しっぽきり

 力さえあれば、全てが変えられる。
 自分さえ強ければ、全てが変えられる。
 少年は信じていました。
 少女は知っていました。



 そんなことは、ありえないと。








 早朝、ハヤテ君は剣の稽古をしているところを見つけたアーたんは感心していました。
 ――大分、成長している。
 そのことを伝えられたハヤテ君は、先生がいいからと無邪気に笑いました。
 こうして、またロイヤルガーデンの一日が始まるのでした。

 あの夜。
 ハヤテ君は、アーたんに言いました。
 城から出よう、と。
 アーたんはハヤテ君に、なぜそんなことを言い出すのか尋ねました。
 このお城にはなんでもあります。
 宝石、ご飯、広くて綺麗な部屋、美しい花々がいつまでも咲き誇る庭、尽きない時間、神様の力、魔法の道具。
 ハヤテ君には、不満なんて何一つありません。
 でも、ハヤテ君は気付いていました。
 アーたんが時々さびしそうな顔をすることを。
 お城のどんな宝物を与えてくれない幸せを、探しに行こう。
 そう、言いかけたハヤテ君をアーたんがさえぎりました。
 
「あなたの家族とで?」

 ハヤテ君を捨てた家族。そんな家族と、アーたんは暮らすつもりはありませんでした。
 でも、自信を手に入れたハヤテ君は言い切ります。
 自分が、あの両親を変えて見せると。
 少し俯いた後、アーたんは、布団を被りなおしました。
 
「もう寝なさい」

 城の外で、女の子の面倒を一生見る甲斐性なんてハヤテ君にはない。そう言い切ってアーたんは寝てしまいました。





 
 夜が明けて、ハヤテ君は外に出ていました。
 皆で幸せになりたい。
 そのための方法を考えているうちに、外に出てしまっていたのです。 
 考え込みながら、どこかの商店街をフラリフラリと歩いてると誰かが声をかけてきます。振り向くとそこにいたのは、両親に別れを告げるために出てきたときに助けた女の子。
 ハヤテ君の元気の無さに気付いたのか、女の子はハヤテ君に「どうしたの?」と尋ねてきます。ハヤテ君は素直に自分の悩みを喋りました。
 ――ツレをどう養っていったらいいか考えている。核家族時代ではあるんだけど、自分の年齢上二人暮らしってわけにはさすがにいかないし、同居は避けられないんだろうけど、ツレが認めてくれなくてね、困ってるんだ。
 ハヤテ君の口ぶりに唖然の女の子でしたが、いい方法があると笑い出しました。聞いてみると、それはプレゼントすること。
 なんでも、モテるとかモテないとかそんな極端にはっきりしない年代で、エアージゴロ気取ってた女の子のお兄ちゃんの話によると、プレゼントは愛の証。プレゼントさえ送れば女なんて一ころ。あの親父が結婚できたんだから、自分ならモテモテの未来確定のはず。
 そんなアドバイスではありましたが、すがるもののないハヤテ君はそれを受け入れます。
 しかし、問題はまだあります。
 プレゼントなんて買うお金なんてないのです。家からお金を持ってくる暇なんてありませんでしたし、そもそもあればあっただけ、両親が使ってしまうので家にもお金なんてありません。
 そんなハヤテ君の心配は杞憂でした。なんと女の子が福引券をプレゼントしてくれたのです。
 キスをお礼にしちゃだめと泣きつかれた結果、代わりのお礼として福引券をくれたのです。
 女の子にお礼を言うと、ハヤテ君は胸躍らせて福引に向かいました。





 ハズレ、ハズレ、ハズレ。
 ハヤテ君は忘れていました。自分の運の無さを。
 ボウズになってしまったハヤテ君。毟られちまったみじめさに、自信を失いかけます。ですが、その日のハヤテ君には、神か悪魔かあるいはその両方か、何かが憑いていました。
 目の前を通りかかった、カップルが福引券を要らないとか言い出したのです。
 あきらめたら、何も変えられない。
 その思いがハヤテ君を突き動かしました。
 カップルは呆れたり冷やかしたりしながらも、ハヤテ君に家まで荷物を運んだら、という条件付きで福引券をくれると言ってくれました。
 男が持っていた重いビニール袋は、精一杯の力で家まで運びました。
 そのほかにも、
 ドブさらいを手伝ったり、映画のポスター貼りを手伝ったり、そして、ゴミ拾いを手伝ったり。
 息を切らして、汗みどろになって、ハヤテ君はアーたんのために精一杯、一生懸命に働きました。
 ゴミとして拾った新聞のなかに、見知った顔があったのに気付かないぐらい、必死でした。





 アーたんは、不安でした。
 ハヤテ君が言付けもせず、姿を消してしまったのです。
 いつものように城の中を迷っているのか、庭で迷っているのか、それともあんなことを言ってしまったから怒って――
 もう一度探しにいこう、と立ち上がると、扉が開き、自分の名前を呼ぶ男の子が部屋に入ってきました。
 アーたんは、自分を不安にさせたハヤテ君を叱ろうとしました。ですが、できませんでした。
 なぜか、ボロボロで汚れてしまっていたハヤテ君を、叱る気になれなかったのです。
 しかし、そんなハヤテ君は笑顔。とても嬉しそうでした。
 アーたんが困惑していると、目の前に差し出されたのは小さな包み。
 ハヤテ君にすすめられ、あけてみるとそこにあったのは指輪。
 目を見開くアーたんに、ハヤテ君が言いました。

「それが……僕の君への……愛の証だ」

 それで甲斐性があるってことにしてくれないか、と尋ねるハヤテ君。
 アーたんは少しの間、言葉を探しました。
 そして、口を開きました。

「ハヤテはほんとおバカさんね」
 
 大きさが大人用だから、自分の指にはあまってしまう。それに、愛の証であるなら二つで一組。一つだけでは不十分。
 出てきたのは、事実を指摘する照れ隠しの憎まれ口。
 想像もしていなかったであろう失態に青ざめるハヤテ君。そんなハヤテ君を、ちょっとの間にらんだあと、ポケットからハヤテ君の指には余りそうな指輪を取り出しました。
 そして、指輪を渡し、アーたんは笑いました。
 アーたんの言葉に、青ざめていたハヤテ君も喜びました。
 そして、振り向き駆け出しました。
 ――僕の家族と暮らしてくれるんだね!!
 アーたんは、それを制止しようとしました。
 ですが、嬉しそうに欠けていくハヤテ君に、その言葉は届きませんでした。
 だから、アーたんは笑いました。
 諦めたように、悟ったように。
 少女は、自分を連れ出してくれること男の子なんて望んでいませんでした。
 そんなことは、できはしないのですから。
 それでも、自分のためにあんなにボロボロになるまで頑張ってくれたハヤテ君の優しさが報われることのない優しさが、嬉しくて、そして悲しくて。
 ハヤテ君が去ったあと、アーたんの瞳から涙が溢れました。












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