しっぽきり

 ヒナ祭り祭り祭りの四。
 曲じゃないけど、ハルヒ固めということで。
 マリアさんは困っていました。
 大変な事態が起きたのです。ナギお嬢さまがまたさらわれてしまったのです。メインヒロインの貫禄を示したのです。
 ナチュラル連中のSPが相変わらず役立たずであることを確認すると、コーディネーター・マリアさんはさっそく手を打ちました。
 ナギお嬢さまの居場所を知るためにナギお嬢さまに電話する。当事者のことは当事者が一番よく知っている。マリアさんの簡潔で明晰な対応でした。
 電話に出たナギお嬢さまの言うところでは、無事、誘拐犯の目的は自分を囮にハヤテ君を呼び出すこと、誘拐犯はハヤテ君が好きであること、うほっな展開なのでハヤテ君は呼ばずにSWATでも呼んでくれとのことでした。
 お嬢さまが何だか無事みたいなので安堵するナチュラル共ですが、そもそもナギお嬢さまをむざむざさらわれたのはSP達の責任。なのに、そんな勤務態度をとられては優しいマリアさんも心を鬼にするしかありません。なので、減俸すると脅してSP達を動かすことにしました。ようやく、そこまで脅されて動き出したSPでしたが、何だか役に立ちそうもありません。なので、ジゴロではあるけど一応、炒飯ぐらいは使えるコーディネーター側の人間であるハヤテ君に連絡を入れ、そして警察にも連絡を入れておくことにしました。



 お嬢さまがさらわれた頃、ハヤテ君は崖を転がっていました。虎鉄さんを撒くために、一心不乱に逃げていたため、前後の確認を怠り、数年前の副生徒会長が、卒業記念に作成したロボットBAKUDANIWAが爆発したときに出来た崖に突っ込んでしまったのです。
 ダイナミックに回転しながら転げ落ちるハヤテ君は、なぜか蛍光色の光に包まれたり、裸のシルエットだったり、足から嘗めまわすように服が現れたり、勇壮なBGMがかかったり、着衣の最後、胸に鈴が装着される瞬間に恍惚の表情を浮かべたりしていましたが、幸い誰にも見られませんでした、人間には。
 それを録画した幽霊さんが、映像関係にはちょっとうるさい幼馴染から頼みもしないのにプレゼントされたはいいけど「DVDなら見るけど、編集機材なんて使わない」と死蔵していた映像編集機材を、豊富に取り揃えて、頼めばそれを貸してくれる知り合いの巫女さんの所に、さっそく今録った動画を編集してアップして、幽霊なのに神とか言われるため、心を弾ませて駆け込んでいきましたが、それはまた別のお話です。
 とにもかくにも、こうして変身を遂げたハヤテ君は、自らの姿に驚愕します。
 それまでのメイド服をベースに、頭に猫ミミ、髪の両サイドにはリボン、胸には鈴、腕にはギザギザな腕輪、ミニスカ、ニーソックスの絶対領域で性的な意味で重装備になっていたのです。
 そんなハヤテ君を鼻息荒く見つめる、出来の悪い雛人形みたいなのがいました。浮いています。目を血走らせています。キモッ。なので、とりあえずカカトを落としました。
 実体はあるらしく大層痛がる雛人形に、後退って名前を聞くハヤテ君。
 そして、雛人形は名乗りました。
 自分は雛人形の呪いで、ハヤテ君に散々女装をさせている人形師の、ぜぺっどだと。
 今回の黒幕まで聞いたハヤテ君は、お礼にぜぺっどさんの体を掴みました。そして、力を入れました。なんだか苦しそうです。ミシミシいいはじめてるし、もうちょっと力を入れれば粉々、ハヤテ君が指にその感触を感じて、さらに力を入れようとした瞬間でした。
 携帯電話がなりました。
 着信音は、マリアさんからのものであることをハヤテ君に伝えています。
 お嬢さまに何かあったのかも、マリアさんの美声で耳を洗いたい、出るのが遅れて機嫌を損ねたら後でどうなるかわからない。様々な感情が交錯し、ハヤテ君は雛人形退治を一旦中止し、電話にでることにしました。
 そして、その電話の内容に戦慄しました。
 あの変態が! お嬢さまを! 誘拐した!
 ハヤテ君の胸に広がる不安の波。お嬢さまが来なくてもいいと言っていたとマリアさんは言いますが、しかし、あの虎鉄さんを直に知っている、というか追い掛け回されたハヤテ君は、その危険性を誰よりも知っています。ですから、何を置いてもお嬢さまの元に駆けつけなくてはなりません。が、しかしぜぺっどさんの言葉で自分の現状を思いだし、ちょっと躊躇しはじめました。
 女装です。それも並外れた女装です。フルアーマー女装。
 マリアさんがこんなこともあろうかと、あの日、たまたまマリアさんと混浴して傷口を開いたとき、その傷口に埋め込んでおいた発信機と、ナギお嬢さまの発信機から割り出された最短ルートは、お祭りの会場ど真ん中をまっすぐに横断するというもの。こんな格好でそれをすれば、変態確定、というよりは、末代までの伝説もいいところです。
 逡巡するハヤテ君にぜぺっどさんはここぞとばかりに反撃を開始しました。
 もっと恥ずかしい格好もいいかも。人目につきたくないなら、遠回りすれば? あっ、お嬢さまの身が危ないんだっけ? でも、恥ずかしいよね、そんな格好じゃあ。
 ですが、ハヤテ君は覚悟を決めました。
 これは、呪いではなく天罰だ、とハヤテ君は言い始めました。ぜぺっどさんには何のことやらまったくわかりません。現に呪いをかけた本人を目の前にして、そんなことを口走るハヤテ君が、いよいよ精神崩壊したのかと訝しがります。
 ハヤテ君は決めたのです。
 最近の自分は、主人のためではなく我が身可愛さで動いていた、そのせいで、自分のせいでお嬢さまはまさに今、危険な目に会っている。ならばすることは一つ。
 女装だろうが、なんだろうが、お嬢さまの所に駆けつけ、どんな手段を使ってでも救う。それを自分の服装ぐらいで、できなくなるようならば、それこそ恥。そんな恥をかくわけにはいきません。なぜなら自分は執事なのだから。
 そして、ハヤテ君は走り出しました。
 執事として、自分の人生を生きるために。

 歓声が聞こえます。
 ――自分を見ているのかもしれない。
 そんな考えが、執事の頭をよぎりますが、すぐに振り払います。
 今、走っているのは自分のためではありません。
 主のためです。
 ならば立ち止まるわけにはいきません。

 歌声が聞こえます。
 ――聞き覚えのある声だ。
 執事にそれが誰の声かを考えている余裕はありません。
 ですが、その歌声は不思議と、執事の足取りを力強くしていきます。
 本職の歌には聞こえませんでした。でも、それはとても懸命な歌い方で、それが執事の心に響き渡っていきます。
 一歩、また一歩。
 大地を蹴り、群集を割って、そして疾風のごとく駆けつけ、そしてとうとう主の元に辿り着いたのでした。 



 ヒナギクさんは困惑していました。
 美希さんに呼び出され、祭りで何かトラブルが起こったのかとホールを開けば、自分を出迎えたのはクラッカーの嵐。聞いてみれば、なんとヒナギクさんの誕生会だとか。
 買い物に行った時、チラッとヒナギクさんの、自分はにぎやかなのは苦手だから家族と静かに食事、という誕生日の予定を聞いた美希さんが天性の天邪鬼振りを発揮し、可能な限り豪華な誕生日パーティを準備したのです。
 呆れるしかないヒナギクさんでしたが、賑やかなお祭りごとが大好きでたまらない姉の雪路さんは、こっちのほうが楽しい、と上機嫌です。
 そんな雪路さんから、ヒナギクさんにプレゼントがありました。
 いつもは自分から金を借りる、金をたかる、せびる、泣きつくといいとこなしの雪路さんからのプレゼントです。これは驚きですし、ヒナギクさんは素直に喜び受け取りました。
 促され、さっそく開けると、肩たたき券が六枚出てきました。一回一分コース、四月一日までの期限、六枚しかないのに「NO.0010」、二枚目から途端に適当になるデザインとヒナギクさんへの愛嬢がひしひしと伝わってくる肩叩き券でした。肩叩きには自身がある、そう語る雪路さんはとても輝いているように見えました。


 パーティは本当に豪華でした。
 飲み物、食べ物、ウェイター。細かいところまで行き届いていて、全てが一流です。
 こういう時、具体的には自分を弄くるときに美希さんが見せる手腕には、ヒナギクさんも舌を巻くばかりです。
 東宮とか好意とか、小さく呟いていた美希さんが急に話題を変えました。
 ハヤテ君かプレゼントはもらったのか? あまりに急な転換でしたが、もらっていませんので、そのままにもらっていないと答えました。が、その質問で、昼間にもらった果たし状の解釈に一つの考えが加わりました。
 二人きりになって素敵なプレゼントを渡したいんじゃないのか? 若干、乙女チックな妄想をする自分に戸惑いながら、そうだったらいいなと淡い期待を抱きました。
 が、そんな物思いにふけるヒナギクさんに、美希さんがとんでもないことを言い出し始めました。
 主役なんだから歌え。
 ということでした。ステージ衣装も準備されていました。全てが一流でした。
 SEGAWA製の早着替えマシーンも準備されていました。これも一流でした。
 そして、ステージに放り出されました。

 
 
 歓声が聞こえます。
 ――自分を見ているのかもしれない。
 そんな考えが、ヒナギクさんの頭をよぎりますが、すぐに振り払います。
 今、歌おうとしているのは自分のためではありません。
 空気を壊さないためです。
 ならば歌わないわけにはいきません。

 音楽が聞こえます。
 ――聞き覚えのある歌だ。
 ヒナギクさんにそれが何の曲だったかを正しく思い出している余裕はありません。
 ですが、その音楽は不思議と、ヒナギクさんの記憶を刺激していきます。
 正確な歌詞ではありませんでした。でも、それはとても軽快なメロディーで、それがヒナギクさんにうろ覚えの歌詞を歌わせていきます。
 一小節、また一小節。
 低音を唸り、高音を張り、そして魂を叫びあげ、そしてとうとう歌い抜いたのでした。

 そして、逆襲に袖から見ていた三人娘に歌うよう振りました。
 盛り上げに盛り上げぬいた空気。断れない雰囲気でした。
 そして、三人はなんだかんだで数曲歌わされ、玉砕しました。泉さんにいたっては「そんなに食べてないわよ」を間違って「下ネタじゃないわよ」と間違えるぐらいの玉砕っぷりで、すごく嬉しそうでした。
 












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