しっぽきり

 雪路さんは念願のパスポートをゲットしました。
 そして、荷物の準備も完了。着替えとか洗面道具とか、向こうでは売ってないかもしれない酒とか、酒とか、つまみとか、あと酒とか?
 ですが、一つ問題があります。
 どうやってタダで海外に行くのか?
 原油だかとか、色んなことの影響があってもなくとも、大空へのフライトとなれば五桁の出費は確実。そんなお金、当然雪路さんにはありません。白皇教師の給料を考えれば、それぐらいは出るのですが、諸々の事情があってありません。具体的には、酒とかブランド品とか、借金返済とか、あと酒とか?
 タダで海外に行って、タダで買い物したい。そもそも自分は美しき世界史教師。海外に行ったことがないとあっては、その名も廃る。
 そんなことを考えながら学校敷地内をトボトボ歩いていますと、前から来たのはお気楽三人組。 
 聞くともなしに会話を聞いていると、どうやら彼女達もGWは海外に行く予定のようです。しかし、会話が進んでいくうちに、雪路さんは立腹しはじめました。

「長い休みのたんびに海外というのもな~」
「たまには家でゆっくりしたいよ」
「飽きちゃったし、たまにはそういうのも新鮮かもね~」
「しかし、まあ、行かせてやると親も行ってるし、行ってやるのも家族サービスか」
「ま、家族サービスなら仕方ないよな」

 こんな会話を交わす生徒達に、「これだから金持ちは!」と内心舌打ちをする雪路さん。そんなに金持ちなら、教師孝行として海外に連れていけと言いたいところでしたが、春休みに温泉旅行をタカったばかり。同じ手を使って海外旅行とあっては、妹のヒナギクさんにコラーッと叱られること必至。
 やっぱり必要なのは、金。
 当然のことに、雪路さんは悩むのでした。




 そんなお金がお一人様二三六四四〇円、大人二人で四七二八八〇円必要なのがラスベガス旅行。ツアー見積書を見ながら、少年社長ワタル君は呆然としていました。
 そんなワタル君に、手持ち無沙汰にビデオを選んでいた咲夜嬢はオフシーズンじゃないから当然のことと言いきるのは咲夜嬢。
 しかし、相場がどうであれワタル君には納得できません。五〇万弱の大金が五日間で吹っ飛ぶのです。ギャンブルの結果によっては+α。DVDBOXなら二桁買えそうな値段の旅行に思わず怯んでしまうワタル君。
 昔はよく行ってたのにと言われても、昔のことは昔のこと。今のワタル君は金持ちではなく、零細企業の社長状態。燃油サーチャージ料だけで八万という事実も、原油価格は二〇〇八年九月計算という不思議もやってられません。
 ですから、博打に勝てば問題は何もないなんて咲夜嬢の言葉に乗っかる積もりは毛頭ありません。
 そう、ワタル君にはレンタルビデオ・タチバナを大きくするということ事態がギャンブル。高い旅費を使ってまで、ギャンブルをしにいくつもりはありません。
 ですから、ピンチをなんとかするのが男の甲斐性なんて、けしかられても受けて立つ気はありません。
 そう、ただでさえGWは大手レンタルビデオショップが仕掛けてくるレンタル半額セールをやり過ごさなければならない時期。男の甲斐性を見せるピンチは、自分から望まなくとも向こうからやってきます。
 ですから、咲夜嬢が指差す方向を見ても、ラスベガスに行く気なんて――。
 そう、二人分。二人分の旅費を払わなくてはならないのです。いくらサキさんが、念力集中ピキピキドカーンでルーレットを的中させ、大儲けする自分の姿を、瞳をきらめかせて想像していたとしても、その期待に応えるつもりはワタル君には――ワタル君には――

 そんなわけで、やっぱ、問題なのは金でした。
 



「はい。今月のお給料」

 店長の加賀さんから渡されたのは茶封筒。

「よかったですね、お嬢様」
「少ないけど題字に使うのよ」

 ナギお嬢さまが、初めてもらった給料袋を開けると、そこに入っていたのは四枚の紙幣。

「一万三千円だ!!」

 大富豪の上に超とかつけてもいいぐらいのお嬢さまにとっては、額から言えばはした金ですが、なんといっても自分で働いて、そしてもらったお金です。いままでに手にしたどんな多額のお金より、重く、そして価値のあるもののように思えました。

 働いてみて、初めて分かるお金の大切さを実感しながら歩く帰り道。ナギお嬢さまはなんだかいつもより商店街がにぎやかなことに気がつきました。
 そう、今日は銀杏フェスティバル。お嬢さまがヒーローステージに口を出したりしてたあのお祭りです。
 想像していたより豪華な出店とか、いやでも大したこと無いだとか言っているうちにお嬢さまの中に一つの感情が湧き始めました。
 何か買いたい、ていうか、このお金を使いたい。
 初めて貰ったお給料での買い物。それはナギお嬢さまにとって特別なものになるはず。ハヤテ君もそれを察したのでしょう、お嬢さまにこう水を向けました。
 お嬢さまが頑張って働いてもらったお金なのだから、お嬢さまの自由に使っていいと。
 たしかにナギお嬢さまもそうしたいと思っているのですが、そもそもバイトを始めた理由は、ハヤテ君へ自分の稼いだお金でプレゼントをしたいから。ここで使ってしまっては、使ってしまっては――ちょっとなら? そういえば、一万と三千円の三千って中途半端じゃない? 二千とかだったら、愛してる的にあれだけど、三千では中途半端。とはいえ、千円ぐらいじゃ買えるのは食べ物ぐらい、どうせなら形に残るものを残したい――そうだ、この三千は端数。端数ということならどうだろう?
 訴えかけるようにハヤテ君を見てみると、なんか許可してくれました。というより、最初から許可もらえてました。
 そんなわけで、お嬢さまの買い物タイム。
 と、思いきや茶封筒から取り出した三千円の匂いに目ざとく反応してくる教師が一人。勿論、二人の担任である桂雪路先生。
 ですが、今日はいつもとはちょっと様子が違うようです。

「三千円で海外に行けるかー!」

 その三千円で命をかけた決闘を申し込んできた気もしますが、たしかに三千円では海外旅行には行けません。
 聞いてみれば、GWに海外にタダで行ってタダでブランド品を買い物しようと思っているのに、誰も海外旅行を奢ってくれないとお嘆きの様子。
 GWにはお嬢さまに執事として海外に連れて行ってもらえることが確定している勝ち紐・ハヤテ君は、面倒くさそうに「金持ちの彼氏でも作れば?」と一蹴。ですが、これを真に受けた雪路さんは、その発想は無かったとばかりに、ハヤテ君にお礼を言って猛ダッシュでその場を立ち去っていきました。
 適当なことを言ってヒナギクに怒られる、まあできないでしょうし大丈夫。
 済んでしまったことを悔やんでもしょうがないとばかりに、買い物を再開する二人。
 虎の子の三千円を抱えて出店を見て回るお嬢さまの目に、一台のカメラが目に止まりました。
 軽く、小さく、なんとなく玩具のように見えるカメラでした。存外な物知りであるハヤテ君に聞いてみると、「LOMO LC-A」というプラスチックとかできたトイカメラの名器だというのです。
 簡易カメラにしても、レンズもファインダーもついてないことをお嬢さまが不思議がるとハヤテ君は、笑って目算でピントを合わせ、ピントがあっているかどうかはフィルムが現像されてからのお楽しみ、だと言うのです。
 驚くお嬢さまに、上手く取れたらコントラストの効いたかっこいい写真が取れるのが味だと笑うハヤテ君。
 そんな気まぐれなLOMO LC-Aがなんだか自分にはピッタリだと思えてきたナギお嬢さまは、初めてのお買い物はこれだと決めます。慣れるまで大変ですよとハヤテ君は確認しますが、ナギお嬢さまは「だがそれがいい」と微笑み、トイカメラをかざします。
 お金ではどうにもできないことだからこそ、そこに価値が生まれる。
 そう語るお嬢さまを、ハヤテ君は誇りに思うのでした。




 
 ハヤテ君の一言を真に受けて駆け出してみたのはいいものの、走っているうちに我に返った雪路さん。
 そもそも今時そんな解消のある男がいるのか?
 そう、不況のこのご時勢、海外旅行ともなれば原油高が直撃したりしなかったりで大変なはず。
 せめて、バブル時代なら。自分が数年の差で逃してしまった黄金時代に思いを馳せる雪路さんの耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
 話していたのは二人のメイドさん。見覚えのある二人の会話を聞き耳を立ててみると、なんと二人のメイドさんも海外旅行について話しています。
 
「最初は私も期待してなくて、若に無理しなくてもいいですよって伝えたんですけど……」

 言葉の端々から、どうも海外旅行をするような余裕はあまりないということは分かりました。しかし、その男の子は言ったのです。
 女・子供の一人や二人を連れて行けないような男に未来はない!
 雪路さんは胸を打たれました。
 なんと漢らしい男の子がいたものか!
 それに引き換え、それに引き換え。
 胸に溢れてくる思いに、いてもたってもいられなくなった雪路さんは、それとは程遠そうな顔を思いつくと、再び駆け出しました。



「ガンプラなんか作ってる場合かー!!」

 突如として薫先生の部屋に駆け込んできた同僚かつ幼馴染の雪路さんは、駆け込んできたままちゃぶ台返し。
 壊れてしまった00。
 ハブられてしまったZZ。
 吹っ飛んでいった腕のパーツを探していると、そんなものより男の甲斐性のパーツを探せと叱責してきます。
 なにがなにやら分からない薫先生でしたが、「彼氏を探しているのにガンプラ作りとは」という雪路さんのボヤキに状況を漠然と理解します。
 海外旅行に連れて行ってくれる彼氏を探しているということは、彼氏は今現在いないらしい。
 彼氏がいたという話自体をあまり聞かない薫先生でしたが、本人に今いないと明言されては心持も変ってきます。
 どうせいないのならせめて自分が。
 立ち上る薫先生。しかし、面と向かって告白しても断られることは、いままでの経験から間違いなさそう。
 そんな薫先生に、もう用は無いとばかりに、部屋を出て行こうとする雪路さん。
 早く早く手を打たねば。焦る薫先生の脳裏に一つの光景が思い浮かびました。

 ブランド品の記事が載った雑誌を食い入るように読んでいる雪路さん。

 そして、薫先生は雪路さんを呼び止めました。

「お前、ブランド物の服に詳しかったよな?」

 振り向き訝しげに自分を見てくる彼女に薫先生はこう続けました。
 
「ちょっとイタリアにドルガバの服を買いに行きたくなったから……お前ついてきてコーディネートしてくれ!!」

 直接的に誘わずあくまで買い物がメインであることをPRしつつ、海外旅行に誘う。大きな出費の小さな一歩ですが、小さな一歩でも積み重ねないことにはどうにもならない。
 薫先生の必死のアプローチに、雪路さんは、少しだけフリーズした後、困ったようにこう言いました。

「あんたには似合わないわよ?」

 散々な言われようでしたが、とりあえず拒否されなかったことに好感触を得る薫先生でした。












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