しっぽきり

 白王学院の時計塔の最上階にある生徒会室は、最上階だけあって、天高くにあります。よく晴れた昼下がりに紅茶などをたしなみながら、そこで静かに文学にふけるのが千桜さんは好きでした。
 本日読んでいたのは、「バカとテストと香辛料」。
 バカなクラスメイト達に巧妙なブロックサインを使ってテストの答えを教えることで小銭を、具体的には一人から立ち上げるとリンゴのロゴが出てくるノートパソコン一台分を、稼ぐ賢狼ボロが、幼馴染の主と一緒に北の方の大学に行こうと約束をする。でも、主さまは若干というか、とってもバカ。「おいアイツのテスト答えで一番おかしい解答は何だと思う?」「決まってるさ。次のテストの解答だよ」という笑い話の種になるぐらいのバカ。それでも、いままでは、それは卑怯だからとテスト中にもボロの方は見なかった主。しかし、ボロと一緒の大学に行きたい。その一念で、猛勉強を重ねたものの、やっぱり合格ラインには程遠い。とうとう、主は信念を曲げ、北の大学の入学試験中に答えを求めてボロを見る。
 信念を曲げてまで自分と大学に行きたいと思ってくれるのは嬉しい。でも、そのために主が信念を曲げてしまうことが悲しい。というか、ボロにも答えの見当がトンとつかない。主に勉強を教えるのに付きっきりになっていたせいで、狂ったのかもしれない。
 そんな、主への悲しさと申し訳なさにボロはつぶやく。

「主さま……わっちを……わっちを北まで連れていってくれる約束じゃったが……これ以上わっちを……見ないでくりゃれ?」

 そのヒロインのあまりの可愛さに、ついその場面を演じてしまう天然女優・千桜さん。
 それを、いつの間にか見ている愛歌さん。
 潤んだ瞳の千桜さんをしげしげと見つめた後、パタンと扉を閉じ去ろうとする愛歌さん。止める千桜さん。
 なんとか口止めを約束した千桜さんでしたが、安堵する間もなく愛歌さんはこんなことを言い出しました。
 意外とスキだらけ。
 私がスキだらけ? 私がスキだらけだと!?
 そんなことはないはず。自分は生徒会のクール書記とキャローンメイドの二つの仮面を完璧に演じ分けるクールキューティアクトレス。そう、愛歌さんの嗅覚が異常すぎるだけで、自分にスキ。そんな自分がスキだらけなんてことはないはず。
 どこら辺がスキだらけなんだと問うのですが、愛歌さんが取り出した「ジャプニカ弱点帳」と「ジャプニカ暗殺図鑑~社会的な意味で~」を見て、問い詰めるのは止めておくのでした。
 一瞬残念そうな顔をした後、そこが千桜さんの可愛い所と微笑み立ち去っていく愛歌さんに、千桜さんは釈然としないものを感じるのでした。

 

 自分ではスキなんてないはずと思っては見たものの、なにせよ愛歌さんの言うことです。本当はスキだらけだったんじゃないかと迷いだす千桜さん。
 ですが、自分に言い聞かせます。
 やっぱりそんなことはないはず。
 どう考えても自分がスキだらけとは、千桜さんには考えられません。そう、自分なんかよりもヒナギクのほうがよっぽどスキだらけ。愛歌さんも嗅覚を発揮するなら、どうせヒナギクに対して発揮すればいいのに。
 そんなことを考えて、校内を歩いていますと、どうしようもないほどスキだらけな少女が一人。
 ベンチの上にはしたなく両足を乗せて携帯ゲーム機をやりこむのは、お嬢さまぞろいの白皇の中でも飛びぬけたお嬢さま、いわばお嬢さまOFお嬢さまの三千院ナギお嬢さま、パンチラ中。
 スキだらけというか、スキそのものなポーズをとるナギお嬢さまに唖然とする千桜さん。
 幼女がパンツ丸見えとあっては、倫理的にアレな感じなので、それとなく注意しようとする千桜さんでしたが、これがなかなか難しい。パンツ丸見えだぞ、とは千桜さんも乙女ですから言い難い。とりあえず、「見えてるぞ」と直接的に言うのは避けて無難に本人が気付くのように仕向けましたが、ナギお嬢さまは気付かない。それどころか、「何が?」と聞き返してくる始末。
 
「だから……下が……」

 なんとか搾り出すように言うと、ようやくナギお嬢さまも下を向きました。そこに見えたのはスカートとニーソックスと、それらが作り出す絶対領域でしたが、想像力を働かせたナギお嬢さまはようやく気付きました。そう、鉄壁の規制がかかっていないことを。つまりは「△X○ZAB」なポーズを自分がとっていたことを。
 途端に足を直し、千桜さんのタダ見を責めるナギお嬢さま。お金出せばいいのかと不穏なことを考えだす千桜さん。
 それはそれとして、千桜さんは、執事ガードがなければスキだらけなナギお嬢さまをたしなめました。ですが、スキだらけな人間ほど自分がスキだらけなことを認めたがらないようで、ナギお嬢さまはヒナギクさんのほうが自分よりよっぽどスキだらけと言い出しました。
 虚勢を張るナギお嬢さまに、呆れる千桜さんでしたが、千桜さんも千桜さんでスキだらけでした。
 なんと手に、「バカとテストと香辛料」を持ったままだったのです。
 手の中のタイトルを確認した、ナギお嬢さまは畳み掛けるように聞いてきました。「最新巻」「アニメも見た?」
 意外な展開に、そういえばオタっぽい言動をする子だったとナギお嬢さまと意外に趣味が合うことを発見した千桜さん。
 二人の間でアキハバラ的な何かが通じ合いました。
 二人の間に砂漠の中でオアシスを発見したような安堵感が流れました。特に、千桜さんにとっては、周囲に趣味が会いそうな友達がいなかっただけに、感慨もひとしお。
 意気投合する二人。
 しかし、ヒロインの魅力を笑顔で語る千桜さんに、ナギお嬢さまの表情が変りました。
 この作品の魅力は、テストの珍回答と女装こそが魅力、ヒロイン口調なんて二の次だと言い始めたのです。
 今度は、千桜さんの表情が変りました。
 この作品の本質はヒロインの可愛さのはず。そして始まる口論。二人の間でアキハバラ的な決闘が始まりました。

 「キラアスか?」「アスキラ!」
 「スザクか」「ウザクだろ、あんなの」
 「ランカかシェリルか」「むしろアルト」
 
 一つかみ合わないと何もかもかみ合わないのか、ふたりはお互いの主張を否定するばかり。そんな二人に、ようやく現れたナギお嬢さまの待ち人、ハヤテ君がいいました。 
 二人ともスキだらけ。
 そういえば、ここはアキハバラではなく白皇学院校内。
 我に返り論争をやめる千桜さん。泣き出し疾風君に訴えるナギお嬢さま。年齢の違いを見せ付けつつも、自分を春風さんと呼ぶハヤテ君に、「千桜でいいよ」と言う千桜さん。
 そんな千桜さんに、ハヤテ君は、学校以外でもあったことがあるかと聞き始めるハヤテ君。
 オタクであることがバレるのはともかく、メイドをやっていることがバレてはたまらないと慌てて否定、その場を立ち去る千桜さん。
 ごまかせたものの、正体がバレそうななっていることに、自分がたしかにスキだらけと認めざるを得ない千桜さん。ですが、千桜さんも人間です。スキがあるのは仕方ない。
 その証拠に他の人たちだってスキだらけです。

 子供達にサッカーボールを蹴り返そうとして、スパッツを吐き忘れているのに、思いっきり蹴り上げようとして空振り、パンチラした上に、パンチラしていることに気付き損ねて喜びの機会を一回逃すMっ子。
 この学校は金持ちの生徒が千人ぐらいいるし、そこから一人千円ずつ恵んでもらえれば旅行資金はバッチリ、ていうか町中から百円――いや、国民から一円ずつ恵んでもらえれば億万長者と言い出し、行動に移す酒豪教師。
 
 自分の通っている学校が、本当は名門じゃなくダメ学校なんじゃないかと心配しだす千桜さん。
 
「あー打ち上げたー!」
 
 悩む千桜さんの頭上を野球ボールが飛んでいきました。
 自分には当たりそうに無いボールでしたが、飛んでいく先を見ると、そこにいたのは白皇学院生徒会長・桂ヒナギクさん。手には書類。野球ボールなんて見えていないに違いありません。思わず声をあげる千桜さん。ですが、ヒナギクさんは書類から目を離さず片手を上げると、野球ボールをガッチリキャッチ。

「もー、気をつけなさい」

 そんなことをいいながら、野球部にストライク送球。
 スキなんて一つも見せないヒナギクさんに、千桜さんはナギお嬢さまの分も心の中で謝るのでした。

 

 名門なんだかダメ学校だかわからない自分の母校。
 何を書かれているかわからない愛歌さんのノート。
 なにより、ナギお嬢さまとのやり取り。
 
 なんとなく調子を崩した愛歌さんは、リズムを取り戻すために、ゲームセンターに向かいました。
 レースゲームの筐体の椅子に座る千桜さん。ですが、先客がいました。かわいい女の子なら、愛惜プレイを持ちかけようかと隣を見ると、なんとそこにいたのは偶然にもナギお嬢さま。
 
「な……なんで三千院家のご令嬢がこんな練馬のゲーセンなんて来てるんだ?」
「きょ……今日はがんばって学校行ったから、ごほうびでハヤテが連れてきてくれたのだ」

 一日学校に来たぐらいで、ごほうびとは三千院家の執事はなんと甘いのかと揶揄しようとした千桜さんでしたが、頼もしいことに釘声無乳なナギお嬢さまはそれを察したのか、あるいは単に偶々なのか先手を打ってきました。

「おまえこそ生徒会だろ!? なんでこんなとこ寄ってんだよ!!」

 いかにも真面目でお堅い人間みたいに自分を言い出すナギお嬢さまの声が癪に障りました。

「生徒会のまじめな部分は全部ヒナがしょっているからいいんだよ。そっちこそ金持ちなんだから筐体ごと変えよ」

 こういうところでやるから風情がある。言い返すナギお嬢さまに、移植された家庭用ゲームも楽しいけどたしかに、ゲームセンターでやるほうが味があると常々思っている千桜さんでしたが、同じようなことを考えているナギお嬢さまの言葉は、なぜかまた癪にさわりました。

「まったく女の子がレースゲームなんて……スキだらけのクセに!!」

 たしかに女の子がレースゲームをやるのは珍しいですし、一つのミスが割りと致命傷になったりならなかったりするレースゲームはスキだらけの人には向いてないように思えました。
 スキだらけなのはお前のほう。更にナギお嬢さまは言い返します。

「クールな外面から、なんか違う一面がはみ出しているぞ!!」

 咲夜嬢や愛歌さんとも他のクラスメートとも違う、考え方が近いかと思えば遠い、遠いかと思えば近い、そんないままで接したことのない存在であるナギお嬢さまの一言が、癪に障るでもなく、喜ばしいでもなく、言葉にし難い感覚として、千桜さんの心に響きました。
 なので、 

「うっさい」

 ステアリングを切って、ナギお嬢さまの車の鼻先にあったアイテムを掻っ攫うことにしました。
 もう取ったつもりだったアイテムを奪われた悔しさに、自分を睨むナギお嬢さまの視線を受け流しながら、千桜さんは言いました。
 
「スキとか二面性とかあった方が……フジ子ちゃんみたいな魅力的な大人になれるんだよ!!」
「自分でゆーな」

 口ゲンカをしあい、ステアリングを切り、時に車をぶつけ合ったり、抜いたり抜かれたりする千桜さんとナギお嬢さま。
 そんなやりとりを見ながら、ハヤテ君は二人が友達になれそうだと微笑むのでした。

 翌日、雪路さんのスキだらけの野望が、ヒナギクさんによって完璧に粉砕されるところを見ながら、二人は「ああはなるまい」と、とりあえず共感しあうのでした。












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2008.09.17 22:59 | 蒼のごとく!

ハヤテのごとく!192話【スキのある女の子がスキというダジャレを言うのはダレジャ】畑健二郎
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2008.09.18 21:17 | 360度の方針転換