しっぽきり

 目を覚ましたハヤテ君はまだ夢を見ているようでした。
 温かい布団、柔らかな枕、天蓋付きのベッド、そして隣には、アーたん。
 手をつないだアーたんが少し身じろぎしました。
 うっすらと目を開ける少女に挨拶をするハヤテ君。しかし、返事はなかなか返ってきません。アーたんは朝がとてもとても弱かったのです、気が付いた時に時計を見れば既に七時。呆然と「午前の七時じゃなく?」と呟くことも珍しくありません。
 それはそれとして、ハヤテ君も今日からアーたんの“しつじ”。
 意欲たっぷりに執事とはどういうことをするのかハヤテ君は尋ねます。
 教えるために起きようとするアーたん。起きるために、ハヤテ君にあることを求めます。
 
 それじゃわからないとハヤテ君。父親からの「時には焦らしてやることも必要」という教えを無意識に体現していたのですが、その言葉にアーたんが頬を赤らめて求めました。おはようのキスを。さすがロクデナシの教え、効果は覿面でした。 
 そして、二人は幼い唇を交し合いました。




 着替えを終え、まずは掃除から。
 ですが、ハヤテ君はなんだか落ち着きがありません。
 原因はその服装でした。
 黒尽くめの執事服。アーたんは素敵とは言ってくれるのですが、こんなピカピカでキレーな服は生まれて初めて。自分とは不釣合いのように思えてしかたなかったのです。
 その執事服は、自分が仕立て直したもの。
 そう言ってアーたんは笑うのでした。



 バケツに水を入れながらハヤテ君はアーたんの笑顔を思い出していました。こんな広いお城に両親もなく一人。そんな疑問を忘れるぐらいに素敵な笑顔に、ハヤテ君は頑張って執事になろうと誓うのでした。
 その手始めとして、水を並々と入れたバケツを引きずるハヤテ君。
 その働きぶりにアーたんも感心とは行きませんでした。ハヤテ君の持ってきたバケツには、小さな子供が運ぶには多すぎる量の水が並々と入っていました。
 しかし今のハヤテ君には、アーたんの笑顔というモチベーションがあります。気合が充実しています。その気合が一気に放出された結果。バケツはアーたんの元に届けられました。放り投げられるという形で。




 ビショ濡れのアーたんはお風呂に。
 バケツをこぼしたことで叱られるハヤテ君は弱音を漏らしました。

「だけど僕……不器用で、弱いし力もたいしてないから……」

 アーたんが浴槽から上がりました。遮るものはバスタオル一枚。思わぬ展開に赤面するハヤテ君ですが、アーたんはそんなハヤテ君に思わぬことい言い始めました。

「少し服をお脱ぎなさい」

 相手はバスタオル一枚。そして、脱ぎなさい。
 エッチーなどと嫌がりながらも、内心ハヤテ君は今後の展開に思いを馳せていました。



 


 ですが、アーたんはあっさり着衣。どうもそういう展開ではないらしいと理解したハヤテ君は、しぶしぶ上着を脱ぎ始めました。
 
「この王族の庭城で……私もできるようになったのよ。
 神さまの真似事」

 アーたんの言っていることがハヤテ君にはよく分かりませんでした。それについてハヤテ君は、詳しく聞くことはできませんでした。背中を見たアーたんの、

「それにしてもあなた……体にずいぶんあざや傷がありますね」

 という言葉に心配をかけないために嘘を考えなければならなかったからです。
 よく転ぶからと嘘をつき、それでも何か言いたそうなアーたんの注意を逸らすために、アーたんが何をしようとしているのかを聞きました。

「本来とても強い体をしているの。自分で気づいていないだけで。
 だから私が淀みを消して矯正してあげるの」

 アーたんの指がハヤテ君の背中に触れました。
 その瞬間、ハヤテ君の体が軽くなりました。
 不思議がるハヤテ君にアーたんは、掃除の続きを促しました。



 銀製にはシルバーダスター。銅像には真鍮ブラシ。カーペットには冷水に頭髪用洗剤と塩を少々。
 言うとおりに掃除すると、どれもピカピカになりました。アーたんの教える知識は完璧なものでした。
 何事にも正しい順序や方法があると胸を張るアーたんに、ハヤテ君はいつでも掃除のアルバイトができると子供の夢的にも、アーたんの執事的にも間違ったことを言い出すのでした。
 そんなハヤテ君にアーたんが笑いかけました。

「ハヤテ、やればできるじゃない」

 優しい言葉でした。 
 家での家事はハヤテ君がやって当然のこと。幼稚園では無視されてきた。
 だから、初めて気付きました。
 ――自分は誰かにほめてもらいたかった。
 と。
 困惑するアーたんをよそに、ハヤテ君の気力は充実してきました。アーたんにもっと誉めてもらいたい。
 ですが、話を聞かないのがハヤテ君。アーたんの迷いやすい、入ってはいけないという忠告をあっさり無視して走り出してしまいました。
 そんなことは思ってなかった五分後。
 薄々と気付き始めた十分後。
 二十分後、迷宮のように広い城の中でハヤテ君はすっかり迷子になってしまいました。
 手当たり次第に部屋を見ていけば、状況を打開できるだろうと、また扉を開けて入った部屋。そこでハヤテ君が見た物。それは大きな棺でした。












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今週のハヤテのごとく!180話@よい子は夜キスしないで早く寝ましょう
とりあえず田舎なので外食店が近くに欲しいです・・・ 少ないのですよね

2008.06.18 23:04 | 蒼のごとく!