しっぽきり

 ヒナ祭り祭り祭りの五?
 桂夫人は光り輝いていました。愛娘の誕生日を祝う生徒達の若さを受けて、その輝きは普段以上です。
 にぎやかなのもいいわねとか喜んだり、パパは大事なときに海外出張と残念がったり、雪路さんの暴飲を目で牽制したりの桂夫人に対して、ヒナギクさんは多少お疲れ気味でした。
 あれ以降も、何曲か歌い、スタンドマイクを振りまわし、コール&レスポンスで会場を盛り上げ、オーディエンスにタオルを真上に放り上げさせ、目一杯に空気を読み、それだけではなく空気を作り上げました。
 そんな温めた会場がカラオケ大会に完全に以降し、ようやく解放されたヒナギクさんは、カラオケを聞くともなしに聞き、ときたま祝ってくれる人に挨拶を返すぐらいで、省エネモードでした。
 ですが、ヒナギクさんの一日はまだ終わったわけではありません。 
 そう、ハヤテ君から時計塔に呼び出されているのです。
 文字通りの果たし状なのか、それとも二人きりになりたいというメッセージなのか。どちらにせよ、その答えを知るために、そしてモヤモヤした気持ちにケリをつけるために、ヒナギクさんは桂夫人を残し、時計塔に向かうことにしました。



 一方、ナギお嬢さまは誘拐犯にクレームをつけていました。
 ブラックコーヒーなんて苦くて飲めない。かといって、人前でお砂糖とミルクをたっぷり入れるような姿を見せては「自分は、苦いものが苦手なお子様でございます」と宣言しているようなもの、そんなことも気がつかないとは、お前はどういう教育を受けている、とそういったクレームでした。
 そういった面子をあまり気にしない、というよりは面子が潰れるのを喜んでいる節もある泉お嬢さまに仕えている虎鉄さんには、あまりピンとこないクレームでしたし、そもそも、誘拐されたお嬢さまが、誘拐した自分にクレームをつけてくること自体納得できません。
 ですが、ナギお嬢さまは強気です。
 ガムやチョコレートのチョイス、タコさんウィンナーの角度、ウサギりんごの赤い皮部分と果肉部分の絶妙な配分によってウサギの悲しさを演出する包丁テクニック等々、虎鉄さんには耳の痛い執事テクニックについてドンドンクレームをつけてくるのです。
 誘拐犯にクレームをつけなかったことはないと断言する姿と合わせて、虎鉄さんにはナギお嬢さまが誘拐される達人のように思えました。
 そんなナギお嬢さまが虎鉄さんに尋ねました。なんで自分を誘拐したのかと。ナギお嬢さまには、虎鉄さんの誘拐が金目当てのようには思えなかったのです。
 虎鉄さんは、一瞬の逡巡を見せた後、思い出すのも辛いのでしょう。言い憎そうに口を開き始めました。
 一目ぼれして、勇気の無い自分にとって決死の思いでした告白が、相手が男だったことによって、裏切られてしまったこと。そんな手ひどい仕打ちを受けた心を慰めるために、ハヤテ君を取っちめたい。そういう話でした。
 ナギお嬢さまは、それを鼻で笑いました。
 どこに傷を受けるような心があったのか? お前が抱いたのは、相手の性別によってひっくり返ってしまうだけの、薄い気持ちだったのではないか? そんな気持ちしか持てないのだから、お前はモテるわけなどない!
 そうナギお嬢さまは言いきり、虎鉄さんは押し黙りました。グウの音も出ませんでした。
 そのとき、お嬢さまを助けにハヤテ君が到着しました。
 女装していようが、お嬢さまのために戦おうとするその姿は執事でした。
 言いきるハヤテ君に、虎鉄さんはお嬢さまを返しました、あっさり。そして、自分を責めます。あっさりと掌を返した自分は、愚かだったと。
 そして、目を覚まし、改めて、ハヤテ君の前に立ちました、言いました。
 一緒に同性婚が見とめられるオランダに移住し自分と結婚してくれ、と。
 答えは、飛び蹴りでした、ナギお嬢さまの。
 心も体はもちろん、髪の毛一本たりとて貴様なんぞにはやらん。そういうことでした。虎鉄さんは少々理不尽な気分になりましたが、お嬢さまに邪魔されずハヤテ君に迫っても結果は同じだったので、気にしたら負けです。
 ナギお嬢さまの怒りはおさまらず、返す刀で人形師・ぜぺっどを怒鳴りあげ、成仏させ、ハヤテ君を連れ立って、その場を去っていきました。
 


 ナギお嬢さまと入れ違いにパトカーが数台、白皇の敷地に入っていきました。
 その夜、虎鉄さんは真っ当な世界と、はじめてのお別れをしました。



 パジャマに着替え終えたハヤテ君は、ベッドの上に倒れこみました。
 披露困憊でした。色々ありました。
 昨日からずっと、つまり朝、目覚めた瞬間もメイド服、変な男に惚れられたり、クラスメイトにメイド服姿を見られたり、崖から落ちたり、より恥ずかしい姿になったり、お嬢さまをさらわれたり、お嬢さまのために大勢の人の前をミニスカ姿のまま駆け抜けたり、ようやく見つけたら変な男に求婚されたり色々テンコ盛りでした。
 こんな夜はさっさと寝てしまうに限ります。もうやることなんて何もないはずですから。
 ないのです。ないんだったら。あるの? うそ、マジ、何よ? あっ……?
 

 
 約束から二時間半遅れ。
 十一時半。昼間に焼いていたクッキーを携え、ハヤテ君は時計塔に辿り着きました。
 祭りも終わり、人気はありません。さすがにヒナギクさんも帰っているかもしれません。
 エレベーターは動いています。
 とはいえ、時間も時間。いるはずはありません。
 生徒会長室に鍵はかかっていませんでした。
 叱られる覚悟をしながら、扉を開きました。
 部屋の中の音は一つ。
 ヒナギクさんの寝息だけ。
 近づくと、ヒナギクさんがゆっくりと目を開きました。
 こうして、二人きりの誕生会が始まりました。 












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