しっぽきり

 二月一日はシスター・ソニアの誕生日ということで、シスターメインの話の感想を書いてみました。
 あの教会の地下ダンジョンでの戦いから三週間ぐらいたったある日。
 何度も、近くに行っては引き帰し、電話をしようとボタンをプッシュしては切りを繰り返していたシスター・ソニアは、タチバナレンタルビデオの前に立っていました。
 この三週間というもの、シスター・ソニアは迷っていたのです。
 シスター・ソニアは、三週間前、この店の少年店長・橘ワタル君と出会い、そして、一目惚れしてしまったのです。
 ですが、色々と問題がありました。
 シスターとワタル君の年の差は六歳。これが三一歳と二五歳なら問題ないのですが、生憎シスターは一九歳、ワタル君は一三歳。六歳差の意味が違います。具体的には、ショタなヤバさです。
 冷静に考えれば考えるほど、六歳差は重い差です。
 かといって、この六歳差の意味が軽くなるまでなんて、とてもじゃないが待てません。
 それに、自分が本当にワタル君のことが好きと決まったわけではありません。あのときだけの錯覚、勘違いかもしれません。
 なので、今日はそのことを確認しにきただけ。そう自分に言い聞かせて、シスター・ソニアは歩を進め入店しました。
 そこに待っていたのは、爽やかに久しぶりと挨拶するワタル君。
 三週間、頭から離れなかったワタル君と実際に会う。それだけで、シスター・ソニアは一怯みです。
 ですが、そこは大人の意地。約束を思い出したからDVDを借りに来てあげただけと、何気ない態度を装います。
 それに、シスタ・ソニアには分別もありました。
 あの日、ドタバタとした中で交した約束です。ですから、それが守られるなんて、ワタル君が覚えているなんて考えていませんでした。期待したら期待しただけ、失望も大きい。それが彼女が父親を亡くしてから学んだことでした。
 そっぽを向くシスター・ソニアの前に、大量のDVDが積み上げられました。
 ワタル君が彼女のために、選んだDVDでした。
 その中の一本を手に取り笑うワタル君。
 その笑顔を見た瞬間、シスター・ソニアは確信しました。
 自分がワタル君が大好きなことを。
 三週間前に湧いた、そして今確かめた感情を抑えられず、告白しようとするシスター・ソニア。ですが、告白することはできませんでした。しようとした瞬間、悲鳴と衝突音がしたのです。
 音の先にいたのは、見知らぬメイド服を着た、自分と同年代のメガネの女性でした。
 同じメガネッ娘なのも気に入りませんでしたが、何より気に食わなかったのは、ワタル君が彼女を心配して駆けつけていったこと、そして彼女が恥ずかしそうに嬉しそうに笑ったことでした。
 
 
 
 結局、DVDを借りずに店を出たシスター・ソニアは、偶然居合せたハヤテ君の襟首を掴み、持ち上げるとメガネのメイドさんが何者であるか、問い詰めました。DVDを返しに来ただけなのに、首を締め上げられている哀れな迷える子羊を絞殺から救うため、問い詰めました。
 迷える子羊の言うことには、彼女はワタル君の大事な人、ということでした。
 知りませんでした。そんな人がワタル君にいたなんて。ショックでした。想像もしてみませんでした。
 思わず泣きそうになるシスター・ソニアと、彼女を慰めるハヤテ君の横を一台の不審な車が通り抜けていきました。


 
 子分のヤスから見る、兄キは精密機械のような頭脳を持つ犯罪の巨匠でした。
 その巨匠の立てたプランにヤスはまたも感動していました。
 メイドを雇っている家に貧乏な家はない。
 これほど論理的な思想をヤスは聞いたことがありません。
 前回は不運にも失敗してしまいましたが、脱獄してきた今回は失敗するわけはありません。
 兄キの完璧な計画を、後は実行するだけ。ヤスの胸が踊りました。今度こそ、立派な犯罪者になれます。そうすれば、故郷の警察にも手配書が貼られ、残してきたお袋にも、自分が元気であることを知らせることができます。お袋は、泣いて喜ぶでしょう。少なくとも泣いてくれるはずです。
 興奮するヤスでしたが、そのせいでしょうか。さらう対象を間違えてしまいました。メイドさんの方をさらってしまったのです。
 思いがけぬ失敗に、顔も青ざめるヤス。しかし、兄キはさすがでした。このままメイドさんを誘拐することを決断したのです。なんという柔軟性でしょう。
 走り出した車の中で、ヤスは失敗を後悔しつつも、兄キへの信頼を深めていくのでした。



 シスター・ソニアが、溢れそうな涙をこらえていると、メガネのメイド、そしてワタル君の悲鳴が聞こえました。
 顔を上げてみると、見るからに怪しそうな二人組が、メガネのメイドさんを無理矢理車に押しこんで走り去っていきました。ふと見ると、ワタル君が縄で縛られています。
 ここから導かれる結論は一つ。誘拐です。
 神様はやはり自分の味方で、だからあのメイドさんを排除してくれたのかもしれない。
 ですが、素直に喜ぶことはできません。ワタル君があんなにもうろたえているのです。
 ですからシスターは、一つ尋ねることにしました。
 彼女のことが好きなのかどうか。
 ワタル君の答えは、大事だけど家族みたいな存在、でした。
 慌てて答えたのが、少しだけ引っかかりましたが、納得しました。そして思いつきました。
 彼女のためになら、命もかけられるとワタル君は言いました。ならば、なんでもできるということです。
 なので、サキさんを助ける条件としてキスしてもらうことにしました。
 そして、シスター・ソニアの頬に、ワタル君の唇が触れました。
 








 ヤスは、作戦の成功を確信していました。
 一機のヘリコプターを見るまでは。
 そのヘリコプターからは、ロープハシゴが降ろされていました。その先端に一人、修道服を着た女性が掴まっています。
 左手でロープに掴まり、そしてもう片方には、楕円形の何かを持っています。女性は、その楕円形の何かを口の方に持っていくと、口をその何かに近づけ、そして一気に離しました。まるで、歯で何かを引き抜くかのように。
 そこで、ヤスはその楕円形の何かの正体に気付きました。
 なぜ、それを女性が持っているのかはわかりませんが、自分達に危険が迫っていると言うことは理解できました。
 ヤスが兄キにそれを伝えようとするのと、女性の手から、その楕円形の何か、手榴弾が放たれるのはほぼ同じタイミングでした。
 ヤスと、そして兄キにとっては、何もかもが手遅れでした。
 電信柱すら吹き飛ばす手榴弾の爆風を受けて、車は走行不能になりました。そして、ヤスの記憶はそこからしばらくの時間、後からどんなに思い出そうとしても鮮明には思い出せない、不明瞭なものになりました。
 気絶していたわけではありません。ただ、覚えておきたくなかったのです。
 その時のことで、ヤスの記憶にボンヤリと残っているのは、自分達がさらうはずだったメイドさんと、そのメイドさんの目の前でロザリオを揺らしながら微笑む修道服の女性の会話だけでした。

「あなたは、ここで見たことを誰にも話さない。全て忘れる」
「全て……忘れる」
「そう。理解しましたか?」
「ユー・ハブ・コントロール」

 虚ろな瞳のメイドさんに、優しく微笑みかけながら修道服の女性は言いました。

「アイ・ハブ・コントロール」

 深い深い、微笑みでした。



 こうして、シスター・ソニアはタチバナレンタルビデオの常連となり、嫉妬とか殺意とか修羅場とかの元が生まれたのでした。














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