しっぽきり

 咲夜さんの誕生日ということで咲夜さんメインの65話の感想を書いてみました。
 いつもながら芸がない(´・ω・`)
 咲夜さんが三千院家来訪を告げたその日、東京に珍しく大雪が降りました。
 ナギお嬢さまも大雪という大義名分を得て、これ幸いお部屋に引きこもり。
 ですが、さすが日本経済どころか世界経済にも影響力を持つ三千院家の跡取り。ただ引きこもるだけではなく、この大雪への観察眼も鋭いもの。各地の異常気象と結び付け、そこに地球からのメッセージを読み取ります。
 地球からのメッセージを汲み、据え置き機じゃなくポータブルのPSPをピコピコいわすナギお嬢さまをアクシデントが襲います。
 なんと部屋が急に真っ暗になってしまったのです。
 停電でした。
 暗闇にトラウマを持つお嬢さまにとって、停電は天敵中の天敵。驚きと恐怖で思わずマリアさんにしがみついてしまいました。
 
 そこに駆けつけたのが、停電どころか料金滞納で電気が点かない日もしばしば、今更停電なんかでは驚かないハヤテ君。
 真っ暗な中にも保護者としての落ち着きを見せるマリアさんの言うところでは、母屋の電気、そして予備電源も雪でやられてしまったということでした。
 お嬢さまが震えるこの暗闇をどうにかするには、離れにあるブレーカーを手動で上げなければいけない。
 タイムリミットはお嬢さまの精神安定剤PSPの電池がきれるまでの三時間。
 目指すは母屋から一km先にある発電所。
 外は雪。
 この仕事は、無論ハヤテ君の仕事、主人を助ける執事の本懐とも言える仕事でした。
 使命感に燃え、吹雪になんか負けないぞ! とばかりに、勇躍飛び出したハヤテ君を出迎えたのは、寒いというより最早痛いような冷気をまとった吹雪。ただし猛がつくほう。
 二次元世界でのツンデレのあしらい方ならよく心得ているハヤテ君ですが、大自然の、地球のツンデレの対処法は流石に知りません。それでも、自分を待ってくれている期待のツンデレ、ナギお嬢さまのためとあっては、ハヤテ君は退くわけにはいきません。
 押し戻されそうな風に逆らって一歩。
 身を切るような吹雪を切り裂いて一歩。
 一歩一歩、確実に歩を進めて行くハヤテ君ですが、地球がデレ期に入る様子は一向にありません。どうやら、ハヤテ君にも地球は攻略対象外だったようです。
 それどころか、雪足は強まっていくばかり。雪がハヤテ君の頬を打ち、強風が手足を萎えさせ、モーター音が耳を突きます。
 そう、ハヤテ君は気付きました。
 この雪なんかおかしい。
 吹雪が弱まる気配は一向にないのはたしかなのですが、自分の周囲一メートルだけ局地的にものすごい強いのです。なにか人為的なものを感じます。
 白く朧に霞んだ視界に意識を集中させてみると、そこにあったのは、白い雪を吐き出す降雪機。全てを白く埋め尽くす雪原に突如出現した機械に驚き振り向くと、左手には焚き火にあたる咲夜さんがいます。
 ハヤテ君の驚き振りには、降雪機へのリアクションを見たいが為に吹雪の中ジッと待っていた咲夜さんも満足したようで、

 風邪でもひかれた日には一大事。とりあえず、咲夜さんに屋敷へ戻ることを提案するハヤテ君。咲夜さんは問います。
 屋敷はどっちだ。
 そんなの簡単です。ハヤテ君は屋敷から来たのですから、足跡を辿っていけば屋敷に着くに決まっているのです。振り向くハヤテ君。ですが、足跡が消えています。
 ――OK、OK。大丈夫。
 まだハヤテ君は慌てません。
 足跡なんかなくたって向かい風に逆らって歩いてきたのですから、追い風を背に受けて進んでいけば大丈夫なはず。そうハヤテ君が考えていると、風向きが変わり、焚き火が消えました。降雪機も吹っ飛んでいきました。(ハヤテ君達は何故か飛ばされませんでした。後から考えると、これが地球の精一杯のデレだったのかもしれません)時計回り、反時計回り、順回転、逆回転、吹雪は次々に風向きを変えていきます。追い風になったと思えば向かい風、向かい風になったと思えば追い風。ですが、ハヤテ君はやっぱり慌てません。
 咲夜さんはシニカルに、雪山で人がパタパタ死んでいく映画の名前なんて挙げてますが、ハヤテ君には自信があったのです。
 ――自分は咲夜さんの左に立っている。つまり、それを基準にすれば万事解決。いくらなんでも庭で遭難なんてするはずがない。
 ハヤテ君は微笑み、咲夜さんに手を差し出しました。
 さすが三千院家の執事は頼りになる。誉められてハヤテ君は、嬉しくなりました。


「こんな日は、着ぐるみを着ているのもありがた――」

 言いかけて、森の妖精(猿)ゴクウはケレ・ナグーレちゃんに殴られました。その勢いで、スポーンと森の妖精(猿)の頭部が飛んでいきました。

「馬鹿野郎! 我々は森の妖精だぞ? 着ぐるみなんて着てるわけがないじゃないか! 体毛と呼べ! 体毛と! ……ニュ」

 取ってつけたような語尾でしたが、ゴクウはケレ・ナグーレちゃんのプロ意識に感極まったように泣き出しました。

「ケレ・ナグーレさん……すみません。あっしは……あっしは……」
「バカ。マスコットの一人称は、ボク、だろ?」

 ケレ・ナグーレちゃんは飛んでいったゴクウの頭部を拾いあげ、ゴクウの肩を軽くポンと叩きながら渡してやりました。






 
 一時間後。
 ハヤテ君と咲夜さんはまだお屋敷に付いていませんでした。それどころか、自分達がどこを歩いているのかすら分かりませんでした。
 つまりは、遭難していました。
 自分へ信頼の視線を向けていた後の少女から向けられるのは、いまや不信の視線。さらに視線どころか、言葉に出してまで自分への信頼を取り下げようとしています。
 ――自分の来た道を真っ直ぐ辿っていけばお屋敷に着くはずだったのに、どうして?
 ハヤテ君は一つ見落としていました。
 ハヤテ君が屋敷から咲夜さんのところまで真っ直ぐ歩いてきた保証なんてどこにもなかったのです。そして、仮に真っ直ぐ歩いていたとしても、帰り道を真っ直ぐ歩いていける保証もありません。どっちも真っ直ぐ歩けなかったけど、マイナスにマイナスをかければプラス方式でお屋敷到着! なんてことも当然ありません。
 そもそも、人生だって真っ直ぐに歩いて来れてないのに、雪原を真っ直ぐ歩けるはずがないんだなどと、関係ないことまで関連付けてウツウツし始めたハヤテ君に、誰かが話し掛けてきました。
 ――つまらないことは忘れて、雪山らしく裸と裸で体を温めあおうぜ!
 お約束、ベタ。だけどそれがいい。
 コートに手をかけたハヤテ君ですが、声の主を確認すると手を翻し、拳をつくりぶん殴りました。
 声の主は神父さまでした。
 幸い咲夜さんには見えていないようでしたが、いられるだけで神経が磨耗するような気がしたハヤテ君はとりあえず、雪を防げる場所を見つけて来い、と神の使いをパシらせることにしました。

 神父さまの働きによって、とりあえずの安全な場所、というよりは無事目的地である発電所に到着したハヤテ君は、おざなりなお礼の言葉で神父さまを追い払いました。
 後はブレーカーを上げるだけ。そう考えブレーカーの場所を確認しようと内部の地図を見たハヤテ君の目に、ある施設の名前が飛び込んできました。
 温泉。
 風がふきこまないとはいえ、寒い発電所内ですから、ハヤテ君は温泉に入るように提案してみました。
 二人きりで温泉だなんて恥ずかしい、と頬を染める咲夜さんに、ハヤテ君は無神経な一言を放ちました。
 
「? え? なんでですか?」

 咲夜さんは一瞬の沈黙の後、ハヤテ君の頭を一叩き。さらにハヤテ君の襟首をつかみ、温泉まで引きずっていくと湯船に突き落としました。そして、追いかけるように自分も湯船に飛び込みました。
 戸惑うハヤテ君の背中に、何か柔らかいものが当たりました。

 人体は、どの部分も基本的に肉と血と骨で構成されています。では、どこの部分をとってもそれは同じ物なのか?
 違います。
 断じて違います。
 人体には、厳然たる価値の差が存在します。
 その頂点に位置するものが胸。
 柔らかく、温かく、人の命の糧でもある神聖たるもの。それが胸です。

 ハヤテ君の背中に当たっているのは、咲夜さんの胸でした。
 十分に育ち、そしてさらにこれから育つであろう胸を押しつけながら、じゃれる咲夜さん。
 そんな咲夜さんを、お湯の中で、服越しに、ハヤテ君は十分に堪能しました。
 言葉が途切れ、自分のしていることに気付いた咲夜さんは離れていきました。
 後は、ブレーカーを上げるだけ。しかし、ハヤテ君には一つの不安要素が生まれました。温泉に浸かったせいで、ずぶ濡れになってしまったのです。
 この寒さでは、ずぶ濡れの執事服はハヤテ君の体温を加速度的に奪っていくでしょう。
 それでも、ままよ、とハヤテ君は立ちあがりました。
 咲夜さんも着いてこようとしましたが、さすがのハヤテ君もそれは断りました。服がはだけて、すけるぐらいに水浸しの咲夜さんを連れて行くわけにはいきませんでした。


 そしてミッション開始から一時間二〇分。
 ハヤテ君は、命の危機に瀕していました。原因は、懸念していたずぶ濡れの服。
 通気孔から吹きぬけてくる風が容赦なくハヤテ君の体温を奪っていきます。
 しかし、霞む視界にハヤテ君はブレーカーを捉えていました。
 ――お嬢さまを救わなければならない。
 色々な下心とかを全部ふるい落とした後、ハヤテ君の胸に最後に残った思いが、体を動かしていきます。
 そして――


 
 消えたランプの灯、死んだモニター上のキャラ。不吉な予兆がナギお嬢さまを不安にさせていきます。
 ですが、不安の時間は終わりました。
 電気が点いたのです。



 そしてハヤテ君はブレーカーを上げました。
 一瞬の安堵。崩れ落ちていく体。
 意識に浮かんだのは、風呂上りは体を拭かないと危険という子供に聞かせるような教訓。
 死への恐怖でも、生への未練でもなく、そんな教訓しか浮かばないぐらいに、ハヤテ君の意識は朦朧としていました。
 自分の最後を悟り、静かに目を閉じた瞬間、ハヤテ君の耳に、いくつかの足音と、そして高い声が響きました。

「あきらめたらあかん」

 自分一人では見つけられなかった力で体を起こすと、そこには咲夜さんと、彼女の執事二人がいました。
 頬に当てられた、咲夜さんの手のあたたかさに、ハヤテ君は自分が助かったことを知りました。
 そんなあたたかさに心を緩ませたハヤテ君が、口走った「こりごり」と「氷」をひっかけた駄洒落が滑り、なんだかんだで咲夜さんを笑わせるまで許してもらえない「綾崎ハヤテショーIN温泉」を演じるはめになりましたが、それはまた別のお話。












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