しっぽきり

 その夜、ハヤテ君は心地よい疲労感を感じていました。
 咲夜さんの歯痛を治すことが出来たのです。本当に治したのは伊澄さんと神父さまですが、そこはそれ、主人公補正。自分の手柄です。
 今夜は、歯痛を治しただけですが、何より大切なのは自分を頼ってきてくれたということ。つまりは信頼されているのです。
 信頼を愛情に変えるなど、結婚は告白のし損ねだと豪語する父を持つハヤテ君には容易なことにすぎません。ですが、現状はここまで。
 そう、複数ルートの同時攻略を焦って刺殺なんてのは馬鹿のすること。フラグというものはもっとじっくりと立てるもの。
 ハヤテ君の信念は咲夜さんの豊乳にも揺らぎませんでした。
 さて、今度こそ明日の英気を養うため寝ようと、ベッドを見た瞬間でした。
 なんかまた女の子がいます。
 自室のベッドに女の子。エラいことです。
 脱がすのに手間がかかるとはいえ、その手間も一興。ですが、さすがに犯罪スメル漂うこの展開は、実りある将来を目指すハヤテ君にとって毒。
 しかし、よくよくみると和服の少女には見覚えがあります。そして、髪。これほど長く艶やかな黒髪の少女はハヤテ君の知り合いでは一人しかいません。というか、和服の段階で一人しかいません。
 ベッドに座っていたのは伊澄さんでした。



 伊澄さんは、ここにいるのは、咲夜さんの歯痛を治してから帰ってないからだと言います。実に明快な理由でした。
 そして、三千院家に訪れた本当の目的を語りました。大いに語りました。
 「白皇の旧校舎に、魔の気配を感じた。たぶん、以前倒したものの残骸か何か。家のアフターサポートは完璧。駆除から九〇日間は無料、電話を受けて二四時間の迅速再除霊、困ったときの合言葉は仕様ですので。だから、依頼者のためにも鷺ノ宮家の看板に傷をつけないためにも、すぐ夜の学校に行かなくてはならないのだけど、夜が真っ暗とかありえないし、たどり着けそうも無いのでハヤテ君に連れて行ってもらいたい。断じて、迷子になっているうちに辿り着いたとかじゃない」
 幸い、ハヤテ君は構わないと言ってくれました。が、こんな一言を付け加えました。
 ――車で行けばいいのに。
 伊澄さんの胸に戦慄が走りました。
 無個性の集団とはいえ、鷺ノ宮家の執事達も一応は執事。つまりは超人。学校に送り届けるぐらいは、造作もありません。
 その発想は、ありませんでした。
 一度、気付いてしまえばハヤテ君に頼る必要もありません。
 赤面しつつ、その場を立ち去ろうとした伊澄さんを、ハヤテ君が呼び止め、手を差し伸べました。
 自分も一緒に行くと。
 ハヤテ君が、どんな人間で、どんなつもりでその言葉を発したのか、伊澄さんは知っていました。それでも、伊澄さんは嬉しそうに微笑み、頷きました。


 
 白皇学院は、夜になると不気味におどろおどろしく表情を変えます。
 除霊のプロである伊澄さんの言うところでは、元々霊的磁場が強くて、色々集めやすい、特にあの時計塔はなんか強力で、色々集めやすいのだとか。だから、定期的なメンテナンスと更新が必要で、トラブルが起こりやすくて、ネットに接続できないときはこちらにアクセスしてみてくださいとか言われても、接続できないのにアクセスできるわけないじゃんとか、サポートセンターに電話しても繋がらないとか、そういうことらしいのです。
 随分と色々な経験を積んできたこともあるハヤテ君ですが、さすがに除霊経験は慣れるところまではいっていない様子で、恐々とした様子です。
 慣れている伊澄さんはと言うと、なんだか平気のようでした。いつも、こうなのかどうなのかは分かりませんでしたが。
 そんな伊澄さんに誘われた先にいたのは怨霊でした、クラウスさんの。
 ハヤテ君にとっては驚きの展開でした。
 生前は、目の上のタンコブ感の否めなかったクラウスさんでしたが、いきなり死なれては感慨も何もないどころか、ただ戸惑うばかり。
 伊澄さんの言うところでは、生き霊なので安心とのことでしたが、それにしても顔見知りが恨みを抱えて生霊化だなんて、気持ちのいいものではありません。
 理由を知りたがっていると、都合よくクラウスさんが何かを喋り始めました。
 クラウスさんの語るところでは、もうすぐ四月一八日、つまり誕生日。でも、どうせお嬢さまもマリアさんも覚えてないにちがいない。それもこれも全部、ハヤテ君のせい。ハヤテ君が来て以来、自分は三千院家の執事枠から押し出されて空気化。しかも、なんだかんだでうまくやってる。こんなやりがいのない仕事じゃ、引退したほうがまし。天国に行ったら少しはいごこち良くなるのかな?
 大変です。仕事どころか、生きる意欲すらなくしています。
 自分のせいでそんなことになってしまっては、寝覚めが悪いことおびただしい。そう思ったハヤテ君は、必死にフォローしますが、クラウスさんは聞く耳を持ちません。というよりは、願望をぶつけてきました。
 もう一回、昔出会った可憐な少女に会いたい。会いたい。会いたい。会えなきゃやだもん。出ないと化けて出る生き霊になっちゃうからね、ふーんだ。
 何言ってんだ、この色ボケ上司。
 クラウスさんの少女が自分のことらしいと理解したハヤテ君は、心中で舌打ちしました。
 しかし、伊澄さんは、なんだか微妙に乗り気です。証拠写真と親友であるナギお嬢さまの語り口にごまかされたのか、ハヤテくんが趣味で女装したと勘違いしているのです。
 深層心理ではともかく、対外的には健全な男子を装いたいハヤテ君はもちろん否定。さらに、女装グッズはないんだから除霊のために女装なんてできないと拒否しますが、そんなハヤテ君の前で伊澄さんが脱ぎだしました。
 これがつり橋効果なのかと錯覚しかけましたが、それはお話の展開としておかしいわけで、伊澄さんが脱ぎだしたのは、「自分が脱いだ着物を着ることで女装、そしてクラウスさんの魂を癒してあげてください」という理由。
 襦袢姿でいるのも、目の前で繰り広げられる痴態を瞬きもせず直視しつづけるのも、恥ずかしいけれども、二人で女装趣味を満喫してくださいという伊澄さんの奨めを断りきれなかったという態で、いざというときのため肌身離さず常備しているリボンとニーソックスを装備し、着物の着崩しをしてクラウスさんの前に立ったハヤテ君。
 ですが、生霊クラウスさんが女装と認定するには、装飾が足りませんでした。いえ、露出が足りなかったのかもしれません。もしかしたら、セーラー服のみがクラウスさんに女性を認識させる要素だったのかもしれません。そうすると、クラウスさんには今のマリアさんは何に見えているのでしょうか?
 とにかく、自分がハヤテであることを見抜かれ、お説教モードに突入。
 正体がバレた恥ずかしさか、それとも自分の女装技術が足りなかったことへの怒りか、ハヤテ君は着物の懐から伊澄さん特製のお札を取り出し、実力行使。過程はともあれ、無事に除霊を成功させるのでした。



 翌朝、マリアさんに聞いてみるとさすがマリアさんで、クラウスさんの誕生日プレゼントを用意しているようでした。
 ハヤテ君は、セーラー服以外の物、そしてなるべくなら女装グッズ以外の物、をプレゼントしようと誓うのでした。

 その頃、ナギお嬢さまはベッドの上で、歯痛も完治し健やかに眠る咲夜さんと、結局ハヤテ君にお持ち帰りされた伊澄さんに挟まれ、首を傾げているのでした。
 












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