しっぽきり

 ハヤテ君は、全てを捨てて走った道を、全てに見放されて道を一人歩いていました。
 呆然とするハヤテ君を打ちつける雨。
 服を濡らし、髪を濡らし、体を濡らし、心を濡らしていく雨。
 死んでもいいと全てを捨てて、そして花園の中で出会い、執事となって、城で過ごした日々。いつもいつも、側にいて、何か失敗すると叱り、何かに成功すると誉めてくれたあの子。
 でも、今は石に躓いても、見えるのは彼女の幻だけ。
 ですが、一人ぼっちのハヤテ君を少年が呼びとめました。
 聞き覚えのある声の主は、ハヤテ君のお兄さんでした。
 傘を差し出してくれたお兄さんは、大雨の日に傘も差さずに歩いていたハヤテ君に問いました。

「何か……あったのか?」

 どう話していいのか、そして、話すこと自体に躊躇いながらハヤテ君は言いました。

「ケンカしたんだ……友達と……」

 答えを聞いたお兄さんは意外そうな顔をしました。
 優しいけれど気弱なハヤテ君は、いじめられても泣くばかりのハヤテ君がケンカをするなんて信じられなかったのです。
 大切な、大切な友達でした。
 自分より少しだけ小さくて朝の弱い、いつまでも見ていたいような笑顔を浮かべる綺麗な女の子。

「僕……その人にいっぱい助けられたんだ……」

 少しヤキモチ焼きで、厳しくて、でも自信を持たせてくれた女の子。

「僕……本当にその人のこと事を大事に思ってたんだよ?」

 だから、幸せにしたいと思った。何度も何度もキスをして、ずっと、ずっと一緒にいたいと思った。

「なのに僕……彼女に……」

 ヒドいことを言った。心の弱い部分を踏み荒らした。
 そんな自分への怒りか、別れた悲しみか、空虚だった心を満たした感情に涙が零れ落ち、水溜りに落ちていきました。

「僕が悪いんだ……!! ごめんね……!! ごめんねアーたん!!」

 繰り返すのは、いない彼女への謝罪の言葉。
 言っても届かない、でも言わずに入られない謝罪の言葉。

「今度雨が上がったときに……ちゃんと……謝ろうな……」

 そう言って、頭を撫でてくれるお兄さんの手は、とても温かいものでした。

 会ったら、何を言おう。
 まず謝ろう。一生懸命、必死に謝って、謝って、そして伝えるんだ。自分がどんなに大切に思っているかを。



 ですが、終わってしまった世界は、もうそこにはありませんでした。






 夢から覚めて、夜は明けて。

 それから、ハヤテ君は働きました。
 一人の夜、ふとした瞬間に忍び寄ってくる思い出を記憶の底に沈めて、必死に働きました。
 体を鍛え、傷つかないよう心を鈍くして。
 両親の模範となるために働く。
 いつしかそんな希望も忘れ去り、自分の力なのか、それとも惰性なのか、必死に前に進み、走りつづけ、縺れて倒れ、見捨てられ、そして過ちを悟りました。
 結局、彼女の言葉が正しかったのだ、と。
 
 いつか、そう、いつか罰を受けるときが来るだろう。
 でも、もし会えたなら、伝えたいことが二つある。それは――

「おっはよーハヤテ!!」

 マリアさんも欠伸をするぐらいの早い時間なのに、扉を開けて飛びこんできたお嬢さまは全開だった。
 学校が特別休校。休みなのに寝ているなんてもったいない。そんな超理論に呆れながらも、ずっと遊ぼうと無邪気に笑うナギお嬢さまに、今日も執事として頑張ろうとハヤテ君は思い、アーたんとの思い出に、一旦、蓋をするのでした。







 神話の国ギリシャはアクロポリス。
 パルテノン神殿の立つ丘から眺める景色は、建物の城と空の青でコントラストを描いていた。
 少女は不機嫌そうに呟く。

「ずいぶんと……嫌な夢を見たものね」

 少女の傍らに控えていた少年が問う。

「いったいどんな夢だったんですか?」

 少女が、説明せず軽くあしらうと、少年は怒り、離れていってしまった。バカではあるが、単純でもある。すぐに戻ってくるだろう。
 口にせず秘めた夢は十年前の夢。
 手を差し伸べた、名前を呼ばれた、そして、別れた、少年との夢。
 あの日々に流す涙はもうない。だが、忘れることもない。
 あれから、城への道は閉ざされてしまった。あの孤独な城に戻りたいとは思わない。が、それを利用しようとする人間がいるのなら、戻らなくてはならない。
 黒いドレス、縦に巻かれた金の髪。
 天王州アテネは、現世を睨む。
 












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