魔人という他とは隔絶したネーミングセンスを持つナギお嬢さまの脳裏にそんな言葉がよぎりました。ついでにラブ師匠という言葉も。
 そう思いつけば、ラブ師匠に師事したくなるのが、人情というもの。
 ナギお嬢さまはいてもたってもいられず、着替え場に飛び込み叫びました。

「あ……!! あの……ラブ師匠!!」
 
 ラブ師匠、聞き覚えのない響きの単語ですが、状況からして自分しかいないこと、そして、たしかに自分はラブ師匠に近いかもしれない人を見る目が、少なくとも自分をそう呼んでいる子よりは。
 そんなわけで、白皇敷地内に、隠し部屋を持つ愛歌さんは、しれっとノリました。

「まぁたしかに私はラブ師匠といえなくもないわ」

 その言葉に、この人こそが自分を導いてくれる人だと確信を深めるナギお嬢さまは、こう尋ねました。

「あの……!! ではラブ師匠に友達の事でお聞きしたいのですが……倦怠期を迎えた恋人はいったいどうしたらいいんでしょうか?」

 一瞬、考えた後、ラブ師匠は、こう言いました。

「そりゃあやっぱり……ちょっと肉体的な刺激を求めるべきよね~」

 あまりにスパイシーなそのアドバイスに取り乱すナギお嬢さま。
 ――刺激の強すぎるアドバイスはためにならない。
 そう考えたのか、愛歌さんはナギお嬢さまにこんな道筋をつけてあげました。

「まぁ具体的には次に言うメールマガジンに今すぐ登録すると、月額たったの315円で「ラブ師匠のラブマガジン」が送られてくるのでそれを参考に……」
「わかりました!! 今すぐ登録するのでアドレスを……!!」

 ナギお嬢さまが登録を即決したので、「ラブ師匠のラブマガジン」は登録料の他にワンメールごとに課金されていくシステムなのを説明する暇が愛歌さんにはありませんでした。
 暇があったとして説明する気があったかどうかは、湯気の中。
 ともかく、新たな師弟関係がここに誕生したのでした。





「すいません、これお願いします」
「あら、彼女へのプレゼントですが?」
「かの……いえっ、とんでもない!」
「あら、じゃあご自分用なんですね」
「えっ、いやっ……」
「大丈夫、とってもお似合いになると思いますよ」
「だから、ちが――」
「無理しなくていいですよ。そういうお客さま、たまにいらっしゃいますから。支払いはカードですね。では、ありがとうございました」




「……似合う、のかな?」

>「……似合う、のかな?」
 そして、改めて絶チルのサプリとタッグを組み「今週はダブルハーマイオニだからな」となるんですね?Σ(´・ω・ノ)ノ

2008.11.21 00:13 URL | すがたけ #YrGnQh/o [ 編集 ]

>ダブルハーマイオニー

 ええ。そこから、サンデー各作品の主人公を次々とハーマイオニっていく、「女装ハーマイオニースピリッツ」が始まるのです(`・ω・´)

2008.11.21 07:33 URL | 美尾 #9ayR5QDw [ 編集 ]













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