しっぽきり

 ヒナ祭り祭り祭りの二祭りめ。
 ハヤテ君は女装していました。ただの女装ではなく、メイド服でした。呪いです。人形師の仕業です。そんなわけで早く元に戻りたいハヤテ君は、がんばりたいのですが、周囲の娘さん達は、似合ってるんだから別にいいんじゃないムードです。
 中でも積極的なのが、事件の発端だったはずの咲夜さん。体に流れる面白の血に火が灯ったのか、下は、中はどうなってるのか等と聞いてきます。
 それはさすがに嫌がったハヤテ君。ハヤテ君の嫌がりように、咲夜さんも反省。伊澄さんと、協力してくれることになりました。このとき、ハヤテ君がメッセンジャーに伊澄さんが立候補したことの危険性を察知しきれませんでしたが、誰が突如女装したことに混乱していたハヤテ君を責められるでしょう?

 そんなわけで一同は、明日の解呪の成功を祈って解散。
 マリアさんは、人形師の呪いという、あまりに突拍子もない不思議な事態を割り切れなかったのか、ハヤテ君に事情を確認してきました。
 呪いで女装なので自作自演の八百長をで解決しようとしている。
 簡単に言うと、その通りなのでハヤテ君は頷きました。
 聡明なマリアさんは理解してくれました。
 ――趣味って言うのは恥ずかしいから、色々理屈こねて伊澄さんや咲夜さんにまで頼んで、期間限定で女装を楽しんでるんですね。
 という風に。
 もちろんハヤテ君は否定しましたが、マリアさんは「また、そんなこと言って。分かってます分かってます。年頃の男は皆そうなんですよね。ハヤテ君の場合は発露がちょっと特殊でしたけど。それも、本能なんでしょう?」と、オカンモードを発動させているのか取り合ってはくれません。
 ハヤテ君は、マリアさんが理解してくれないのを悲しみつつも、自分ではどうすることもできず、ヒナギクさんを信じるしかありませんでした。
 
 

 そのヒナギクさんは、目を閉じて自分の素直な心と、ハヤテ君から出会ってからのことと向き合っていました。
 
 出会い。飛び蹴り。チャー坊を救おうとしたときコントロールをけなされたけど、自分は投げてないからノーコンテスト。
 マラソン大会。高いところに追いこまれたけど、あれはいくらなんでもルール違反。
 地下ダンジョン。口ではなんだかんだで言いながらハヤテ君を助けた。ライバルキャラのテンプレート。つまりはライバル。
 歩との出会い。私は応援すると言った。応援というからには何か勝敗があるはずだ。
 
 答えは簡単なことでした。
 ハヤテ君と自分はライバル関係なのに、勝敗がついていない。つまり、ちゃんと戦ってなかった。
 ヒナギクさんは、自分の心のモヤモヤをまるで解剖でもするかのように、スラスラと解いていきました。
 なぜか呆れる神父さまをよそに、久しぶりに晴れやかな気分になっていたヒナギクさんのところに、和服のメッセンジャーさんが訪れました。ハヤテ君からの伝言だと言います。要点をまとめてきたという手紙を読んだ瞬間、ヒナギクさんは我が意を得たりと笑いました。
 手紙の内容はこうでした。
 明日の夜九時、生徒会長室で一対一。場所は生徒会長室、武器持参。勝つのはハヤテ君。
 これ以上なく簡潔で、そのうえ丁寧に勝利宣言までしている果たし状でした。ヒナギクさんの小さな胸に、俄然ファイトが湧いてきました。自分の心を既に察知していたハヤテ君。相手に不足はありません。なので、愛刀・木刀正宗の手入れをしようとさっそく帰宅していました。
 後に、伝言ゲームがなくならない理由をまざまざと見せつけられた神父さまと、伝言をミスった上にこのままだと家宝をヒナギクさんに借りパクされかねないことに薄々気付き始めた伊澄さんだけが残されていました。



 そして三月三日。
 高台から見下ろす広い白皇校内には提灯が灯り、風が歓声と出店のいい匂いを届けてくれます。まるでお祭りです。
 正直なところ、いまだに金持ち感覚に馴染めないハヤテ君には、まさか学内行事がこんな規模になるとは思ってもいませんでした。
 溢れんばかりの人の波。誰にも見られず生徒会長室に行くのは至難の技に思えました。
 ですが、ハヤテ君はやりとげねばなりません。
 メイド服を着せられてから一日。料理をしているとき、掃除をしているとき、視線が合うたびにマリアさんは微笑んでくれました。「大丈夫です。変態なんて責めませんから。だから、胸を張ってメイド服を着ていてくださいね、私達も受け入れますから」と言いたそうに、微笑んできたのです。
 あんな思いはもうしたくありません。ですから、なんとしてもやりとげねんばなりません。
 そんな決意を固めるハヤテ君を見た瞬間、心の中の憧れの男像を木っ端微塵に粉砕され、咲夜さんから事情を聞いてからも復旧に手間取っているワタル君は、自分を呼んだ伊澄さんが来ていないことを、咲夜さんに尋ねていました。
 伊澄さんの居場所を尋ねられたときの咲夜さんの答えはいつもワンパターンです。
 つまりは迷子。
 合流して、白皇校内に入った次の瞬間からは迷子になっていました。
 ワタル君は伊澄さんがいないことに若干、不満そうでしたが、このままでは理想の男が単なる女装マニアだったということになってしまいますから、ハヤテ君が元に戻るのを手伝わなくてはいけません。
 なので、ヒナ祭り祭りをよく知らないハヤテ君に解説してあげることにしました。
 この行事は白皇五大行事の一つ。バレンタインの逆で、男が女を誘って盆踊り。試験前、赤点とって退学にさせられるやつのための最後の思い出作り。
 それがヒナ祭り祭りでした。
 いやな行事と思いつつも、テスト云々以前に、メイド服を着て登校するわけにも行かないハヤテ君。
 ――誰にも見られるわけにはいかない。知り合い、特に口の軽そうなおバカさんには。
 悲壮な決意を固めるハヤテ君に声をかけてくる人がいました。
 同じクラスのいいんちょさん、瀬川泉さんでした。
 知り合いでした。口が軽そうでした。誰にも言わないと本気で約束しても、ついうっかりで話してしまいそうなおバカさんでした。
 ハヤテ君がコートを来ていることを不思議がる泉さん。
 泉さんの言う通り、

「お祭りだからコスプレです」
「そうなんだー。でもコスプレなんてしてる人、少ないよ?」
「ですねー。失敗しちゃいましたよ」
「でもまあ、ハヤ太君は普段から執事服でコスプレしてるみたいなもんだよね」
「あははは」

 ぐらいで収まったのかもしれません。ですが、最悪の事態に焦ったハヤテ君は不自然な誤魔化し方をしてしまいました。
 おバカではあるけど、楽しそうなことについては異様な嗅覚を発揮し、攻められるのが一番好きだけど、攻めるのもやぶさかではない泉さん。当然、コートの下に興味を示します。
 逃げ出すハヤテ君。追い始める泉さん。残された二人。

「追おうか?」
「いや、追いつけねーだろ」
「でも、なんにもせんわけにも……」
「そもそもだ、あんな化物執事に俺らが何か手伝いできるか?」
「んー……ないなあ」

 そもそも超人的な運動能力を持っているハヤテ君に、一三歳の二人ができることなんて皆無に等しいことでした。なので、せっかく来たわけだしと、二人はお祭りを楽しむことにしました。



 虎鉄さんと野々宮さんは、祭りを高いところから見物していました。
 そう、ここは天下の白皇。セキュリティもバッチリ。女装癖の少年や、幼女誘拐犯の変態なんて侵入できるはずないのです。
 それでなくても、普段から放任主義の虎鉄さんですから、元気に走り回りたがるお嬢さまである泉さんを放置していました。それに、虎鉄さん自体、男が女を誘うというハレンチな不純異性交友を後押しするようなこのお祭りのムードが好きになれません。モテないし告る度胸もないヘタレだから。
 話相手の野々宮さんも、告白して玉砕しているであろう東宮君を慰めにいなくなってしまいました。
 告白する勇気のあるヘタレ東宮君を半ば尊敬しつつ、それでも強気になれない虎鉄さんは、せめて運命の出会いでもあればと、待ちぼうけの体勢でした。
 普通はこないけど、奇跡か神様の気まぐれか陽気の加減か、運命がぬるりとやってきました。
 清楚なメイド服。華奢そうな体。可憐な顔立ち。
 全てが虎鉄さんのストライクゾーンでした。天使にすら見えました。
 この機を逃してはならない。
 臆病だった虎鉄さんを本能が動かしました。
 名前を尋ねたのです。
 虎鉄さんにとって長足の進歩でした。
 が、目の前の天使はなかなか名乗ろうとしません。急に名前を聞かれれば誰だって照れるよな、そう虎鉄さんは解釈しました。いえ、解釈したがりました。目の前の天使が、急に名前を尋ねた自分を嫌いになったと思いたくなかったのです。逆に、名乗れば脈ありとすら信じていました。
 そして天使は名乗りました。
 綾崎ハーマイオニー、と。



 一方、「ハヤテは女装のままのほうがいいか? それとも元通りに戻すべきか?」で意見が割れ(双方で意見が衝突しただけではなく、ある時間帯は女装を支持していた側が、ある段階では元通りにすべきと主張するなど、当人の内部にも葛藤がありなかなか結論が出なかったのです)、出発が遅れていたナギお嬢さまとマリアさんも、本人の気持ち次第という一応の結論を出し、ヒナ祭り祭りに出かけることにしました。












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