しっぽきり

 大半の人間には関係のないことでございますが、執事やらメイドさんやらを雇える家というのは、広い世間にはあるものでして。愛沢家もそんなお家の一つでございました。
 その愛沢家を舞台に、ことのおこりは数週間前。
 愛沢家の長女・咲夜嬢を赤子のころからサポートしてきた巻田(三五・一四年目)国枝(三四・一六年目)てぇ執事が二人。この二人は悩みがあったわけでございます。
 
「巻田~ 国枝~」

 咲夜嬢に呼び出され、部屋に向かうとそこから出てきたのは服を持った咲夜嬢。どうやらお召し物が気に入らなかったようで、違う服を持ってきて欲しいらしい。二人は執事なわけですから、それはかまいません。ですが、問題は咲夜嬢のその格好。
 服が気に入らないということは、着替え中なわけでして、そして、着替え中ということは、まあ服をちゃんと着てないわけでございまして。
 それだけでも、こうググッとくるところでございますが、加えて咲夜嬢上半身は、ブラジャー一枚。
 白い肌。年齢に似つかわしくない豊満な胸。
 これには二人も唖然仰天。どうしたものかこうしたものか。凍りついた二人としては、あられもない格好の咲夜嬢を注意するのが目一杯の忠義といわけでした。


 そう。咲夜嬢は十代半ば。成長期の伸び盛り。
 明るく、賢く、元気に。当然、体のほうも成長著しいわけで。とくに胸とか胸とか、胸とか……あと胸、でございましょうか?
 そんなわけで、大人の女性への階段を一足飛びに昇っている感のある咲夜嬢ではございましたが、悪いことに本人その自覚がない。
 男である自分達二人ではお嬢さまのお世話にも限界がある。
 そんなわけで、対策を考えなければなりません。
 ポクポクチーンと考えに考えましたところ、さすがはモブキャラ臭が抜けないとはいえ執事。解決安を思いついたわけでございます。



 専属のメイドを雇う。
 それが二人の出した結論でした。
 却下。ナギの所に言ってくる。
 それが咲夜嬢の出した結論でした。
 あっさり断られるわけにはいきません。食い下がる二人。

「お嬢さまは日々女性に成長していきます。とくに胸とか」
「そのお嬢さまに男の我々がお仕えるわけには行きません」

 熱弁ではございましたが、咲夜嬢の答えは、やっぱり拒否。
 気にしない。こっちが気にする。
 問答は続きます。
 このままでは埒があかないと感じたましたか、咲夜嬢、乳母のトメさんの名前を出した。
 ところが、これが藪に蛇。
 このトメさん、若いころから、中身がなみなみと入った寸胴を一滴もこぼさず、やっ! と掛け声一つ、一気に運ぶことから「寸胴のトメ」と勇名を響かせてはいたものの、御年すでに七七。
 寄る年波には勝てず、特に三年前に寸胴を運ぶのに失敗、転倒。冷えていたのが幸いだったとはいえ、カレーまみれになって以来、めっきり老け込み、引退を考えていたのから、どの道女手が必要。
 巻田・国枝両氏とも熱弁を更に振るいますが、咲夜さんは、万能の天才三千院家メイド・マリアや、熟年カップルみたいな関係の橘家メイド・サキの名前を上げ、グイグイとハードルを上げます。
 いくら咲夜嬢が人見知りのしない明るい性格だとはいえ、まあ専属のメイドともなれば家族も同然なのでございましょう。とくに、身近に上げた二人と主人の関係が関係。咲夜嬢にはその認識が特に強いわけでありまして。
 ですから、専属メイドをつけるにしても、十分に吟味したい。それが咲夜嬢にできる譲歩でした。
 しかし、巻田さん・国枝さんは先ほど申しましたとおり、執事。抜かりなんてございません。
 既に画期的プロジェクトが実行に移されていたのであります。


 自信満々、巻田・国枝意気揚々と咲夜嬢を連れていったのが、メイドカフェ・サク☆ニャン。
 咲夜さんのメイドを選ぶからサク☆ニャン。二人の渾身のネーミングでありました。
 これなら、咲夜お嬢さまにも喜んでもらえるはず間違い無し。
 さていつ誉める。どう誉める。どちらから誉める。
 俺だ。
 いや、こっちだ。
 いやいやお前だ。
 どうしてこっちか? いやって言ったじゃないか。
 いやと二回入っただろう。いや一回で俺、いや二回目でお前さん。
 なるほど、じゃあこっちか。
 いや俺だ。
 どっちだい。
 こう、三十路をとうに過ぎたとはいえ、主人から誉められるというのは嬉しいものでございまして。二人の期待、否が応でも高まります。
 
「看板がムカつくから変えてくれるか?」

 ところが咲夜嬢は、不機嫌。まあ当然でございますな。世間の人間は知らないとはいえ、でっかく自分の名前をもじった看板など出されてはたまったものではございません。


 それでもまあ、なんとかなだめすかされて、中に入りはしましたが、自分のメイドを探すためだけにメイドカフェを作るという過保護な二人のお金のかけかたに呆れる咲夜嬢。
 二人にも言い分はあるものでして、事業として実益を出せると同時に、働きっぷりや人間性を見ることができると、悪びれる様子はございません。
 オープン仕立てとはいえ、お客もそこそこ入っているようで、その金の使い方にはとりあえず理解しましたが、それとメイドとは別問題。
 見てみれば、まずまずかわいい子はいますが、どのメイドさんもぎこちなく、どうも咲夜嬢にはピンときません。

 そこにまた一人バイトの子が。年の頃は咲夜嬢より三つか四つか上。咲夜嬢のお友達、ナギお嬢さまが通う白皇の制服を着た、眼鏡をかけたスッとした感じの麗しい少女でございました。この少女、咲夜嬢は当然知らないわけではありますが、名前を千桜といい、白皇では生徒会で働く少女でございました。
 ですが、この千桜も咲夜さんのお眼鏡にはかないません。
 かわいいのはいいけど、見るからに生真面目でつまらなそうな顔をしている少女と一緒では、気が滅入ってしまう。勧める二人をそう交し、続けて、咲夜さんは自分のメイド候補に、条件を三つ、こうつけました。
 明るい。元気。そしてなにより吹き出すぐらいにおもろい人。
 いくら咲夜嬢が人見知りのしない明るい性格だとはいえ、専属のメイドとなれば申しました通り家族も同然。生まれたときから一緒だったのとは違い、改めて家族になるとなりますと、どうしたって抵抗が出てきてしまうものです。
 ところが、再びハードルを上げ、コーヒーを含んだ咲夜嬢、モニターに目を移した瞬間、盛大に吹き出した。
 モニターに写っていたのは変わらず千桜。
 ですが、この千桜、ガラッと変わっていた。服装はメイド服。まあメイドカフェですから、当たり前でございますな。咲夜嬢を驚かせたのはその態度。
 この上なく明るいきゃるーんとでも擬音を付けたくなるような笑顔で、コーヒー? 紅茶? それともえ・が・お? と元気に接客。
 明るく、元気。ついでに、見た瞬間に咲夜嬢が吹き出したとあって、出した条件は全てクリア。
 咲夜嬢にとっては思いも寄らない展開でございますすが、あくまでさっきの条件は、自分のメイドになるならという条件。
 千桜は前半部分は満たしていますが、後半部分は、つまりメイドとしての技量はまだ満たしていません。ピシピシテキパキと仕事をこなせなければ――
 言いかけたところで、咲夜嬢、また仰天。
 接客の合間を見ては、皿を綺麗に拭き、重ね並べ、動き回る。その動き振りも、チョコマカした感じはこれっぽっちもなく、実に堂に入ったもの。それもそのはず、名門と名高い白皇の生徒会で、鍛えられた実力の持ち主でございました。
 それはそれとして、咲夜嬢意外な展開にうろたえました。そして出したのが、最後の条件。
 自分との相性。
 会って話してみては? とは国枝の一言。
 なるほど。いくら遠くから観察してみても、人と人の相性などは会ってみなくては、とんと分かりません。
 ですが、咲夜嬢は、用事を思い出したとでかけてしまったのでございます。



 向かった先は、咲夜嬢の親戚にして大親友。三千院ナギお嬢さまのところ。
 出迎えたハヤテ。三千院家の執事でございますな。このハヤテの顔を見た瞬間、咲夜嬢ピンときた。
 人生経験豊富なのでしょう、営業スマイルなのかなんなのか明るい。また、叩いても潰れても粉になっても生き返りそうなぐらいに頑丈で、つまりはある意味で元気。能力も実証ずみ。そして何より、人の不幸は蜜の味と申しますように、この不幸の塊みたいな少年ハヤテは、とてもおもしろい。
 完全に条件を満たしますハヤテが男で、執事なことを残念がる咲夜嬢。メイドでもかまわんとおもしろがるナギお嬢さまとメイドのマリア。
 少しの間ハヤテいじりを楽しんでいたナギお嬢さまですが、さすが咲夜嬢の大親友。浮かない表情をしていることに気づかれます。
 不機嫌の理由を問われた咲夜嬢。ちょっと考え込んだと思うと、ハヤテを指指し、なんで執事として雇ったのかと逆に問い返します。
 何か粗相があったのかと震え出すハヤテ。咲夜嬢このハヤテを、嫌いではないので必死にフォロー。
 その経緯は詳しくは知らないものの、出会ったすぐ、ほとんど即決。出会った頃は、ハヤテの執事の能力などナギお嬢さまは知らなかったはずと咲夜嬢。横からヒョイと返ってきたのは、ナギお嬢さまの「運命」の一言。


 ナギお嬢さまの答えを考えながら、街をフラフラと歩いていた咲夜嬢の目に飛び込んできたのが、これがまた運命的にも「運命」の二文字。ゲームのポスターでした。そして、その言葉に引き寄せられるように、ゲームの筐体へと近づいていきます。そして無造作にチャリンと百円玉を二枚投下。
 赤の他人といつも一緒になるということになれば、それは運命的な何かでもない限りはやりきれん。 そんなことを考えながら、ゲームのガンコントローラーを取ったわけですが、なにせ咲夜嬢はこういうゲームをやるのは始めて。ナギお嬢さまなら勝って知ったる庭とばかりに大暴れだったのでございましょうが、咲夜嬢には具合が分からない。コントローラーで画面のゾンビらしき敵を撃つのはわかるが、どうすればいいかがよく分からない。
 オロオロとしているところに、近寄る影一つ。

「銃を軽く振って弾を装填。前のボタンは手榴弾ですよ」

 突如しました声に振り向くと、そこにいたのは先ほどメイドカフェで見たメイドの千桜。仕事が終わって制服姿。
 この千桜、いくら可愛い仕事とはいえ、接客業。そこはストレスが溜まるも。そこで溜まったストレスを可愛いくないものを撃ち殺すゲームで発散するのが日常。そんな日常に、紛れ込んだ可愛い女の子を放っておくことができない。
 さらに驚く咲夜嬢。
 目の前で可愛い女の子がひとりでプレイしているのが珍しく、困っているようだったからと、一緒にプレイしようと言い出す千桜。この千桜、可愛いものに目がなく、言って見れば少女のナンパ。
 咲夜嬢、思わぬ展開に勢いでこれにクビを縦に振ります。ですが、ゲームには疎い咲夜嬢。やっぱり自信が無い。すぐ死んで逆に迷惑をかけるかもと笑う咲夜嬢に、どういうスイッチが入ったか、千桜は、

「あなたは死なない……私が守るから」

 と、こう抑揚の無い声で決め台詞。
 アニメの台詞を無意識に言ってしまうのは千桜の悪い癖ではありましたが、この咲夜嬢、ゲームだけでなくアニメにも疎い。知識がないのが逆に先入観を無くしたのか、この台詞が咲夜嬢に思いのほか効いた。

「では、行きます!!」
「は!! はい!!」

 ここで、ゲームスタート。
 慣れているのか、快調に飛ばしていく千桜。
 元々勘がいいのか、はじめこそ戸惑ったものの、なんとか付いていけるようになった咲夜嬢。
 ちぃっ! 当たらなければどうということはない。目標をセンターに入れてスイッチ。
 夢中だったのか、ポンポン飛び出す千桜のアニメ言葉。これまた夢中の咲夜嬢も気づかず、あっという間に画面のゾンビも最後の一匹。
 掛け声とともに、ゾンビが撃ち殺される、無事ゲームクリア。地球は救われました。
 飲みこみが早いと誉める千桜に照れる咲夜嬢。
 それでも、やはり巧妙に作られたゾンビが怖かったのか、女の子がやるもんやないとポツリ洩らします。
 あんな可愛くないゾンビを撃ち殺すぐらい、ストレス発散にいいでしょうと、買った缶コーヒーを手渡す千桜。 

「地球の平和も守れましたよ」

 と笑う千桜に、受け取る咲夜嬢も「架空のやん?」と釣られて笑顔。
 もう一つ笑わせようと思ったのか、また軽口を一つ。
 
「ええ。ゾンビだけに……リセット一つで蘇ります」
 
 ところがこれが裏目にでた。
 上手くない冗談に、一瞬の気まずい空気に、頬を染め帰ろうととする千桜。
 この仕草がまた愛嬌に写ったのか、咲夜嬢は笑って呼びとめた。

「ウチは、おもろい人が大好きやねん」

 そして、自分のメイドになってくれるよう頼み込みました。当然千桜驚かないわけが無い。
 「メイドカフェの仕事があるから急には無理」と言いましたところ、咲夜嬢「それなら大丈夫」と電話一本。かけ終わりますと、入れ替わりに千桜の携帯が揺れて「OK」の一言。 
 それでも戸惑う千桜だが、給料が上がる、メイド服を着るのは変わらない、ご主人様は可愛いと、話を聞いて考えてみれば断る理由が特に無い。
 引きうけることを決めた千桜。
 満足そうに頷いた咲夜嬢、ここで重要なことを思い出し、千桜に尋ねました。
 
「そうや。大事なこと聞き忘れてた」
「なんでしょう?」
「名前、何て言うん?」
「春風千桜です」
「千桜かぁ……。チーちゃん、チーちん……んー、違うかなぁ。そや、ハルさん! ハルさんでどないや?」
「え、ええ。いいと思います」
「ほな、行こか」
「は!! はい」

 こうして、愛沢家にハルが来た。
 お後がよろしいようで。 













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