しっぽきり

 ヒナ祭り祭り祭りの三祭りめ。
 ハヤテ君を見失い、白皇のことがよくわからない咲夜さんは、執事の巻田さんと国枝さんにハヤテ君を探すように指示した後、することとできることがなくなってしまいました。なので、ワタル君にエスコートされて、とりあえず祭りを楽しんでいました。
 才女である咲夜さんは、射的も才能抜群でした。
 ペンギンっぽいピンク色のあいつを射抜き、ゲット。さらには、可愛いので、虎っぽい女の子もゲット。虎っぽい女の子は、阪神タイガースの熱烈なファンであるところの咲夜さんもすぐ気に入りました。射的で景品をもらったことももちろんでしたが、それを除いても、咲夜さんは楽しそうでした。おおらかそうな白皇を気に入ったようです。
 本当は通うはずだったのは咲夜さんでした。それを伊澄さんへの思いを知って、ワタル君に譲ってくれたのです。幼馴染のなかで一人、別のところに通っている。咲夜さんのことですから、その学校でも友達を量産しているのでしょうが、それでも寂しくないわけないのかもしれない。
 そう気付き、ワタル君はせめてもの罪滅ぼしに、目一杯咲夜さんにお祭りを楽しんでもらおうと決めました。
 綿菓子、金魚すくい、焼きモロコシ、りんごアメ。
 太っ腹に奢りました。ただし粉物は避けました。関東の粉物が筋金入りの関西人である咲夜さんのお眼鏡にかなうか不安だったので。
 咲夜さんは、お祭りを存分に楽しんでいたようで、途中、伊澄さんのことでからかわれたり、嘘泣きされたりもしましたが、ワタル君にもそれは好ましいことでした。
 


 咲夜さん同様、ハヤテ君も男の人に奢ってもらっていました。コーヒーを。が、咲夜さんと違ったのは、男の人、虎鉄さんが、ハヤテ君を女の子と勘違いしていいるということでした。
 勘違いされているだけならまだマシというものでした。もし男とバレた日には、女装して学校に来る変態として、白皇史に不名誉な記録を残してしまうこと確実です。
 ですから、ハヤテ君はヤケド覚悟でコーヒーをグビリッ。そそくさと虎鉄さんのもとから離れようとします。ですが、引き止められてしまいました。

 お ど ら な い か。

 うほっ。
 効果音とは裏腹に、もちろんハヤテ君の答えはノーでした。
 冷たくあしらい、逃げようとすると、それもまたいいと離してくれません。さらに、物理的に肩を掴んできました。挙句に、告白してきました。好きです。勘違いの仕様がありません。本気の告白です。
 虎鉄さんの一本気な告白が、ハヤテ君のとある部分(マリアさんなら本能と呼んだでしょう)を刺激し、ハヤテ君の顔を赤面させました。これは脈あり、と解釈したのか、重ねて詰め寄る虎鉄さん。リアクションがすっかり清純派深窓のお嬢さまになってしまったハヤテ君。これからの展開に期待が抑えきれない泉さん。
 そう、いつのまにか泉さんが隣にいました。期待に満ちた眼差しで二人を、見つめています。
 驚く二人ですが、泉さんは邪魔したことを謝ると、そのまま続けるように促します。虎鉄さんも、見られながらの告白なのに素直に従うところを見ると、主従仲は良好なようです。
 しかし、ハヤテ君と虎鉄さんの仲は良好なものではありません。少なくとも今は。なのでハヤテ君は当然、続きを嫌がります。
 そんなハヤテ君を、自分の嗜好から「嫌よ嫌よも好きなうちプレイ」と見たのか、ハヤ太君にもそんな趣味があったのか、と感心しています。
 その言葉に虎鉄さんの手が止まります。虎鉄さんにとっては、ハヤテ君はハーマイオニーちゃん。つまり男が女に告白するシーン。泉さんから、そんな趣味呼ばわりされるようなシチュエーションは存在しませんし、そもそもハーマイオニーちゃんなのに、ハヤ太君などと呼ぶのは、不自然です。
 泉さんは、平然とハヤ太君が本当は男の子で綾崎ハヤテ君であることをカミングアウトしました。
 ――まさか、こんな可愛い子が女の子じゃないわけがない。
 一縷の望みをこめて、たしかめてみればという泉さんの勧めるままに、ハヤテ君の襟口を掴み、胸を確認しました。
 ありません。
 貧乳ってレベルじゃありません。こいつ男です。
 また、裏切られました。
 今までの女同様に、目の前の人間も自分を裏切りました。
 キハ系の素晴らしさを理解しようとしなかった女のごとく、時刻表を眺めるだけで一日過ごせることをキモいといった女のごとく、裏切りました。
 泉さん曰く、思いこみがキレるとヤクザで超強い虎鉄さんがキレました。そして、廃線のレールを譲り受け、刀鍛冶に特別に打ってもらったレールソードを抜くと、ハヤテ君に斬りかかりました。
 こうして、ハヤテ君の逃走劇二章が始まるのでした。



 一方、マリアさんはナギお嬢さまとともにSPを引き連れて、祭り会場に到着しました。
 久しぶりに訪れたヒナ祭り祭りにマリアさんも、年上の副会長さんに振りまわされたりしたのも意までは良い思い出の、学生時代のことを思い出し楽しそうでしたが、精神的な意味で大金持ちで有能な執事とメイドさん付きという人類が辿り着いた究極のニートであるナギお嬢さまは、お祭りに対しても無気力で、あまり楽しそうではありません。
 お面をかぶれば楽しくない、金魚すくいを見れば買えばいい、綿菓子を見ればあんなもの砂糖、焼きソバを見れば、別にマリアの焼きソバのほうが美味しいなんて思ってないんだからねとツンデレると、一向に楽しもうと言う気迫が感じられません。
 そんなナギお嬢さまを見かねたように近づいてくる影が一つ。
 ヒナギクさんでした。
 ナギお嬢さまが人ごみの多いお祭りに出てきたことに驚くヒナギクさんに対して、自分はひきこもりではないことを強調するナギお嬢さまに驚くマリアさん。ナギお嬢さまから、生徒会の人からここで誕生日会をやると聞いたから来たのだと聞き、驚くヒナギクさん。ナギお嬢さまは驚かず、マリアさんは一度驚き、ヒナギクさんは二度驚くと三者三様でした。
 それはそれとして、本来の目的を思い出したナギお嬢さまは、まるでひきこもりみたいと言われたことを幸いと思ったのでしょう、精一杯の不機嫌な顔でヒナギクさんに誕生日プレゼントを渡しました。
 ヒナギクさん喜ぶより先にまた戸惑いました。プレゼントである腕時計が、随分高そうに見えたのです。実際高いものでしたが、お嬢さまの価値観では安く、また値段と言うよりはヒナギクさんが必要としそうなものを選んだという、気持ちの問題でもありました。
 なんだかんだとあって、素直に笑って御礼を言うヒナギクさんが眩しかったのか、そっぽを向いて嫌みを言うナギお嬢さまの、ヒネっぷりにも呆れつつも、ナギお嬢さまとヒナギクさんの会話に、なんとなく温かい気持ちになるマリアさんでした。

 用も済み帰宅の途につくマリアさんとナギお嬢さま。
 そういえば、咲夜さんたちと一緒に言ったはずのハヤテ君でしたが、とんと知らせはありません。もしかしたら、伊澄さんに引きずられて迷子になっているのではと二人が心配していると、二人の会話を聞いたのか、ハヤテ君の名前を口にする男が近づいてきます。
 自分はハヤテ君の主人、とナギお嬢さまが答えると、SPが止める間もなく男はナギお嬢さまを担ぎ上げました。
 そして、「執事なら貴様も主を迎えに来い」と言い残し、夜空へと飛び去っていきました。
 悲鳴をあげながらマリアさんは、ナギお嬢さまが誘拐されてしまったことを理解しました。あと、SPが無能なことも。
 












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://bbkiriblog.blog70.fc2.com/tb.php/468-fc0f4d6b