しっぽきり

 ハヤテ君の目の前、そしてアーたんの背中に立ち上ったのは黒い炎、赤い影。
 骸骨の姿をした異形におののき、異常事態を伝えようと、アーたんの名前を呼びます。
 しかし、少女は「アーたん」の名前を拒否しました。
 どころか、ハヤテ君に切りかかり、そして、突き襲います。
 突きを凌ぎ、後退るハヤテ君。咆哮する異形。城全体に響き渡るような大きな咆哮でしたが、アーたんがそれに振り返る、どころか聞こえてすらいないよう。アーたんは以前言っていました。ロイヤル・ガーデンには神さまが棲んでいる、と。ならば目の前の異形は神さまなのか?
 ちがう。
 ハヤテ君の本能が否定しました。こんなの神さまなわけがあるはずがない。
 ――だってこいつは僕を……僕を……殺そうと……思って……。
 再びの咆哮。恐怖に押されて、咄嗟に振るった剣の先でアーたんがよろめきました。駆け寄ろうとするハヤテ君。しかし、異形は二人が近づくことを許してくれません。
 体勢を立て直して、しかしまだ震えているアーたんが口を開きました。
 
「そうかそうか……私と戦ってでも……倒してでも……お前は、あんな奴らを……
 私より……あんな奴らを――――!!!」

 叫ぶアーたんの言葉を否定しようとした瞬間、ハヤテ君の脳裏に浮かんだのは、一緒に手をつないで眠った夜、アーたんとお城を追いかけっこした夕暮れ、笑顔で自分を称えてくれた昼下がり、まだ目覚めてない彼女を起こすために唇を重ねた朝。
 そんな時間を、ずっとずっと過ごしたかった。アーたんと二人、外の世界で暮らしたかった。
 ですが、そんなハヤテ君の願いを異形は笑います。
 叶えられるはずはないと。身のほど知らずだと。
 ハヤテ君は怒りました。
 それは、自分はバカなのかもしれない。力不足なのかもしれない。でも、一生懸命やってきた、それなのに、それなのに。

「笑うなー」
「ハヤテー」

 それぞれの、怒りをこめた最後の剣戟が響きました。
 剣は折れ、鐘が鳴り。
 それを見届けると、異形は満足そうに笑い、去っていきました。
 振りかえりるハヤテ君。ですが、アーたんは言いました。

「もういい」

 小さな声。しかし、その言葉はハヤテ君の耳をはっきりと打ちました。

「もういい!!」
 
 折れた剣を床に叩きつけて、もう一度、同じ言葉を叫びました。
 振り向き、アテネはハヤテ君の全てを拒絶しました。

「だったら勝手にしろ!!
 もうお前なんか……!!
 ハヤテなんか……!!
 ここから……出て行けばいいんだ――!!!」

 そして、ハヤテ君は悟りました。
 この世界は終わってしまったんだと。












 広い城の中に、時計の針の音だけが響いていました。
 這うようなゆっくりとした足取りで、ハヤテが去った後。アテネは呆然と立ち尽くしていました。
 ポケットをまさぐり取り出したのは、ハヤテ君がくれた指輪。
 ロイヤル・ガーデンに住むアテネから見れば、安っぽい、でも、とても大切な指輪。
 
 アテネだからアーたん。

 少年は、自分のことを呼ばれたことの名前で呼んでくれました。
 少年は、自分を好きだと言ってくれました。
 少年は、自分とずっと一緒にいたいと望んでくれました。
 少年は、自分の言いつけを守ろうと一生懸命頑張ってくれました。

 だから、こんな話をしたかったんじゃありません。
 大事な指輪をあんな親にあっさり預けてしまったこと、指輪が売られていくのを笑顔で見ていたこと、あっさりと言いくるめられてしまったこと。それは腹が立ちました。
 でも、そんなハヤテ君だからこそ、幸せにしてあげたいと思っていました。守らなければと思っていました。
 だから、違ったのです。追い出したかったわけじゃありません。
 連れ出してくれる白馬の王子様を望んでいたわけじゃありません。
 ただ、名前を呼んでくれる執事に、ずっと一緒にいて欲しかった。

「ハヤテ……もう一度私の名前を……」

 でも、お城の中はがらんどう。
 彼女の世界には、誰一人いやしません。
 
 広い城の中、時計の音と崩れ落ちた少女の嗚咽だけが、ずっと響いていました。












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ハヤテのごとく 第186話感想
 エピローグが近いらしいですが、昔はプロローグという単語を把握していても、何故だかエピローグという単語がしっくりこない時期があった...

2008.07.30 23:04 | ゲームの戯言+α

マリアさん@186話 「閉じられた扉」
アーたんと対峙するハヤテ・・・その続きを描く、186話。 アーたんとハヤテの関係の続きが今後描かれるのかどうか、は分かりませんが。

2008.07.30 23:06 | PureSelectMaria

ハヤテのごとく!186話@なまえをよんで
ことわざかぁ。急がば回れかなぁ。急いだところでよくなるためしがないorz

2008.07.30 23:17 | 蒼のごとく!

ハヤテのごとく!186話【THE END OF THE WORLD9 もう届かない声で】畑健二郎
 へぇ~、アーたんのスタンドはバラ○スゾンビだったんだ~!ドラゴンはともかくハムスターのスタンドでは100年かかっても倒せそうにないなぁ。最弱のナギたんが最強のボスアテネ攻略の鍵になろうと、このとき誰が予測しただろうか――みたいな展開になっても、もう驚...

2008.07.30 23:31 | 360度の方針転換