しっぽきり

 森から抜け出したハヤテ君。さて、ここはどこかと辺りを見まわしていると、どこかから悲鳴が聞こえます。
 ずみっ、お人形っ、かえして。
 舌足らずな悲鳴が気になって行って見ると、そこにいたのは助けを求める一人の幼女と、少女のものらしい人形を引き千切るバカっぽい、でも凶暴そうで怖い一匹の犬。
 ハヤテ君の存在に一人と一匹が気づきました。そして、幼女は言いました。

「助けにきてくれたの?」

 何その無茶振り。
 そう思ったハヤテ君は思わず後じさり。ですが、そんな弱気のハヤテ君の脳裏にアーたんの声が響きます。
 ハヤテ君の目の前で困っているのは縁もゆかりもない、でも泣いている女の子。
 今の自分には、アーたんに貰った力があります。あとは足りないものは――。
 獰猛な犬が幼女に飛びかかりました。
 咄嗟にハヤテ君は、落ちていた木の棒と、そして足りなかったもの、勇気を手に犬に立ち向かいました。
 その太刀筋は、アーたんから教わった四八の殺人剣の一つアテネストラッシュ。
 ハヤテ君の会心の一振りに不意を突かれた犬は、直撃をくらい吹っ飛び、更には木に激突。思わずうまく行ったのと、残った手応えとで興奮のハヤテ君は、「この僕が許さないぞー!!」と大見栄を切ります。
 目を回していた犬が立ちあがりました。その瞬間、もうそろそろ自分も五〇なことにちょっとアンニュイな気分の中年男性の声が響きました。どうやら犬を呼んでいるらしいその声に、犬は声のした方向とは遠ざかるように逃げていきました。
 犬が逃げ出すのを見送った後、ハヤテ君は人形を拾い上げ、幼女に大丈夫かどうか尋ねました。ですが、幼女の反応は声ではなく、抱きつき。思わぬ接触に照れるハヤテ君。思わぬ展開に、嬉しがりつつも戸惑いながら、怖かった怖かったと泣く幼女を慰め、人形を渡しました。人形はボロボロになってしまいましたが、幼女は助けてもらったことに感謝、責める様子はありません。それどころか、ハヤテ君を「強いんだねー」と誉めてくれます。
 自分が強いと誉められたことに、また戸惑うハヤテ君。ですが、浮かんだのはアーたんの顔。自分はともかく、アーたんが肯定してくれたなら、自分を信じることはできます。
 自分は、強くなっているんだ! 成長しているんだ!
 お礼を言う目の前の少女、そして浮かぶアーたんの笑顔に、ハヤテ君はようやく自分を肯定することができました。
 そんなハヤテ君に、更なるお礼。
 それは、幼女のキス。幼女の父親が幼女に、世界で一番嬉しいことはキスと教えていたらしいのです。立派なカイゼル髭がチクチクするのなんて構わず幼女の母親が幼女の父親にしてくれたキスは、幼女の父親にとって世界一といってもいいぐらいのものだったのです、もちろん幼女が幼女の父親にしてくれたものも。
 さらに幼女は、キスに留まらず、幼女のパパが離さずに防衛してきた幼女をお嫁さんにできる権までプレゼントしてくれました。
 ですが、まあそれはそれ。幼女の兄か弟らしい声がして、ハヤテ君と幼女は別れることになりました。別れ際幼女は、見学に来てるんだら春になったらまた会えるとか、ハヤテ君をハヤ太君と呼んだりと、勘違いを二つほど勘違いをしていったのでした。
 そして、その場にはもう一つ勘違いが生まれていました。

 
 幼女と別れたあと、ハヤテ君なんとかして自宅に戻りました。
 ですが、そこにあったのは、いつまでも新発売のコメディアンラーメンと、ハヤテ君がいなくなってから数日は経っているはずなのに心配した様子なんて欠片もない書置きのみ。
 ハヤテ君はお別れを言うのを諦めて、アーたんのところに帰ることにしました。
 でも、ハヤテ君のなかに芽生えた自信が、ハヤテ君にこう思わせていました。
 ――僕の力なら、親を変えられるんじゃないか?
 と。







 
 「王族の庭園」に帰るとアーたんが笑顔で迎えてくれました。
 それなのに、ハヤテ君の心は休まりません。どっちかというと、なんか不安をかきたてられるような笑顔です。なんというか――笑ってるのに怒ってる的な?
 ハヤテ君がそのことを問うてみても、アーたんは帰ってきてくれてと嬉しいと言います。
 尚もハヤテ君が身をすくませていると、逆にアーたんが質問してきました。外はどうだったかと。
 ハヤテ君は一瞬口篭もりました。
 まさか、アーたんの手前、別の幼女とキスしてきたなんて言えません。その程度は幼いハヤテ君にも計算できました。ですから、ごまかそうとこう答えました。

「な……何もなかったよ」

 そう、いくらやましい気持ちがなかったとはいえ、自分が見知らぬ幼女の唇を奪ってきたなんて、分かるはずがないのです。離れた場所を見られる道具でもない限――ありました。天球のなんとか。
 それに気づいたのと同時に、ハヤテ君の肩に手を置いたアーたんの顔は夜叉。
 ナンパした女にスナック感覚でキスしたことなんてアーたんは怒っていました。それと同じぐらいに、姑息に嘘をついてごまかそうとしたこが気に食わなかったみたいです。
 誤解だよと嘘を上塗りしようとしても、アーたんの殺気は止まりません。
 高らかに打ち鳴らされた指に降ってきたのは剣。
 それを手に取ったアーたんの顔は女神ではなく、悪魔。
 悲鳴と共にハヤテ君に刻み込まれたのは、女のこと付き合うための教育。
 強くなれ、鳩尾、優しくなれ、顎の先、一生金銭面で苦労させない甲斐性を持て、心臓。
 色々と叩きこまれました。
 


 夜。
 アーたんは、毎日ベッドの中では手をつないでくれるのに、つないでくれません。どころか、背を向け、鼻息荒く明らかにお怒り中。
 何日も待っていたのにと怒るアーたん。でも、ハヤテ君がこのお城から出ていたのはたった半日。そんな怒ることないのに。そう思うハヤテ君ですが、アーたんは、やっぱり半日なんかじゃないと怒っています。
 ――しょうがない。
 そう思ったハヤテ君は、ベッドをもぞもぞと移動し、アーたんに後から抱きつきました。
 そして、アーたんに話しかけます。
 浮気者はこう続けました。

「アーたんはこのお城が好き?」

 アーたんの否定する言葉を聞く、この時のハヤテ君は自分をどこまでも信じていました。勇気さえ出せば、そしてアーたんさえいてくれれば、何だってできる、どこへでも行けるんだ、と。
 そして、ハヤテ君は、アーたんに覆い被さるようにして、こう言いました。

「僕と一緒に……お城の外で暮らさない?」



 月光の中、真剣な眼差しで自分を見つめるハヤテ君に、アテネの胸が一つ高鳴りました。













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マリアさん@183話「タイトル未定というタイトル」
過去編が尚も続く、第183話「力への意思」の簡易感想です。

2008.07.10 15:40 | PureSelectMaria

ハヤテのごとく! 第183話感想
 183話「力への意志」の感想です。

2008.07.10 15:48 | ゲームの戯言+α

ハヤテのごとく!183話【THE END OF THE WORLD5 力への意思】畑健二郎
 綾崎負債夫妻の禍に最初のご主人さまを巻き込もうとは、ハヤテの決意は罪づくりすぎる。ちょっと無力だった自分から変化したからといって、万能の力をえたと勘違いするのはあまりにも幼稚な判断だ――三流悪役が陥りがちな現象。まぁ、幼稚園児が幼稚な判断をするのはい...

2008.07.12 11:45 | 360度の方針転換