しっぽきり

 その夜、ハヤテ君は心地よい疲労感を感じていました。
 ヒナギクさんを喜ばせることができたのです。
 無論、最終的には最終的なところまで行きつきたいわけですが、全盛期のおれなら三告白五落としは普通だったと語る父親の遺伝か教育か、フラグコントロールは完璧なハヤテ君。複数ルート攻略のために、現状を鑑みて、ヒナギクさんに好きになってもらうではなく、ヒナギクさんを喜ばせるにとどめ、後々の展開のために楔を打ったのです。
 ――複数ルートの同時攻略を焦って刺殺なんてのは馬鹿のすること。フラグというものはもっとじっくりと立てるもの。
 そんなことを思いながら、NANANANICEBOATなどと鼻歌を歌いながら部屋に入り、明日の英気を養うため寝ようと、ベッドを見た瞬間でした。
 なんか女の子がいます。
 自室のベッドに女の子。エラいことです。
 フラグが立ったってレベルじゃありません。なんだかEDな気分です。しかも、よく見ると十代前半。いくらハヤテ君が十代後半とはいえ、犯罪の匂いは隠せません。なんだか、人生が終わった気分です。
 しかし、声を聞いてハヤテ君はおやと思いました。関西弁です。聞き覚えがあります。そして、胸。これほど豊かな胸を持った少女はハヤテ君の知り合いでは一人しかいません。
 咲夜さんでした。
 しかし、ベッドに寝ていたの咲夜さんだとしても、犯罪の匂いは消えません。一四歳の少女をベッドに連れこむ変態執事――そんな風に報道されるかと思うと、ぞっとしません。
 そもそも、咲夜さんとのフラグなんて立てようとしたことがないはずです。
 大体、出会いからしても、「アンタみたいなヤツに、可愛い妹分を任せられん」とかで和やかじゃないツン気味な出会いでしたし、お風呂に突き落とされて「あててんのよ」されたり、誕生日に夜二人きりで「お兄ちゃん」て呼んでもいいかどうか聞かれたぐらいです。あれ? 立ってる?
 が、やっぱり問題なのは咲夜さんの年齢であって、立ってようと立ってなかろうと関係ありません。 そんなわけで錯乱し叫ぶハヤテ君。その口に、咲夜さんの人差し指が伸びました。静かにするよう頼んでくる咲夜さん。いつもとは違う咲夜さんに違和感を抱くハヤテ君。いつも太陽のように笑う咲夜さんなのに今日はなんだか元気がないことに気付きました。
 尋ねると、なんと家出してきたといいだします。
 理由を問うと、なんと涙を浮かべました。
 お父ん。
 咲夜さんからその単語を聞いた瞬間、ハヤテ君はひらめきました。
 ――あの父親なら何をしてもおかしくない。
 震える咲夜さんの華奢な体に湧き上がった義憤が、ハヤテ君の計算高さを吹き飛ばしました。
 大きな胸をいためるこの少女を救わなくてはならない。いざとなれば、咲夜ルート一択でもかまわない。ハヤテ君の精一杯の自己犠牲精神が、お嬢さまの友達はお嬢さま同然という、咲夜さんの悩みを解決するためのセイント理論を打ち立てさせました。
 執事としてのプライドをかけて宣言するハヤテ君に、咲夜さんは家出の原因をおずおずと離し始めました。
 歯が痛い。
 ハヤテ君のときが止まりました。
 虫歯。
 虫歯です。
 問い返すハヤテ君ですが、答えはやっぱり虫歯。
 これは、困りました。
 家出の理由が虫歯。これも咲夜さんの冗談かと思いましたが、そんな様子でもありません。
 ですが、思い当たる節はあります。
 ハヤテ君の知るお嬢さま連中はどれも特別な思考回路の持ち主達でした。
 引きこもり、Mっ子、デコ、陰険巫女、迷子巫女。
 つまり、経験則から言えば咲夜さんも特殊な思考回路の持ち主でもおかしくはない。
 そう納得しそうにもなりましたが、ですが、他の特殊な思考回路の持ち主はどうしようもないまでも、咲夜さんの思考回路が生み出した問題はその原因を根本的に解決することができます。
 ――歯医者行けば?
 ですが、嫌だと言います。
 痛いのが嫌だ。自分も父親と同じ。痛くない歯医者なんて都市伝説。口を開けさせられたまま五分放置とかありえない。痛かったら右手上げてくださいねって、上げても「はーい、痛いですねー」とか言うだけ。
 本当に嫌そうです。
 ですが、歯医者以外の方法はハヤテ君に思い浮かびません。
 お茶を入れるといって席を外しても、思い浮かぶのは歯の治療中だけ人格を入れ替えられればとか、非現実的なことばかり。
 ですが、ハヤテ君の知り合いには、非現実的な知り合いが大勢います。
 その筆頭ともいえる伊澄さんと幽霊の神父さまが、迷ったのかフラリと現れたのです。
 救いを求めると、友人を心配する伊澄さんはできると言ってくれました。さすが、光の巫女。伊達に和服なわけではありません。
 ですが、伊澄さんは心配事があると言い出します。
 入るのは神父さま。
 失念していました。紳士OF紳士にして、オタOFオタにして、変態OF変態で、伊澄さんにすらコレ扱いされる神父。ハヤテ君も迷わざるを得ない状況でしたが、しかし現在求められるのは巧遅より拙速。なので、仕方なく妥協し、譲歩し、嫌々、なにかあったら地獄に送ることで神父で手を打って、我慢することにしました。



 そんなわけで、咲夜さんには偽の解決方法を話すハヤテ君。
 伊澄さんの能力を知る咲夜さんとはいえ、さすがに幽霊を憑依させることで精神的には痛みを感じずに済むとは教えられませんし、中に入るのがアレがアレしてアレな神父とは言い出せません。
 なので、催眠術でロストブレってみないかと誘うことにしました。
 催眠術もアレな方法ではありますが、痛みがひどいのか、それともハヤテ君を信頼しているのか、咲夜さんは素直に受けてくれました。
 咲夜さんが目を閉じた瞬間、それまでハヤテ君の背中に隠れていた伊澄さんが、咲夜さんのおデコにお札をピタリ。
 さすが光の巫女。鮮やかな手際で、三〇分の時間を稼ぐことに成功しました。
 手配した歯医者さんを呼んで治療。 
 それで計画は済むはずでしたが、なんと神父咲夜さまが離反。
 だって、歯医者って痛いじゃん。ドリルも響くし。
 そう、神父さまも歯医者さんが怖かったのです。
 歯医者に行くことを拒否する神父さまは、とんでもないことを言い出します。
 この三〇分を利用して、メイドさんの着替えを覗く。
 伊澄さんをキッチンに導いたのも、マリアさんがお風呂の支度をし始めたのを確認してからの行動。咲夜さんが歯を抑えながら三千院家にきたときに閃いた急ごしらえの作戦でしたが、全てが神父さまの計算どおりに動いていきます。
 そんなわけで、獣となり走り出した神父咲夜さまは、一路マリアさんを目指します。
 
 お風呂場では、ゆっくりと心を伸ばしつつも、危険を察知するという、全てを見通すマリアさんが一人。
 廊下では、追いかけっこを続けるハヤテ君と神父咲夜さまと、トコトコついてくる伊澄さん。
 寝室では、早くモンスターを育てて二人を出し抜こうとPSPを続けるナギお嬢さま。
 走ることで揺れる胸も楽しみつつ、メイドセンサーを持つ神父咲夜さまは、マリアさんの気配を察知。マリアさんの着替えを見えてなるものかと、飛び掛るハヤテ君も神の使いの力で弾き飛ばします。
 メイドさんの着替えを見る。
 揺ぎ無い、生涯をかけてすらいいと思える野望を前に、神父咲夜さまの能力は極限まで研ぎ澄まされていました。
 しかし、神父咲夜さまが宿願を果たそうとしたその瞬間でした。
 神父咲夜さまが崩れ落ちました。
 マリアさんは湯船につかっている、全裸、メイド服なし、メイド-メイド服=ゼロ。
 絶望しかそこにはありませんでした。
 そんなわけで、身動きもとれなくなった神父咲夜さまのおデコにお札をペタリ。
 こうして、元に戻るのでした。
 ですが、一つだけ変ったことがありました。
 意識を取り戻した咲夜さんが、痛くないと言うのです、歯が。
 代わりに、頬を抑える神父さま。
 そう、神父さまは神の使いの力を使って咲夜さんの痛みを引き取ってくれていたのです。
 ハヤテ君は、咲夜さんの感謝の言葉に戸惑いつつも、神父さまの脳内評価を少しだけ高めるのでした。


 翌朝、ナギお嬢さまは歯医者が怖いという咲夜さんを情けないとか、歯を大切にしないからだとか、胸羨ましいとか言いつつ、リンゴを一個シャクリとかぶりつきました。
 歯に、染みました。
 なんだかんだというお嬢さまも歯医者行き決定でした。
 いつもなら切ってあるはずのリンゴがそのまま積まれていた。
 つまりは、マリアさんはお嬢さまの歯の様子もお見通しなのでした。












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