しっぽきり

 三月三日はヒナギクさんの誕生日ということで、ヒナ祭り編全部感想書きます。
 そんなわけで、ヒナ祭り祭り祭りの一。
 咲夜さんが伊澄さんの家に遊びに行き、蔵で見たのは不思議なひな壇でした。
 今日は三月二日。ひな人形が飾ってあることはなんの不思議もありません。不思議なのは、人形です。なんとおひな様が二つあるのです。
 珍しいひな人形に、興味を示す咲夜さんに伊澄さんは嗜めるように言います。
 それは、呪いの人形だから触ってはいけない。封印が解けたら大変なことになる。でも、力が強いから処分が大変。母親は当てにならないし、祖母も同じ。大祖母にも、お札とか使わずに肉体言語で物事を解決したがるから被害が余計に広がりそうで頼めない。
 なかなか面倒くさい立場にいる伊澄さんでしたが、そんな愚痴話をスルーしつつ、「やっちゃいかんいうのはお笑い的には、やれってことやな」と判断した咲夜さんは、手に取りいじくり回し始めます。大昔の呪いフィギュアの中でも、特に咲夜さんの気を惹いたのは、取れそうで取れない首のギミック。その微妙な力加減を要求されるのがちょっとゲーム的で、少し力を入れては引っ張り、また力を入れては引っ張りと、シンプルな中に原始的なスリルが味わえます。
 今度は、もっと力を入れてみようか。咲夜さんがちょっとばかり強い力を入れて引っ張ったその瞬間でした。
 べきっ。
 とうとう、首がとれました。
 再三、引っ張られたことで、耐久性が随分下がっていたことを、咲夜さんは計算していなかったのです。
 一方、伊澄さんの話は続いていました。
 特に、首をもぐと大変。ここら辺で一番運のない人間に恐るべき呪いがかかる。
 今、もげた首をつまみながら咲夜さんはフリーズしました。それを見た伊澄さんは切れました。
 こうして、ひな祭の準備は着々と進められていきました。



 三千院家では、高そうな時計が光り輝いていました。
 ブルガリです。ナギお嬢さまが執事がプレゼントするなら、自分もヒナギクさんの誕生日プレゼントを贈らなければと思い、取り寄せた腕時計です。高そうです。
 ハヤテ君が聞いてみると、実際に高いものでした三〇万円。ハヤテ君の借金の大体五千分の一ぐらいです。そう聞くとたいしたことなさそうですが、誕生日プレゼントに紙幣を使うという概念を持たない両親に育てられたハヤテ君にとって、誕生日プレゼントに三〇万円とは、尋常な額ではありませんし、実際そうじゃなくとも尋常な額ではありません。
 それに、億単位のお金なら自分の埒外のお金として「やっぱ金持ちは違うな」で処理できたかもしれませんが、三〇万といえばハヤテ君も中学三年の三月に、高校の入学金を稼ぐために馬車馬のようにバイトをして稼いだことのある額。その時の記憶がフラッシュバックして、一層現実的にとんでもない額に感じられます。
 ですが、実際問題として、大富豪のナギお嬢さまにとっては三〇万円なんて大した額ではありませんでしたし、普段ヒナギクさんにお世話になっている分と合わせれば、まあ妥当かなぐらいの値段でしたが、ハヤテ君がヒナギクさんに誕生日プレゼントを贈ることがご不満なお嬢さまは、少しばかりハヤテ君を虐めます。
 そしてナギお嬢さまは言いました。
 自分がいなければ、ハヤテ君は宇宙一ついてない男だと。
 フラグが、立ちました。
 次の瞬間、発光が起こり、そして三千院家に新たなメイドが生まれました。
 


 ハヤテ君のメイド服姿を、元々持っていた女装の資質が開花したのかと驚いてはいるけど、似合っているから喜んでもいて、でもやっぱり驚いているナギお嬢さまとマリアさん。
 もちろん似合っているわけですからお嬢さま的にはありですが、あんな格好良いハヤテ君が、女装姿だけをし続けているのは惜しい。普段は宇宙一格好いい執事服で、女装姿は、自分達が強いて最初はイヤイヤだったけど着替えるうちに――というシチュエーションで着てもらったほうが萌えるというのもお嬢さまの本音。
 そんなお嬢さまの気持ちを察したのか、マリアさんはハヤテ君の真意を問いただしてくるからと、ナギお嬢さまを部屋に戻らせます。
 
 そんなわけで掃除中のハヤテ君を呼びとめたマリアさんは、いきなり切りこまずに、人と違う趣味についてどう思うか、というところから聞き始め、自分からその服装について話すように仕向けます。
 ハヤテ君の意志は明確でした。
 人と違っても好きなら誇りを持ってやるべきだと言いきったのです。
 言いきられてしまっては、マリアさんも認めざるをえません。ナギお嬢さまもさっきの口ぶりから考えれば認めてくれる。なので、自分達は女装しても大丈夫だ、とハヤテ君に伝えました。
 ですが、ハヤテ君の様子が変です。
 急に自分の格好を気にし始めたのです。まるで、自分の意志でメイド服を着たのではないかのように。更には、マリアさんが着せたのだとあらぬことを口走ります。
 もちろん、マリアさんは着せていませんし、実際にそうなら、こんなことは言いません。ひたすら黙ってシャッターを切りつづけるのみです。
 事情が分からず戸惑う二人。そこに訪れたのは、咲夜さんと伊澄さんでした。


 
 昔々あるところに、女装が大好きで大好きでたまらない人形師がいました。その職人は、腕の良い職人でその土地の領主様に仕えて、プロト雛人形、雛人形、雛人形G、真・雛人形等、数々の傑作雛人形を作っていました。
 ですが、その才能を支えてきた情念、つまり女装好きが抑えられませんでした。と言っても、女装はせず、人形を女装させてしまったのです。飾られた女装したお内裏さま。青々とした髭の剃り跡の残る十二単を着たお内裏さま。姫様が泣き出しました、従者が吐瀉り始めました。領主さまマジギレ。
 さらに悪いときに悪いことは重なるもので、横領も発覚。あわれ人形師は、バッサリ。この世を去るその瞬間まで女装したいという思いを消せず、その思いが呪いとなったのでした。
 伊澄さんの説明が終わりました。メイド服なのは、職人のセンス溢れる趣味だったようです。
 釈然とはしませんが、原因はわかりました。
 原因に続いて次々に明らかになっていく呪いの細部。タイムリミットは三月三日。それまでに解けなければ、一生女装が趣味になってしまうという微妙だけど恐ろしい呪いです。十代のいまならともかく、五十代になった男のメイド服となると恐ろしいものがあります。
 ですが、さすが伊澄さん。解決方法も知っていました。
 ヒナ段のおヒナさま。つまり、ここら辺で一番高いところの主を倒すこと。それが呪いを解く方法でした。



 白皇生徒会長、つまり時計塔番長・桂ヒナギクさんはトボトボと歩いていました。
 その足取りはいつものように律動的なものではなく、なにか迷いがあるように力の無いものでした。実際、ヒナギクさんは悩んでいたのです。
 それは、ハヤテ君への割り切れない思い。寝てもハヤテ君、覚めてもハヤテ君。始末の悪いことに、自分の胸を占めている感情が何であるのか分からないのです。
 解決策の一つとして、ヒナギクさんは自分がハヤテ君のことを好きだと仮定してみました。あくまでも仮定です。百歩も二百歩も譲っての仮定です。それを思うことで、赤面したとしても、万が一、億が一の仮定です。
 ですが、その状態を想像してみてもヒナギクさんの心は自由になりませんでした。ヒナギクさんは、一人の女の子の恋を応援すると、本人に宣言していたのですから。
 そんな煩悶するヒナギクさんに、声をかけてくる幽霊がいました。地下教会のときに知り合った神父さまでした。自分が見えるのはあのとき教会にいた人間だけ。せっかくなら神父らしく相談にのると、流石に神父さまだけあって、ヒナギクさんが悩んでいることを見抜いているようです。
 とはいえ、あんな性格の神父さまですから、ヒナギクさんは神父さんを信用できません。
 神父さまは、ひとつだけアドバイスをしました。
 ――一生のうちにできることは少ない。だから、悩むより目を閉じて、自分の心に素直になって、それをやればいい。
 ヒナギクさんは、実害はなさそうなので、そのアドバイスに従うことにしました。
 


 そのころ、ハヤテ君達は一つの結論を出していました。
 ここら辺で一番高いところは白皇の時計塔。そこの主といえば、生徒会長のヒナギクさん。
 ヒナギクさんに事情を説明して、女装姿を見られないために、夜に生徒会長室に負けてもらえば無事解呪成功。
 が、そう簡単にはいきません。お嬢さまに付き合ってハヤテ君が休んだ日のHRに発表されたので、ハヤテ君は知りませんでしたが、マリアさんによれば、明日の夜は白皇五大行事の一つ、ヒナ祭り祭りらしいのです。天下の白皇がやる行事ですから、それはもう人が一杯きます。生徒やらそうでない人やら何やらが一杯来ます。今日も設営の人達が一杯くるらしいので、あまり状況は変わりません。大変です。時計塔で倒さないと解呪不可能とあって、ハヤテ君の前途はなかなか厳しそうでした。












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