しっぽきり

 二百的な何かとか、新しいヒロインヒエラルキーを決めようじゃないかとか、問答無用のお約束とかが詰め込まれたお嬢さまの大スペクタクル「魔法少女ブリトニー・ハト魔人編」の公開はハヤテ君に二年程お預けを食らってしまいました。
 そんなわけで、ナギお嬢さまが、才能が理解されないことに嘆く早すぎた天才気取りで学校をサボろうとしたものの、マリアさんとハヤテ君にその手はお見通しといったゴタゴタがあってかなくてか、とにかく日付は四月の二八日。
 待ちに待ったゴールデンウィークです。


 なんやかやと咲夜嬢に詰め将棋をくらって、ゴールデンウィークはラスベガスに出かけることになったワタル君は渋い顔をしていました。
 ラスベガスに行くことは、経過はどうであれ自分で決めたことですし、納得はしています。ワタル君の顔を渋くさせていたのは別の理由でした。

「なんでそんな荷物だらけなんだよ」

 そう、サキさんの荷物がやたらと多いのです。トランク六つぐらい。
 女の子には色々必要、そう主張する、ベガス? メイド服で行ってやんよ! とマリアさんを部分的に上回った感のあるサキさん。
 旅行なんて、荷物はカバンの一つか二つにまとめて、動きやすくするもの。最悪、短パンさえあれば、それをはいてちょっとスネた態度を取れば、年上の女性が親切にしてくれることを身をもって体験しているワタル君は反論します。
 アメリカには着替えのメイド服がないかもしれない。なおもサキさんはそう主張します。
 エプロンドレスをとったらメイドがメイドでなくなってしまう! 
 メイド服をとられた自分は、ニートの友達が二人いる若干無愛想で天然なメガネキャラになってしまう!
 自己の証明をかけたサキさんの主張が続く中、フラリと現れたのが咲夜嬢。彼女も同行するはずなのですが、ヒラヒラと振られた手には荷物なんて見えない手ブラです。
 ですが、咲夜嬢は手ブラじゃないと言い出します。
 財布とパスポート、そして携帯はポケットの中に入っている。財布も、ちゃんとカードだけじゃなく、お札もあります。さらに、五百円玉一枚、百円玉四枚、五〇円玉一枚、十円玉四枚、五円玉一枚、一円玉四枚で、カップヌードル一六八円みたいな中途半端な値段の買い物をしても、レジですぐに対応できるし、準備は万端であることをアピールする庶民派咲夜嬢。
 ですが、ワタル君はまだ咲夜嬢は手ブラだと言います。そして、アメリカをなめていると主張します。せめて、着替えとか洗面道具だとかが必要だろう、そうですよメイド服の着替えは必要、いやその理屈はおかしい、などと口論が再び始まりそうなところに咲夜嬢ポツリ。

「せやけどうウチ、ラスベガスに家があるし」

 少年社長は、目の前の少女が庶民感覚はあるけど大富豪だったことをあらためて思い出すのでした。
 そんなわけで、愛沢家があるならメイド服の着替えは心配なさそうとサキさんも落ち着いたところで、三人を乗せて車は空港へ向かうのでした。




 歩さんは成田空港で歓声をあげていました。
 一般家庭の娘さんであるところの歩さんは、成田空港にくるのは初めて、初体験の光景、そして天気も気持ちよく晴れた絶好の飛行機日和に胸も躍ります。
 時期がじきなだけに、空港に集まった人々は、これからの旅路に思いを馳せて、みんな笑顔です。しかし、その中に、世界の終わりみたいな顔をした少女が一人。ヒナギクさんでした。
 理由は、今から飛行機に乗るからじゃない? とのこと。空港に着たからにはそれが当然なのですが、高いところが大嫌いなヒナギクさんとしては、いくら生徒会三人組に、
 まったく往生際の悪い奴だ。
 たかが飛行機ぐらいでなぁ。
 空飛ぶの楽しーよー。
 等と畳み込まれても、あんな鉄の塊で空を飛ぶなんて、ヒナギクさんにとっては狂気の沙汰です。そもそもにして、なんで三人がここにいるのか? 八つ当たり気味の質問への答えは簡潔でした。
 旅行は大勢のほうが楽しい。
 そいて、ヒナギクさんを誘った歩さんもこうフォローします。

「それに理沙さんたちがいなかったら、さすがに両親の説得は難しかったというか」

 そう、暇つぶしに海外旅行なんてザラなお嬢さまたちと違って、歩さんは普通のお家の長女。子供だけで海外旅行なんてと、反対されてしまったのです。
 反対され困ってしまった歩さんは、お金持ちだから海外経験が豊富そうな知り合いの顔を思い出して、神社までMTBをキコキコ。竹箒で砂利ゴルフに興じる理沙さんに、かくかくしがじか、ヒナギクさんとしっぽり海外旅行にしけこみたいんですけど、妙案はありませんか? と相談を持ちかけました。
 最初は、足で書いた丸をカップに見立てた砂利パット百本連続成功に挑戦しつつ、フンフンと頷くだけの理沙さんでしたが、ヒナギクさんの名前を聞いた途端、顔を上げて、こう言いました。

「ああ、私達が一緒に行こう。そうすれば、親御さんも納得するだろう」

 そうサラッと言った理沙さんに、歩さんもびっくり。

「でも、そのいいんですか?」
「うん。どうせ、GWはどっか行こうと思ってたし、それにヒナギクもいじめたいし」

 そして、歩さんに策を授けると、再び砂利に目を落とし、パットを再開しました。
 理沙さんへのお礼もそこそこに、歩さんは帰宅。
 そして、開口一番、お母さんにこう言いました。
 
「元総理の孫と、大手電子機器メーカーの会長の令嬢と、地元の有力者な神社の巫女さんと、あと白皇の生徒会長さんが付いてきてるの。行っちゃダメかな? かな?」

 まくし立てる歩さんに、お母さんがしたことは、許可でも反対でもなく、歩さんの額に手を当てることでした。
 それもそのはず、歩さんが通っているのは普通の都立高校。そんな面子と知り合う機会なんて、まずありません。
 熱はないみたいだけど、一応と、体温計を取り出したお母さんに、仕方なく歩さんは理沙さんに電話をかけました。そして、お母さんに「これが巫女さん」と変ります。お母さんが電話に出ると、たしかに電話口の向こうでは、「朝風理沙」と名乗る少女が喋っています。しかし、お母さんはリサリサ詐欺だと信じてくれません。
 仕方ないので、今度は神社のほうに電話をすることにしました。神社に電話する、理沙さんが出る、理沙さんが神社の子供と証明されるという寸法です。
 そんなわけで、番号をプッシュし、お母さんに渡します。
 これでお母さんも納得してくれるだろうと安心の歩さん。ですが、なんだか様子が変です。向こうの声が聞こえないのですが、会話がなんとなくかみ合っていない様子。さらに、自分を見るお母さんの視線もなんだか険しい。そして、電話を切ると、なぜすぐにバレるようなウソをつくの? といい始めました。お爺さんが電話に出て、会話がかみ合わなかった。
 それを聞いた歩さんは、家の人が出たに違いないと思い、必死にもう一度電話をかけなおしてくれるように頼みました。
 真剣に頼み込む娘の姿に、お母さんは二ヶ月ほど前のことを思い出しました。
 シスター姿の少女に朝っぱらからドアノブを壊されたり、なんか執事を名乗る少年にお世話されたり、果ては部屋がトラが目一杯暴れたように荒れていたあの日のこと。その弁償をしてくれたのは、たしか三千院家ではなかったか? 娘の人脈に何かを自分の知らない部分があることを感じ取ったお母さんはもう一度電話をかけました。そして、お孫さんがいないかどうか尋ねました。いる。お爺さんはそういいました。ならばと、電話を変ってもらうと聞こえてきたのは、先ほどの少女の声。
 なにやら会話を交わし、お礼を言うお母さんの姿に、歩さんはどうやら自分の正しさが証明されたらしいと悟りました。
 お母さんは電話を切るとこう言いました。

「行っていいわよ。朝風さん達に、粗相――仲良くしてきなさいね」

 なにか、母親の視線に変な期待が込められているような気がしないでもありませんでしたが、とにかく旅行に行けることになったらしい歩さんは、素直に頷いておきました。


 そんなわけで、成田空港に集った錚々たる面々。
 肩書きはともかくとして、点数的な意味で赤い脳みそをもつ三人と、名実伴わないとなれないけど、今は飛行機への恐怖でガクブル状態の生徒会長さん。
 その怯えっぷりは雨に濡れたチワワみたいで、普段はいじめられかわいい泉さんにまで、チワワかわいいと言われる始末。
 それでも、三人の中での良心派。悪意はないけど、ついうっかりでヒナギクさんの手を煩わせる泉さんは、豆知識でチワワさんを励まそうとします。
 飛行機は四三八年に一回しか落ちないから、車とかよりもよっぽど安全。
 ですが、ヒナギクさんの高所恐怖症フィルターにはこう変換されました。
 飛行機が落ちるのは四三八年に一回。
 飛行が落ちるのは一回。
 飛行機が落ちる一回。
 飛行機が落ちる。
 落ちる。
 マイナス思念に取り付かれたヒナギクさんは打ちのめされ、泉さんの豆知識はヒナギクさんの不安を浄解するどころか、増大させてしまいました。
 それはそれ。どう考えても、フォローの仕様はないし、これはこれでいいと幼馴染に見切りをつけた美希さんは、歩さんに、親御さんはパスポートを持っていないのに、よくパスポートを持っていたねと質問をすることにしました。
 歩さんには昔、大好きだった先生がいました。両親が持っていないパスポートを、娘の歩さんが持っていたのは、その先生の「行くかどうかはわからないけど旅の準備は欠かすな」という教えを忠実に守っていたからです。
 ですが、旅という言葉が、飛行機の歴史を語って、現在の飛行機がいかに安全になったか語ろうとする泉さんと、その開発の歴史の中で起きた事故にマイナス思考を加速させていくヒナギクさんを除く二人には、どうやら身近にそういう人がいるのか、夜逃げとか借金取りから逃げるといったニュアンスに伝わったようでした。

 

 そんな教え子達の先生である雪路さんは、なんとか死守した白皇学園宿直室で旅装を調えていました。しかし、「ありゃ?」、お気に入りのスカートがきつくなっています。
 どうやら少し太ってしまったようです。あれだけ動いているのになんで? と雪路さんは疑問でしたが、あれだけ飲んでしまってはいかんともしがたいところです。ダイエットを誓いつつ、無理すればはけないこともないけど、イタリアへの長旅ですし、余計な負担は避けたいと、お気に入りではなないものの、楽なズボンを選ぼうとする雪路さん。
 ですが、せっかくの旅行です。
 せっかくのイタリアです。
 それに――




 新宿駅。
 成田エクスプレスをホームで待つ薫先生。時計を見て、待ち人がなかなか来ないことを心配しています。

「おまたせ」

 ようやく来たかと振り向くと、そこにはスカート姿で決めてきた雪路さん。見とれてしまったのか、何も言わずにいると、何故か雪路さんは、お怒りモード。スーツ姿の薫先生の服装に、イタリアなめんなと言い出します。そんな、旅行に気合十分らしい雪路さん。服装選びに、時間をかけたせいか、朝ご飯を食べ損ねたといいます。それなら、弁当でも買っていこうかと提案する薫先生。

「ホント? ホントになんでも買っていいの? 何個までOK?」

 なんでも言った覚えはありませんが、弁当ぐらいなら、飲み代に比べればたいした額じゃありませんし。鷹揚にいくつでもいいと許可すると、雪路さんは本当に嬉しそうな顔で、弁当を選び始めました。
 そんな楽しそうな雪路さんに、薫先生の頬が自然に緩みます。
 そして、口にした軽口。

「はは。でもそんなに弁当ばっか食ってたら、太るぞお前」

 しかし、雪路さんの動きがピタッと止まりました。
 あれ? と思っているうちに、薫先生を指差すと、こう食って掛かりました。

「お前か!!? お前が甘やかすからか!!? だからこんな事になるのか!!」

 そう糾弾される薫先生には、なんのことやら分かりませんでしたが、それでもこの旅行が忙しく、いろんな意味で忙しい旅行になることだけは分かりました。




 ところ変わって三千院家。
 
「ところで伊澄みはGWに海外とか行かないのか?」
「行ってもいいけど、休み中にもどってこれるかどうか……」

 知人達が次々と海外に飛び立とうとする中、残留組の二人はゲーム部屋のなかで、ちょこんと座ったり、ミニスカニーソで絶対領域寝そべりをしたりしていました。
 伊澄さんは、ナギお嬢さまに同じ質問をしました。
 ナギは行かないの?
 ミコノスに帰る予定はあるけど、まだ行かない。

「休みが始まったとたん、旅行なんて疲れるじゃん。だから五月に入ってからだよ。五月の二日ぐらい」

 そう答えつつ、お嬢さまには計画がありました。
 休みの終わりギリギリに帰ってきて旅行疲れたとか行って、休み明けは休む気マンマン、という計画です。
 それを聞いて、伊澄さんはポツリ。

「休みの終わりギリギリに帰ってきて旅行疲れたとか行って、休み明けは休む気マンマンってわけね」

 読まれてました。伊澄さんに読まれていたということは、当然マリアさんやハヤテ君にも。
 GW中はともかく、ナギお嬢さまのGW明けは中々前途多難なことになりそうでした。



 一方、庭ではハヤテ君とマリアさんが洗濯物を干していました。
 
「けど、旅行楽しみですね」
「そうですね。
 ハヤテ君海外は初めてでしたね」

 一度、港で漁船から漫画家志望の同僚が脱走しかようとした事件があって、そのときも桟橋一歩前で確保したために、上陸したことはありません。ですから、ハヤテ君は余計に海外旅行が楽しみでした。
 目的地のミコノス島について尋ねると、マリアさんはどこか懐かしそうな表情でこう言いました。

「とっても、星が綺麗な場所ですわ」












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