しっぽきり

 さてさてさて。
 皆はハト魔人って知ってるかな?
 ハトの力で目からも口からも頭や腕からもビームを出したり、背中からもビームを出したりするんだけど、指と指の間からもビームが出るんだ。
 さて、そんな最強の敵にブリトニーは勝てるのかな? かな? かな?




 そんな最強の敵を考え出したのが、ナギお嬢さまと伊澄さんのサイコーコンビ。
 ですが、天井知らずの想像力を持つかに思われた二人も、自分たちが生み出したハト魔人の扱いに苦悩していました。
 ハト魔人が倒せない。
 ハト魔人はライバルキャラ。当然ハト魔人は、主役である魔法少女のブリトニーに、倒されなければならない宿命にあります。しかし、今のブリトニーの力では何度シミュレーションしても、必殺のマジカルスパークを防がれたところで倒されてしまう、かといって安易な方法で倒しては、作品が死んでしまう。
 このままではなんともまずい。
 ですので、ナギお嬢さまはブリトニーに新たな必殺技が必要と主張しました。フォームチェンジして最早アレなレベルまで露出を増やしたブリトニーのブリトニーザンバーならどうだ、と主張するお嬢さま。
 しかし、伊澄さんはこう答えます。

「けどその必殺技も……ハト魔人には通用しないわ」

 そう、ハト魔人の異様なまでに発達した胸筋のは、ブリトニーのバルジングキャリバーがいかに紫電を一閃しようが弾き返してしまうのです。
 ――これではハト魔人を倒すことはできない。
 改めて、自分たちが生み出してしまった怪物に、二人は震えるのでした。




 夕方、三千院家の電話が鳴りました。
 優雅な動作で受話器を取り上げたのはマリアさん。受話器の向こうから釘声を響かせるのはナギお嬢さま。
 伊澄さん家に行ったナギお嬢さまによれば、「ハト魔人対策会議に忙しくて」家に帰るヒマがナイト言うのです。「明日、帰る前に電話でもしてください」と答え電話切るマリアさん。
 ハト魔人という聞きなれない単語が少しばかり疑問でしたが、まあナギお嬢さまと伊澄さんとの会話で出てきたことを考えれば、気にしたほうが負け。なので、ブリトニーがどうやっても倒せない最強の敵ハト魔人は、マリアさんの中では、すぐに忘却の彼方に消されてしまいました。

 そんなわけで、ナギお嬢さまは帰ってきません。お嬢さまを送っていったハヤテ君も帰ってこないでしょう。なので、広い広い三千院邸には、今夜はマリアさんただ一人。
 蛇口から落ちる水滴が、ちょっとした木の軋みが、外を吹く風が響くぐらいに静かな三千院邸。
 ナギお嬢さまなら涙目で毛布被り確定なシチュエーションに残されたマリアさんですが、そこはマリアさん。ナギお嬢さまとは違います。

「あんまりそういう緊張感はないですわね~」

 と、このように普通でした。昼間、二人が学校に行っていることもあって、一人きりには慣れっ子。なので、恐くもなにもありません。
 それよりも問題なのはヒマなこと。
 ナギお嬢さまも帰ってこないとなれば、夕食は有り物で済ませればいい。ナギお嬢さまをお風呂に入れたりする必要も無いとなれば、時間は余ってしまう。
 マリアさんは伸びをしながら、時間の潰し方を考えます。
 有意義に読書でもして、知性を磨くか。近頃弛みがちなタマやシラヌイの調教をして、野生を磨くか。あるいは、地下室でカラオケをシャウトして音感を磨くか。
 今夜の予定を考えながら背を伸ばしきってみた背後に立っていたのはハヤテ君。

「うわぁあハヤテ君!? な!! なんでここに!?」

 いると思っていなかったハヤテ君がいたこと、そして誰も見ていないと思って伸びをしていた姿を見られたことにマリアさんは、珍しく大声を上げてしまいました。

「なんでって、お嬢さまを送って買い出しをして帰ってきたところですけど……」

 たしかに、見ると、お嬢さまに「手堅いだけの漫画を描いて媚びるお前のような奴が漫画界をダメにしているのだ!」とマクロ視点で創作姿勢を批判されて、追い返されたハヤテ君は、フランスパンとかネギとかが顔を出した買い物袋を持っていました。

「えっと……それでマリアさんは……」
「知性を磨いていたところですがなにか?」

 背伸びをして体を活性化させることで、好循環が生まれるので知性がどうとかそういう意味では知性を磨いてるのかもしれませんが、それはそれとして、お嬢さまから連絡があれば迎えに行くはずのハヤテ君は、そのお嬢さまからの連絡がないことをマリアさんに尋ねます。

「ああ、それならさっきありましたよ」

 と、たしかタカ野人対策会議があるとかで今夜はナギお嬢さまが伊澄さんの家に泊まることになっていることをハヤテ君に伝えるマリアさん。
 じゃあ、自分も伊澄さん家に泊まったほうがいいのかと尋ねてくるハヤテ君。知らないところならいざ知らず、伊澄さん家に止まっているわけだし、そう心配はなく、むしろ、ハヤテ君が泊まるほうが迷惑だろう。そう判断したマリアさんは明日、連絡があってから迎えに行った方がいいとハヤテ君に助言しました。
 しかし、ハヤテ君の反応は斜め上のものでした。

「え? でもそうすると今夜マリアさんと二人きりになるのでは?」

 突然こんなことを言い出したハヤテ君。ですが、マリアさんは「それがなにか?」と淡々としたもの。マリアさんは年上のおねーさん。三千院邸が広いお屋敷である以前に、ハヤテ君と二人きりになったぐらいでは、

 ちょ――!!
 今夜ハヤテ君と二人きりってなんなんですか!? その状況はっ!?
 
 平気ではありませんでした。
 そう、マリアさんも一七歳の女の子。いくら年上のおねーさんとはいえ、同じ年頃の男の子と夜二人きりとなれば、そこまで平静ではいられません。
 しかし、それでも三千院邸の年長者として振舞わなければならないのがマリアさんの辛いところ、動揺した素振りをハヤテ君に見せるわけにはいかない。そう思いつつ、夕飯の支度に向かうのでした。
 クラウス? 知らね。
 



 一方その頃。伊澄さん家では、まだハト魔人対策会議が続いていました。
 
「ブリトニークラッシャーならどうだ? 光にできるんじゃないか?」
「あの胸筋です。パンプアップで弾き返してしまうに違いありません」
「なら、ブリトニーブレイカーならどうだ? オーバーキルできるんじゃないか?」
「あの胸筋です。ブリトニーブレイカーに必須のバインドの時点で引き千切られて、かわすにちがいありません」

 なかなかアイディアがまとまりません。

「夜は長くなりそうなので私、お茶菓子をとってくるわ」
「うむ、たのむ」

 このまま延々と考えつづけても仕方ない。そう考えて、伊澄さんは一旦席を外しました。
 部屋を出て、すっかり湿った外気を吸い込みながら伊澄さんは思いました。
 それにしても、なんという敵なのだろうハト魔人は。あんな手も、こんな技も通用しない。
 ですが、その心中は悩んでいるだけではありません。嬉しかったのです。そこまでしても、倒せない最強の敵を自分たちが考え出せたことが。
 とはいえ敵キャラは敵キャラ。倒されなければなりません。廊下を歩きながら打倒ハト魔人を思案する伊澄さんに、声をかけてくる幽霊が一人。
 神父さんでした。

「なんというか、君達はずいぶん低レベルな事で悩めるものだな」
 
 こともあろうに低レベルとは!
 神父さんのその物言いに、さすがの伊澄さんもナギの分もと怒りました。

「低レベルとはなんですか!! 低レベルとは!!
 相手はあのハト魔人なんですよ!! すごい攻撃力なんですよ!!」

 しかし、神父さんは熱弁を振るう伊澄さんに呆れ気味。
 ですが、打倒ハト魔人の糸口は二人の発想を子供の発想という神父さんからもたらされました。

「すごい攻撃力があるかどうかはしらないが……そんなんもの私の「絶対バリアー」がはね返す」

 その瞬間、伊澄さんに衝撃が走り、天啓が閃きました。
 絶対! 絶対と言いきってしまえば、ハト魔人のビームが通用しないのも当然。それどころか、バリアーで弾き返されたビームが、ハト魔人に命中すれば? 最強のハト魔人が、自分自身のビームによって倒れる。なんというカタルシス。
 
「ナギ!! 名案が思いつきましたわ」

 神父さんの一言にインスパイアされた伊澄さんは、相棒であるナギお嬢さまの元へ駆けて行くのでした。



 一方、使用人だけの三千院家は夕食時。
 手のかかる被保護者ポジションのお嬢さまがいない屋敷は、いつもより静かなものでした。
 マリアさんは、箸を進めつつ、内面だけとはいえ取り乱した自分を反省していました。
 二人きりとはいえ、広いお屋敷での話。ハヤテ君の部屋とマリアさんたちの部屋は離れています。狭い部屋に二人きりにでもならない限り、何も起こりようはありません。
 そう、気にすることなんてなかったのです。
 少し気が軽くなったマリアさんは、ハヤテ君に質問しました。
 
「ハヤテ君はこのあと、どうされるんですか?」

 何気なく聞いたことでした。

「えーと、そうですね~。とりあえず部屋で勉強でもしようかと」
「まじめですわね~」
「白皇はやはり名門校ですからね。高二になってついていくのが大変で……」
「まぁそうですね」

 何気なく打った相槌でした。
 白皇の学力水準が、高いレベルにあることはマリアさんも知っていましたし、そこら辺の一般生徒ならともかく、ハヤテ君は編入生。求められるレベルも、飛び級のナギお嬢さまたちではないにせよ、十分に高いものです。

「なんだったら、このあと私ヒマですから、勉強みてさしあげましょうか?」
「え? 僕の部屋ですか?」
「ええ。もちろん」

 何気なく言ったことでした。
 もしハヤテ君がひどい成績を取ったりしたら、補習やらなにやらで時間を取られれば、ナギお嬢さまの執事として問題がありましたし、何より優しいマリアさんは、ハヤテ君が大変そうなことが見捨てられなかったのです。
 しかし、言った後で、マリアさんは自分がとんでもないことを言ってしまったことに気づきました。
 そう、ハヤテ君の部屋で勉強を教えるということは、狭い部屋で二人きりになるということ。
 とんでもない状況に追いこまれてしまったマリアさん。
 これは、ハヤテ君の――罠?
 そういえば、言動がおかしかった気がします。
 明日、迎えに行った方がいいと言っているのに、突然、二人きりと言い出したハヤテ君。あれも、ひょっとすると、自分に二人きりという意識を植え付けるために言ったのでは――。
 深まる疑念が、マリアさんの本能に危険を訴えてきます。
 顔を真っ赤にしてハヤテ君を見ると、ハヤテ君は「これ美味しそうですね」と煮物を見ています。
 罠に嵌めたというのに、自分の方を見ないのが逆に怪しい。
 ハヤテ君の策略の冴えに、恐ろしさを感じるマリアさん。
 罠、となれば断らなければなりません。
 なので、マリアさんがいつも用意している三つの言い訳、「ソイレントグリーンを見る」「痴人の愛の続きを読む」「モンティ・パイソンの続きを見る」「山崎ハコを聞く」あっ、四つだ。とにかく、言い訳の中から「モンティ・パイソンの続きを見る」をチョイスして断ろうとするマリアさん。ですが、罪深き被造物であるハヤテ君は、

「でも嬉しいなぁ。ホントちょっと困っていたから、マリアさんに勉強をみていただけるなんて、とっても嬉しいです」

 ニコリと人好きのする純粋な笑顔で、そう言いました。
 マリアさんがハヤテ君の罠だと勘違いしていたのか、それともこの笑顔すら罠の一部なのかしれません。

「わかりました。では片付けのあと部屋にうかがいますわ」

 しかし、ハヤテ君の笑顔を純粋なものと思ってしまったマリアさんには、最早断るという選択肢はないのでした。




 「絶対バリアー!!」というブリトニーの雄叫びと共に現れた光の障壁が、ハト魔人のビームをはね返しました。驚くハト魔人に、余裕の笑い声を叩きつけるブリトニー。

「さぁこのバリアーを打ち破って私に近づくことができるかな!? ハト魔人!!」
「くっそー!! 必ず打ち破ってみせるぞブリトニー!!」

 押していたものが押され、考えさせていたものが考えて。
 すっかり逆転してしまったハト魔人とブリトニーの死闘は始まったばかりなのでした。



 夕飯の片づけを終え、物音一つしない廊下を歩いていくマリアさん。
 つい数時間前までは、絶対に陥ってはいけないと思っていた状況。
 つい数十分前までは、起こり得ないと思っていた状況。
 しかし、約束してしまった以上逃げ出すわけにはいかない。
 避けるはずだったハヤテ君の部屋に、自分から歩いていくマリアさん。
 こうして、マリアさんとハヤテ君の夜が始まるのでした。
 












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