しっぽきり

 お嬢様方と雪路さんはファミレスでお食事中でした。
 ハヤテ君を借りた理由を、地雷除去のためと説明する成績は悪いけど出席率は高めほうの二人に、成績はいいけど出席率は低めの方は訝しげでしたが、小さなディスプレイで踊りまくるモンスターの方が今のヒキコモリには、はるかに重要であったのでお話はそこで終わりました。
 ですが、納得できない人が一人いました。雪路先生です。
 とはいっても、雪路先生は、ハヤテ君の貸し出しの理由についてどうこう言いたいわけではありません。妹さんならガクブルものの、物凄い高いビルのとんでもなく見晴らしのいい、素敵なレストランがファミレスであるかどうか、つまりファミレスの定義について疑問を抱いていたのです。
 二人の答えは簡潔でした。
 ファミリーで利用するからファミレスだろ?
 とのことです。
 それでも釈然としない雪路さん。
 そこに、ビバンダムには舌打ち三つをいただいたとはいえ、都内でも五本の指に入る超高級レストランに勤める一流ウェイターが近づいてきました。
 そういえば、手際よくドリンクバー(超高級レストランなので自分からいかなくても、向こうから注ぎにきてくれます。そのうえ、種類も豊富。スパークリングカフェ、サスケ、聞いたことのないメーカーが作っているコーラ、薬局でなんか五〇円ぐらいで売ってる栄養ドリンク、成人向けにはメチルアルコールまで置いてあります)を注文した三人と違って、こういうところには慣れない雪路先生は注文を済ましていません。
 渡されたメニューを見て、雪路先生は水を注文しました。



 一方、真っ直ぐで、余計な遊び部分がないデザインが好評(遊びの多い三九八式は三九八式で好評でしたが)の地雷は、「色々あって勘違いされてるけど、笑顔で接して嫌いでないことは知ってもらおう」という目的を持っていました。つまりは、怒りにまかせて突っ込んだら負けって遊びです。
 そんな移動式地雷が、待ち合わせ場所に行くとそこには既に、今日映画に誘ってくれたハヤテ君が、もう待っていました。
 地雷はヒナギクさんと呼ばれました。
 ヒナギクさんは、笑いました。
 渾身の力を込めた穏やかな笑みでした。
 その力強い波動がハヤテ君にも伝わったのでしょう、その感動のあまりハヤテ君は震えていました。
 そして、誠心誠意、真心を込めて偽装した言葉を重ねているうちに二人は映画館へ。



 そこは、元々はホラー映画専門館としておどろおどろしい外装で建てられたものの、経営不振から方針転換し、現在では子供映画もかけるようになった、古びた映画館だった。
 とはいえ、現館長・重義の父親、初代館長の重蔵はいまだにホラー映画専門映画館への思いを捨てられないらしく、度々息子に黙って、子供むけアニメをホラー映画に差し替えロードショーしようとする。当然、重義は父親の行為が許せず、その度に叱責し、ときには言葉だけではなく、殴り合いにまで発展する。
 そんな喧嘩の絶えない、杉山親子。今回の『にゃん子冒険日記』のロードショーに関しても、重蔵が入り口に三味線を置きたいと一悶着を起こし、罵声を浴びせあった結果、上映期間中は常に映画館の周りに黒猫をうろつかせておく事に、お互いの妥協点を見出した。
 だが、その日、訪れた少女には重蔵の理想が理解された。
 なんと、少女は楽しそうと言ってくれたのだ。
 受付に座る重蔵は、これで重義に勝てる、と感涙にむせび泣き、そして、この感動が、重蔵の闘志に新たな火をつけたのだった。


 ホールに入った二人は、貸しきり状態のホールに上機嫌のようでした。
 真ん中に座れる、荷物も横の席一つ使って置ける。
 これはこれでいいかもと、ポジティブモードに入ったヒナギクさんの手に温かな手が重なりました。
 もちろん言うまでもなくハヤテ君の手です。
 突然の出来事に顔を赤らめるヒナギクさん。すぐに手は離したものの、柔らかくて温かい感触は手からなかなか消えません。
 暗い館内、高鳴る心臓。
 ヒナギクさんは一つの事に気付きました。
 一方的で、伝えてもいない片思いだけど、好きな男のこと二人で映画を見る。
 ――これは、ひょっとしたらデートなんじゃないか?
 と。
 回り始めました映写機が映したCMは、「俺は最初から四百パーセントだぜ」という煽りから察するに、刑事物のようでした。



 そしてようやく映画が始まりました。
 子供映画らしく、楽し気に歌う女性ボーカルをBGMにしたオープニングが明けると、最初に映ったのは鉛色の空。そこから、カメラは下がっていき、煉瓦の街並みを流れていきます。家路を急ぐ人々を映していたカメラは、ある一点で止まりました。そこに映った猫は、雪の白でも、煉瓦の白けた茶色でもなく、黒色。今まさに命を追えようとしている子猫です。
 そしてナレーションが始まり、神が現れました。
 命は与えられないけど、使命を果たすまで命の延長はできる。神様は言います。
 その使命は、この世界を支配する魔王を倒すことです。神様は、憐れに思ってやるんだから、それ以外は手前らでやれよ、というお考えのようでした。
 子猫は使命を果たすことを選びました。別段、使命感に燃えていたわけではなく、死の意味も、使命の険しさも知らない子猫は、単に思いつきで行動しただけなのですが、とにかく大冒険は始まりました。それが悲劇の始まりとも知らないで。
 まず、子猫に訪れた試練は――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 フィルムが切れた瞬間、重義は『緊急事態用館内放送・パターンF』を流していた。
 流す予定はなく、遊びで作った投げやりな館内放送だった。
 いや、本当は流すつもりだったのかもしれない。こんな放送をすれば、一気に信用を失う。そうすれば、映画館も終わりにできるだろう。むろん、一気に失うほどの信用があればの話だろうが。
 薄々と嫌な予感はしていた。普段なら、重義と顔を合わせたくないため、営業中は受付からほとんど動かない重蔵が、映写機を置いている部屋から出てくるところを、トイレから戻った重義は見ていたのだ。
 何かフィルムに細工をした。
 そういう事態は十分想像できた。だが、『にゃん子冒険日記』のフィルムは、今まさに切れたもの一つ。替えなど無い。だが、上映しないわけにもいかず、重義はそのまま父が細工したであろうテープを流すしかなかった。選択肢のなかに正解が含まれない選択問題も世の中には存在するらしい。館内に流れるテープを聞きながら、重義はタバコをふかしはじめ、そして、ポツリとこう呟いた。

「終わりだよ、親父。何もかも」

 フィルムの上に落ちた灰と、ホラーのつもりで上映中のフィルムを切るという愚挙を犯した父への信頼を、重義は荒々しく踏み消した。
 クシャクシャになったフィルムを見ながら、自分達はいつからこうなってしまったのだろうと、重義は無意味な自問自答を始めるのであった。



 ヒナギクさんは悲しくなりました。
 フィルムが切れたことが、ではありません。
 ハヤテ君と一緒にいるといつもこうです。思いも寄らぬハプニングが訪れて、ハプニングに自分は怒って、怒る自分を見てハヤテ君は脅える。いつもいつも、その繰り返し。これまでも、今も、そして、もしかしたら――これからも。
 そんなことを考えて、悲しくなり始めたヒナギクさんに、ハヤテ君が声をかけました。
 ――これから海に行かないか、と。













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