しっぽきり

 蝋燭の明かりにボンヤリと照らされた室内。十字架の意匠が施された大きな箱の前で、ハヤテ君は不思議がっていました。
 ――何が入っているんだろう?
 蓋に手を伸ばすハヤテ君に、伸びてくる一本の白い手。
 次の瞬間、ハヤテ君は襟首を掴まれ、後に引っ張られていました。
 何事かと見上げればそこにはアーたんの顔。
 しかし、その表情はいつもとは違います。

「ダメよ」

 そう呟く表情は嗜めるようでも、呆れるようでも、当然笑顔でもなく、ただただ自分を見下ろす怖い顔。
 ハヤテ君が怖がるよりも戸惑っていると、アーたんは優しい笑顔に変わり、「このお城には無闇に触ると危ないものが多いのよ」といつものように嗜めました。
 そして、ハヤテ君の手を引き部屋を出ると「魔法の鏡」を見せてくれると言いました。

 移動中、アーたんが見せてくれるという「魔法の鏡」が一体どんなものなのかも気になっていたのですが、ハヤテ君にはもうひとつ、お城に入ってからずっと気になっていることがありました。
 アーたんが「王族の庭城」という、このお城のことです。
 王族と言っているのに、神さまが棲んでいる。いつ誰がつけたのかもわからない蝋燭がずっとゆらめき続けている。そして、大時計がゆっくりゆっくり動いている。
 時計の針が遅いことを指摘すると、アーたんはそれであっているのだと俯き言うと、歩調を速めました。
 消えない小さな不安を胸にアーたんに付いていくと、辿り着いたのは真中に水が一杯に湛えられた大きな甕のある広い広い部屋。
 天球の鏡とアーたんはそれを呼びました。外のあらゆるものを見ることができる神さまの目。
 なんて素敵な道具でしょう。それを使えば、あんなところも、こんなところも覗けるのです。グーグルアースなんて目じゃありません。女子寮も、風呂場も、更衣室も、ノーリスクで覗けます。ハヤテ君は意味もわからず興奮してきましたが、アーたんがそれに水をかけました。
 この鏡が映せるのは、自分が知っている人のその周囲だけで、映せる時間も一日に少し。そして、映像だけで声を聞くことはできない。
 そのとき、水面がゆっくりと揺れて、ぼんやり光りだしました。
 影が出来て、色が浮かんで、段々と絵になっていきます。
 不思議な水面に無邪気に喜ぶハヤテ君は、少し悲しそうな表情をしていたアーたんの口許が緩んだことに気づきませんでした。
 浮かんできたのは、行ったことのない不思議な風景の中で微笑む、麦藁帽子をかぶった一人の可愛い少女。
 
「どんな仕組みになっているのかわかんないけど……すごく可愛い女の子が映ってるよー」

 更には。、お持ち帰りしたい、勿論セイ的な意味で、と意味はわからないけど、そう欲求をぶちまけます。
 ヌード写真集を買ってきたヒモ状態のハヤテ君は、アーたんの目が釣りあがったことに気づきませんでした。
 突如、魔法の鏡を消すと言い始めたアーたんに、ハヤテ君は大慌て。更には傘を投げつけられ「鏡の中の女とよろしくやってればいいんですわー」と修羅場を叩きつけられる大惨事に涙目。アーたんは部屋を出ていってしまいました。





 駆け出してしまったアーたんをハヤテ君は必死に探しました。
 広大なお城の中、最後に辿り着いたのは屋上。そこにアーたんはいました。
 ハヤテ君は、彼女に探している間ずっと思っていたことを聞きました。
 ――ねぇ……なに起こっているの?
 怒られるということは嫌われているということ。アーたんにまで嫌われるわけに――。だからハヤテ君は、必死にアーたんが怒っている理由を尋ねました。ですが、アーたんは怒っていないと言います。
 ――そんなはずはない、だってあんなに怖い顔してるんだもの。
 怒ってる、怒ってない、怒ってる、怒ってない。
 問答を繰り返すうちにハヤテ君は泣き出してしまいました。
 皆、自分を嫌う。アーたんにまで嫌われてしまったら、とてもとても生きていけません。

「べっ……別に嫌ってなんか……」
「じゃあ僕の事好き?」
「は!?」

 まだ幼いハヤテ君は、人間には好きか嫌いかのどっちかしかないと思いこんでいて、またアーたんが好きということを恥ずかしがる理由も、ハヤテ君のことを好きだから怒っているということもよくわかりませんでした。
 だから、好きだと言ってくれないアーたんが自分を嫌いなんだとまた、泣き出します。
 
「ハ!! ハヤテこそどうなのよ!! あんなにいっぱい私にキスしておいて……!! ちょっと可愛い子を見たらデレデレして……!!」
 
 デレデレなんてしてない、してた、してない、してた
 また、問答が始まりかけたところで、ハヤテ君は小さな声で言いました。
 ――アーたんのことが好きだと。
 ハヤテ君の言葉に、アーたんの顔がカッと赤くなりました。そして、感情をもてあましたように、夕日を指差し、自分の名前を、世界中に聞こえるように呼ぶよう言いました。
 ハヤテ君は、言われたとおりアーたんの名前を叫びました。

 もっと大きな声で。アーたんが求めます。
 アーたん! 
 もっと大きな声で。
 アーたん!!
 もっと愛をこめて。
 アー・たん!!!

 そんな体育会系のノリな告白をしながら、ハヤテ君は生まれて始めての感覚を噛み締めていました。
 
「ハヤテ……わたしとあなたはずっと……一緒よ」
「うん。僕とアーたんは……ずっと一緒だ」

 必要にしてくれる相手がいて、ずっといたいと思える場所がある。
 ハヤテ君は、本当に幸せでした。





 でも、その幸せは長くは続きませんでした。












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2008.06.26 07:05 | 蒼のごとく!