しっぽきり

 この記事は少年サンデー10号のネタバレを含みます
 白皇学院生徒会長・桂ヒナギクさんは競争心旺盛な方です。
 勉学・運動はもちろん恋愛に関しても、それは例外ではありません。
 ただし、恋愛に関してはちょっとばかり歪んでいました。競争心を向ける対象が、恋敵ではなく、好意を抱く相手、さらにその向き方も「自分が好きと言ったら負け。相手に好きと言わせてこそ勝ち」というなかなかアレな感じな向き方だったのです。なものですから、アルバイト先でヒナギクさんは、恋敵であるはずの歩さんと楽しく談笑中でした。付け加えて言えば、ハヤテ君より歩さんの方が大好きでもありました。
「今日も、お客さん来なかったわね」
「あはは。本当ですね。これじゃあ、お給料も払ってもらえるか不安――あっ、こんなこと言っちゃ失礼ですよね」
「あははは。貰えると思ってた?」
 まったくもって、和やかな会話でした。
 ここで、世知辛い現実から目をそらすように、話題変わって恋愛の話。
 そこで、ヒナギクさんは驚愕しました。
 なんと、ハヤテ君が「自分はヒナギクさんに嫌われている」と思いこんでいるというのです。
 勘違いもいいところです。実際のヒナギクさんは、歩さんがからかうように、ハヤテ君のことが大好きなのです。それなのに、勘違いが起きることを不思議がる歩さんは、学校での二人の様子を聞いてきます。
 木刀で斬りかかったり、叱ったり、怒鳴ったり、刺殺戦を挑んだり、思い起こせばヒナギクさんは、ハヤテ君に冷たい態度ばかりとってきました。それはツンデレ体質であるヒナギクさんにとって仕方のないことでしたが、ヒナギクさんがとってきたツンデレは、本人と距離をとって事情を知る外部から見て初めて成立するツンデレであり、そのツンデレ内部にいる、まさにツンデレ当事者のハヤテ君にとってヒナギクさんは、ただヘタレな自分に怒る桃色夜叉にしか見えてないなかったのです。
 まるで小学生男子のようなヒナギクさんへの、敵に塩を送る恋愛アドバイザーNISHIのアドバイスは、「デレも見せてみろ。お前はやればできる子」でした。



 帰り道、ヒナギクさんは恋愛アドバイザー・NISHIの言葉を噛み締めつつ、これまでの自分を反省していました。
 たしかに思い返してみれば、優しさに欠けるどころか怒ってばかりいる可愛げのない女に見えていたのかもしれません。
 ――好きという気持ちに気付いてもらえなくてもいいから、嫌ってないことだけは知ってもらおう。
 そして、今日から心優しい女になることを決意するのでした。
 


 昨夜、後輩の主任は奢ってくれませんでした。奢ってと言いたかったのですが、うかつに刺激すると、カセットプレイヤーの修理代を持ち出されそうなので、さすがに言えませんでした。
 なので、雪路さんの手元には一二円しか残っていませんでした。妹さんに七重の腰を八重に折ってもらったお小遣いも、あっというまに飛んでしまいました。
 さて、困りました。このままでは叱られてしまうに違いありません。どんなに見つからないように隠れても、授業に出ればイヤでも顔を合わせなければならないことに、ため息をつく雪路さんの耳に、聞き覚えのある声が聞こえました。
 間違いようがありません。妹の声です。
 最初からスピリタスはいかない、ラーメン食べるのはちゃんと最後にする、飲み放題だからって飲みすぎずに一晩中飲むときは適当なところで河岸を変える、寿司を頼むときは味の濃いアナゴからいかずに白身魚から頼む、競馬をやるときはオッズを見ない、最初に官房長官を殺さない、と必死に今度からは計画的になると言い訳する雪路さん。
 が、妹さんの反応は予想外のものでした。
 なんと微笑んでいたのです。
 それどころか、飲みすぎると体に毒、お金無いならウチでご飯ぐらい作ってあげると心配の言葉すらかけてきたのです。
 天使のような妹に、雪路さんは戦慄するのでした。



 ジョギング状態で全力疾走しながら立ち止まって振り返った美希さんは、戸棚にぶつかり、豪華な生徒会長室にピッタリなまさに豪華としかいいようがない、ヒナギクさんが一番愛用していた豪華なティーセットを壊してしまいました。
 当然、美希さんも理沙さんも大いに焦ります。鬼ごっこが生んだ、とてもリアルな危機でした。
 それを呆れながら見ていた千桜さんは、二人の恐れる事態が近づいてきたことを悟りました。
 つまり、ヒナギクさんが来たのです。
 千桜さんは、怒声が生徒会長室に響くものと信じていました。
 ですが、ヒナギクさんの口から出たのは心配と嗜める程度の言葉。さらには、笑ってすらいます。
 片付けるため、掃除用具を取りに行くヒナギクさんに、怒ってないのかと問う理沙さん。ヒナギクさんは、怒ってないと、やはり笑って答え、その笑顔に美希さんと理沙さんは、言いようの無い恐怖を覚えるのでした。


 
 いつもは怒るところを笑うヒナギクさんという新たな脅威を味わった三人は、もちろん不安に包まれていました。
「怒りんぼなのに」
「コラーって叱るのに」
「悪いものでも食べたのか」
「このままでは泉が生き甲斐をなくしてしまうんじゃないか」
「てかアイツどこに行った?」
「風邪ひいたとか?」
「いや、雪路と泉は風邪をひかないはず」
「それもそうだな」
「それならアンタ達だってひかないはずでしょ」
「何という口の聞き方だ。我々は褒められて伸びるタイプだぞ。前言を撤回しろ」
「否定はしないのね」
 そんな三人の会話に、生徒会長室に残った千桜さんと、事態を千桜さんから聞いた愛歌さんは呆れます。
 ヒナギクさんのイメージは、穏やかで怒りっぽい印象などないというのです。
 なんと傲慢なメガネなのかと、三人は怒りました。たかだか、ヒナギクさんを怒らせたことがないからといって、ヒナギクさんを穏和な人間のようにいうとは失礼千万、ヒナギクさんの名誉を著しく傷つけるような行為だと、憤慨しますが、エリート達はどこふく風。
 人生のほとんどの時間を微笑して過ごす令嬢、愛歌さんは人間は怒っている時ほど笑顔になると言い残し、最近いやに愛歌さんに下手になった千桜さんを連れて、その場を去っていきました。
 愛歌さんの言葉にも一理あり、そうでなくても上機嫌にさせおけば損は無いと判断した三人は、奥の手を用いて、ヒナギクさんのご機嫌をとることにしました。



 その奥の手の実行者に選ばれたのは、ハヤテ君でした。
 奥の手とは、ヒナギクさんが一人で行くにも友達といくにも恥ずかしがってしまうような映画を一緒に見に行ってご機嫌をとること。
 その映画とは「にゃん子冒険日記」
 子猫と子供が難病でどうたらこうたらとかそういう話です。ハル子さんは五回見に行ってDVD購入も決めていましたが、それは知る由も無い話。
 地雷を踏むのがいやだから、美希さん達は、エロ本をちょっと見せただけでも真っ赤になってしまう人畜無害なハヤテ君を適任だと判断し、依頼していたのです。
 ですが、ハヤテ君は勿論人畜無害などではありません。今は、まだそういう時期ではないと判断していたのです。
 複数ルートを攻略しようとすれば、一つ時期を誤っただけで大変な事態になってしまうことは明瞭。
 時期がくるまでは細心かつ繊細に。それが、ハヤテ君の戦略でした。
 ですが、美希さん達に持ちかけられた話にこうも思っていました。
 ――ヒナギクさんとは、もう少し関係を進めておいたほうがいいのかもしれない。
 たしかに、ナギお嬢さま、西沢さんと比べれば、ヒナギクさんとの関係には、なにか進展した感じがありません。それを考えれば、二人で映画を見に行くことは、時期的には早急ながら、たしかに考慮すべき手段ではありました。難しいところです。なので、ハヤテ君は運を天に任せることにしました。
 ――執事である自分は留守になる。その間、お嬢さまはどうするのか?
 これを二人が解決できれば、依頼を受けることにしました。
 結果、ハヤテ君は二人の情報収集能力に舌を巻くことになりました。
 ――お嬢さまは、モンハンに夢中。我々がファミレスで相手をするから大丈夫。
 発売時期、お嬢さまの性格を見抜いた見事な策でした。
 心の中で、二人への警戒度を上げつつ、ハヤテ君は依頼を受けることにしました。



 そんなわけで、生徒会長室で執務に励むヒナギクさんの前に立ったハヤテ君は前置きなく、映画のチケットを突きつけます。
 ハヤテ君に映画に誘われたことと、その映画が子供向け映画だったことも含めて、ヒナギクさんのツンデレ体質は拒否しそうになりますが、今のヒナギクさんは、心優しい女を目指すモード。可愛げを見せるために、グッと拳を握り、歯を噛み締め、ツンデレ体質に逆らい、嬉しそうに笑って喜んで見せました、本人の主観では。
 こうして、ヒナギクさんのしおらしい女への、熱く激しいチャレンジが始まるのでした。












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://bbkiriblog.blog70.fc2.com/tb.php/451-943cca70

ハヤテのごとく! 162話
 桐生危→きりゅうあやめ→きりゅうあ→キルア  あーなるほど、最後のページの既視感の正体がわかりました。これが引っかかっていたせいで...

2008.02.07 02:31 | くるくるばたばた

ハヤテのごとく! 第162話感想
 動揺するのがヒトの性、動揺させるのがヒナの性。 そんなハヤテのごとく!の第162話「ほらDSで笑顔の練習とかするゲーム あったじゃん...

2008.02.07 07:10 | ゲームの戯言+α

ハヤテのごとく!162話【ほらDSで笑顔の練習とかするゲームあったじゃん。あれとか使うといいんじゃない?】畑健二郎
 人間的に自然とされる行為まで訓練が必要とされるとしたら、そこに人間は残るのか?深遠な疑問が浮かぶのであった……いっそ不自然な自然でいたい。  今回の話にはつくづく日頃の行いって大事だなぁ、と思わせられた。しかも二重の意味で効いてくるから愉快である――...

2008.02.07 12:53 | 360度の方針転換

今週のハヤテのごとく!162話@無理はいけませんね
これまで一番読み返してきた本はおそらくスラムダンクです。白川悠でございます 一時期は展開を殆ど覚えていたはずです。ええ もちろんこれ...

2008.02.07 23:41 | 蒼のごとく!

連載162話にマリアさんビーム。
\"優しさ\"を身につける!! そう固く心に誓った桂お嬢、一晩かけて優しさとはなんたるかの修行を行い、そしてマスターしました。 優...

2008.02.08 19:12 | 神聖マリアさんビーム