しっぽきり

 サキさんは、(ワタル君の趣味で)メイド服でビデオレンタルタチバナの従業員をこなす、いわばスーパーメイドさんです。スーパーが付くだけあって、とても優秀。どの作品が、18禁作品かも把握されていました。(18禁の仕入れからワタル君の趣味を把握するため)
 ですが、スーパーはスーパーでも、サキさんのスーパーはワタル君専用。なので、他のお客様向けには作動しません。テレビ版とOVA版のDVDを間違って入れる。映画版一作目と映画版二作目を入れ間違える。
 DVD時代の今の基準で18禁になってしまった作品をビデオ時代と同じように棚に並べてしまったのです。
 


 春の陽光が暖かいとある日。サキさんが並べた18禁DVDを手に、煩悶しているちびっ子さんがいました。
 ナギお嬢さまです。
 物理的にちびっ子なナギお嬢さまも一三歳。ちょっと背伸びしたいお年頃。なので、珍しく外出しビデオを借りに来た今日も、サキさんが並べた18禁DVDをガン見中です。
 いい感じに妄想をさせてくれるパッケージと裏側のカットに背徳感を募らせるお嬢さま。
 当然お店の商品は店長としてチェック済みなワタル君十三歳がカウンターから声をかけてくるなどのスリルを楽しんでいるうちに、お嬢さまの白魚のような指がDVDをパッケージから抜き出しました、当然18禁。ネットを使った買い物には、鉄壁のマリアさんブロックがはたらくために、直接自分で選べるこの瞬間を逃がすわけにいきません。
 胸の鼓動が高まった次の瞬間、ハヤテ君が声をかけてきました。
 驚きのあまり、すべる手。落とされるDVD。ぶつかって乱れる棚。怒る許婚。更に大きな物音を立てるサキさん。外から、虎視眈々とワタル君と二人きりになれそうなタイミングを見計らうシスター。
 なんだかんだ悲惨な状況がありましたが、お嬢さまは大量借りるという計略を用いて、18禁ビデオのレンタルに成功するのでした。



 そんなわけで帰宅したナギお嬢さまは「クリエイターとしての自己を鍛えるために、静かな環境で、集中して、一人っきりで、他のクリエイターが作った、作品を、見てみ、た、い」とハヤテ君に熱弁を振るい、専用オーディオルームに家庭内引き篭もりを決め込みました。
 お嬢さまは当然ながらそっち方面の漫画家を目指すつもりも、偽PNを使って活動するつもりもありません。しかし、レンタルしてきたDVDの中には、なぜかけしからんいかがわしいDVDがあります。
 普通の棚から選んだはずなのに。
 まったくしょうがないことではありあますが、しかしそういう作品とはいえ、クリエイターが作ったものをむざむざ見もせずに返すことは、愛のないオタはただのマニアと言い切るナギお嬢さまにはできません。それに、これがどの程度けしからんものなのか、一人CREOとしてお嬢さまは確認しなければならないのです。
 なので、とりあえず見てみることにしました。
 なんだか、店で見てけしからんのとはタイトルが違うような気もしますが、まあ18禁は18禁。けしからんものに違いはありません。
 立ち上がるDVD。
 蘇るゾンビ。うごめくゾンビ。走るゾンビ。ちょっとばかしHシーン。そんな程度じゃねと欠伸し鼻で笑うシラヌイ。タールマン大暴れ。怖くて衝撃のラスト。
 怖いけど面白いから止められず、お嬢さまは結局最後まで見てしまいました。
  九〇分の間、DVDに心を奪われたナギお嬢さまでしたが、DVDから解放されてからの第一声は恐怖と怒りの怒声。物が倒れただけの音にも脅える始末。
 しかし、お嬢さまの耳にはただの物音には聞こえませんでした。一三歳なのに、R-18指定DVDを見てしまった自分は呪われてしまったに違いない。そして、物音は自分を呪う悪霊がたてた物音に違いないのです。
 震えるお嬢さまが、助けを求めたのは――



 ハヤテ君は困っていました。
 お嬢さまに助けを求められることに否はありません。むしろ執事の本懐です。
 しかし、駆けつけた瞬間から自分の袖口も手も離してくれないとなれば話は別。掃除をしてもついてくる。洗濯物を取りこもうとしてもついてくる。紅茶を入れてもはなしてくれない。
 こうなってしまっては、家事も満足にこなせません。
 ですが、何か巨大な敵に脅えているらしいナギお嬢さまを見ているうちに、ハヤテ君は思いました。
 ――脅えるお嬢さまを一人にするわけにはいかない。お嬢さまの安心以上に大切なものが執事にあるだろうか?

「ハヤテ君、食材の追加買ってきてくださいます?」

 意外と身近にありました。
 マリアさんのお願いに駆け出すハヤテ君ですが、こういう時には超人的な身体能力を発揮するお嬢さまは、ハヤテ君にしがみついてきます。
 そんなことは言われても四六時中一緒は無理、現実は厳しいものだと知ってください。と、念を飛ばしますが、お嬢さまは、よっぽど巨大な敵が襲いかかってくると思いこんでくるらしく、離してくれません。「マリアさんなら勝てる」「勝てない」などと問答を交しているうちに、ハヤテ君はいつものようにポロッと事態をややこしくする一言を洩らしました。

「寝るときとかまで一緒という事になりますよ?」



 そして、ナギお嬢さまはハヤテ君を自分とマリアさんの寝室に連れこみました。
 ナギお嬢さまが、いくら「今日だけ、今日だけ」といっても、マリアさんの視線は厳しいものです。
 譲歩に譲歩を重ねて、自分が寝るまでと条件を出し、ようやくのことでハヤテ君がいることをマリアさんに許してもらいました。
 ベッドにハヤテ君だけが遠くに離れたバランスの悪い川の字に並んだ三人。
 寝た?
 寝てない。
 寝ました?
 寝てない。
 人間、寝よう寝ようとしても中々寝られるものではありません。
 なかなか寝ないお嬢さまに長期戦を覚悟したのか、マリアさんとハヤテ君が会話をしだしました。
 話題に上がったのは、最近のナギお嬢さまのこと。
 ワタル君のお店でお嬢さまが裸の女性が写っているDVDパッケージを凝視していたことは、ハヤテ君にバレていました。
 少し間があって、マリアさんが「へ~」と言いました。この「へ~」は、裸パッケージを凝視するお嬢さまを凝視していたハヤテ君に対しての「へ~」でしたが、お嬢さまにそんなことを気づく余裕はありません。
 二人の会話は尚も続いていきます。
 今度からは注意。人格形成にこれ以上問題が出ても。漫画も過激なものを好むようになっている。困ったもの。
 言葉の暴力にさらされボコボコにされたお嬢さまが怒るのも無理がない状況でした。



 少しの間黙っていると、お嬢さまはすやすやと寝息を立て始めました。
 音をたてないよう、ゆっくりと立ちあがるハヤテ君を、マリアさんが見送ろうとした瞬間、ナギお嬢さまがうめき始めました。
 よほど怖い夢を見ているのかしら。
 マリアさんが、心配そうに覗きこむと、ハヤテ君もまたお嬢さまに近づいてきました。
 そして、優しく囁いて、ナギお嬢さまを夢の中で襲う怖いヤツら退治しました。
 嬉しそうに頬を緩ませたナギお嬢さま。
 ナギお嬢さまを安堵させてくれたハヤテ君を、頼もしそうに見るマリアさん。
 二人は挨拶を交わし、そして夜は終わりました。



 




「ただいま帰りましたー」
 
 いつもならマリアさんは、学校から戻ってきた僕とお嬢さまを玄関まで出て迎えてくれるのですが、今日は姿も見えないし返事もない。
 
「マリアー?」

 お嬢さまも返事がないことが不思議なようで、大声で名前を呼んでいます。
 どこかの掃除でもしているのかもしれない、そう思いなおし、僕もお嬢さまも部屋に戻りました。
 荷物を置き、身なりを整えて、お嬢さまに紅茶でも入れようかとキッチンに向かうと、そこにマリアさんはいました。
 
「マリアさん。ここにいたんですか」

 声をかけると、マリアさんは大きく一度震えて振り向きました。

「あ、ああ。ハヤテ君帰ってたんですか」
「ええ。つい、さっき」
「そうですか。私も今、お茶でも入れようかと思って」
「それなら、僕入れますよ」
  
 しかし、お湯を沸かし、茶葉を出し、カップを出す僕の側をマリアさんは離れてくれません。
 
「えっと、マリアさん? 座っててください」
「えっ、いえ、ちょっと……そう、お皿も拭こうと思ってたんです」

 「はあ」と頷く僕を尻目に、マリアさんはどう見ても白いお皿を拭き始めました。
 
 その後もマリアさんの様子は少し変でした。
 掃除でも、いつもなら指示を出して、別々の場所を掃除するのに、一緒の場所、それもすぐ近くを掃除し、時々僕の袖を掴んできました。
 
 入浴を終え(この時もマリアさんは、お風呂場のすぐ外で待っていました)、勉強しようかとノートを開くと、ドアがノックされました。
 「どうぞ」と声をかけ、ドアを開くとマリアさんがいました。

「あの……今日もナギの隣で寝てくれますか? ナギったら、まだ脅えているみたいで」

 僕にはお嬢さまはいつも通りに見えましたが、僕より付き合いが長く、お嬢さまのことなら何でも知っているマリアさんが言うならそうなのでしょう。承諾しました。
 僕が寝室に行くと、お嬢さまは少し驚いたようですが、どうやら喜んでくれたようで、眠りにつくまで、終始機嫌が良さそうでした。
 お嬢さまが、寝息を立て始め、自室に戻り勉強を再開しようと立ちあがったときでした。
 マリアさんも立ちあがり、昼間のように僕の袖を掴みました。
 
「あの、一緒にいてくれませんか?」
「でも、お嬢さまはもう寝て――」
「そうじゃなくて。その、じゃあ……」

 言葉を切り、顔を上げて、こう言いました。

「じゃあ……ハヤテ君の部屋に、行っていいですか?」
 
 僕は、首を横に振ることができませんでした。
 だって、マリアさんの瞳は涙で潤んでいたのですから。
 僕はマリアさんを連れて自室に戻り、そして――















 という展開はありませんでした。
 ハヤテ君も、マリアさんもまだ対象年齢未満だったので。 

>マリアさんもまだ対象年齢未満
 えー、そうでしたっけ?
「秘密を守るためにMI6まで動いている」という噂は聞いてますけど……色々と噂は漏れ伝わってきていますからねぇ。
 ―― え?アストン・マーティンに乗せてくれる?わーい、行く行く~♪

2008.05.11 16:09 URL | すがたけ #YrGnQh/o [ 編集 ]

 とりあえず、生コンとドラム缶を用意しておくように言われてた気がします。一生懸命コネルヨ(`・ω・´)


 コメントありがとうございました。

2008.05.11 21:53 URL | 美尾 #9ayR5QDw [ 編集 ]













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