しっぽきり

 ハヤテ君は焦っていました。
 ナギお嬢さまの下、茶坊主ぶりには定評のあるハヤテ君も、ツンデレの頂点を極めたヒナギクさんには、うまくいい雰囲気を作ることができないのです。
 ですが、ハヤテ君だって男の子です。執事なのです。このまま悪い雰囲気のまま引き下がっては、プライドはズタズタ。なので、本気モードに入ることにしました。まずは、昔のあんなバイトやこんなバイトで身につけた営業スマイルで牽制、そして向かった先は、夢の海。
 そう、夢の海です。
 若き日のケレ・ナグーレちゃんが、五年二十億の巨大契約を結んだものの、二年目で膝を故障し、それからの三年間を、不良債権呼ばわりされ、泣く泣く去っていった夢の海です。
 それからのケレ・ナグーレちゃんは弱小テーマパークの救世主として各地を転々とし、それが三千院家に目に止まる理由になったのですが、それはまた別のお話。
 王道です。ベタです。でも、効果があるからこそ、王道にもベタにもなるのです。
 そして、夕方からのアフター5チケットでさりげなくおごりも完了。三千院家執事の面目躍如と言った感じでした。ここまでは。



 ヒナギクさんは、夢の海に来るのは初めてでした。
 桂家が家族で出かける場所と言えば、酒を飲んだくれることができて、美容に効果があるところ。つまり温泉が圧倒的に多数で、遊園地はなかなか候補に上がらなかったのです。
 そんなわけで、なんだか慣れた様子のハヤテ君に主導権をゆずらぜるを得ません。
 来たことがあるのか、と尋ねると、ポロッととんでもないことを口走りました。
 なんと前回は、女の子と一緒だったというのです。男の子と女の子が一緒に遊園地へ行く。まるでデートです。
 いじめるヒナギクさん、なぜか慌てて弁解に走るハヤテ君は、「あの時がデートなら、今もデート」と言い出しました。
 その言葉に、ヒナギクさんは改めて、今日の状況が、デートといえる状況であることに気付き、赤面し、話題を変えるように何か乗り物に乗ろうと言い出すのでした。
 とは言うったものの、遊園地は子供が来るものというイメージがヒナギクさんにはありました。なので、十代後半の自分にも楽しめるのか疑問でした。
 しかし、人それぞれという究極の思考停止を強いる真実的な言葉を口にしたハヤテ君は何だか自信ありげです。

 ケレ・ナグーレちゃんとアトラクションでファイトした結果、一発もらってより目のクマが濃くなったパンダが飛び出すジャングルパーク。
 若い頃の血気盛んなケレ・ナグーレちゃんの宥め役だったフクロウお爺のいる不思議の森。
 ケレ・ナグーレちゃんのパシリ、腰巾着だったブタコウモリが飛ぶ、探検洞窟。
 ケレ・ナグーレちゃん放出後の遊園地で一時期は看板スターだった臍ウサギ率いる地下道カナリアパタンツアー。
 結果的にケレナグーレちゃんの膝を壊した、舌ワンコロが突進する未来ハウス崩壊。
 昔ケレ・ナグーレちゃんと、深い関係にあった歌女豹がナレーションを務める強奪トロッコ。

 そして魔法がかかりました。
 胸踊るアトラクションに、ヒナギクさんの表情もどんどん女の子の顔になっていきました。答え方も「うん」となんだかかわいいです。
 子供のように笑うヒナギクさんに、ハヤテ君は「初めてヒナギクさんに会った気がします」とにっこり微笑んできます。そのハヤテ君の笑顔の眩しいこと。
 その眩しさに、思わずヒナギクさんの心の中にある、素直じゃない部分が浮き出してしまいます。
 いつもなら、そのまま怒鳴ってしまうところでした。ですが、今日のヒナギクさんは優しい女になるという決意がありましたし、魔法がかかっています。
 ですから、言いました。
 遊園地も、ハヤテ君と一緒にいるのも楽しい、と。
 その後も、二人は十分に魔法の時間を楽しみました。
 


 楽しい時間はあっという間。
 営業時間は終わって、二人も帰り道。夜霧と草の匂いのする線路沿いの道を二人は歩いていました。
 ヒナギクさんにとってこの日は、本当に楽しい一日でした。
 思いは告げないと決めているからデートではないけど、好きな人と遊園地で遊ぶ。
 ヒナギクさんは後を歩くハヤテ君に振り返り、尋ねました。
 今日はなんで誘ってくれたのか、と。
 ハヤテ君は、すまなそうに目をそらしながら、こう答えました。
 花菱さん達に頼まれたからだ、と。
 ハヤテ君が自分に嫌われていると思いこんでいることは知っていました。だから、自分の望む答えは返ってこないと知っていました。けれども――
 魔法の時間が終わったことを悟り、再び帰り道を歩き出そうとしたヒナギクさんの手をハヤテ君が握りました。
 ハヤテ君は言います。本当は、ヒナギクさんが誘いを受けてくれると思っていなかった、と。なぜなら自分はヒナギクさんに嫌われているのだから。
 それは、ヒナギクさんの耳に痛い言葉でした。けれど、ハヤテ君はその後にこう続けました。
 今日はヒナギクさんと一緒で嬉しかった、と。
 ついでに、もう一つ付け加えました。
 電車賃貸してくれませんか、と。
 無駄赤面の後、ヒナギクさんの地雷がようやく爆発しました。
 爆発音は、ポカポカポカペクッ。
 存分に爆発させた後、ヒナギクさんはハヤテ君を鈍すぎると叱りました。そして、電車のたてる轟音に、自分の気持ちをぶつけました。
 その言葉は、ハヤテ君の耳には届きませんでした。
 いつか、また、今度はハヤテ君自身がヒナギクさんに魔法をかけたとき、ハヤテ君もその言葉を聞けるのかもしれません。
 
 

 一方、ヒナギクさんのお姉さんは、ゴネて引き出した「何でも好きなもの頼んで良いよ」という生徒の言葉に甘えて、思う存分高級ワインを楽しみ、こちらも魔法の時間を過ごしたのでした。












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