しっぽきり

 ヒナ祭り祭り祭りの七。
 これでおしまいです。

 一応、まとめに。

その一
その二
その三
その四
その五
その六
 ナギお嬢さまは心配していました。
 誕生日プレゼントなんて渡されたら、ヒナギクさんがハヤテ君に惚れてしまうんじゃないか、と。
 マリアさんは答えました。
 そんなことはありえない、と。
 ハヤテ君は、あまりにも客観的で真を突いてると思わざるをえないマリアさんの言葉に苦笑しました。

 ヒナギクさんは、ハヤテ君に紅茶を淹れてもらっていました。ありがとう、と言うべきところでしたが、ヒナギクさんは俯いたまま、紅茶の湯気を見つめていました。
 人前で泣くなんて思ってもいませんでした。それも、誰かに何かをされたから泣いたわけではなく、自分で、自分の感情を抑えられなくて泣いてしまったのです。
 そんな自分の醜態に赤面のヒナギクさんに、ハヤテ君が追い討ちをかけてきます。
 あんな乙女チックな部分があるなんて思っても見なかった。
 その言葉に、キレるわけにはいきませんでした。誉められているようでも、馬鹿にされているようでもありましたが、自分で勝手に泣いて、自分で勝手に怒っては世話がありません。ですが、このままでは負けっぱなしのような気もしました。なんとか勝たなくては。そう思ったヒナギクさんは、話題を替えることにしました。
 ――プレゼントは?
 そう、ハヤテ君との、素敵なプレゼントという約束がまだ果たされていません。
 ハヤテ君の主人であるナギお嬢さまからもらった、なんだか高そうな時計を見せて勝負を挑みます。
 どういう勝負なのかは、言い出したヒナギクさんも、言われたハヤテ君もいまいち理解していないようでしたが、とにかく勝負です。
 ヒナギクさんの言葉を受けて、ハヤテ君が出したのはクッキーでした。それも既製品ではなく、手作りのクッキーでした。ヒナギクさんは驚きました。
 誕生日のクッキー。ヒナギクさんに、誰にも言ったことの無い、それでも忘れられないあの頃の記憶が蘇りました。
 ケーキがわりのクッキー、プレゼントはちっちゃなヘアピン一つ、いつも以上に明るく自分の誕生日を祝ってくれる姉。
 ハヤテ君も同じ経験をしていました。
 ヒナギクさんの心がどこかほぐれました。そして、話しました。
 自分も、それと似た誕生日をすごしたことがあることを。今の両親が本当の親ではないことを。本当の両親は、借金を残して自分達の前から消えてしまったことを。
 そしてハヤテ君に尋ねます。
 両親が、自分達を捨てたのには、何かどうしてもそうしなければならない理由があったとは思わないか、と。
 ヒナギクさんは、今の義父も義母も大好きです。けれども、本当の両親のことも大好きです。
 だから、自分達を置いていなくなった理由が欲しかったのです。自分達の前からいなくなったことを許したくて、自分達を置いていっただけだと信じたくて。
 それっきり、言葉を無くしたヒナギクさんの手をハヤテ君が握りました。
 こっちに来て欲しい。
 ハヤテ君がヒナギクさんを連れていこうとしているのは、テラスでした。
 当然、高いところが苦手なヒナギクさんは嫌がります。ですが、ハヤテ君はそれを許してくれそうにもありません。
 仕方なく、ハヤテ君に言われるまま、引かれるまま、一歩一歩、足を進めていくヒナギクさん。
 ハヤテ君の足が止まり、ヒナギクさんも足を止めました。
 自分の立っている場所に、震えるヒナギクさんの肩に置かれる手。
 その温度と言葉ににつられて、ヒナギクさんはゆっくりと目を開けました。

 そこにあったのは、星と、街の明かりと、そしてそれら全てを包み込む月光でした。

 それはヒナギクさんが見たことの無い、怖くてずっと見ようとしなかった景色でした。
 一瞬だけ、息を止めて、漏れたのは「すごい」と一言だけ。
 それっきり、目の前の風景に呆けていたヒナギクさんに、ハヤテ君が語り始めました。
 理由はあったのかなかったのかわからない。人から見たら不幸に見えるかもしれない、心に傷が残っているのかもしれない。でも、
 
「今、いる場所は……それほど悪くはないでしょ?」

 そう言って笑うハヤテ君に、ヒナギクさんは無くしていた気持ちを見つけました。
 ――私……この人のことがスキなんだ。
 見つけてしまえば、その人がいなくなってしまう。そう思っていたから、怖くて、ずっと無くしたことにしていた、それでもすぐ近くにあった気持ち。
 今でも怖いけれど、それでも大切な気持ち。
 月光の中で、ヒナギクさんが見つけたのは、そんな気持ちでした。












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