しっぽきり

 白皇、つまりはほぼ日本とか世界といっても差し支えないレベルで屈指のお嬢さまであるところの泉さんは、ちょっとばかし複雑な状況にいました。
 二人の男が自分の為に争おうとしているのです。自分のことで、兄である虎鉄さんと同級生の男の子であるハヤテ君が決闘をしようとしているのです。それも、父親の目の前で。
 固唾を飲む一同の前、虎鉄さんはハヤテ君に言いました。
 ――お前をいただく。
 ハヤテ君は虎鉄さんに言いました。
 ――あなたとの因縁を終わらせてみせます。
 おや? なんだか様子が変です。
 泉さんのための決闘のはずなのに、二人とも泉さんの名前を口にしません。
 それもそのはず、二人の関係も複雑なものだったのです。
 虎鉄さんはハヤテ君が大好き。ハヤテ君は虎鉄さんが大嫌い。
 どちらかの感情のベクトルが逆なら話は簡単だったのですが、そうでない以上、近づいては離れの繰り返し。その因縁を両方断ち切りたいと望んでいました。
 なので、二人は泉さんのことも頭の片隅で子馬がトモをラチにぶつけた程度には考えていましたが、それは一々そんなこと報告するなレベルのことであって、この場においてはあくまで片隅。泉さんは、うかつに口を出そうものなら、たちまち叱責されてしまうような第三者に過ぎないのでした。

 

 マグマに生まれた無数の泡の一つが割れた瞬間、死闘は始まりました。
 執事、つまりは超人である二人の戦いは熾烈を極めました。
 洗練されたフェイント、烈火のごとき一撃。
 常人の目には止まらない二人の撃合いでしたが、もちろん見えている当事者・虎鉄さんにとっては至福の時間でした。
 ハヤテ君の華麗な剣技は、虎鉄さんの胸を昂ぶらせていきます。
 美しいだけでなく、強い。虎鉄さんはハヤテ君を改めて惚れなおしていましたが、しかし、それも時間が経つとともに変わっていきました。
 ハヤテ君の勢いが止まらないです。
 耐え、凌ぎますが、やっぱり止まりません。それどころか、増していきます。
 渾身の一突きを何とか交して距離を取ると、ようやく虎鉄さんは悟りました。
 ハヤテ君は自分を本気で殺しにきていると。
 下が溶岩で真剣の時点で、命の取り合いなのは確定しているのですが、さらに最愛の相手が自分に殺意を抱いているとあっては、虎鉄さんもやってはいられません。
 その時、ストリンガーさんが叫びました。
 要約すると、泉さんのために死ね、と。
 妹の恋路>>>>>(越えられない壁)>>>息子の命。
 認めたくない現実を見せつけられ、虎鉄さんが血縁関係に悩んでいるところへ、ハヤテ君もまた叫びました。
 ――恨みがあるから死んでくれ。主に自分と、ついでに泉さんのために。
 これも、また大義名分に妹の名前を口にします。
 同年同月同日に生まれたはずの双子なのに、これほど差がつけられるとは理不尽な話です。
 大体、幼いころからそうでした。
 兄が自分をいじめてくれないと泉さんが泣きついたせいで、幾度ストリンガーさんに叱られたことでしょう。
 そんな過去の記憶が蘇った怒りによって、押され気味だった虎鉄さんの剣に鋭さが戻りました。



 しみじみと変態さんと泉さんの客観的な評価を噛み締めている美希さんを前に一進一退の死闘は続いていました。景品の叫びはスルーで。
 なんだか、自分達同様(観客という意識がないだけ、なおひどいかもしれませんが)除け者っぽい泉さんを、ナイロン製のウェディングドレスのフリルに溶岩が跳ねて、燃え出したらことだからと、観客席に呼びました。ですが、そういう台詞の後には、大体そういう事態が訪れるもので、泉さんのウェディングドレスに着火。スカートが燃え出してしまいました。
 慌てる一同の視線を一つの黒い影が通りぬけました。
 その黒い影は、素手で火を払い、ドレスを叩き、消火し泉さんを救いました。
 


 「大丈夫か」と自分の名前を呼ぶ兄に、泉さんは半ば呆然としながら、自分の無事を伝えました。
 兄としてなのか、執事としてなのか。とにかく、己の身を省みない虎鉄さんの行動は、炎の恐怖以上に、泉さんの心に染み入りました。
 火傷した虎鉄さんに、ハヤテ君が近づいてきました。
 戦意の有無を問うハヤテ君。その顔は、真剣なまま。
 ハヤテ君をあきらめられるわけはなく、剣に手を伸ばす虎鉄さんですが、火傷した手では、剣も握れません。
 そんな虎鉄さんを前にハヤテ君は振りかぶり、虎鉄さんの手に包帯を巻きました。
 方法なんて考えようともせず、ただ主の危機を救うために飛び出した虎鉄さん。そんな虎鉄さんを、ハヤテ君は、執事として認めたようでした。
 ですが、認めたのはあくまでも執事としての、虎鉄さん。
 ならば、いますぐ自分の部屋にと喜び立ち上った虎鉄さんの鳩尾にハヤテ君は、肘鉄を一撃。
 呆然とする一同を前に、ハヤテ君は、いつのまにか負け犬になった虎鉄さんの顔を踏みながら、「ざまーねえな」と愉快そうに笑うのでした。
 スカートが半ば焼けてしまった自分の格好に気づき、こうして決闘が終わったのでした。



 美希さん・理沙さんの「私達は嘘をついていません。ですから、怒りませんよね? 怒りませんよね?」と散々念を押した後の、色々な説明もあって、ハヤテ君が携帯を返しにきただけだとようやく理解した、ストリンガーさんは一安心。
 いらぬ勘違いで殺人をしないですんだ。泉にはまだ恋愛なんて早い。
 そんなわけで、上機嫌のストリンガーさん。考えてみれば、ハヤテ君も、決闘を受ける潔さ、虎鉄さんを退ける強さ、紳士的な振る舞い、なにより泉さんの恋愛対象ではないので、なかなかのナイスガイだったような気もします。
 そんな上機嫌なストリンガーさんは、ハヤテ君との別れ際、泉さんの頬がいつもより赤いことに気づきませんでした。

 三千院家に無事帰還したハヤテ君が目にしたのは、大量のメイド服でした。
 ハヤテ君が、ニコニコ笑いながら、メイドから貴族婦人に成りおおせた伝説のメイドさんが着ていた物をはじめとして、嬉々としてメイド服を並べていくマリアさんを見ながら、本当の危機は今から始まるのかもしれないと思ったかは定かではありません。

>ナイロン製のウェディングドレス
 ちょっと待て上流!そんなエレガンテでない生地で仕立てるなッ(挨拶)!!
 というわけで、思わず貸衣装でも使わないような生地に突っ込んでしまいました、こんばんわ。

>伝説のメイドさんが着ていた物をはじめとして
 やはり、南米某国の某メイド長さまの着ていたメイド服もあるんでしょうか?

 ―― 血の…臭いが染み付いている。
 あてがわれたメイド服を手に、ハヤテは、思わず戦慄するのでした。

 そんなシーンを思い浮かべてしまいました。
 ましてや、そのメイド服を着用してハヤテが山犬のような目を浮かべるような展開にまでなってしまうと……。

 ……美尾さんを見つめているロベルトさまは、お元気でしょうか?

2008.04.28 01:50 URL | すがたけ #YrGnQh/o [ 編集 ]

>安めの生地

 きっと虎鉄さんが、ハヤテに着せる日を夢見て、少ない給料から買っておいた一品なんですよ!

>メイド服

 きっと、あるはずです。ハヤテのメイド力がそこまで達したときに、出してくれるはずです。

>ロベルトさま

 紛失→小村徳夫→なぜか見つかった元のキーボードが現在は、スペースキーを埋めております。

2008.04.28 13:22 URL | 美尾 #9ayR5QDw [ 編集 ]













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